金で買う物買えない物

いつ出るかと思っていましたが、さすがNICE.金と命(とまではいかないが)の
トレードオフも理詰めですなあ。政府・公的組織の方からこういうセンセーショナル
な問題提起を積極的に行って、国中でがんがん議論する。あの国にも、もちろんいろ
いろ問題はありますが、こういうふうに問題提起と議論を恐れない点は、私があの国
を面白いと思う理由の一つです。

振り返ってわが国は、黒川 清先生が、”なんであなたたち自身がやらないんですか?厚
労省に頼むようなことではないでしょう”、”みなさん、それでいいんですか?税金
を使っていいんですね?”と繰り返し警告を発してくださるにもかかわらず、未承認
薬を保険適応にしろと、厚労省におすがりする国民の皆様であふれ返っているように
見えます。しかし、日本人に英国人のような議論ができないとは思えません。NIC
Eと同様に、お上自身が国民のお上離れを促そうとすれば、できるはず。少なくとも
一度やってみれば面白い見世物になるでしょう。

親離れが怖いので、子供が親に依存するように、親自身が仕向けている。それは都合
の悪いことが起こると親が悪いと言える環境だから、子供もそれを心地よく受け入れ
ているのが、お上と国民の皆様の関係の現状です。そういう関係がみっともないと
か、未成熟とか批判されるているだけでは、その関係は変化しません。ではどうやっ
たら変わるのでしょうか?英国のように金の面で追い込まれないとだめでしょうね。
でも、日本の方が追い込まれているのではないでしょうか?

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◆ 2005.3.10 英国でアルツハイマー病治療薬への保険適用が撤回の危機に
 英国国立クリニカルエクセレンス研究所(National Institute for Clinical
Excellence:NICE)は、アルツハイマー病治療薬の塩酸ドネペジル、リバスチグミ
ン、ガランタミン、塩酸メマンチンを保険適用からはずす新ガイドライン草案を発
表、2005年3月21日まで広く意見を募集している。最終ガイダンスの適用開始は今年
7月になる予定だ。

 NICEは、医薬品の効果や安全性に加えてコスト効果も評価し、英国の公的医療サー
ビスにおいて公的保険を適用するかどうかを勧告する機関。

 英国では、保険適用が始まった2001年以来、コリンエステラーゼ阻害薬である塩酸
ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンは軽-中度の患者に、NMDA
(N-methyl-D-aspartate receptor)受容体阻害薬である塩酸メマンチンは中-重度の
患者に投与されてきた。これに対してNICEは、有効性とコスト効果に関する最新デー
タを審査した結果、保険適用の撤回を勧告する予定だ。

 NICEは、公表済みあるいは未公表の臨床試験データなどをもとに考察を重ねてガイ
ドライン草案をまとめた。それによると、コリンエステラーゼ阻害薬3剤は、偽薬に
比べ軽-中度患者の認識力低下を遅らせる効果が示されているが、患者と介護者に
とって重要なQOLや施設への入所までの時間などに関するエビデンスは限られている
ことが分かった。また、いくつかのランダム化比較試験(RCT)の質はまちまちで、
様々なバイアスの存在が疑われたという。塩酸メマンチンについては、中-重度患者
の介護に要する時間を短縮でき、その効果は12カ月持続することを認めている。認識
能低下に及ぼす影響は決定的ではないが有効が示唆されており、塩酸ドネペジル併用
で効果は上昇、コストは下がるという。

 また、評価グループによる費用対効果分析の結果、これらの薬剤のコストが、英国
で保険適用になっている薬剤の平均を超えていることを示した。3つのコリンエステ
ラーゼ阻害薬の費用効果比は、質調整生存年(QALY)当たり4万8000ポンド、3万
2000ポンド、3万8000ポンドで、塩酸メマンチンは3万7000?5万3000ポンドだっ
た。今後も保険適用が続けば、NHSはコリンエステラーゼ阻害薬3剤に対して2004?
2005年には約6000万ポンド、2005?2006年には7000万ポンドを支払うことになり、勧
告がNHSに採用されれば、1年目には1500万ポンド、2年目は4500万ポンド、3年目
には6000万ドルが節約できると推算されている。

 医療費を削減するために保険適用からはずすという判断の被害者が、治療の選択肢
がわずかしかないアルツハイマー病患者である点から、新たなガイドラインは大きな
議論を引き起こしている。患者が利益を得たと感じられるレベルの効果を、コストと
比較すれば意味がないという判断基準に基づいて保険適用の可否を決めてよいもの
か。国民医療費、特に老人医療費の急速な増大が問題になっている日本もまた、いつ
かこうした決断に迫られる日を迎えるかもしれない。
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