審査員は被告になる

下記の記事を読んで,PMDAの審査員は何を考えるだろうか、日本では,審査員が訴えられることなどありえないと思うだろうか。”承認は厚生労働大 臣がするのだから、個々の審査員が責任を負うことはない”と澄ましていられるだろうか?でも,多くのPMDAの審査員は,社会に貢献する仕事にやりがいを 感じているはずである.その審査の誤りが,もし多くの人を助けることなく,命を奪う結果になれば,その審査員は,社会的に糾弾されて当然ではないか.

誰を相手に訴訟を起こすかは、訴える方の自由意志だ。PMDAの審査結果で不利益を被ったと考える原告が、個々の審査員をを相手取って訴訟を起こすことも可能である。PMDAの誰もが,”被告”になる可能性がある。

国立大学病院における医療事故では、国が訴えられるのであって、勤める医者は個人は訴えられないという、幼いデマゴーグは、私が医者になった四半世紀前にはすでに死に絶えていたが(その証拠に、研修開始のオリエンテーションで、”自費で!!”医師賠償責任保険に入れと強く勧められた)、役所ではまだ連綿として生きているかのごとく、PMDA審査員は訴訟に対して無防備のまま放置されている。そもそも、PMDAは国の役所じゃなく、非公務員型の独立行政法人職員にもかかわらず!!

さらに、訴訟は薬害被害だけではない。日々のPMDA審査員の仕事が、製薬会社の収益に莫大な損害を与え続けている重大な事実を無視している。製薬企業の株主が、PMDAに対して訴訟を仕掛ける可能性はどのようにして排除できるのだろうか?馬鹿げたことと一蹴する人に、その根拠を示してもらいたいと常々思っている。”前例がないから”済めば、危機管理は不要だ。

最善を尽くしても,一人の命を失い,その責めを負う医師は,賠償責任保険に加入している.なのに,最善を尽くしても,何十人,何百人の命を奪うかもしれないPMDAの審査員が,訴訟に対して丸腰とは,地雷原でのすいか割大会の如し.無邪気なものである.

2006. 7. 11の日経メディカルオンラインからです。

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未確立の治療に説明義務はあるか
【今回の相談事例】

急性期を過ぎてから当院に転送されてきた脳梗塞の患者が失語症などの後遺症を残したまま退院して数年がたちます。最近になってその家族がい ろいろ調べたようで、当院でt-PAによる血栓溶解療法や低分子ヘパリンを用いた抗凝固療法をしなかったため、後遺症が生じたとして訴えると言ってきてい ます。
 しかし、当時は、どちらも保険適用外で、当院に転送されてきたときには急性期を過ぎていて適応がないと考え、また、低分子ヘパリンはそのエビ デンスにも乏しいと考えていましたが、そのような場合でもこれらの治療をしないと訴えられるものでしょうか。また、病院側に責任があるとされるのでしょう か。
(相談者:病院・院長)

【回答】
 裁判で医療側の責任が認められるのは、医療側に過失(注意義務違反)がある場合です。しかし、患者側が訴訟を起こす段階では、医療側に過失があ るかどうかははっきりしているとは限りません。また、患者側の考えがおかしいと思える場合でも、患者側としては「真相をはっきりさせたい」などと言って提 訴してくることもあります。だからといって、エビデンスも適応もないと判断した治療や投薬を単に将来の提訴を避けるためにだけ行うことは全くナンセンスで あり、むしろ有害でさえあります。患者の家族には十分説明をして理解してもらうように最大限努力し、それでも不幸にして納得してもらえず訴訟となった場合 には堂々と医療側の見解を説明して、裁判所に医療側には過失のないことを認めてもらう以外にはありません。
  
医師の裁量権は万能か
 医療行為は極めて専門的であり、医師の裁量が認められる場合が多いと思われますが、そうであるからといってすべて「医師の裁量」という名の下で 免責されるわけではありません。当然その医療行為が医療水準にかなったものでなければなりませんし、幾つかの治療法がある場合には十分な検討と患者の自己 決定権を侵害しないことが求められるといえます。

 この患者の場合、家族が主張している治療が保険適用外であったことは、特別の事情のある場合(患者側で保険診療を強く要求したとか、夜 間の人手が足りない救急外来でそもそも保険適用外の治療の実施ができない状況であったなど)を除き、医療側が免責される理由にはなりにくいと思います。問 題となるのは、本件の患者が転院してきた時点で発症からどの程度時間がたっていたか、また果たしてエビデンスが認められていないといえるものであったかど うかであり、いまだ有効性や安全性が確立していない場合であっても、患者の自己決定権を保障しなければならない場合があることに注意しなければなりませ ん。

 かつて裁判所は、医療水準に達していない治療についてはこれを患者側が求めていたとしても、医師が説明する義務もないとしていました。しかし、2001年11 月27日の最高裁判決(いわゆる乳房温存療法事件判決)では、「未確立な療法であっても一定の条件の下では、医師が説明義務を負う場合がある」としました。ここで言う一定の条件とは、少し長くなりますが判決を引用すると次のようになります。

 「少なくとも、当該療法が少なからぬ医療機関において実施されており、相当数の実施例があり、これを実施した医師の間で積極的な評価もさ れているものについては、患者が当該療法の適応である可能性があり、かつ、患者が当該療法の自己への適応の有無、実施可能性に強い関心を有していることを 医師が知った場合などにおいては、たとえ医師自身が当該療法について消極的な評価をしており、自らはそれを実施する医師を有していないときであっても、な お、患者に対して、医師の知っている範囲で、当該療法の内容、適応可能性やそれを受けた場合の利害得失、当該療法を実施している医療機関の名称や所在など を説明すべき義務がある」

 この最高裁判決には批判もあるところですが、現在のところ、裁判となった場合にはこの最高裁の考えに従った判断がなされますから、患者 側の求めている内容によっては、必ずしもエビデンスが認められないと考えられる治療法についても説明する義務が出てくる場合があります。これらの観点から 患者側に対応する必要があります。

(高橋 賢一=高橋賢一法律事務所)