米国における「保険医辞退」

その昔、武見太郎が日本医師会長をしていた頃、「保険医総辞退」というストライキ戦術がありました。太平洋の向こう側では、ストライキ戦術ではなく、経営戦略の観点から、貧乏人が入っている保険のみを選択的に「辞退する」ことが認められているのでありました。
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【World Topics】オバマケアの患者さんはお断り! 公開日時 2016/07/04
 「Sorry, we don’t take Obamacare(オバマケアの患者さんはお断り!)」というセンセーショナルな見出しを掲げた特集記事が掲載されたのは5月15日のニューヨークタイムス日曜版だ。
 マンハッタンや周辺地域で医師や医療機関から、いわゆるオバマケアの医療保険、すなわち政府管掌のオンライン医療保険サイトから購入した医療保険であることを理由に受診を断られるケースが続出しているというのである。
 診療の予約が取れないだけでなく、オバマケアが100%給付を約束している予防医療、例えばマンモグラフィーの予約さえも取れないという。医療保険は手に入ったけれども、その保険で受診できる医療機関がないというのだ。
 浮き彫りになってきたのはオバマケアとして保険会社から提供される保険には予想以上にさまざまな制約がついているのではないかという事実だ。制約条件としてこれまでに報道されてきているのは、例えば州外では一切治療が受けられない、患者の自己負担が高い、ハイエンドの医師や医療機関へのアクセスが制限されている、など。
 改めて言うまでもなく、一般に、制約条件を受け入れれば受け入れるだけ保険料は安くなる。そして、保険料が安くなるなら制約条件がついてもかまわないという利用者も、少なからずいる。
 だが、永年のかかりつけ医に断られるのは誰しもショックだ。サウスカロライナ州に住むAngie Purtellは2013年にはオバマケアのゴールドプラン(Coventry health Care社)を購入していたが、2014年に同社が保険料を大幅に値上げし、同じ保険が月額$1000近くなったため、継続を諦めて、Blue Cross社が月額$500で提供する”choice”という名の保険に切り替えたところ、 かかりつけ医に予約ができなくなったという。いつかどこかで聞いたことのあるエピソードである。
 かつて1990年代に マネージドケア型医療保険がはじめて登場した当時「マネージドケアの保険にしたら永年のかかりつけ医を受診できなくなった」という患者の嘆きが連日報じられ、世論を沸かせた、少なからぬ有識者がマネージドケア型保険は失敗すると予測した。だが、今や米国ではあらゆる医療保険にはマネージドケア型の制約が付いていると言っても過言ではない。
 市場原理に立脚する米国の医療保険制度では、政治的あるいは行政的な価格統制をしない。保険につける制約条件も一定の枠内ではあるが裁量に幅がある。最終的な落ち着きどころは市場が決める。オバマケアの行方も注目される。
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