BSE騒動の本質

”全頭検査”を巡るごたごたに関しては,”全頭検査の正しい知識”としてまとめたのでここをご覧下さい.ここを読めば舞台裏と問題の本質がよくわかります.

 ゼロリスク探求症候群と差別 トレーサビリティーの今日的意義 病識のない人々 だから米国は嫌われる 正義の味方はどこへ行った? オーストラリアでこそ全頭検査をあさりと牛肉肺癌検診か禁煙教育か日本人での変異型CJDをめぐって風評被害の原因は人間10/21国際反戦デーにちなんで先送りの繰り返し肝腎の話はどうなった異端審判への戒め反米ポピュリズムにとってのBSE闘争この冬はヴェジタリアン丼田中 宇のコラムを読んで農水に泣きすがる人々全頭検査論議から転換するにはアメリカの言うことを鵜呑みしてはならない遺伝子組み替えですけど食品安全のお国柄全頭検査がお飾りなわけ やっぱりアメリカ日本学術会議での講演要約科学者達の尊厳と意地ドラえもん抜き 11億円の牛高まる米帝の圧力アダルトビデオの押し売り申年の農水事始家畜米英献血制限対象国の際限なき拡大合衆国でBSEが発生したら, どうした100人会 言葉を弄ぶ 科学と政治の折り合い水戸黄門サイクル成熟した消費者の好例英国在住者からの拙著へのコメント塀の外にも懲りない面々BSE関連の倒産の動向官庁の広報活動の必要性ニッポンハム報道とは何か本来の意味でのグローバリゼーションバカは4人だけ猿対猿未満


ゼロリスク探求症候群と差別
これまで,あちこちで指摘しているが,健康オタク,一億総始皇帝現象がますます猛威を奮っているので,ここでも一言言っておく.ゼロリスク探求症候群は,自称健常人達による病的状態への嫌悪感から生じる.自分は汚くなりたくない。永遠に綺麗なままでいたいという,一見無垢な願望が根底にある.汚い人間、汚い物から隔絶された環境を確保すべく,行動がエスカレートして,その結果,異形の徹底的な排除が起こる.

トレーサビリティーの今日的意義

欠陥マンションは「トレーサビリティー」の導入で減らせる

人間はどこまで楽観的になれるかという限界に挑戦している記事のように見える.カタカナを使えば,新しい仕組みであり,新しい仕組みならば素晴らしい成果が挙げられるとの信仰は,今時,無邪気さの証明にしかならないだろう.誰が作ったかとか,設計したかとかは,これまでも追跡できているわけなのに,浜の真砂は尽きるとも,世に手抜き設計,手抜き工事の種は尽きない.建ててしまえば,建物の構造の中身は見えない点に,手抜きのうまみがあるのだから,「トレーサビリティー」の導入で減らせるとの主張は噴飯ものだ.今回も,偽装したとの証言があってはじめて,すでにとっくの昔から存在していた「トレーサビリティー」によって,建築確認審査,建築会社,デベロッパーといった多くの関係者が明らかになったが,「トレーサビリティー」の仕組みが存在しても,建築の手抜きは決して防げないことを明らかに示している.

さて,食品の「トレーサビリティー」の成果はどう検証されているのだろうか.大騒ぎをして導入したものの成果が全く検証されていないとしたら,トレーサビリティの成果なんてどうでもいいということなのだろう.つまり,トレーサビリティが現実には何の役に立っていない,もう少し正確に言うと,トレーサビリティを巡る利権だけで,十分存在意義があり,食品安全にどのような意義があるかなんて,もはやどうでもいいことなんだ.


病識のない人々(2006/2)

チャップリンの喜劇でも,たまに思い出したように見るから味がある.古典落語だって,来る日も来る日も,同じ噺を聞くようなことはしない.

牛肉の輸出入を巡る日米双方のドタバタ劇も,全頭検査偏執狂 vs ちゃらんぽらん・まっいいか症候群の全面対決と見れば,それなりの出来の喜劇なのだが,あの米国がゼロリスク探求症候群の仮面を被れるとはとても思えないから,脊柱はおろか,脳味噌や脊髄さえも積荷の中に紛れ込んでしまう筋書きはとっくの昔に見えていただけに新鮮味が全く無い.そんな陳腐な喜劇を繰り返して見てこまかく論評するほど,私は暇ではない.

全頭検査偏執狂も,ちゃらんぽらん・まっいいか症候群も,どちらも病気である.今の論争を見ていると,糖尿病患者と高血圧患者が,お前の方が脳卒中リスクが高いと,喫煙室でお互いに非難しあっているようである.



だから米国は嫌われる

これだから,米国産牛肉の拒否が支持を失わないのだ.”てめえの国だけがきれいで,他の国は全部汚いなんて,根拠のない主張を未だに続けている国の言うことを聞く必要なんか全くない”って言われて反論できるのか?

2005/10/15日経
米ハリケーン支援用食料、BSE理由に被災者に届かず
 【ワシントン14日共同】米南部を8月末に襲ったハリケーン「カトリーナ」の被災者への支援物資として英国が送った携行食料33万食に、米政府が牛海綿状脳症(BSE)を理由に輸入禁止にしている英国産牛肉が含まれていたため、1カ月以上も米国内の倉庫に眠ったまま被災者の手に届いていないことが14日、分かった。

米国務省は「食料支援を必要としている他の国向けの援助」(エアリー副報道官)に回す意向だ。 被災者に対する外国からの支援受け入れ方針を表明した後、米政府は「最も必要なのはすぐに口にできる食料」として、軍隊用の携行食料の提供を各国に要請。英国は真っ先に応じた。

アーカンソー州の備蓄基地に食料が届き、被災者への配給を始めた2日後、農務省の検査官が牛肉が含まれていることを確認。フランス、ドイツ、ロシア、スペインから送られた携行食料3万3000食も同様の理由で配給されなかった。  (12:33)


正義の味方はどこへ行った?
あるものの必要性を検証するには,それをやめてしまって,その影響を見るのが一番よい.たとえば,脳循環代謝改善剤の類は,その有効性が疑われて,8500億円だか,1兆円だかの無駄遣いがなくなったことが明らかになったが,薬がなくなって,国民の健康が損なわれたと言う話はとんと聞かない.当時,日本のオンブズパーソンは,脳循環代謝改善剤を廃止することはけしからんと言って,厚生省を攻撃することは決してしなかった.全く逆に,効きもしない薬に無駄な金を使っていたと,訴訟を起こしたぐらいである.

では,なぜ,日本のオンブズパーソンは,全頭検査は税金の無駄遣いだと,騒がないのだろうか.全く奇怪なことである.全頭検査をやめても,変異型クロイツフェルトヤコブ病患者は出ないことは,科学を心得ている人なら誰しもが認めるところであるし,私も,このホームページを含めてあちこちで主張してきた.全頭検査をやめれば,変異型クロイツフェルトヤコブ病患者がでるかもしれないとの主張するのは,科学者ではない.宗教家である.

今の全頭検査護持派の信仰心は,”国民の健康を守る”との偽りの主張のもとに,税金の無駄遣いを声高に主張しつづける点で,かつて脳循環代謝改善剤への信仰を捨て,悔い改めた厚生省より,はるかに性質が悪い.このような集団に対し,日本のオンブズパーソンはなぜ黙っているのだろうか?


