権丈教 授インタビュー記事
より多くの人に読んでもらおうと思って転載します。
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国民会議委員・権丈教授インタビュー- 「今後の医療はデータによる制御がカギ」
キャリアブレイン 2013/9/4
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/40809.html

 社会保障制度改革国民会議報告書の医療分野におけるメッセージについて、起草委員を務めた権丈善一・慶應義塾大教授は、「デー タによる医療の制御を打ち出せたことは、極めて大きな意味を持っている」と述べ、医療提供体制の整備における客観的な データの重要性を強調した。キャリアブレインのインタビューに答えた。
 権丈氏は、「会議のスタートの時から、2008年の(社会保障)国民会議が示した『機能分化された提供体制』の状況に、現 状からどのようにシフトしていけばいいのかが頭にあった」とし、機能分化の進め方が自らにとって最大の課題だったと述べ た。既存の医療資源や将来の人口動態が地域ごとに大きく異なる状況や、ヒアリングにおける医療界からのデータ開示の要 請、国民会議の委員だった永井良三・自治医科大学長の意見などを踏まえて、ニーズと供給体制の客観的なデータ が「制御機能」を担うとの文章をまとめていったという。
 権丈氏は、「これまで地域における医療機能の配置や補助金の配分は、政治的な力で決まっていた部分が大きい」とも説 明。計画的な整備を目的に導入された都道府県の医療計画も、「今の都道府県には実効性のある計画策定の能力を持つところ は極めてまれで、そもそも提供体制整備のインセンティブが制度的に組み込まれていなかった」と述べ、現 在の制度には問題があるという認識も示した。
 その上で権丈氏は、市町村の国民健康保険を都道府県運営とすることが、この制御機能を働かせるために有効な施策だと述 べる。「都道府県が保険者として財政と給付の責任を負えば、既存の資源や今後追加される資源で提供できる医療の質を、今 よりも高める効率化インセンティブを持つことになる。そうした効率化策の方向の先に、医療提供体制の機能分化がある」と し、08年9月から開かれた厚生労働省の「高齢者医療制度に関する検討会」でも述べてきた意見として、この政策の意味を 説明した。
 権丈氏は、報告書の中の「データ解析のために国が率先して官民の人材を結集して、先駆的研究も活用し、都道府県・市 町村との知見の共有を図っていく」という文章の重要性も強調。一連の改革の成否を握る最大のカギとして、データの分析や 目標値設定に関するノウハウを、都道府県の担当者が身に付けるための仕組みづくりを挙げた。

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国民会議報告は医療界の「ラストチャンス」 - 慶大・権丈教授、会議の見どころ紹介も
キャリアブレイン 2013/9/4
http://www.cabrain.net/management/printNews.do?newsId=40808&printType=2

 高齢化最先端の国でありながら、医療費のGDP比は低い水準に抑えられている日本。今後さらに進む高齢化を、医療費の 対GDP比で1.5ポイント程度の上昇に抑えなければならない−。政府の社会保障制度改革国民会議で改めて示された医療 財政の見通しを踏まえ、報告書の医療介護分野の起草委員を務めた慶應義塾大商学部の権丈善一教授は、「医療提 供体制の改革は、2025年に向けて今回が本当のラストチャンス。この好機をぜひとも生かしてもらいたい」と語る。イ ンタビューでは、毎回インターネットで中継された国民会議の見どころも紹介する。【聞き手・大島迪子】

