精神神経疾患病院における皮膚科遠隔診断(ローテク編)

協力:折田皮膚科院長:折田正人

国立療養所犀潟病院は,身体的,精神的な理由で外部医療機関受診に様々な困難を伴う患者さんを多く抱えています.一方,昨今の人員削減,財政困難で,改めて非常勤も皮膚科医に来ていただくのは.そこで皮膚科の遠隔診断ができれば非常に助かります.

幸いボランティアで請け負ってくれる皮膚科医を個人的に確保し,メールでデジカメ画像を送ってぼちぼちはじめ,成果も上がっていますが,まだノウハウが手探りです.以下,私が行っている方法を紹介します.

遠隔医療と言いますと,すぐ大容量高速回線を使って云々とかいう話になりますが,普遍的な社会基盤を使って,最小限の費用と設備で,多くの人が利益を受けられるローテク遠隔医療の方が大切ですし,ずっと面白いと思っています.同様のお悩みをお持ちの多くの施設の方の参考になれば幸いです.実際の症例写真は下記です.なお,写真はoriginalのデジカメ写真ではなくて,JPEGに圧縮して実際に送ったものを掲載しています.

対象と方法

実際に私が行っているのは,デジカメはオリンパス2020zoom(200万画素).接写と病変分布がわかるような距離での撮影の2種類を意識して撮ります.オリジナルの画像は350K程度です.それをAdobe Phtoshopにて50%の大きさに縮小ののち,それから更にJPEGに変換しました.変換時に低圧縮から高圧縮までメニュー選択がありますが,私は高圧縮にしています.高圧縮でもモニター上の画質はそれほど落ちないように思えます.高圧縮でJPEG画像は一枚当たり60-44KBぐらいになりますから,そいつを3-4枚前後(接写の他に,必ず病変分布がよくわかるような距離からの写真を入れる),臨床病歴とともに送付します.相手の皮膚科医はダイヤルアップの環境で,モデムは56000kbpsです.

さしあたっての疑問点は

1.診断に支障がないように画像を軽くするこつ:圧縮方法,大きさなど

2.実際に診療成果が上がっているので,将来的には保険診療としたいが,皮膚科遠隔診断の場合に保険診療,処方はどのように扱われるのか?保険診療の面では,薬はこちらで出すわけですから,処方に関する料金はこちらでもらうとしても,相談先の医師の診療行為として,診察,判断に関する料金を先方から請求してもらって先方の懐に入るようにできないかなあと思いました.活動を継続するためには相談先にも利益が生じるようにすべきだと思います.

すでに画像診断では遠隔診断が普及しつつあるのですから,例えば,病院と契約して出来高払いで診断料を払うというシステムを考えてもいいのではないかと思います.

症例写真と回答

1.下腿の湿疹:(70才男性,精神分裂病)前脛骨部にできたもの.私(池田)にとってはこんなところにできるとは思ってもいなかった.写真1

回答:(この例は初めだったので,私が送った情報量が少なかった)やはり実物を見ないとなんともいえません。デジカメの画像では明確な答えができません。しかしおそらく慢性湿疹だろうと思います。部位からしても頻度が多いところです。治療としてはステロイド外用(できればvery strong、マイザー、ジフラール、デルモベートなど)と亜鉛華軟膏の重層(リント布に亜鉛華軟膏をうすく伸ばして貼る)です。実物を見ることができないので確実な答えができないのが不安ですが、おそらく問題はあまりないものと考えます。よくならないときはまた連絡ください。経過→結果的にこの治療法で色素沈着を残して治癒した.

2.パピローマウィルスによる疣(24才男性):写真1写真2写真3

回答:治療は液体窒素による冷凍凝固術がいいと思います。液体窒素を保持できる綿棒をつくって(小指頭大)、患部に綿棒をあてます。すると患部は白くなります。そしたら指であっためて4−5秒待ちます。これを4−5回繰り返します。これだけです。一回では不充分なことが多いので、10日ー2週間後にもう一度やります。この際前回の処置で黒くなった部分をはさみで取り除いて、綿棒をあてる必要があります。なおりにくいものは何回も繰り返す必要があります。液体窒素がない場合はどうしたらいいか?bleomycinの局注ぐらいしかありませんが,ブレオの局注はむずかしいのでやめたほうがいいです。ブレオの軟膏はまずききません。

3.多形滲出性紅斑:(35才男性.重度精神遅滞,右手)写真1写真2写真3

写真からは滲出性紅斑と考えます。左手、さらには肘、膝、足背にも同様の発疹があるのではないでしょうか?まだ初期なので出でいないかもしれませんが、よく観察してみてください。この病気は99.9%原因不明の疾患で、若い女性におおい。春から夏にかけてよく出現する。かゆみがあることが多く、外用には反応しない。ステロイドの内服によく反応します。リンデロン0.5-1.0mgを7−10日で十分です。何もしないでも2−4週でなおるが私は内服させて、かゆみをおさえてあげます。

経過→指示通りステロイド(プレドニン)を処方し治癒した.

4.異形白癬(88才,男性.脳血管痴呆.下腹部)写真1写真2

まず白癬を考えます。普通は環状が閉じているのですが、ステロイドを外用すると典型とは異なる臨床像を呈します。(異型白癬)診断のためには真菌検査が必要です。顕微鏡で白癬菌を証明すればおわりです。一部膿庖があるのも白癬を支持します。白癬ならばエンペシドなどですぐに直ると思います。ほかには環状紅斑などありますが写真では鑑別できません。

経過→この症例は,当初湿疹と診断され,リンデロンが塗布されていたケースだった.私が皮膚を採取し,鏡検したところ白癬菌が確認されたのでマイコスポール軟膏を塗布し,すみやかに治癒した.やはり白癬だった.

5.多発性円形脱毛症(25才,女性.精神分裂病)写真1写真2

精神科の主治医が,”リンデロンを塗っても良くならない”ということで相談してきましたから,皮疹は修飾を受けている可能性があります.いつからあったかは,本人に尋ねてもわからないというばかりです.しかし,1ヶ月以上前からあるのは確かです.脱毛部に発赤はほとんどありません.易脱毛性はありません.脱毛はこの局所に限局しています.

写真だけでは断定できませんが、円形脱毛症と考えます。すでに脱毛はとまっているものと思います。円形脱毛症はなかなか発毛しないことが多く、とくに多発性の場合はそうです。治療は決定的なものがなく、ステロイドの外用もあまりききません。少し時間をおいて経過をみるのがよいと思います。

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