オーストラリアでこそ全頭検査を

どうして、オーストラリアの肉が食べられるのさ?オーストラリアで狂牛病が出ていないからだって??あんた,おめでたいね.だって,オーストラリアは全頭検査をやっていないんだよ。だからさ,狂牛病がでていてもわからないんだよ。

これはオーストラリア政府の陰謀だ.狂牛病が見つからないように,わざと全頭検査をしないんだ.そういう新聞記事が出たら,あんたどうする?

どうしてオーストラリアに、日本国民の健康を守るために全頭検査しろって言わないのさ?あるいは全頭検査をやっていないオーストラリア産の牛肉は危険だからボイコットしようって言わないのさ。そこで黙っているあんたたちは日本国民の皆様を危険に晒している犯罪者じゃないか。


あさりと牛肉

あさりの赤だし味噌汁は,カツ丼によく似合う.あさりとキャベツは駿河台下のカツ丼屋の生命線だ.しかし,明治大学の学生の間に,主体(チュチェ)思想が蔓延しているという話はついぞ聞いたことがない.

北朝鮮からのアサリの輸入量(平成十六年)は三万二千トン(四十億円)。国産の三万六千トンに近い数量で、北朝鮮産は輸入量の59%、国内消費量の35%を占める。にもかかわらず,店頭に並ぶのは,国産か,せいぜい中国産で,北朝鮮産の表示を見つけるのは,偽札を見つけるよりも難しい.

北朝鮮のあさりに毒が入っているわけではないし,食べると主体(チュチェ)思想を信奉するようになるわけでもない.その証拠には,実際に北朝鮮産のあさりをたくさん食べてしまった日本人の数は何千万に上るだろうが,みな拉致はけしからんと息巻いている.

なぜ,日常の食卓に上り続けて,実際にうまいと言いながら食べていたものを,”北朝鮮産”と”正しく”表示してあれば食べなかったのにと言うのだろうか?そこにあるのは,理屈ではない.好き嫌いの単純な感情だけだ.”ジャイアンツが嫌いだから,読売新聞は取らない”というのと全く同じ.

”偽装表示はけ犯罪だ.北朝鮮産のアサリを食べさせられた自分は,その犯罪の犠牲者だ”という主張の後ろには,アサリの味噌汁をうまいと言っていた自分の姿が置き去りにされている.その偽装表示のおかげでいい思いをしていた自分は共犯者ではなく,犠牲者だというわけだ.自分達が選んだ政治家を罵倒するのと全く同じように,天に唾する行為である.

牛肉も実は同じだ.どこかの競馬場で牛の脳味噌を食べさせられた連中が変異型CJDになったとかいう噂には,北朝鮮のあさりを食べると将軍様の写真を床の間に飾るようになるという噂と同じくらいの根拠しかない.

山のように牛肉を食っているアメリカ人がぴんぴんしているのだから,米国産の牛肉を以前のように食べたって死ぬもんかと,意識下にせよ,日本人のほとんどは実はそう思ってる。

では,なぜ米国産牛肉をいまだに輸入できないのか?理由は,北朝鮮からのアサリの輸入と全く同じである.そこにあるのは,理屈ではない.反北朝鮮ならぬ反米感情である.その反米感情があるがゆえに,全頭検査問題を勉強しようとしない.

アメリカが嫌いだ.だから,アメリカが拒否する全頭検査は素晴らしいものだと思いたい.アメリカが主張する特定危険部位除去もまやかしに違いないと思いたい.自分の大切な反米感情を守るためには,全頭検査問題を勉強せず,理解しないのが,一番簡単で効果的な方法だ.

ジャイアンツかタイガースか,白か黒か,好きか嫌いか.そのようなデジタル一辺倒の嗜好では,BSE問題は決して理解できないが,多くの日本人にとっては,米国産牛肉輸入問題よりも,ジャイアンツの勝敗の方がずっと大切なのだろう.
 

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「北朝鮮産知っていた」 アサリ偽装、業者が証言

 北朝鮮産アサリが熊本産などとして販売されていた問題で、福岡県の輸入業者からアサリを買い取った同県内の卸売業者が16日までに、共同通信の取材に「北朝鮮産と知っていたが、同時に中国産も仕入れていたので、まとめて中国産として出荷した」と証言、産地を偽ったことを認めた。
 アサリは出荷前に有明海の養殖場(熊本県)に入れられ、さらにほかの業者を介して卸売市場で仕入れた福岡県のスーパーが最後は熊本産として販売しており、北朝鮮産アサリが国産に姿を変える過程が浮かんだ。
 取材に応じた福岡県内の卸売業者によると、昨年、中国産が品薄だったため、輸入業者から北朝鮮産を仕入れた。鮮度を保つため有明海の養殖場にしばらく保管していたが「北朝鮮産はあくまで不足分の穴埋め」という意識しかなく、中国産として出荷したという。
(共同通信) -2005年 4月16日


肺癌検診か禁煙教育か

毎日新聞の小島さんからお手紙をいただき,それに対する返事

>  読者から来る便りの中に「私は検査なしの20カ月以下の牛肉は食べたくない」と
> いうのがよくあります。わが編集部の人にも次の質問をしました。「36カ月の検査
> した牛、と、18カ月の未検査の牛のどちらが食べたいか。両方とも危険部位は除い
> てある。感染しているかどうかは分からないが、両方とも感染している可能性はあ
> る」。
>  全員が検査した36カ月の方が安全だと答えた。
> なぜ検査していなくても、18カ月の方が安全だと考えられるかについて、説明をし
> てもらえるとありがたいです。
 

36カ月の方が安全だと答えた方々は,二重の意味で判断が間違っています.それは,BSEを癌にたとえればわかりやすいと思います.

1.検査には見逃しがあることを忘れている.感度の問題を全く考慮していないのです.胸部レントゲン撮影は感度が低くて肺癌検診には使えないことがもう立派に証明されているのに,まだ,その有用性を信じていて,肺癌検診の目的で検診を受けているのと,全頭検査を信奉するのは同じことです.

2.加齢により,病気のリスクが増大することを忘れている.10歳の子供と70歳の老人と,どちらが肺癌が見つかる可能性が高いか?BSEのリスクも同じで,BSEの病原体は年齢とともにどんどん貯まっていくことを忘れている.

ちなみに,現在でも十分な感度を持った肺癌検診に関しては議論があります.高機能のCTでも,十分とは言えませんが,全頭検査というのは,小学生の喫煙率が上昇しているから肺癌検診をやるというのと同じくらい馬鹿げています.そんなことよりも小学生に禁煙教育を徹底(=特定危険部位を除去する)すべきです.


日本人での変異型CJDをめぐって

2005/2/11(金曜日・祝日),新潟市で行われたの獣医公衆衛生学会主催の市民公開シンポジウムで話してきました.私の話では,初めて立ち見が大勢出て,賑やかでした.主旨は,

1.変異型だとしたら,1ヶ月の滞在というリスクは低過ぎないか?
2.BSEが原因だとする代わりの説明として,BSEが原因とならない変異型(孤発する変異型)というものを考える必要はないか?
3.全頭検査について意義ある議論がきちんとなされていない.コストの問題,サーベイランスとしての価値,アメリカ一国主義への反発といった本質的な問題をもっと議論する必要がある.
4.行政,メディア,消費者,生産・流通・小売業者といった様々な集団の間の対立構造を解くのは決して非現実的な仕事ではなく,やりがいのある楽しい仕事だ.

国内例の気になる点については,フロアのさる高名な方から,詳しいことを教えていただいた.要点は下記です.

