患者団体の利益相反

「すべては患者様のために」という,医療機関のスローガンを信用しない人でも,患者団体は常に患者のためにあると信じて疑わないだろう.でも,それは迷信に過ぎない. 患者団体が常に患者のためにあるとは限らない.患者団体への利益供与については,市民団体は昔から企業ばかりを責めているが,それは患者に医薬品に関するリテラシーがかけているという,差別意識の基づ く行動に他ならない.医師の場合と同様,むしろ患者団体の方が利益相反を開示していくべきで,そんなこともできないような患者団体は患者のためにはなって いないことを自ら認めているに等しい.
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イングランドの医療決定に関わった患者団体の殆どに未申告の関連企業助成あり BioTodayニュースレター 2019年1月21日
英国イングランドの医療(NHS)が提供する薬や医療機器を決めるNICEの査定手続き(technology appraisal)に関わった患者団体を調べたところ、関わった査定と同じ年かその前年に7割以上(72%、38/53団体)が査定対象製品かその競合品の会社から資金を受け取っていました。

査定に関わった患者団体に査定対象製品の会社が金を出していることを把握したうえでのNICE査定は4分の1に満たない僅か21%のみでした。NICEは意思決定に患者を加える取り組みを先駆けて開拓してきましたが、患者団体の資金把握については遅れをとっているようです。スコットランドでは査定と関連する企業から患者団体への資金の詳細を必ず把握することが必要となっています。

利害関係の全てを把握した上での意思決定が可能になるようにNICEも方針を改める必要があると著者は言っています。

Study reveals financial interests of patient organizations assessing NHS treatments
Patient groups assessing NHS drugs receive undeclared industry funds
Financial interests of patient organisations contributing to technology assessment at England’s National Institute for Health and Care Excellence: policy review. BMJ. 16 January 2019
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薬を売りつけ収益を上げるのを生業とする医師は,お客様である患者が減ると困る.だから,病気が治ってしまう治療は,患者にとっては福音だが,企業や医者にとっては商売上がったりである.それでも,C型肝炎治療薬のように,値段がバカ高ければ,たとえその収益が一時期であっても,お医者様達は受け入れる.

ところが,「一生インスリンを打ち続けなければならない」と信じられてきた1型糖尿病が,たかだか5000円〜6000円(1回の接種の料金)のBCGで,治ってしまうとなれば,製薬企業や臨床医はもちろん,1型糖尿病の治療で研究費を取得し,業績を上げようと考えてきた研究者も大打撃を受ける.

従って,製薬企業も,臨床医も,研究者も,BCGが1型糖尿病ワクチンになるというエビデンスが,proof of conceptも探索的試験も通り越して,現在,MGHを始めとする医師主導の検証的試験が進行し,さらに小児を対象にした試験も計画されているという事実に対して,完全黙秘を決め込んでいることは理解できる.

しかし,日本のIDDM患者団体が,この事実に対して固く口を閉ざしているのは一体如何なる理由だろうか?製薬企業,臨床医,研究者,そして医療の本質を全く理解できない大メディアはさておき,常にIDDM患者のためにあるはずの日本IDDMネットワークが,IDDM研究者に対して,何の働きかけもしていない.多くのIDDM患者は,既に2015年6月の時点で,第U相試験の開始を知っていた.だから今日(2019/1/21)まで,3年半以上,日本IDDMネットワークは,IDDM患者に対して不作為を続けてきたことになる.

患者団体が常に患者のためにあるとは限らないのである.

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