ボディガード
          ー北陵クリニック事件再審請求審風景ー
        
    
    「そんなに検察の悪口言って、嫌がらせとか脅迫とか怖くないんですか?」
    
    「悪口とはまたご挨拶だな。助言なんだよ、助言。矯正医療の末席を汚す一人として、彼らに更生してもらいたい一心で助言しているんだ。悪口雑言の
    限りを尽くしてあたしを藪医者呼ばわりしてる恩知らずは、あいつらの方じゃねえか。冗談じゃねえよ。」
    
    「ごめんなさい。でも、先生のありがたい助言の真意を誤解して、逆ギレした大本営からの嫌がらせとか脅迫とか怖くないん ですか?」
    
    「ああ、怖いさ。あたしはこう見えても凄く気が小さいからね。何しろ特別公務員暴行陵虐罪どころか、平気で人殺しをする奴らだ(*1、*2)。検
    察は饅頭並に凄く怖い。実際、大本営はドクターGを天下の藪医者呼ばわりして、名誉毀損・威力業務妨害を繰り返している。だから君みたいな医学生が応援し
    てくれるのは非常にありがたい」
    
    「えっ、僕みたいなのが・・・」
    
    「そうさ、だってさ、もし明日私の身に何か起こったら、何を心配してくれる?」
    
    「そりゃ、もしかしたら検察がって・・・」
    
    「そうだろ、つまり、君は既に僕のボディガード役を務めてくれているってわけさ」
    
    「はあ・・・」
    
    「実際に現場経験のない君でさえ、僕を心配してくれているじゃないか。ましてや日本には現場で苦労を重ねている医療者が数十万人単位でいくつも職
    能集団を作っている。30万人近くのお医者さん、150万人以上い
    る看護師、10万人以上いる歯科医師、30万人以上いる薬剤師・・・・医療者はみんな潜在的なマッシーの応援団だ。さらにはその医療者を応援してくれてい
    る患者さんや家族も私の応援団に回ってくれる。こちとら親切に助言してやっているのに藪
    医者呼ばわりする奴らは、それだけで医療者・患者・家族から憎まれる悪役を買って出ているってわけさ。つまり現時点で検察は既に潜在的な四
    面楚歌なんだよ(*3)。そこで下手なことやってみろ。その四面楚歌がたちまち顕在化する。いくら検察が馬鹿だと言ったって、偏差値の高い大学出て司法試
    験まで受 かっているんだ。大本営だってそのぐらいのことはわかる」
    
    「でも、医療者みんながみんな池田先生を応援しているわけじゃないでしょう。再審請求審で、「刺客」とか出てこないんですか?」
    
    「あっ、時代劇でよく出てくる、”先生、お願いします”ってやつね」
    
    「えっ、それって・・・」
    
    「ああ、今の若い人は時代劇なんか見ないのね。時代劇で欠かせないのが、悪代官と結託するブラック企業(*2)の社長。その社長一味を成敗しよう
    とする正義の味方の仇役になるのが、ブラック企業のお抱え用心棒ってわけ。ほとんどの場合、人相の悪いうらぶれた浪人者なんだけど、その用心棒の
    登場を宣言する時の社長の決まり文句が”先生、お願いします”」
    
    「凄く強いんですか、その用心棒って・・」
    
    「持ち時間次第ね。つまり、映画みたいに2時間あれば、手強い斬られ役を設定できるけど、水戸黄門みたいな民放テレビの45分だと、悪代官成敗の
    シーンがメインだから、用心棒はショッカー戦闘員並の扱いになっちゃうね」
    
    「なるほど、それで・・・時代劇のことはよくわかったのですが・・・」
    
    「あっ、ごめん、ごめん。再審請求審だったね。阿部泰雄再審弁護団長曰く ”池田先生、この再審請求の最大の特徴は、御用学者が一人も出てこない
    点です”」
    
    「それって、検察を応援するお医者さんも研究者もいないってことですか?」
    
    「うん、質量分析の方は一人もなし。僕のミトコンドリア病の方は、国立精神・神経医療研究センター
    神経研究所の部長さんが一応検察側意見書を書いてくれたんだけど、そこには筋弛緩剤中毒とは一言も書いてなくて、結局”ミトコンドリア病は否定できな
    い”ってオチがついてた。原審で20人もの医師・研究者を証人として送り込んだ東北大学からさえも一人として御用学者が出てこない。日本中が黙認
    によって弁護団の主張を支持しているってことだ」
    
    「じゃあ、北陵クリニック事件の再審は時間の問題ということでしょうか?」
    
    「それは、わからねえし、そんなこと、どうでもいいと思ってる」
    
    「えっ・・・どうでもいいって・・・」
    
    「だって、そうじゃねえか。こちとら親切に助言してやっているのに天下の藪医者呼ばわりするんだぜ。そんな馬鹿野郎どもに構っているほど、あた
    しゃ暇人じゃねえんだよ」
    
    「でも、池田先生、この事件に関わってから丸5年になりますよね」
    
    「ああ、もうそんなんなるか。ったく、あいつら手間ぁ取らせやがって・・・」
    
    「結局、続けることになるんですよね?」
    
    「それもこれもあの馬鹿どものせいだ。あたしだって、こんな馬鹿げた仕事、早く止めてえよ。でもあいつらが止めさせてくれねえんだ」
    
    「検察が池田先生を引き留めている?」
    
    「あたぼうよ。あいつらが俺を藪医者呼ばわりするから、こちとら商売上がったりだ。”池田殺すにゃ刃物は要らぬ、天下の藪と呼べばよい”ってわけ
    だ。あたしを藪医者呼ばわりすれば、検察の御威光あまねく行き渡るお役所から追い出されるに違いないって踏んでるんだろうが、そうは問屋が卸さね
    え。あたしだって生活がかかってるんだ。あたしが北陵クリニック事件に関わらざるを得ない状態に追い込んでいるのは、ドクターGに対して性懲りも
    無く名誉毀損・威力業務妨害を繰り返す大本営に他ならないってわけだよ」
    
    *1.森
       炎 司法殺人 元裁判官が問う歪んだ死刑判決 講談社
    *2.市川 寛
      検事失格  毎日新聞社 本書では、特別公務員暴行陵虐罪を犯してまで自白調書を取れと、特捜経験のある上司から恫喝されるような
    「教育」を受け、心が病んでいく著者が一度ならず現場から脱落し、ついには晴れて検察という名のブラック企業から脱出する様子が描かれている。
    *3.サイレントクレーマー認知障害:た
    とえ私のことを全く知らなくても、検察、裁判所、そして彼らを支える大手メディア、ジャーナリスト達に対するサイレントクレーマー達は一大勢力を
    形成している。しかし、検察にも裁判所にも、そして彼らを支える大手メディアにも、ジャーナリスト達にも、自分たちに対するサイレントクレーマー
    を認知することは不可能のように見える。
    
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