1.プリオン遺伝子のコドン129はMM型で,変異型として問題なし.
2.プリオン蛋白のウェスタンブロットと神経病理所見はともに典型的だった.
3.脳波所見,MRI画像所見は,必ずしも変異型に典型的とはいえず,それが,暫定診断が孤発型となった理由だが,脳波所見,MRI画像所見は決して絶対的なものではないから,プリオン蛋白のウェスタンブロットと神経病理所見から,典型的な変異型としていいだろう.

しかし,滞在期間が短かったということは変わらず.変異型であることが明らかになればなるほど,逆に疑問は強くなります.これだけ世の中がプリオン病の診断に敏感になっていると,今まで見過ごしていた病態が検出される可能性があります.5700万人(英国の人口)もの人々が86年から89年まで,少なくとも3年(86-89年)あるいはそれ以上にわたって暴露されていても,150人しか発症しないのに,滞英期間がわずか1ヶ月の日本人が発症する確率の95%信頼区間はどのくらいなのでしょうか?

それまで知られていることでは説明が困難なほどごく稀なことが起こったら,その理由を改めて考え直すというのは科学の定法です.


風評被害の原因とは何か?

横浜の外人墓地をはじめて訪ねたのは,中学生の時だった.墓を見て安心したものだった.遅かれ早かれ死は誰にでも平等に訪れることが確認できたからだった.死後まで差別観念が抜けきれないのか,人種別に墓場を造ったのだが,誰でも死ぬという事実は,墓場の場所なんて瑣末なことを圧倒していた.14歳の私は,日本は戦争で白人社会に負けたけれど,あいつらも,我々も同じように死ぬんだと思った.”世界は一家,人類は皆兄弟”の象徴は競艇ではなく,墓場にあった.

長沼町の住民の体の中にも骨があるはずだ.長沼町の住民だって死ぬはずだ.なのに粉にした骨を毛嫌いするのは一体全体どういうことか.風評被害って何だ?生身の人間よりもずっときれいな,ずっと安全な骨の粉のどこが悪い.風評被害の原因は骨じゃない,ましてや牛ではない.生身の人間だ.牛畜産が重要な産業である長沼町の住民は,もうそれを忘れたようである.私の骨を海に撒いたら,長沼町民はプリオン病がうつるといって,魚を食べなくなるのだろう.

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散骨で業者と地元対立 札幌近郊、風評被害懸念で
 札幌市近郊の北海道長沼町の山林で、札幌市の業者が始めた散骨による「樹木葬」に対し、地元が農産物などへの風評被害を懸念、町が条例で罰則付きで散骨を規制する運びとなった。条例案は3月中旬にも成立する公算だが、業者側は損害賠償請求も辞さない構え。葬儀の形式が個人の自由にかかわることもあり、問題は尾を引きそうだ。
 北輝行(ほっきこう)(札幌市、向井隆社長)が事業を始めたのは2004年3月。私有地の山林約2万平方メートルを「ホロナイ森林公園」と名付け、4平方メートルの区画を数百個つくり、墓石代わりの木の根元に細かく砕いた遺骨をまく。
 同社の太田安男専務は「木を切り倒して墓地をつくる従来方式に対し、自然を保護し、自然に返る理想的な方法」と話す。契約22件のうち1件は散骨が終わった。
(共同通信) - 2005年3月5日
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10/21国際反戦デーにちなんで→地球防衛軍物語 も参考に

 2003年のクリスマス,米国でBSEが発生するまでは,全頭検査で日本の牛はゼロリスクという建前でみんなが商売をしていた.それでみんなハッピーだった.だから全頭検査に誰も文句をつけなかった.ところが,去年のクリスマス以後,全頭検査がなくては商売できない人と,全頭検査が邪魔になって商売できない人が出てきた.一夜明けて,全頭検査は間違いだったと,かつての玉音放送と一億総懺悔を思わせるコペルニクス的転回に,国民の皆様から,怒号が沸き起こるのも無理はない.その怒号に対して,全頭検査信奉者は非科学的だと喧嘩を売ってどうすんの.

人々は,度重なる失望と苦渋を忘却の彼方へ追いやり,これまで罵詈雑言を浴びせてきた役所や研究者や政治家に,またしても正解を求めているように見える.権威から自分が正解をもらえれば,相手を否定できると信じ込んでいる.しかし,今まで,これが正解だという主張に我々は何度裏切られてきたことか.もう,我々は,正解という名の青い鳥はいないことに気づくべきである.そして,かつて輝いていた日々への復活を目指すべきである.戦争反対を叫びながら,ヘルメットを被り,石を投げ,棒を振り回して,公道上でみんなが遊んでいた,あの懐かしい日々.米国牛肉即時輸入再開が,その戦端を再び開く.なしくずしの輸入再開は百害あって一利無し.

牛肉に問題はくっついてくるから、先送りのしようがない。もちろん親米派は牛丼にありつけると大喜び,反米派は憎き米国の肉を喰らってやると,これまたステーキ食い放題という,日本男児の美風復活のおまけつき.こうして,再開のあかつきには、神戸・横浜を始めとする各地の岸壁は、万景峰号入港時の新潟港同様の光景が繰り広げられ、成田空港周辺では三里塚闘争が再現されるだろう。やれ高齢化だ、少子化だと不景気な話ばかりの昨今、非難轟々喧々諤々、かつて日本全体が輝いていた,安保闘争以来の活気が久々に日本全国に満ち溢れること間違いなし。


先送りの繰り返し

今、BSEの利害関係者が最も懸念しなければならないのが、再三再四の一時しのぎ、問題の先送りである。人はなぜ、これほど健忘症になれるのだろうか。これまでの二度にわたる先送りによって、どんな悲劇が繰り返されてきたことか。

第一の先送り:安全なJビーフ,日本の牛肉は安全だとして、国内BSE発生の可能性に目をつむって、問題を先送りした。
私はホームページ上で国内BSE発生からその危険性を指摘してきました。しかし、野良犬の遠吠えとして完全に無視された。この先送りの被害については今更ここで述べる必要はない。今が平和ならば、それでいい。悪いシナリオは考えない。そのツケがまわってきたのに気づいた時はもう遅かった。

第二の先送り:全頭検査は素晴らしい。全頭検査をやっていれば、日本の牛肉は安全だとして、全頭検査の問題点を議論せずに先送りした。
私は、全頭検査施行開始直後から、早く止めろと主張してきたが、誰も耳を傾けなかった。去年のクリスマスまでは,世界に誇る全頭検査という看板に,私以外は誰もけちをつけなかった。私は,去年の10月の,青森の獣医学会でも,大ホールで全頭検査を早く止めろと叫んだが,その時の会場には,お義理で来場して居眠りをしていた人が数十人ばかりいるだけだった.せめてカナダで発生した時点で、純粋に科学的観点から全頭検査見直しをしていれば、今回、日本の誇る検査体制がアメリカの圧力で強引に捻じ曲げられたという誤った印象を一般市民に与えずに済んだのに、それをしなかった。今が平和ならば、それでいい。悪いシナリオは考えない。そのツケがまわってきたのに気づいた時はもう遅かった。

そして、今、第三の先送りが行われようとしている。それが、米国における肉骨粉の規制の甘さとコンプライアンス(規制遵守)の悪さ、特定危険部位除去の規制の甘さとコンプライアンス(規制遵守)の悪さの問題だ。この第三の先送りは第三の悲劇を起こす。輸入は再開したとしても、その後の米国でのBSE発生が当然問題となる。

さらに、オーストラリアでのBSE発生の可能性についても全く議論されていない。今、ようやく赤ん坊が寝ようとしているのに、わざわざ起こすようなことは止めてくれだと?あるいは、私がどんなに大声で騒ごうと、うるさい野良犬として全く無視だろうか。それでは第一、第二の先送りの時と状況は全く同じだ。私にまた、コピー&ペーストをさせるつもりか。


肝腎の話はどうなったんだ

相も変わらず,不毛な全頭検査論議だけで手打ち式を焦る動きが目立っている.ブッシュが負けてケリーになったら,とてもじゃないが,交渉が成り立たないと心配しているのだろう.すべてが政治で話が進んでいる.そこには科学の影も形ない.しかし,もし輸入が再開されれば,下記のような,本当に意味のある科学論議が巻き起こる可能性がある.

