ある日の,昼過ぎに臨床検査室に顔を出したところ,技師から,先生,これ何でしょうと,黒褐色尿をつきつけられました.
”朝は普通の色だったんですよ.なのに昼になったらこんな色になっちゃって”
”(急性間歇性)ポルフィリアじゃないよね?”
”何です,その病気?? 主治医の先生に病名を聞いたら,パーキンソン病だって言ってましたけど・・・”
”あっ,じゃあ,服用しているドーパが原因だね.昔,臨床検査の本で読んだことが ある”
”でも,あの黒いのはドーパの色じゃないですよね?”
”どうしてわかるの?”
”だって,尿に出てきているドーパそのものが原因だったら,はじめから色がついて いるはずじゃないですか”
”なるほどねえ.そういえば,ドーパはメラニンに変化するんじゃなかったけな”
”どういう反応なんですか?”
”うーーんと,わからないなあ.学生の時,皮膚科の授業で習ったんだけどなあ・・ ・白い色の悪性黒色腫にドーパをぶっかけると真っ黒になっちゃうから,腫瘍の色が 白くても診断できるってスライドを見たことだけしか覚えていないなあ・・・”
上記の会話の後に,私が少し調べたことをお話します.
”生体内では,チロシン→ドーパ→ドーパキノン:この2段階の反応の両方にチロシ ナーゼが関与する.ドーパキノンは化学的反応性が高いため、酵素の力を借りること なく次々と反応していく。ドーパクロム、インドールキノンへと変化し、最後に酸化 ・重合し、黒褐色のメラニン色素となる。”とのことです.(化学反応式)
ドーパは,チロシナーゼによりドーパキノンに変化する他に,ご存知のようにドーパ 脱炭酸酵素でドーパミンに変換されるのですが,この患者さんでは,脳の外でドーパ が無駄遣いされないように,ドーパ脱炭酸酵素阻害剤(これは血液脳関門を通過しな いので,脳内でのドーパミンへの変換は阻害しない)との合剤が処方されていまし た.このため,ドーパ単味の場合より,尿中に(ドーパミンに変換されずに)排泄さ れるドーパの量が増えて,こんなにも尿が真っ黒になってしまったのではないかと推 測しています.