アビガンの開発に学ぶ研究倫理
ベクルリー承認がアビガンの治験に与える影響
2020年5月4日に承認申請していた,ギリアド社のベクルリー(一般名 レムデシビル)が,同年5月7日、重症の「SARS-CoV-2による感染症」を効能・効果として、医薬品医療機器等法第14条の3に基づき特例承認された。既にギリアドはベクルリーの世界供給拡充へ企業や国際機関と協議に入っている(ニューズウィーク日本版 2020年5月6日

一方,アビガンについてはプラセボ対照ランダム化検証的試験(JapicCTI-205238)が進行中である.今回のベクルリーの承認を受けてJapicCTI-205238の被験者に対しては,省令GCP第54条に基づき,意思確認と同意・説明文書の改訂が行われることになる.
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「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」第54条
第54条 治験責任医師等は、治験に継続して参加するかどうかについ て被験者の意思に影響を与えるものと認める情報を入手した場合には、直ちに当該情報を被験者に提供し、これを文書により記録するとともに、被験者が治験に 継続して参加するかどうかを確認しなければならない。この場合においては、第50条第5項及び第52条第2項の規定を準用する。
2 治験責任医師は、前項の場合において、説明文書を改訂する必要があると認めたときは、速やかに説明文書を改訂しなければならない(*)。
3 治験責任医師は、前項の規定により説明文書を改訂したときは、その旨を実施医療機関の長に報告するとともに、治験の参加の継続について改めて被験者の同意を得なければならない。この場合においては、第51条から前条までの規定を準用する。
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*なお,改訂された説明文書を用いて治験への参加の継続について被験者又は代諾者から文書同意を得る場合、当該説明文書は事前に治験審査委員会の承認を得る必要がある(「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のガイダンスについて」の改正について (令和元年7月5日)(薬生薬審発0705第3号)(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)

ヘルシンキ宣言との関係
この際,被験者からは様々な質問が寄せられるので,想定問答集を作成しておくと意思確認が円滑に行える.下記はほんの一例である.
Q 「アメリカから来たいい薬があるのなら,なぜわざわざこの薬の治験をやらなくてならないのですか?」
 「アメリカから来たいい薬は重い肺炎にしか使えないのです.こちらで調べているのは中ぐらいから軽い肺炎に対する効果です.そちらの方が,より多くの患者さんが困っているので,これも大切な治験です」
Q 「でも,重い病気に良く効くのなら,軽い病気にも効くはずだと思うのですが・・・」(*今後レムデシビルの供給拡大が進めば,効能効果が非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者まで拡大される可能性がある)
 「他の薬のことはよくわかりません.何せアメリカでやった治験ですから,全てが明らかにされているわけでないのです」
Q 「では,今調べているこの薬の,これまでの成績はどうなんですか?それならわかるでしょ?」
A 「これも企業の治験データなので,企業秘密の部分が多くて,私ども一般の医師には詳細が開示されないのです」
 「えっ,そうなんですか?? でも,薬害オンブズパーソン会議のHPには,ファビピラビルはタミフルに対して非劣性を証明できず,プラセボにも勝てなかったと明記してありましたよ.別に企業からデータ開示を受けなくても,それぐらい審査報告書さえ読めばわかることなんじゃないでしょうか?」
(あくまで例示なので,以後は当該担当者が適切に作成されたし)

この想定問答の背景には「既にいい薬があるのなら,なぜプラセボ対照試験をしてまで別の薬の有効性を検証する必要があるのか?」という素朴な疑問がある.この素朴な疑問を抱く被験者の人権を守るためにヘルシンキ宣言がある.直接経口抗凝固薬(DOAC)の有効性を検証する試験がプラセボ対照ではなく,ワーファリン対象の非劣性試験となったのも,この素朴な疑問に答えた結果である.ヘルシンキ宣言といっても何も難しいことはない.一般市民の権利を守るための宣言がそんなに難しいはずがない.要は,あなたがされたくないことを,医者や研究者から強要されない.その最も基本的な人権を守るための決まり事である. ヘルシンキ宣言は日本医師会(横倉義武会長)のサイトで誰もが読めるようになっている

件の「観察研究」の場合
JapicCTI-205238だけではない,アビガンについては,少なくとももう一本,被験者にアビガンを適応外処方する「観察研究」なるものが行われている.こちらの方でも同様に適切な情報提供に基づく被験者の意思確認と同意・説明文書の改訂が必要である.”これは「観察研究」だから,省令GCPはもちろん臨床研究法の対象にもならない.だから被験者の意思確認も同意・説明文書の改訂も一切必要ない”という理屈は絶対に通らない.なぜなら,治験や臨床研究でない研究ならば倫理は無用というわけではないからである.どんな研究にも倫理はある,その憲法になっているが,ヘルシンキ宣言である.従って,この「観察研究」とやらでも,治験と同様に,直ちに当該情報を被験者に提供し、これを文書により記録するとともに、被験者が治験に継続して参加するかどうかを確認しなければならない.そうでなければ,ヘルシンキ宣言違反となる.

第二のグリュネンタール
国内だけではない,アビガンが輸出されていることは既に説明したので,そちらを参考にしていただきたい.ベクルリーが承認されたからには,海外からは「金持ち日本だけがベクルリーを使えるなんて貧乏人を馬鹿にしている.第二のサリドマイドなんて要らない.こっちにもベクルリーをよこせ」と言われるのは目に見えている.さらに海外では日本のような厳重な安全管理が全く期待できないとなれば,善意で行ったはずのアビガン供与により,海外で催奇形性が現実となるのも時間の問題である.日本よりもはるかに損害賠償訴訟を起こしやすい国はごまんとある.「夢の新薬を無償で供与してくれた」と感謝されていた国が「薬害を輸出した」と罵倒され,アビガンの製造販売免許を持っている企業が第二のグリュネンタールとなる.そんな日に備えるというのが,本当の危機管理.正に外務省の腕の見せ所である.
承認されたってへいちゃらさ.だってアビガンを勧めるような破廉恥なお医者様はお断りすればいいんだから
自分の命は自分で守ろう!!
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