かつてあれほど騒いだ肉骨粉と特定危険部位(ほら,今の自民党幹事長が国会で牛の絵を使って説明している写真を覚えているでしょう.それも忘れているようじゃ,あなたにBSEを論じる資格はありません)の話は,アメリカでどうなっているか知っています?肉骨粉の使用も,特定危険部位の使用も,日本や欧州では厳禁されており,罰則もあるが,アメリカでは,努力規定に過ぎず,何の罰則もない.

何度でも繰り返すが,全頭検査の話なんかどうでもいい.20ヶ月なんてけちなことは言わない.30ヶ月以上でいい.我々が議論し,横暴の限りを尽くす米帝に要求していかねばならないのは,次の2点である.以下の2点が受け入れられない限り,米国は他の国と同様の安全性を主張することはできない.これは決して無理な話ではない.我々だって,欧州だってやっているんだから.

1.肉骨粉の即時全面使用禁止:米国は特定危険部位を含まない肉骨粉を豚や鳥の飼料に使うことは認めており、これらの飼料が牛のえさに混じってBSEに感染する危険が残る.必要なのはあらゆる肉骨粉の反芻動物以外への禁止拡大と罰則の強化.とくに,鹿のプリオン病である慢性消耗病が食物連鎖に入り込む可能性を完全に排除する必要がある.厳しい罰則を科さないと肉骨粉の不正使用を絶つことはできない.

2.特定危険部位使用の即時全面使用禁止:米国は,特定危険部位を含む肉骨粉を動物の飼料やペットフードに使用することを禁止する方針を表明しただけである。しかも国民の意見を募ったうえで最終判断するとしており、実施するとしてもは2005年以降だとかいう。日本人を徹底的にバカにした話である.10/18に,FDAのアクションプランの報道発表があり,
http://www.fda.gov/bbs/topics/ANSWERS/2004/ANS01318.html
BSEに関する事項を読んだが,
http://www.foodsafety.gov/~dms/fs-toc.html#prod
7月のパブコメを求めた時のものを載せているだけだったんで,がっかり.7月から何も進歩していない.何もやる気がねえなと思った.

そして,即時輸入再開に全面的に賛成する.なぜなら,上記の2点の論点が明らかになるから.そして,おいしい米国牛を食べながら,自己責任,役所へのパターナリズムなど,大いに議論できる楽しい飲み会が実現できるから.


異端審判への戒め

魚のPCB,埼玉県野菜のダイオキシン,ひじきの水銀,古くは水俣病,カドミウム米,森永砒素ミルク・・・数々の食品衛生スキャンダルによって,生産,流通,小売の現場で,多くの人が日陰の身に貶められた.そういう人たちが,自分の体験を子供に伝えて,弱い立場にいる人間,非国民のレッテルを貼られた人間に思いを馳せるように教育していれば,もっと異端に寛容な国になっていたのではないか.しかし,今,この時も,この国では異端審判の嵐が吹き荒れている.米国産牛肉を生業としている人々は,この国で異端として扱われ,輸入再開を叫ぶ人々は,日本人を危険に晒す非国民として,石もて追われている.

なぜ,異端審判がいつまでも絶えないのだろうか.その理由は簡単だ.異端審判を奨励する教育が世代を超えて,普遍的に受け継がれているからだ.”世代を超えて,普遍的に”という言葉を聞いた時,我々は,自分自身のことに思いを馳せるべきである.

BSEパニックで辛酸を舐めたあなたはどうだろうか.BSEパニックとは関係ないあなたも,日陰者扱いされたことが全くない,幸せな人生を送ってきただろうか.

”おとうさんはいじめられて悔しい思いをした.おとうさんのようにいじめられないためには,おまえはいじめる方の立場に立て.そしておとうさんをいじめた世間に復讐してくれ”と教育してこなかっただろうか.まさかと思うだろう.

しかし,現実の日本はどうだろうか?いじめられた経験のある大人が,可愛い自分の子供に,異端審判の醜悪さを正しく伝えていたら,ここまで非国民狩りは盛んになってはいなかっただろう.いじめはいけないと子供達に言いながら,多くの大人が,非国民に向かって石を投げている.子供達はそれを見ている.百聞は一見に如かずという.いじめはいけないと百回聞かされても,いじめ大流行の大人の社会を見せられた子供達が成人した時の世の中どうなるかは,みなさんの子供時代と,今現在の世の中を見ればすぐわかる.

誰しも,悪い想い出は忘れてしまいたい.しかし,かわいい子供には,いじめる立場よりも,いじめられる立場を理解できる人間になってもらいたいと考えるだろう.ならば,異端扱いされたあなたの苦労を正しい形で自分の子供に伝えたらどうだろうか.

予防接種でも,集団接種は,社会の多数部分を感染症から守ろうという考え方だが,一方で個別接種という考え方がある.予防接種のリスクを嫌う人もいることから,接種の必要性を個人で判断してもらおうというわけだ.

異端審判への戒めを子供に教えるかどうかは,今のところ個別接種の考え方に基づく判断となるが,何も個別接種に留めるべきだと定めた法はない.個別接種が広がれば,集団接種となる.



反米ポピュリズムにとってのBSE闘争

ナショナリズムというのはどこの国,いつの時代にもあるものだ.それを活性化し,維持するのは,愛国心教育ではない.税金を巻き上げ,年金を払わない国に対して,いくら愛国心を説いても,小学生だってだませやしない.だから,歴史教科書がああだのこうだの議論するだけ無駄.

ナショナリズムの成立のために必要なのは(仮想)敵国である.ペリーが浦賀に来てから,日本の敵国はいつも米国だった.日本のナショナリズムは,ヒュースケン殺害事件から小林よしのりに至るまで,反米ポピュリズムで一貫している.これは,内戦(南北戦争)を克服して,世界一の強国に成り上がって150年,今も一国主義で横暴の限りを尽くす国に対する,人間の自然な感情である.一時期,ドイツやら,日本やら,ロシアやら,中国やらを無理に敵役に仕立て上げてはみたものの,結局長続きはしなかった.反米は日本人だけの特有な感情ではない.韓国でだって,英国でだって,事ある毎に反米感情が噴出する.朝鮮半島では,38度線の北であろうと南であろうと,国内に米軍基地があろうとなかろうと,人々が反米感情を素直に行動で示せることに対し,羨望の眼差しを送っている日本人は多い.自分は違うという人も,朝鮮籍の力道山に対し,多くの日本人が声援を送ったことを思い出すがいい.あるいは,アンチ読売(巨人)感情と言えば,もっとわかりやすいだろう.大東亜戦争での敗北は,反米ポピュリズムを消去したのではなく,潜在化させたに過ぎない.林房雄が説いた東亜百年戦争は,今日に至るまで連綿と続き,百五十年を迎えた.