■日本の低い医療費水準、経済界は目を背けたい事実
 報告書の重要な点の一つは、日本の医療費をGDP比で評価し、OECD諸国に比べて高い水準にはなく、高齢化率を考慮 すれば低い状況にあると確認したことだ。これまで政府の検討の場などで、10年後、20年後の医療費は「何兆円増える」 と名目値で示されることがあったが、将来について名目値で議論してもまったく意味はない。それどころか、人々に間違った 印象を与えるため、やってはいけないことだ。06年から厚生労働省で開催された「医療費の将来見通しに関する検討会」の 時から言っていることだが、せめて、その時々のGDPで割った比率が示されないと、議論は間違った方向に進んでしまう。
 日本の医療費は低過ぎたという認識が、出発点だ。この事実を認めたくないのが経済界だろうが、経済界が考えていること は、社会保障の企業負担をただひたすら避けたいということだけだったということが、国民会議のヒアリング(2月19日開 催)で明らかになった。この日の動画はアップされているので、ぜひとも見てもらいたい。
 一方で、すでに日本には1000兆円を超える借金があり、25年に向けて医療費を潤沢には増やせないことも現実だ。報 告書にもあるが、12年度に対GDP比7.3%だった医療給付費は、25年度に8.8%程度にまでしか増やせそうにな い。この間に、総医療費の35%を占める75歳以上高齢者の人口は1.5倍になるにもかかわらずだ。
 こうした上昇分は、応能負担の徹底で賄っていくことになるだろう。ただ、高所得者の介護サービスの利用者負担引き上げ については、説明が必要かもしれない。医療保険や介護保険の受益者は、正しくは被保険者全員であって、病気に なったり要介護状態になったりして保険給付を受ける人たちだけではない。自動車保険の受益者がその被保険者全員であるこ とを考えれば、理解しやすいと思う。
 従って、受益時での応能負担の徹底化を進めるのであれば、保険料に対して能力に応じた差を設けるのが筋であり、保険事 故に遭った利用段階で高所得者の自己負担を高めるのは筋違いだ。しかし、日本の財政状況や世論の様子をかんがみれば、こ こは若干筋を曲げてでも、介護サービスを利用する段階での自己負担の引き上げは、書き込まざるを得なかった。

■建て替えのタイミング、統合や連携を基金で後押し
 医療の提供を担う人に理解してもらいたいのは、今後医療費が増えるといえども、GDP比で1.5ポイントくらいの上昇 しか見込めないことだ。今の医療費にGDP比1.5ポイントが上乗せされても、現在のフランス程度の医療費でしかなく、そ のフランスの今の高齢化水準は、日本に比べて相当に低い。高齢者が増えて医療費が増えるといわれているが、この国では高 齢者の増加に比例して医療費を増やせる状況にはない。そうした財政制約の下で、今後増大する医療ニーズに対応していくた めには、かなりの覚悟で医療提供体制の効率化を進めなければならないわけだ。
 今回の報告書では、「将来の社会を支える世代への負担の先送りの解消」が掲げられているが、実際にはすでに、赤 字国債を発行し始めた1970年代から先送りし続けてきた負担を今、この国で生きている全世代が負っている。だから消費 税率を5%上げても、1%分しか社会保障に回すことができないのだし、それでも財政的には、社会保障は大目に 見てもらっているとも言える状況にある。そして、今後も財政の健全化を図るために一層の増税は避けられない。こ うした厳しい財政事情の中で、十分な上昇でないにしても医療費の増加が予定されているからには、医療界は国民からの信頼 を得るために、国民のための改革の姿勢を示し続けていく必要があると思う。
 それでも、消費税の1%分の一部を、今回は医療提供体制の機能分化に使うことができるのは非常にありがたい状況だ。 85年に医療計画による病床規制が始まり、その前に起こった駆け込み増床から30年近くたった。建て替えの時期に来てい る病院、病棟は多いはず。病床の機能転換やほかの病院との連携・統合などの再編は、今の建て替えのタイミングが一番進め やすい。ターゲットを絞った形でこの再編を後押しするための基金の財源として、消費税を使えればと思っている。
 医療法人制度の見直しは、経営主体を超えた連携・統合をしやすくし、意欲を持つ法人に道を開くことが目的だ。医療機関 の多くが私的に所有されているこの国の医療提供体制に対して、強制的にやることはなかなかできないから、基金を準備し て、その方向に進みたいという人たちを後押しする。ただ、ここで強調しておきたいことは、民間の医療機関が相当の経営努 力を重ねてきたから、日本の医療は世界に高く評価されるコストパフォーマンスを達成してきたのだということ。日本の強み を生かしながら、医療提供体制の改革を図っていく観点から打ち出された道筋の一つが基金方式だ。また、改革といっても、2008 年の社会保障国民会議でも示されたように、全体の病床数を減らそうというのではなく、数を現状程度に維持しながら役割を 分担していこうという話だ。

