馬でも食えない

今,私の手元に,1995-1996年に発売された56の薬品のリストがある.そのうち,本当に新しい薬で,患者さんの診療に役に立つと私が考えるのは,免疫抑制剤タクロリムス,抗腫瘍剤トレチノイン,遺伝子組み替えのエリスロポエチンのたった3つである.

あとの薬はこれまでのものの焼き直しで,屋上屋を重ねるがごとき無駄薬だ.56のうち,53はいらないのだ.しかし,この53の薬を世に出すために,ばく大な労力と金を費やし,数多くの動物実験,臨床試験が行われた.そして,薬として認められてからも,多くの営業マンが,診療の邪魔だと医者から白い眼で見られながらも,宣伝活動を繰り返す.人件費もかかるし,広告費もかかる.

新しい薬はそれだけ薬価も高い.それは患者の払う代金に跳ね返る.同時に保険の赤字はどんどん増えていく.

94年の時点で,すでに医療用医薬品の数は18000に達している.一方当院にある薬は,内服,注射,外用すべて含めて500余りである.当院での診療はこれで十分足りている.一体これはどういうことなのか.どんなに寛容に考えても,医薬品は2000もいらないだろう.今ある薬の種類は10分の1以下にできる.

薬はもちろん,それを作る会社も,こんなにいらない.それこそ再編が必要だ.いや会社が少なくなることだけでは不十分だ.新薬開発の社会的コストも,もっともっと下げられる.本当に意味のある薬の如何に少ないことか.旧来のものと比べて大した違いもないのに、吸収がいいとか、胃が荒れにくいとか、おまじない同然の付加価値をつけただけで薬価が高くなって,それに対して,税金や我々が払っている健康保険の金が使われる.薬価基準の見直しというより,”新しくもなんともない新薬”開発の選別の目をもっと厳しくすべきだ.

ちょっと食事をおごってもらったからといって,”腎毒性の少ないアミノグリコシド”なんて,詐欺同然のセールストークを信じたふりをして,安いゲンタマイシンの代わりに,聞いたこともない高い薬を使うなんて,患者,ひいては納税者への裏切り行為だぞ.いや,道義的に云々なんてのは,もう時代遅れだ.コストは安くして,より良い治療効果を上げる,それが魔法でないことを,腕のいいあなたなら知っているはずだ.

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