大東亜戦争後も,安保闘争,ベトナム戦争から,えひめ丸撃沈事件,そして普天間基地ヘリコプター墜落事件に至るまでで,米国は反米ポピュリズムに対して好んで餌を与えつづけてきた.そしてBSEである.2003年12月,米国で発生したBSEは,反米ポピュリズムに対するまたとないクリスマスプレゼントになった.ひ弱な日本の反米ポピュリズムでも,この理由付けなら使える.全頭検査なんて,表向きの理由に過ぎない.科学的とか非科学的とか,そんな論争はどうでもいい.とにかくアメリカがきらいだ.アメリカを攻撃するのが楽しい,そういう日本人にとって,BSEは格好の攻撃材料となった.

情念は,理の衣を被って,仲間のような顔をして近づき,理を飲み込む.ゼロリスク探求症候群が典型例だ.CJDに対するスティグマ(stigma;えんがちょ,異端,汚いものというレッテル)が,食品の安全・安心という名の衣を被って,理を丸呑みしてしまった.

政治家達も,この反米ポピュリズムの扱いには腐心してきた.鈴木善幸や田中角栄のように,自分の内なる反米ポピュリズムに迎合して,戦後日本の首相の伝統的な本分,すなわちアメリカ大統領の尻の穴を舐める任務を拒否すれば,相手のご機嫌をそこねてたちまち失脚する.だから,どんな謗りを受けようとも,中曽根某や小泉某のように,桃太郎の犬役を嬉々として引き受け,何が何でも総理の椅子にしがみつこうとする恥知らずの輩が出てくる.中曽根某と小泉某のもう一方の共通点が靖国である.アメリカ大統領の尻の穴を舐める一方で,鬼畜米英と戦った英霊にお参りするとは,真っ当な判断力があれば不可能な相反行為だが,彼らなりの拙い頭脳で,親米一辺倒では国内が持たないから,時には反米ポピュリズムに迎合しなければと考えているとすれば,合点が行くだろう.

米国産牛肉の輸入再開にあたっては,ペリー以来の反米ポピュリズムとゼロリスク探求症候群が合体した,途方もない怪物を相手にしなければならない.それは一国の首相さえまともに立ち向かおうとしない情念の化け物である.私のように,土下座のしようもない,つまり,地べたに這いつくばってこれ以上頭を下げられない与太者は,こうやって好きなことが言えるが,頭を下げる余地のまだある方が輸入再開に踏み切るならば,大切なお客様・国民の皆様から,鬼畜米英に魂を売った非国民の謗りを受けて見放される覚悟をなさるべきだろう.


この冬はヴェジタリアン丼
2004年8月,日本のメディアはかけっこや玉転がしの馬鹿騒ぎしか報道しないから,多くの皆さんはご存知ないだろうが,夏でもトリインフルエンザの活動は止まらない.今や東南アジアに完全に土着したと言っていいだろう.→新型インフルエンザへの備え

いや,インフルエンザウイルスは,どこへでも飛んでいくから,土着したと書くのは間違いかもしれない.豚が飛ぶのはアニメの中だけだから,豚にはトリインフルエンザは関係ないと思ったら大間違い.もう,うつったとか,いや,2001年にはもうわかっていたとか,中国ではすでに喧しい.

豚は寛容な動物で,トリ,ヒト双方からインフルエンザを受け取るから,豚の中でトリ&ヒトの遺伝子組み替えが起こって新型インフルエンザができる.トリのH5N1の毒性は相当なもののようだから,今度の新型インフルエンザもスペイン風邪並になるかもしれない.まあ,人を食うのは私のようなごく一部の変わり者だけだから,いいとしても,この冬は鳥ばかりでなく,豚も話題になるだろう.もし,魚の水銀や砒素まで指名手配が広がるとすれば,ヴェジタリアン丼のメニューも用意しておかねばなるまい.

インフルエンザに比べたら,BSEパニックなんて,お子様ランチみたいなもんだ.かけっこや玉転がしの報道に割く暇などないはずだ.我々が備えに使える時間は限られている.
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CDR Weekly Vol.14,No36 2004年9月3日WHOが中国のブタにおけるA型インフルエンザA(H5N1)の存在を確定:
2004年8月5日,WHOは中国のいくつかの地域における農場のブタが,A型トリインフルエンザA(H5N1)に感染した証拠があることを確定した。アジアにおける現在のH5N1アウトブレイクは広範囲に拡大しており,インフルエンザウイルスが種の壁を超える可能性を考慮に入れると,H5N1ウイルスがブタの一部から検出されることは必然的である。しかしながら,現在のところ,実施されている研究の結果でまだ不明なことは,H5N1ウイルスが,中国のブタにおいて定着しているのかどうかということである。WHOが追加研究の実施を推奨していることなどが記載されている。
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田中 宇のコラムを読んで
BSE問題に関する彼のコメントを読んで感じたのは,

1.勘違いと正しい指摘が入り混じっている。しかし、その正しい指摘は鋭い洞察によるものではなく、普通に考えれば、わかること。
2.彼のような勉強家のジャーナリストでも、references, sourceの選択が間違っていると、とんでもない勘違いをしてしまうので、指南役、セカンドオピニオン役が必要。BSEのような,正確な情報源が少ない問題ではとくに必要性が高い.
3.特に、アナログ性が強く、グレーゾーンだらけの生命科学、医療サービスの分野で、ジャーナリストに問題点を正しく抽出、分析してもらうためには、何でもデジタル好み、白黒で割り切る見方を訂正する再教育(というと偉そうに聞こえるが、まず有志の勉強会を早く作ること)が必要。
4.ジャーナリストにはどうしても、デジタルの善玉悪玉解釈で一つの物語を作り上げたくなる性癖がある。しかし、現実には、間抜けな人間で構成される様々なパーティがそれぞれの思惑で動いて、そのランダムな動きの結果が世の中を構成しているに過ぎない。。BSEにまつわるごたごたがまさにそれ。そこを理解していない。あるいは、物語を作って売りたいがために、理解していないふりをしている。


農水に泣きすがる人々
イラクの人質事件の際に流行した自己責任なる言葉は,もう人々の喉元を過ぎてしまったのだろうか.今,米国からの牛肉輸入を再開して,何が悪いと言うのか?日本国内でBSEが発生した時,多くの人々が自己責任能力を遺憾なく発揮して,農水省を全く信用せず,牛肉を拒否したではないか.牛肉は,たとえ米国産であろうとも,イラクにおける戦車やヘリコプターのように,日本人を襲ったりはしない.輸入を再開したって,かつてのBSEパニックの時と同様,自己責任を発揮して食べなければいいだけだ.

なのに,BSEといえば全頭検査のワンフレーズしか思い浮かべない人々は,かつて彼らが罵倒した農水省を頼り,どうか米国から輸入を再開してくれるなと,泣いてすがっている.彼らには自尊心はおろか,自己責任のかけらもない.農水省にとっては,何と心強い,絶対帰依の支持者達だろうか.農水省もここまで苦労のしがいがあったというものだ.


