終末医療という幻想

緩和ケアという特別な医療があり,死に行く人にはその特別な医療が必要であるという主張は,明日も自分は生きているだろうと確信できる人々の幻想に過ぎない.死と向かい合うことが少なくなり,死に行く人々の要望を理解することが困難になっているので,このような幻想が生じる.その幻想ゆえに,死に行く人々に,それまで無縁だったものを押し付けていないだろうか.それは,しばしば,死に際の駆け込み入信宗教だったり,からだに繋がれた何本ものチューブだったりする.

人は死を意識すればするほど,自分がなじんできた場所,自分といつも一緒にいてくれた人々がいとおしくなる.緩和ケアという特別な仕組みはない.長年慣れ親しんだ場所や人々と引き離さない.それが死に行く人々への一番の思いやりだ.

メディカル二条河原へ