臆 病であり続けること

(研修1年生とのやりとりから)

> 薬一つオーダーするのもビビっていますが、
大事ですね.臆病であること,臆病であり続けること.臆病は安全の一番の基本です.怖さを感じる心を大事にしてください。臆病で有り続けることに安心感を 持ってください。自信を持ち始めたら、これはいけないと思って、落とし穴がどこにあ るか、意識するようにしてください。私は、医者やって20年を過ぎても、当直の時は、どんなのんびりした病院でも、怖くて怖くて、中々眠れませんでした。 今は当直はやっていないのですが、今やったとしても、もちろんそうでしょう。怖くていいんだ。当直が怖くなくなったら、それこそ、医者を辞めた方がいいと 思っています。

> どの薬がどのくらいで効くのか、マメに患者さんのところに行って話を聞いてみると薬の作用について体感して学べます。
現場お百度です.現場は裏切らない.現場に真実がある.

> 学生時代には「これは〜に使う薬」レベルでしたが、その容量や効果は自分が投与して分かることなどたくさんです。ちょっと人体実験みたいで嫌だなとも思い ますが、

嫌じゃないですよ.本に書いてあることを鵜呑みにせずに,自分の経験を頼りにせずに、あなたの言う人体実験=患者さんをよく診ることだから大いに結構.結 構と言うより、それが臨床の本来の仕事。その仕事も、臆病であり続けることができるからこそ、続けられるのです。

製薬会社の人は、何百人もの人に投与した臨床試験がある、海外で何千、何万の人に投与経験があるから安心だとか、よく言いますが、それは違います。一人一 人の患者さんをきちんと診ているかどうかが問題なんですね。処方箋を書いただけで、あとは野となれ山となれで、自宅で誰にも気づかれずに亡くなってしまう ようなケースが続出しても、報告されなければ、それでおしまい。そんな処方を何十万人積み重ねても、その薬のリスクには誰も気づきません。

新薬審査の仕事も、現場の皆さんの臆病な目が頼りです。そんな目があって、はじめて我々も臆病であり続けることができるのです。

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