全頭検査論議から転換するには:一刻も早く輸入再開を
このままで行くと,不毛な全頭検査論議,いやさババ抜きゲームはまだまだ続く.厚労省も,農水省も,そして食品安全委員会も,米国産牛肉の輸入再開を提唱して,攻撃を受けたくないのだ.こういう時こそ,アメリカ追従が大好きな御方の出番で,鶴の一声を気取って輸入再開を宣言したらいいじゃないかと思うのだが,そんな度胸はないらしい.もっと滅茶苦茶なことをたくさんやってきたのにね.人気が落ち目だと度胸もなくなるのは無理もないことだが.

私はこれまで,米帝のでたらめさを度々指摘してきたが,実は,輸入は再開してもいいと思っている.再開するとなれば,その行政判断は注目の的,そしてゼロリスク探求症候群患者からは,非難の的となるだろう.その侃侃諤諤,非難轟々の中で,ゼロリスク探求症候群患者達に少しでも知恵があれば,彼らは,全頭検査以外の,もっと重大な米帝のでたらめさをはっきり示すだろう.そこではじめて,まともな議論ができることになる.

反対に,もしも,輸入再開しても,ただ全頭検査のことだけが話題になるのならば,そんな馬鹿な国民のことは放って置いてもよろしいから,いずれにせよ,一刻も早く,輸入を再開すべきだということになる.


アメリカの言うことを鵜呑みにしてはならない
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米政府は2004年7月9日、BSE(牛海綿状脳症)の追加対策を発表した。脳や脊髄(せ
きずい)など牛の特定危険部位(SRM)を動物の飼料や人間の食品、化粧品に使用す
ることを禁止するが,米国産牛肉の輸入再開問題の焦点になっている牛の検査体制強化
などには触れなかった。
追加対策は米農務省や米食品医薬品局(FDA)などが共同発表した。BSEの感染源
になり得る特定危険部位について、すべての動物の飼料やペットフードに使用すること
を禁止する方針を表明した。国民の意見を募ったうえで最終判断するとしており、実施
に移すのは来年以降になる見通しだ。
ただ、特定危険部位を含まない肉骨粉を豚や鳥の飼料に使うことは認めており、これら
の飼料が牛のえさに混じってBSEに感染する危険が残る。日本側は肉骨粉の使用を全
面的に禁止するよう求めており、米側の方針とはなお開きがある。人間の食品や化粧品
に関しては、BSE発症の危険が高まる生後30カ月以上の牛の特定危険部位などの使用
を14日から禁止する。
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これらの記事の日付に間違いはない.つまり,2004年7月まで米国は

1.特定危険部位を含む肉骨粉が大手を振って罷り通っていた.
2.これからも使用がある程度限定されるだけで,もぐりで牛に使われる可能性は十分過ぎるほど残っている.
3.特定危険部位を含む食品や化粧品が大手を振って罷り通っていた.アメリカのことだから,回収だって手抜きのはず.だからこれからも出回りつづけるだろう.

また,こんな記事もあった.
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AABB Weekly Report 2004年7月16日号Vol.10 No.26
ほとんどの歩行困難なウシはBSE検査を受けていないことが調査で判明:
米国農務省(USDA)のBSEサーベイランスプログラムの監査報告書において,3月の時点で,ほとんどの病気もしくは歩行困難なウシが狂牛病の検査を受けていないことが判明した。2002年-2004年度の間に中枢神経系症状のために処分された畜牛680頭のうち,518頭がUSDAにより検査されていなかったことがUSDA監査官の報告書で述べられている。
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歩行困難なウシのBSE検査は,日本では,はじめてBSEが見つかった2001年9月以前からやっていた,基本中の基本,その感染症サーベイランスさえできていないのだ.3月と言えば,2003年12月にBSEが公式にはじめて見つかってから3ヶ月もたっている.なんて国だ.

話が全頭検査をやるやらないという,どうでもいいことに集中しちゃったもんだから,こんなとんでもないことが今までも,そしてこれからも野放しになる.日本人を馬鹿にした,こんなでたらめな国の言うことは絶対に聞いてはならない.米国民の意見を聞いてなんて,あんな何も知らない奴らの意見を聞いてどうするというのだ.
いつも言っているように,全頭検査なんてどうでもいい.肉骨粉,特定危険部位使用の即時全面禁止を絶対に譲ってはならない.


遺伝子組み替えですけど
遺伝子組み替え牛なんだけど,こういう牛に対して,ゼロリスク信者はどう反応するのだろうか?とにかく牛は全部駄目なんだろうな.
AABB Weekly Report 2004年6月18日号Vol.10 No.23
BBC World Newsによると,日本および米国の科学者らは,来年初旬に生まれてくる予定の,狂牛病に免疫のあるウシを生産したと語った。日本のキリンビール株式会社と米国のバイオテクノロジー会社Hematech社の共同研究で,狂牛病の原因となるプリオンタンパクを胎仔から除去する遺伝仕組み換え操作を行った。ウシは医薬品(C型肝炎,肺炎,リウマチなどを治療する新薬)の開発に使用される予定である。"

食品安全のお国柄
"The Weekly Epidemiological Record (WER)2004年5月28日号 Vol.79,No.22

食品の安全とか,安心とか,わが国でも国民の皆様が心配していらっしゃる.もちろん,日本以外の国でもそれぞれの国民が心配している.しかし,その心配の内容は,国によって大きな違いがあるようだ.

アジア及び太平洋地域における食品安全は危険にさらされている:毎年世界中で推定3人に1人が食品媒介性感染症に苦しみ,1800万人が食品及び飲料水媒介性下痢により死亡していること,アジア・環太平洋地域では食品及び飲料水媒介性感染症により毎年70万人以上が死亡していること,食品の生産及び流通の安全性に関する統合的アプローチを整備する為,40ヵ国からの専門家及び行政当局者がマレーシア行った会合の発言及び議論内容を記載。


全頭検査がお飾りなわけ:検査の感度の観点から
全頭検査で陰性だからといって,その牛がBSEに感染していることを完全に否定しているわけではない.なぜなら,どんなに優れた検査にも感度の限界があるからだ.しかも,感度を規定する真の陽性gold standardは何かさえ定かではない.

真の陽性は,ヒトへの感染実験だろうか?あるいはウシへの感染実験だろうか?ヒトへの感染力を知りたいのか,そのウシが生物学的にBSEに感染しているのか,そもそも標的がはっきりしない.もし仮に,ヒトへの感染実験が可能だとしても,どのような感染実験をgold standardにすればいいのだろうか?経口感染実験だろうか?ヒト脳内への摂取実験だろうか?感染材料は普通の肉だろうか?脊髄と肉のミンチだろうか?それとも脳だろうか?

何をgold standardとするにせよ,検査の感度は100%ではない.特に幼弱牛では感度が落ちる.したがって全頭検査をやっていても,BSE感染牛をすべて排除できているわけではない.脳脊髄をはじめとする特定危険臓器の除去の方がリスク低減のためにはるかに効果的であることはすでに科学的な証拠がある.全頭検査は屋上屋を重ねるというより,雨漏りのしない家の中で傘をさしているようなものなのだ.

もう少しわかりやすく言えば,現在行われている全頭検査は,病院に来る患者全員にMRIやX線CTをやるより,もっと無駄なことをやっていることになる.人間様の検査付け,医療費増大,病院の儲け主義は許せなくても,お牛様の検査付けは許せるということか.

羊の腿肉にスクレイピーのプリオンが検出できるようになったといって騒いでいる向きがあるが,それがどうしたというのだろう.これを機に羊も”全頭検査”するのだろうか?少なくとも日本以外の国にはそんなお遊びの余裕はないだろう.羊の脳を食べる民族にさえ,ヒトへのスクレイピー感染は証明されていない.


