自閉症スペクトラム障害とは?

   自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorders: ASD)は、「社会的コミュニケーションと社会的相互作用の障害」「限定された、あるいは、反復した行動・興味・活動」の2つを主症状とする発達障害です。
   「社会性の障害」としては、目をあわせられない、ジェスチャーが出来ず理解も出来ない、仲間への関心がない、ごっこ遊びが苦手、社会的な対応がうまくできない、感情の共有ができない、などの特徴があります。
   「限定された行動や興味」としては、手をひらひらさせる動作をくりかえす、行動パターンが変わる事への頑な抵抗、毎日同じ食べ物を食べたり同じ服を着る事にこだわる、などといった行動がみられます。また、感覚が過敏で音や香り、衣類の感触に非常に敏感で、触られることを嫌がったり、逆に感覚が鈍麻な部分があり、汚れていても全く気にならなかったりと感覚のアンバランスがみられることもあります。
   幼少期からこれらの特徴がみられ、社会生活の中で困難を感じることが多いです。
   以前の診断基準であるDSM−Ⅳでは、広汎性発達障害(PDD)の下位分類として自閉性障害・Asperger症候群・特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)などがありました。しかし、2013年に発表された診断基準DSM-5では、これらは明瞭な区分ができない連続した症状であり、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断し、それぞれの症状の重症度分類を追加する事となりました。

ASD発症の要因は?

   ASDは、先天性の脳機能障害と考えられています。双子の一人が自閉症の場合、もう一人も発症する確率の研究では、二卵性双生児では10〜30%であるのに対し、遺伝子が同じである一卵性双生児では60〜90%に達することが報告され、ASDの発症には遺伝的要因が強く関与すると考えられています。
   ASD発症に関与する遺伝子の検索が行われ、これまで百種類以上の遺伝子が病因遺伝子として同定されています。これらには、Neuroligin3, Neuroligin4、Neurexin、SHANK3、CADM1、CNTNAP2などシナプス関連蛋白質をコードする遺伝子変異や、クロマチンリモデリング因子 CHD8の遺伝子変異などが、報告されています。しかし、あるひとつの遺伝子変異がASD患者さんから同定されるのは1%程度に過ぎず、単一遺伝子病として説明可能な方は少ないと考えられます。他にも、染色体の微小欠失・重複であるcopy number variation(CNV)が検出され、また、エピジェネティック因子の関与も示唆されています。病因遺伝子は多数存在し、複数の遺伝子と環境の相互作用により発症する多因子遺伝も考えられます。
   様々な要因が複合的に関与し、シナプス機能へ影響を与えることが、発症に関与すると考えられますが、分子病態は未解明です。

治療法は?

   病態が不明なため、根本的な治療法はありません。しかし、幼児期早期からの療育や行動療法がASD児の発達に重要であり、適切な療育を受けた方は良好な社会生活ができるようになると言われています。
   対症療法として、興奮症状に対し向精神薬が有効な場合や、常同行動とそのストレス軽減に選択的セロトニン再取り込み阻害薬が有効な場合があります。
薬が有効な場合があります。