仮想敵作成スローガン

某メーリングリストで「医師会の既得権益とは何か?」との書き込みがあったので、それに対する回答

どなたからも回答がありませんが、それもそのはず、この種の仮想敵作成スローガンには実体がありません。だから答えようがないのです。仮想敵作成スローガンは古くから枚挙に暇がありません。「ユダヤ人」、「非国民」、「抵抗勢力」、「守旧派」・・・以下、とても面白い問題なので長文になりますことをご容赦ください。

> 最近よくテレビ等で経済界の方々(ローソンの社長さんなど)が日本が成長するためには規制緩和をしなければならず、そのためには既得権益を持つ団体の圧力に立ち向かわなければならないと発言されます。

この種のスローガンを商売道具にするのは、仮想敵(広い意味での政敵・商売敵)を作成し、攻撃することを生業とする方々です。彼らは、「自分は対立候補よりも(美しくはないにしても)清く正しいから、あんな嘘つきにではなく、自分の方に投票しろ」と街角で拡声器で怒鳴ったり、商売敵よりも一円でも多く儲けたりするのが大好きです。

最近ネタに困って店舗数が頭打ちのコンビニに、ミニ検診所を作ってワンコイン検診でOTCの生活習慣病治療薬を売るビジネスモデルを考えている社長さんならば、当然医師会が仮想敵になるわけです。そういう人達に対して、「エパデールOTC化絶対反対」なんて主張は、医師会員の理解さえも得られない
http://kaigyoi.blogspot.jp/2012/11/otc.html
どころか、「飛んで火に入る夏の虫」なんですが、日医のお偉方はいつまでこんな道化役を続けるつもりなのでしょうか。

私にはそんな暇人達を相手にしている暇はありませんが、ただ仮想敵作成スローガンの背景にある「改革依存症」という、実は誰もが多かれ少なかれ抱える病には、大いに関心があります。

一期目の選挙の時に「change」を乱用していた某超大国の大統領も、改革依存症の典型例です。二期目はこのスローガンが自分の交代を意味するのを恐れたため、「change」の声は全く鳴りを潜めましたが、政敵がその点を衝かなかったのは、やはり政敵自身も改革依存症だったからでしょう。それほど、この病の有病率は高いものです。

改革依存症は、
1.原発性(つまり根拠のない)現状否定症状から始まり
2.全ての改革は100%善であるから、とにかく何でも良いから「変えればいいんだ」という自動思考(根拠のない思い込み)
3.そして一旦変えるという介入を行った後は全てを忘れてしまう記銘力障害
といった一連の症状から成ります。

しかしこれほど蔓延した病気でも、治療はとっても簡単です。バカボンのパパと某超大国の大統領とのhead to
headの試験、つまり「これでいいのだ」という現状肯定を対照として、下記の点からプロトコール審査を行えば、誰にでも治療はできます。

1.組み入れ基準:現状のどの点が優先順位の最も高い問題なのか?その問題意識の根拠はどこにあるのか?
2.その問題に対して、どのような介入を(介入の種類)、どの程度の強さで&どのくらいの期間(用量設定)行うのか?
3.介入終了後のアウトカム評価指標は何か?

「change」との叫び声を聴いたら、この審査に耐えられるプロトコールを提出させてみてください。絶対にまともなプロトコールなんか出てきやしません。某超大国の大統領はバカボンのパパに勝てないどころか、勝つ以前に勝負する戦略すら立てられないのです。

改革依存症は、何も政治家や商売人の専売特許ではありません。我々自身の中にも、「自分は変わらなければいけない」という自動思考が四六時中降ってきます。そして「変わらない自分→変えられない自分」に対して自己攻撃性が生じます。そうして苦しくなったら、上記のプロトコールを提出させてください。絶対にまともなプロトコールは出てきやしません。そして「これでいいのだ」と自信を持って、日々誠実に生きる自分を肯定できます。(「認知行動療法、べてる式。」
http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=58442
の帯のキャッチコピーに「これでいいのだ」とあるのも、改革依存症に対するアンチテーゼです。)

改革依存症を緩和して、(何か特別な手段や状況設定を必要とせずに)日々誠実に生きる自分を肯定できるようになると、(いくつになっても)「成長したい。成長する幸せを味わいたい」という若い願望が相対的に浮き上がってきます。これが万年研修医というバウチャーを、日々の診療の中で(!)行使する意欲そのものなのです。

参考→改革依存症2

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