やっぱりアメリカ:全頭検査見直しは憲法改正論議の運命か?
おおらかと婉曲に表現すれば皮肉にしかならない.ほんと,いい加減なんだから.やっぱり,全頭検査なんて芸当は無理と理解してやらないと話は決して前には進まない.しかし,国民の大多数の皆様におかれましては,だから全頭検査をやらせないとだめなんだという論理になってしまうのだろう.
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食品医薬品局(FDA),新聞発表,5月4日。
2004年4月30日,食品医薬品局(FDA)は,中枢神経系症状を呈したテキサス州のウシが屠殺され,動物飼料用に加工工場へと出荷されたことを知った。この事例では,現在となってはBSE検査を行う手段はない。しかしもしこの個体がBSEであったとしても,FDAの動物飼料規制により,この個体由来の加工タンパクが他の反芻動物の飼料とされることは禁じられる。
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”禁じられ”ているのは確かにそうだろうが,それが守られているかどうかはまた別の問題だ.そもそも,明らかに症状のある牛を,何も検査しないで加工工場に出しちゃうのが違法行為なんだから,それが他の反芻動物の飼料に使われないようになっていると言い訳するのは,銀行強盗は起こったけれど,盗んだ金を使ってはいけないっていう規則があるから大丈夫って言っているのと同じことなんだよね.

国内では,例によって喉もと過ぎてなんとやら,牛丼,牛タンよこせ,全頭検査見直しキャンペーンも不発に終わり,国民の皆様は何事もなかったように毎日を過ごしているように見える.論争を巻き起こすことに失敗してしまったために,今後の全頭検査見直しは寝た子を起こす形となり,かえってやりににくなった.全頭検査見直しは,憲法改正論議と同様の運命を辿るのだろうか?


日本学術会議での講演要約
2004年4月14日に,”牛肉の安全を守るためには?”と題して行われた日本学術会議主催の公開討論会にシンポジストとして出席した.下記はその要約である.普段の私の論調と比べて大分おとなしくはなっているが,(日本型)全頭検査見直しの風潮が出てきた中で,相変わらずの天邪鬼ぶりは,はっきりと読み取っていただけると思う.

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当初,最大50万人が犠牲になるとも言われた英国での変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(以下vCJD)患者数は,2000年の28人/年をピークに,着実に減少に向かっており,2004年には,年間7人以下になると予想される.この動向から判断しただけでも,英国在住経験のない日本人にvCJDが発症する確率は,日本型全頭検査(以下全頭検査)があろうとなかろうと,実質的にゼロである.さらに、日本では、特定危険部位の厳しい除外、世界一厳密な輸血・臓器移植制限、抗菌グッズに代表されるように病的なまでに潔癖さを求める国民性といった特殊条件によって、ゼロリスクが現実のものとなった。それにもかかわらず,全頭検査をなおも維持する原動力となっているのは,”安心”という言葉に象徴される消費者心理や、その経済効果,非関税障壁としての思惑といった、科学的根拠以外の要素である.しかし、我々は科学のみによって生きているわけではないから,科学的根拠以外の理由を真っ向から否定することによって全頭検査を撤廃するのは,賢い選択ではない.

そもそも,全頭検査は,科学的根拠というより,社会的パニックに対する政治的な緊急避難策として始まった.そのため、開始当初より,一般市民に対して,全頭検査の本当の意味を明らかにする動きはほとんどなかった.なぜなら,そんなことをすれば、牛肉を恐怖の食べ物と捉える人々から,攻撃されるのが明らかだったからだ.科学者コミュニティの誰もが猫の首に鈴をつけるのを嫌った結果,全頭検査に対する説明責任と情報開示の先送りが続いた.その結果,全頭検査は科学的根拠不要の強固な既成事実となった.そこへ2003年末の米国でのBSE発生である.ここで全頭検査を撤廃すれば,“米国の不当な圧力に屈して”,“科学的に正しい全頭検査を撤廃した” という,二重の誤った印象を国民に植え付けることになる.説明責任と情報開示先送りのツケが回ってきたわけだ.

強大な経済力,国民の健康意識の高さ,行政インフラといった,世界でも類を見ないわが国の特性が全頭検査を支えている.一方で,地球上では、常に8億人の人間が,日々の食べ物にも事欠く状態に放置されている.また,かつて英国からEU域外へ輸出された肉骨粉によって,多くの開発途上国がBSE発生のリスクを抱えたままでいる。もしも,全頭検査を世界標準のBSE検査に戻すのならば,それで余った資金と労力を,世界の食糧事情や途上国のBSE問題への貢献に振り向けるのが,理にかなった税金投入策であろう.このような国際貢献も,科学者が一般市民に向けた情報開示と説明責任を果たすことによって、初めて可能となる.
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科学者達の尊厳と意地 (2004/4/11)
これまで述べてきたような惨憺たる状況の中で,食品安全委員会が,全頭検査見直しに向けて動き出したことは注目に値する.科学的根拠なしに,政治的動機づけだけで始まった全頭検査は,科学的な考え方,批判精神が日本に根付かないことの象徴である.裏を返せば,社会に向けてメッセージを発することができない日本の科学者達の無能さの象徴である.全頭検査が,何ら批判されることなく継続されるばかりか,科学を全く理解しない政治家や官僚の交渉の道具に使われることは,心ある科学者にとって耐え難い侮辱である.その侮辱にもはや耐え切れなくなったということだろう.私も大分挑発したんですが,ここまで来るのに随分時間がかかりましたねえ.米国でBSEが出るのは時間の問題だったのだから,もっと早く見直しを提言しておくべきだったんですよ.私は,2001年,全頭検査が始まった時から,早くやめろって言っていたのに,言わんこっちゃない.でも,今からそんなことを言っても仕方がない.ずるずる続けるより,ずっとましです.今からでも,行動を起こしましょう.起こしたからには,不退転の決意で,どんな圧力にも決して屈せず,科学的な態度を貫きましょう.

ゼロリスク探求信者を相手に,困難な仕事とは思うが,使命感を持って働く委員の方々には敬意を表したい.

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食品安全委、BSE検査対象限定へ [2004年4月10日/日本経済新聞 朝刊]

 政府の食品安全委員会は出荷されたすべての牛にBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)検査を義務づける「全頭検査」の見直しに着手する。検査対象を生後20カ月前後より高齢の牛に限定する案が有力だ。欧州連合(EU)の検査に近い基準で、人間への感染防止と検査の効率性を両立させるのが狙いで、米国産牛肉の輸入再開に向けた打開策になる公算が大きい。ただ国内では基準緩和に不安を感じる消費者や検査負担に応じてきた農家などの反発も予想される。
 食品安全委はBSE問題を検討するプリオン専門調査会(座長・吉川泰弘東大教授)を今月下旬に開き検査基準見直しの検討に入る。結論が出れば、安全対策を実施する農林水産省と厚生労働省に勧告する。しかし与党内には、参院選を前に全頭検査を後退させることへの懸念も強く、政府との調整に時間がかかる可能性がある。
 調査会は国際機関である国際獣疫事務局(OIE)や欧州からBSE検査に詳しい専門家を招いて意見を聞く。ほとんどの専門家が「全頭検査は必要ない」と日本基準に否定的な意見を述べる見通しだ。
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ドラえもん抜き(2004/4/10)
農水は,もしかしたら裏で落とし所を探っているのかもしれないと,思っていたが,楽観的に過ぎたようだ.2004年4月の動きを見ても,農水には,感情的な姿勢を変えるつもりはないと考えていいだろう.やっぱり頭が悪い.さらに悪いことには,外務省がお利口さんぶって下手に口出ししようとしたから,余計意固地になって,交渉の窓口さえ閉じてしまった.

