病歴聴取の教え方

今だったら私の師匠である塚越 廣は確実に研修医からパワハラで訴えられていただろう.

(新患プレゼン資料に『主訴:嚥下障害』とあったのを見て)
「あんたなあ,何だよお,これは!!いつも患者さんの言葉で書けと言ってるだろうが!!」
「はあ・・・・」
「はあじゃないんだよお!!どこの患者さんが「嚥下障害で困っています」って言うんだよお!!」
「はい.すいません.「飲み込みにくい」でした」
「そうじゃないんだよお!!」
「はあ・・・・」
「あんたなあ,『はあ・・・・』しか,言えないんか!!患者が「飲み込みにくい」と言っただけで「ああそうでございますか?」と引き下がったのかって訊いてんだよお!!」
「・・・とおっしゃいますと・・・・」
「何だとおー.とぼけるのもいい加減にしろ!!『味噌汁と御飯とどちらが飲み込みにくいですか』(*)って必ず聞けって,学生時代から教えているじゃないか!!もう忘れちまったのか!!」

そんな研修医時代から二十年経ち,週に一度川井 充先生の下で病歴聴取と診察を学ぶようになった.そこでの新患紹介の資料はA4一枚.そこには書かれているのは病歴だけで,検査所見はおろか診察所見さえも書かれていなかった.その資料だけで診断を一つに絞り込むのが常で,除外すべき診断が挙げられるとしてもせいぜい10例に1例だった.川井先生のお師匠さんは豊倉康夫先生,塚越と同じ沖中重雄門下で豊倉先生が長男,塚越が末っ子の関係だった.

*伝統的な神経学の教育を受けそこねた人向けに解説すると→球麻痺による嚥下障害は,水・お茶>味噌汁>御飯のように,飲み込む物の粘稠(ねんちゅう)度が低いほど顕著になる.

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