自動車と人間の違い

T. Higashi and others. Relationship between Number of Medical Conditions and Quality of Care. N Engl J Med 2007; 356 : 2496 - 504

あなたが、あちこち傷んだポンコツ自動車を前にした修理工だったとしよう。あなたは、優秀な修理工だけに、その自動車の運命が見える。もしここで手間暇と高い部品代をかけて完璧に修理したとしても、あと3ヶ月もすればまた修理、そして1年以内には廃車の運命が見える。だったら今の時点で、お客に、買い換えを進めることもあるだろう。

治療の結果がたまたま思わしくなかった時、”自動車の修理でさえも、結果が思わしくなかったら無料で再修理するのだから、再治療を無料でやれ”とねじ込んでくるお方がいたとしよう。あなたはどう答えるだろう。

自動車と人間が同じと主張する人間に対しては、その誤りを指摘してやらねばならない。

”あんたの体は,自動車で言えばポンコツだ.自動車と人間が同じだって言うんなら,奥さんに,「今の旦那さんは廃車処分にして,新しいのと取り替えた方がお得です」って言わなきゃならんのだよ.ただ,あんたと自動車と違う点もある.ポンコツ車は文句を言わないが,ポンコツ人間は文句を言うしか能がないってことさ” 

自動車と人間は違う。ポンコツならば即廃車という選択肢はあるが、病気があれば即火葬場行きにはならない。

だから、合併症が多ければ多いほど、治療に懸命になるのは医者の性である。だから、このNEJMの研究は、むしろ当然の結果を示していると言えよう。そして、好むと好まざるとにかかわらず、この医者の性によって医療費が増大する。

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成果主義(能力給制度)を導入すれば,医師がより重症の患者を診ることで罰せられるのではないかという懸念の中,全く違う結果が出た.ケアの質の指標を評価すると,重症の患者ほど高い指標を獲得していた.3つのコーホートの患者にされた医療の質の評価が調べられた.それぞれの患者が持っている内科慢性疾患の数と比べ質の指標の割合を解析した.内科慢性疾患が増えれば増えるほどケアの質がよくなったことが分かった.
ACP Observer Weekly In the News for the Week of 6-19-07 翻訳:平岡栄治)

翻訳者解説
この研究では過去にされた医療の質の3つの研究(Community Quality Index(CQI)study,the Assessing Care of Vulnerable Elders(ACOVE)study, and the Veterans Health Administration(VHA)quality-of-care project)のデータが解析された.ケアの質は,各疾患に対しされるべきであろうケアのうち何%がされたかを指標に評価された(例えば,心房細動のある弱々しい高齢者患者にワーファリンを投与した場合,開始後4日以内にPT INRが測定されているか,その後6週間以内に再検されているかなど).重症患者であり,ケアすべき疾患が増加すればするほどそのそれぞれの疾患のケアの質は悪くなるであろうと考えられた.しかし,今回の解析の結果,疾患の数が増加すればするほどケアの質は良くなっていた.
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