弁護人の資質を問う
ー介護殺人裁判公判停止から学ぶこと

世界最速で高齢化が進む国では,高齢者の犯罪の背景に認知症の存在を思い浮かべるのは,全ての法曹者が心得ておくべき最低限の常識である.本件の一義的な責任は,その最低限の常識を心得ていなかった弁護人にある.

そもそも公判を開くべくできではなかったのだ.被告人は,社会復帰を前提とした矯正施設である刑務所に入る「資格がないのだよ」.どこの福祉施設でどうやって処遇するかの問題なんだよ.今回は裁判長が機転を利かしてくれたからいいようなものの,そうでなければ,またもや未決勾留者の診療を担当する我々矯正医官が,これほど明確な認知症は公判の対象にならないと検察官にくどくど説明しなければならないのだよ.
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<介護殺人裁判>被告母親に「訴訟能力に疑い」審理打ち切り 毎日新聞 12月16日(水)11時43分配信
 知的障害がある長男(当時54歳)を介護疲れから殺害したとして殺人罪に問われた母親(81)=大阪市旭区=の裁判員裁判で、大阪地裁の芦高源裁判長は16日、「訴訟能力があるのか疑いがある」と述べ、今後の期日を職権ですべて取り消した。母親は15日の初公判に続き、裁判長の呼び掛けに全く応じることができなかった。

 裁判員裁判で公判が始まって以降、審理が打ち切られ、期日が取り消されるのは異例。今後、精神鑑定が実施され、訴訟能力の有無を判断する。刑事訴訟法では被告が心神喪失の状態にある場合、公判を停止しなければならないと定めている。

 母親は16日の公判に勾留先から車椅子で出廷。芦高裁判長が「私の声が聞こえますか」「体調はどうですか」などと呼び掛けたが、母親は視点が定まらない様子で、応じることができなかった。初公判でも呼び掛けに反応せず、息が上がったような状態で名乗ることもできなかった。

 起訴状によると、母親は今年3月15日朝、介護に疲れて将来を悲観し、寝ていた長男の首をタオルで絞めて殺害したとされる。公判前整理手続きの結果、起訴内容に争いはなく、事件当時は心神耗弱の状態だったことを前提に量刑が争われる見込みだった。
 母親の弁護人は「数日前まで意思疎通はできていた。認知症と診断されていたので、その影響があるのではないか」と話した。【向畑泰司、堀江拓哉】

 ◇渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話
 被告が訴訟に耐えられる状態なのかを弁護人がきちんと確認していたのか、公判が始まる前に裁判所と連絡調整ができていたのか、疑問が残る。審理が打ち切られることは、被告にとっても主張の場が失われ、不利益となる。民間人が参加する裁判員裁判の進行で、このような不手際がないよう教訓としなければならない。
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