←戻る 真柳誠『龍谷大学大宮図書館和漢古典籍貴重書解題(自然科学之部)』 69-70頁、京都・龍谷大学発行、1997年7月30日

内経素問講義 九巻 付・六元正紀大論 合五冊(690.9-123-5)写字台本

松岡玄達録 江戸〔貞享頃 玄達自筆〕写本 書高24.0×幅17.2p



 本書名は外題より採ったが、扉書には「素問抄」とも記す。巻一首行に「松達子直述」とあり、松岡玄達の筆録と分かる。各所にある「怡顔斎」の印記は玄達の号で、「松岡氏図書」の蔵印記も押される。全書は玄達の若年時に特徴的な文字で記され、自筆本は疑いない。しかし筆録した年代と講義者の記述はない。

 玄達(一六六八〜一七四六)の自筆と判断された写本は写字台文庫に少なからずあり、その大多数は浅井周伯(一六四三〜一七〇五)の講義録である。うち筆録終了時を記す書は六点あり、玄達が十八歳の貞享二年(一六八五)十二月五日の『薬性記』(690.9-319-1)から、十九歳の翌年九月十九日の『本草摘要講義』(694.29-61-1)に集中している。また後半の三書は、書き上げて製本したのち初めて『・・・講義』の書名が外題に与えられている。本書も外題の書名に「講義」があり、それらと一環したシリーズと思われる。しかし本書は九巻五冊とボリュームがあり、入門者向けの前述六書の講義と違い、『内経素問』という最も難解な古典の講義録である。以上から推すと、貞享三年の九月までに本書が筆録された可能性は低く、それ以降の貞享四年頃までに完成したと思われる。 講義者は浅井家の家学を『内経』研究に決定づけた周伯にほぼ間違いないが、これを確証させる記録がまだ見当らない。

 一方、通常の『素問』は二十四巻ないし十二巻本だが、本書では九巻本が講義のテキストとされている。その九巻本は鵜飼石斎(一六一五〜六四)が『類経』より『素問』の経文のみ抜粋して編刊した、日本独自のいわゆる「類経本」に違いない。なお本書と異本関係にある同名書が大阪府立図書館森田文庫に所蔵されるが、完本ではなく、講義者・筆録者ともに記載がない。

→各巻の画像