■国民会議の見どころ、7月12日には事件も
 今回の国民会議では、インターネットで中継される場に関係団体が出て来て意見を述べたことも重要な意味があったと思 う。3月27日には4病院団体をはじめとした医療団体が参加し、強い改革意欲を持っていることが示された。これは、医 療界がやる気がないから改革が進まないのではなく、医療提供のシステムがうまくいっていないからこう着しているのだとい うことの表れでもある。
 国民会議が報告書を提出した後、日本医師会と四病院団体協議会は、医療提供体制についての合同提言を出していた。西澤 寛俊・全日本病院協会長はこの発表の場で、「提供側が2025年に向けた改革をしていく、われわれが中心に やっていくんだという覚悟ととらえていただければ」と述べており、この動きには期待したい。
対照的なのは、日本経団連などの経済団体が参加した2月19日の回。彼らは負担の抑制、医療の効率化、医療費 の抑制を繰り返し主張した一方で、大島伸一委員(国立長寿医療研究センター総長)からの「そもそも皆さんはどんな医療を 保険で受けたいとお考えか。これについてどのような議論が行われているのか聞きたい」という質問には、「そんなことは考 えたこともなく、議論もしたことがない」と答えていた。この日は経済界が、医療政策に関する基礎的なデータ、基 本的な情報さえ把握していないことも示された。
 3月27日の医療界、2月19日の経済界、この2回のヒアリングを見比べると、非常に示唆するものがある。興味深いこ とが起こったのは7月12日の回。2人の委員が同じ内容を、同じ言い回しで発言する事件が起きた。それを動画で見ていた 何人かの記者たちからは、会議の後に、この時のおかしな雰囲気について連絡が来た。どうしてああいうことが起こったのか は想像に任せるが、意見を読み上げていたうちの1人は、この同じ日に「委員一人ひとりの発言、意見というのは専門性に裏 付けがあって、なおかつ責任が伴うものだ」とも発言していて、パロディーを超える面白さがあった。

 この国民会議で最もアグリーな時間は、4月22日の冒頭15分くらいだったと思う。4月19日のプレゼンテーションを 受けた議論の場だったが、事務局による「議論の整理案」のまとめ方に意見する委員がいた。プレゼンの際に僕は、事務局が 無視できないように、(社会保障制度)改革推進法の項目に従って、改革推進法の文言を使いながら資料をまとめていた。そ の結果、「議論の整理案」には、改革推進法に基づいた僕のプレゼンからかなり引用されていた。そういう高等戦 術(笑)が、彼らには理解できなかったのだろうと思う。

■メディアの反応に見る「持てる者と持たざる者の戦い」
 最近面白いと思って見ているのは、メディアの反応だ。報告書が出た翌日あたりの記事は、「負担増が並ぶ」という批判的 な報道が多かった。20代、30代の若手記者が一夜漬けで書いたのだろう。ところが1、2週間たってみると、解説記事や 社説では、応能原則を徹底させ、低所得者の負担を軽減する負担のあり方の改革など、国民会議のメッセージがよく理解され てくる。40代、50代の、社会保障政策を長年見てきた人が書いたのだと思う。
 例外は日本経済新聞で、これはある意味、当然の反応だ。社会保障は再分配政策であり、持てる者と持たざる者が対立する ことになるのは必然。日経新聞だけは、今回の報告書を批判的に書き続け、国民会議の中で相手にもされなかった少数意見を 持つ委員に、委員であったことを隠して国民会議の報告書を批判する機会を与えたりしている。日経新聞や経済界にとって、社 会保険料や税負担の引き下げをアピールするためには、国民が世代間格差ばかりに夢中になってくれる状況が望ましいわけだ が、今回の国民会議は、そうした観点から社会保障を論じることの間違いを指摘して、応能負担の徹底化という再分配政策に おいて正しい思考軸を前面に打ち出した。日経新聞が孤立するのは当たり前の話だ。このような報告書に対するメディアの反 応も、国民会議を振り返る上で見どころと言えるかもしれない。
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