1-1.p53によるヒストン修飾の制御

全長2mにもなる長いDNAは、ヒストンに巻きつくことで我々の細胞の中で安定に存在しています。PADI4はアミノ酸の一種であるアルギニンをシトルリンに変換する酵素ですが、細胞がダメージを受けるとp53の働きによってPADI4が活性化されます。活性化したPADI4によってヒストン蛋白質中のアルギニンがシトルリンに変換されるとヒストンとDNAの結合が不安定化し、その結果DNAが切断されやすくなりアポトーシスが促進されることがわかりました。またPADI4を持たないマウスではX線照射によるアポトーシスが起きにくくなりました。さらに肺癌や乳癌、大腸癌でPADI4の遺伝子異常がみつかり、これらの結果より、PADI4の働きが悪くなることが癌の発症の原因になると考えられました。
メチル化やアセチル化等のヒストンに対する修飾は細胞の状態を決定する目印となっており、これらは”ヒストンコード”と呼ばれています。ヒストンのシトルリン化は重篤なダメージによって誘導され、DNAの切断およびアポトーシスを促進する事から、"アポトーシス・コード"として機能すると考えられます。本研究によって、最も高頻度に変異が見られる癌抑制遺伝子であるp53がヒストン修飾を直接制御する事が初めて示されました。この成果により、抗癌剤とPADI4を活性化する薬剤を併用することで癌治療への応用につながると期待できます。

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