←戻る 真柳誠『龍谷大学大宮図書館和漢古典籍貴重書解題(自然科学之部)』 27-28頁、京都・龍谷大学発行、1997年7月30日


〔新刊〕袖珍方 四巻四冊(690.9-44-4)写字台本

〔明・李恒等編〕 明弘治五年楊氏清江書堂重刊 毎半葉匡郭約18.0×12.0㎝

 当本は編者名を記した序文を欠落するが、巻末に「皇明弘治壬子(五年、一四九二)仲春楊氏清江書堂重刊」の木記があり、同版本より明・李恒等の編と比定しうる。北京大学図書館に永楽十三年(一四一五)刊本、武田・杏雨書屋に成化九年(一四七三)熊氏中和堂重刊本が各一点、当本と同版が内閣文庫に二点所蔵されている。それら序文より明・洪武二十三年(一三九〇)の初版があったと分かるが、伝本はない。

 また当本と前後する正統・弘治・正徳・嘉靖の各年代に刊行された『〔魁本〕袖珍方大全』四巻も大陸・台湾・日本に現存し、編者を明の朱定王・朱とするが、実際は同一書である。

 なお明の一五三〇年代以降に著された王永輔『簡効恵済方書』八巻は、十六世紀後半頃の坊刻時に前書の序文を転載して書名まで『簡選袖珍方書』に改められたので、のち現代まで混乱を招いた。ちなみに「袖珍」とは当時のポケットサイズをいい、当本もやや小型でびっしりと文字が刻されている。

 編者の李恒は安徽省合肥県の出身で、字を但常という。医術に精通し、洪武年間初めに太医院の医官となり、さらに明・太祖帝の第五子、朱(定王)の周府で良医の官を任じた。その命で本書を編纂したのであるが、朱は本書と同年に大医方書の『普済方』一六八巻も完成させているので、本書はそのダイジェスト版といえよう。さらに朱は徐光啓らに命じ『救荒本草』を編刊(一四〇六)させたほど、医薬に通じていた。

 本書は病門分類別の典型的な方論書で、巻一の風門から始まり、巻四の小児門で終わる。

 日本には室町時代から渡来していたが、江戸期にも和刻はされなかった。

→各巻の画像