COVID-19の真のエンドポイント

COVID-19の代用エンドポイントとして、「感染者数」は欠陥だらけで使い物にならないことは既に説明した。「感染者数」が指標として最も醜悪な点は、感染者=患者=重症=死亡というデマが、市民の頭の中で自動思考として反復産生されるところにある。それに対し、単位人口当たりの死者数は、検査法自体の性能や、マンパワー・設備を含めた検査施行能力のバイアスを受けない点、それゆえ国際比較が可能である点からも、頑健な真のエンドポイントである。

単位人口当たりの死者数は、日々の変化という点で、感染者数のような派手な動きはしない。もちろん動かない方がいいに決まっているが、何でもいいからとにかく悪いニュースを針小棒大・白髪三千丈に伝えたいという強力なバイアスを持ったイカサマジャーナリスト達に対抗しにくい地味な指標である。では、死者数に注目させ、一方で微妙に変化してもそれを大げさに報道させない、そんな便利な指標はないだろうか?もちろんある。それが「退院/死亡比率」である。

感染者数を世論調査とすれば、退院/死亡比率は選挙の時の出口調査に相当する。選挙の結果を知るには出口調査の方がいいに決まってる。それと同様、退院/死亡比率には、感染者数というイカサマ指標が逆立ちしたって敵わない、決定的に優れた数々の点がある。
1)真の意味での感染爆発に対して、感染者数がほぼ特異度ゼロなのに対し、退院/死亡比率は極めて特異度が高い。
2)退院と死亡を別々に見るよりも比率で見るため、十分な感度を持っている(後述)。
3)良い知らせ/悪い知らせどちらにも偏らない中立性。
4)日本全体を合算したデータであるため、特定の地域や施設のバイアスがかからない。

退院/死亡比率を示したグラフは、COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMICの各国名をクリック得られる情報ページで見られる。そのページにある、Outcome of Cases (Recovery or Death) in (国名)というタイトルの、緑((新規)退院) オレンジ(死亡退院)の二本の折れ線、縦軸:個々のイベントのパーセンテージ、横軸:日付から成るグラフがそれだ。前日までのデータに基づき準リアルタイムで作製される。死亡者数が非常に少ない国(例:台湾)を除いて、ほとんどの主要国についてこのグラフが作製されているが、どういうわけか米国のグラフは欠けている(みっともないから見られたくないのか?)

退院/死亡比率 グラフの読み方の解説(3月26日の時点ですから、ちょっと古い。この時は日本のグラフがまだ掲載されていなかった)
韓国の場合(2020/4/5現在、なぜか退院/死亡比率が消えている
大邱市での感染爆発が明らかとなった2月20日から退院の緑が下降、死亡のオレンジが上昇し、3月2日-3日に50/50の「がっぷり四つ」。それ以降は二つの曲線が、より明るい方向(退院が上昇・死亡が下降)にきれいに離れていくのがわかる。大邱市で感染者急増が最初に報じられたのが2月19日だから、感度も十分である。(拡大図)。
大邱市では、感染爆発が実際に起こったけれども、都市封鎖のような強権的なことはせずに見事に乗り切った。そのことが、このグラフからもよくわかる。なお、報道する方に「忖度」があるのか、一部でしか伝えられていないが、大邱では都市封鎖は行われず、その代わり、市民は日本を上回る徹底した行動自粛を行ったと伝えられている。

カナダの場合
 退院/死亡比率グラフから見ると、韓国から送れること約1ヶ月の3月中旬から死亡比率の上昇と退院比率の低下が起こり、3月22日に退院比率41%、死亡比率59%と逆転しているが、翌日には退院比率93%、死亡比率7%と急激な再逆転が起こり、以後は安定して退院9割、死亡1割の比率を保っている。ここで興味深いのは、3月中旬から下旬にかけての一日あたりの死亡数自体は、3(3/16)、4(3/17)、1(3/18)、3(3/19)、0(3/20)、7(3/21)、1(3/22)、4(3/23)、と一桁に留まっているのに、退院/死亡比率は3/15以降、目まぐるしく変化していること。これは、この時期は退院数が少なくて、分母が小さいままだったことによる。 

 その一方で、4月2日に死亡数自体が59(前日の13からの増加数は46)と、それこそ、オーバーシュートしているのに、同日の退院/死亡比率は退院92%、死亡8%と、びくとも変化していないことである(*)これは前日4/1の退院数が増加死亡数の10倍を上回る494だったためである。
*それぞれの点の上にポインタを置いて現れる数字を元に計算すると、前日4/1退院数494と死亡(増加)数46=59-13から、494+46=540、494/540=92%、46/540=8%になる。前日の退院数を使うのは当日の空きベッドを算定するという、至極実際的な理由による。

 以上の退院/死亡比率の動きを総合すると、死亡がどんなに増えても、その前にどんどん退院させてベッドを開けておけば退院/死亡比率は良好のままに留まる=医療崩壊には至らない。一方、(退院が少数で)ベッドが満床近くなればなるほど、退院/死亡比率が悪化する=真の意味でのオーバーシュート=医療崩壊=イタリアの悲劇に近づくという結論に至る。その意味でも、空きベッドの確保=転院・退院先の確保が極めて重要であることを退院/死亡比率のグラフは示している。

イタリアの場合

それに対してイタリアのグラフでは、感染爆発以後も緑とオレンジの線が一旦離れたものの、50/50に再び近づいていく、つまり死亡数と退院数がほぼ同じ毎日が続く、悲しい結果を示している。

日本の現況についての考察
今の日本の状況と一番よく似ているのはオーストラリアである。どちらにも感染爆発の徴候は見られない。これから日本もオーストラリアの3/25以降のように、退院死亡の間が、徐々にながらも着実に開いていくのか、あるいは2月20日以降の韓国のような真のオーバーシュートを経験するのか?それがここを読んでいる皆さんの第一の関心事だろう。

退院/死亡比率COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMICよりも早く(まあ、1-2日だが)簡単に知る方法がある。お馴染みの「都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ」の左下の画面にある、『1)日次累計のグラフ』を拡大し、(青の感染者数には目もくれずに)緑の退院数累計と白の死亡合計にポインタを置くと、それぞれの数字が出てくる。これを日付順にエクセルに入れ、前日の値から引き算をすれば当日の退院数と死亡数が出てくる。

その他の国で退院/死亡比率がどうなっているのか?、外来受診抑制で空いた時間を利用して、日本と比較してみたらどうだろうか。本当にいい勉強になるはずだ。そしてその結果を、現場で奮闘している先生方と共有してもらいたい。そして勉強する時には「コロナのデマに飽きた人へ」が、お役に立ちますように。

患者数を偽造する−「感染者数」という名のデマ
オーバーシュート後のシナリオは?
コロナのデマに飽きた人へ
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