ハノイの平民食堂(2001年9月3日〜17日)
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 ハノイに着いた初日、かねてから頼りにしていた河口さんに電話が通じ、わざわざホテルに来ていただき、日常生活の方法を教えていただいた。その一つに5000ドン(50円弱)で食事できる平民食堂と、一杯1500ドン(15円弱)のBia Hoiという樽からつぐ地生ビール(ただし気がいささか抜けている)を教示いただいた。その昼はホテルの受け付けで教えてもらった高級レストランに入り、一品最低5万ドンの値段なのに財布には15万ドンしかなくビビッただけに、これはケチな私にピッタリの情報。早速その夜から平民食堂に通い始めた。

 ただし私が滞在していた下町の観察では、固定した店を構えているもの、空き部屋で何人かが順番に開いているもの、他店の営業に迷惑が及ばない歩道スペースで開いているもの、の3種類があった。いずれも味は大差ないが、この順でメニューの多さと、値段が微妙に下がってくる。つまり固定店が一番高級なのだが、それでも私の食べ方とビール3杯で大体15000ドンだった。

 下写真は滞在したホテルオーナーのニンさんに紹介され、ハノイ滞在の後半に通った固定店の食堂。左写真の手前看板に赤字でCOMとあるのはお米のご飯のこと。Phoとあれば米の麺をいう。その下に青字でBINH DANとあるのは平民のベトナム音。平民の現代中国音がPing Minなので、やはり共通性は高い。この店も歩道にテーブルを出しているが、店内には最大4人座りのテーブルが七つあり、各テーブルの横の壁に扇風機があり、停電時以外は涼しく食事できた。

 従業員は座った客にご飯を運んで来てくれるオバーちゃん、客が食べているの物をノートにメモして会計を担当する若主人、それと左写真に写っている客が注文したおかずやスープを運ぶ少年、右写真のように客の注文に合わせおかずを皿に盛りつける女将の4人。きっと家族なのだろう。若主人はとても愛想がよく、女将は私の妻の同級生で料理上手なエリちゃんにどことなく似ており、言葉は一切通じなかったが安らいで晩酌を楽しめた。

 おかずは写真左のように並んでおり、客はこれを見て種類と量を注文する。私は言葉が通じないので種類を指さした上、量は身ぶり・表情で注文したが、おおむね適量を盛ってもらえた。多すぎたときは、やはり身ぶりでビニール袋に包んでもらい、ホテルで酒肴とした。毎日のメニューに大きな変化はなく、写真のほとんどを食べてみたが、口に合わないのは一つもない。

 上から順に紹介しよう。
・積み上げた皿に盛ってあるのは小松菜に似た野菜の乳酸発酵した古漬け。
・スプーンのあるドンブリに入っているのは揚げピーナッツの薄塩まぶし。
・青い洗面器に浮かんでいるのは揚げたゆで卵の醤油漬け。
・平皿に盛った奥の切り身は鯉の唐揚げ甘辛ソースあえ。
・その手前は鯵に似た魚の醤油味付け唐揚げ。
・その右側で平皿に盛ってあるのは骨抜き豚脚(足ではない)の塩茹で、そのスライスを後ろにある唐辛子醤油ソースをかけて食べる。
・その左下のドンブリに盛ってある赤いのはぶつ切り豚足トマトソース煮の香菜まぶし。
・右のホーロー器に入っている赤いのは揚げ出し豆腐のトマト煮。
・左下のガラス器にあるのはぶつ切り鳥モモの塩ニンニク味煮。
・ホットケーキ風は香味野菜タップリ厚卵焼き。
・その右横は豚ロースの塩ゆで。
・写真にわずか写っているのは皮付き豚バラの薄醤油味煮。

 これらの料理の盛りつけに活躍するのがハサミ。上写真左は私が注文した豚リブの甘辛煮を切っているところだが、唐揚げ魚を食べやすい大きさに切るだけでなく、野菜料理をつまみ上げ盛りつけるのにも使用される。

 それで、ある日(たぶん9月14日夜)選択したのが上写真右のメニュー。ゆで卵唐揚げの醤油漬け、小松菜風野菜の古漬け、モヤシ炒め・空心菜ニンニク炒め、豚リブの甘辛煮、醤油唐辛子ソース、地ビールの4品。これらの写真を撮るため客が減る7:00頃に行ったところ、地ビールは2杯で樽が空になり、後は割高の下写真左の中瓶ビール(Bia Hanoi)にしたが、それを2本飲んでも22000ドン(200円ほど)だった。

 その瓶ビールで2本めに入ったところが写真左上。ところで、この食堂はアベックや家族連れが多い。写真右上は歩道のテーブルで食べていた家族で、4歳くらいの女の子がとても可愛い。そこに座れず私のテーブルの前にいた母親に、私が可愛いネーという気分のしぐさをすると、そのカメラで撮ればとのジェスチャー。だが母親や私がいくらカメラの方を向いてと言っても、女の子は照れて下を向いてしまうのが、なおさら可愛かった。

 さて左写真は上述した空き部屋で何人かが順番に開いている平民食堂。最初の一週間ほどの夕食はここに通ったが、四人のおばさんが毎日交代で二人組になって開いていた。一人が盛りつけと会計、一人が料理の補給と食器洗いで、それが毎回交換するらしい。写真右側のおばさんは今、客に出した料理と値段をノートにメモっているところ。手前のは私のビール。

 ここは天井に大きな扇風機が回るだけで、室内は練炭ですすけて薄暗いが、ともかく安い。ビール3杯におかず4品で大体10000ドンなのだから。メニューは担当者の日によって少し違い、上の固定店の半分ほどだが、味は同様に美味しい。左奥の赤い洗面器(野菜スープが入っている)の手前が揚げ春巻きで、これもハサミで切ってくれる。その二つ下で海苔巻き風のは紫蘇葉包み挽き肉の炙り焼き。ビールの右上洗面器に入っているのは生モヤシサラダで、生臭くないのがとても不思議だった。

 ここの客に家族連れやアベックはほとんど見かけない。老若男女の独り者が圧倒的で、老人は3000ドン前後のつつましい食事をしている。また中年オジサンが、ベトナム焼酎(コメ製ウオッカ)のポケット瓶でチビチビやっているのも数回見かけた。やはり値段と雰囲気が関係しているのだろう。それで得体の知れない中年アジア人がビールをガブガブ飲むのは申し訳なくなり、上の店に場所替えした次第。