2008/4/12 PIPC (Psychiatry in primary care)研究会懇親会でのプレゼン要旨

学生時代から今日まで、私を含めてたくさんの医者が抱えている、「医者になりたくない・医者辞めたい病」の対処についてのお話で、この高有病率の疾患による社会的損失を軽減するきっかけが掴めればと、大風呂敷を目論んでおります。とはいっても、話の筋は至極単純です。

○医師のキャリア上で生じるストレスの多くに認知の歪みが関与
○それらの歪みは、「救世主願望」、「自動思考」、「コントロール願望」、「手段の目的化」等として言語化可能
○こういった言語化、外在化によって、認知の歪みに気付き、ストレスコーピングが可能
○認知行動療法(CBT)は医師自身の公私にわたるストレスコーピングにも有用であり、「医者辞めたい病」を抱えながらもキャリアパスを這っていく術となる。

私自身は、CBTについて、何の教育・訓練も受けたことはありません。昨年秋に、「認知行動療法 べてる式。」を読んで、ストレスコーピングの道具としてのCBTの有効性に(Led Zeppelinを初めて聴いた時よりも)仰天し、統合失調症の幻覚・妄想に対して有効なものが、自分のストレスに効かないはずがない、禁煙や食事・運動療法が、「いわゆる」健常人にも恩恵を与えるように、自分もCBTの恩恵を受けたいと、それ以来、自分自身の日常生活、仕事場で、使い始めました。

CBTの面白い(と私が思っている)ところは、我々が普段何気なく使っている認知の歪み是正道具(*)を改めて認識させて、意識して使えるようにしてくれるところです。ですから、誰もがCBT資源を持っているわけで、セルフケア(自分で自分のカウンセリング)のための特別な教育・訓練は必要ありません。

特別な用意が必要ならば、構えてしまいますが、徒手空拳で日常生活の中で実践していくのですから、お金はもちろん、時間や手間といった投資もなく、従って失うものもありません。だから面白く、ストレスが軽減していく度に、”得した”と思えるのです。そうなると、自分だけで独占しておくのはもったいなくて、家族や職場の仲間とのコミュニケーションにも応用しようと欲が出てきて、それまで、lose/loseの関係になるリスクが高かった関係が、win/winに転換されていく様を目撃できるのが、また面白い。

さらに驚いたのは医療面接の上達でした。パーキンソン病の患者さんの抑鬱や、筋萎縮性側索硬化症の患者さんの面接でさえも、私の中に生じる陰性感情の量が激減しました。そうすると、以前は動揺する私に影響されて、患者さんも家族も不安になっていたのが、私の気持ちが落ち着くと、患者さんや家族の気持ちも落ち着くのです。

「そうか、神経難病といえども、患者さんも、家族も、本来は、こんなに落ち着ける力を持っているのだ。なのに、常に救世主でなければならないという自動思考に苛まれる私のストレスが感染して、患者さんも家族も不安になってしまっていたのだ。」

「べてる式。」と出会ってから、そう思えるようになるまで、半年かかりませんでした。でも、なぜ、こんな当然のことにもっと早く気づけなかったんだろうか。いや、それも自動思考かもしれない。四半世紀かかって、いや、四半世紀かけて、助走する必要があったんだ。

*認知の歪み是正道具は、一般的には、笑い、皮肉、へそ曲がり、逆転の発想、ボケとツッコミ といった様々な呼称が与えられています。医療人にとっても役に立つ有名なビジネス書(例↓お金儲けのことは全然書いてない良書)にも、認知の歪み是正道具がたくさん載っています。

スティーブン・R. コヴィー著 7つの習慣 キングベアー出版
ピーター・センゲ著 フィールドブック 学習する組織「5つの能力」 日本経済新聞出版社←大部なので、時間のある方向け
高橋伸夫著 できる社員はやり過ごす (日経ビジネス人文庫) ←文庫本なので、移動中の乗り物の中で気軽に読める。

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