本来ならば,OIEのような公の場で,米帝に対し,”こちらも無駄な全頭検査はやめて英国並みのやり方にする.その代わり,お前のところも,今までのようなでたらめなやり方やBSE隠しをやめて,英国並みの対策をやれ,そうすれば買ってやる.これが相互主義というもんだ” と,堂々と主張するだけでいい.このような真っ当な議論には誰も反論できない,最も効果的な交渉術となる.世界に向かって農水の面目躍如となること間違いなし.米帝の圧力に屈したのではなく,OIEの場での交渉となれば,国内向けの言い訳にもなる.そこまで正論を展開して,なおもぎゃあぎゃあ言う国内のタワケ者集団は放置してよろしい.なぜならば,農水省の諸君は,2001年9月以降,それよりもはるかに理不尽な集団ヒステリーに耐え抜いたではないか.

このような栄えある交渉をする度胸も頭もない農水,外務は,ともに成熟した大人とは言えない.農水がのび太,外務がスネ夫,米帝がジャイアンといった役どころである.残念ながら現実にはドラえもんは存在しない.ジャイアンの横暴に対してひたすら家に閉じこもって外に出てこないのび太は,家に閉じこもること自体が立派な抗議の姿勢だと思い込んでいる.

そんな漫画の構図は,面白い記事を書く絶好の機会なのに,メディアは押し黙ったままだ.なぜだろうか?答えは簡単,何も考えていない,勉強していないからだ.全頭検査が如何に無駄か,米帝が如何に日本を馬鹿にしたでたらめを繰り返してきたか.これらの重要な点を全く理解できていないから,何も批判できないことになる.善玉悪玉がはっきり別れる水戸黄門風おとぎ話でしか現実を解釈できない幼稚園レベルの脳味噌の限界を露呈しているだけなのだが,それもこれも,その幼稚園レベルのメディアを受け入れて,全頭検査への税金投入を許している国民の皆様あればこそである.


11億円の牛(2004/4/3)

あなたは,松井秀喜の年俸を知っているだろうか?7億円である.それは高いと思うだろうか?それとも当然だと思うだろうか?では11億円の牛というのは高いと思うだろうか,それとも当然だと思うだろうか.私以外の日本の国民,納税者は,それが当然だと思っている.だから,もしあなたが11億円の牛を高いと思うのなら,あなたは間違いなく,私と同様の非国民である.

2004.04.03 の毎日新聞は,”感染牛1頭発見に11億円”と題して次のような記事を掲載した
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 01年10月に始まった食用牛を対象とするBSE(牛海綿状脳症)の全頭検査で、3月末までに国が投じた費用は検査キット(試薬と器具のセット)と設備代だけで約99億円に上り、感染牛1頭を見つけるのに約11億円かかった計算になることが分かった。
 厚生労働省の調べでは、全頭検査をした頭数は3月27日までに計301万7245頭。これまでに国内で確認された感染牛は計11頭だが、最初の1頭と農水省の死亡牛検査で感染が確認された11頭目を除く計9頭が、同検査で見つかっている。

 検査キット代は国が都道府県に全額補助し▽01年度=21億4100万円(半年分)▽02年度=44億5300万円▽03年度=30億9100万円――の計約97億円を支出している。

 また、DNA増幅装置など検査に用いる設備費も3分の1を補助し▽01年度=1億5200万円▽02年度=500万円▽03年度=250万円を支出。検査を行っている食肉衛生検査所の人件費(都道府県負担)を含めると、検査費用はさらに膨らむ。

一部の専門家からは検査対象を一定年齢以上の牛にすべきだとの意見も出ているが、同省食品保健部の南俊作・監視安全課長は「ただちに全頭検査を見直す状況ではないと思う。今後も最新のデータに基づく専門家の意見を注視していきたい」と話している。【須山勉】
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農水が注視しているのは,専門家の意見なんぞではなく,税金の無駄遣いを見逃してくださっている寛大な国民の皆様のご意見だろう.


高まる米帝の圧力(2004/3/27)

牛肉加工品の輸入業者さんから,苦しい経営の様子を書いたお手紙をいただいた.その返事

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御手紙ありがとうございました.2001年9月10日が同時多発テロの1日前だったことはおろか,多くの人々が会社倒産の瀬戸際あるいは実際に倒産の憂き目に遭ったことも,世間の人々は忘れてしまいました.そして,かつて,日本のBSEパニックで会社倒産の瀬戸際に遭った人こそが,全頭検査を支持していることをお忘れなく..

かつて,BSEパニックで辛酸を舐め,倒産,自殺者まで出した牛畜産業や焼肉屋さん,それを保護するのが仕事の農水の役人も当然ながら全頭検査を支持しています.ましてや,何も勉強しようとせず,大衆に迎合して売らんかなの記事や番組しか作れないジャーナリストが,全頭検査を支持するのは当然です.

> どうして全
> 頭検査に対して異議を唱えて真っ向から対決しようとする団体や個人の声がほとんど
> マスコミに登場しないのか?

簡単です.そんな記事や番組が売れないからです.いや,売れないどころか,そんな記事や番組を作った人間は,日本人を危険に晒す非国民・犯罪者として,袋叩きにされるからです.私のところにも取材など,全く来ませんよ.それどころか,またもや,2チャンネルあたりで,またあの気違い医者が負け犬の遠吠えを繰り返していると,クソミソに言われているに違いありません.

> そしてもし仮に私のような零細企業がいずれかのマスコ
> ミに、米国産牛肉輸入業者、つまり民間の悲痛!?な叫び(これも俗的な表現で恥ず
> かしい限りですが、私の持つ語彙の範疇ではせいぜいこんな程度しか思いつきませ
> ん。)として、どんな形にせよ記事として取り上げてくれないかと仮に訴えた場合に
> 果たして好意的に話を聞いてくれる新聞や雑誌はあるのか?

現在の日本で全頭検査反対を叫ぶことは,大東亜戦争の最中に,鬼畜米英に勝てるわけがないと叫ぶのと同じ事です.分別盛りの大人のやることではありません.

> 又余談になりますが、吉野家の社長も途中からそのコメントがトーンダウンしたよう
> に思えるのは気のせいでしょうか???

一般市民の支持なくしては成り立たない牛丼屋の社長こそ,非国民として袋叩きに遭うのは嫌でしょうからね.それより,同情を誘いつつじっと押し黙って,米帝の圧力が高まるのをじっと待つのが得策だと考えているのでしょう.金持ち喧嘩せずです.

ところで,米帝とるべき正しい対策は,”全頭検査はやる必要はないが,30ヶ月以上の全ての牛の検査,全ての牛で特定危険部位の排除を含む,英国並みの施策”です”しかし,米帝は企業論理だけでまともなBSE対策を行ってきませんでした.ここ数日の動きでは,正しい対策を行うどころか,”民間の全頭検査を認定”という,子供だましの彌縫策のみで日本への圧力を高めています.


アダルトビデオの押し売り

1.本質的なリスク対策は特定危険臓器の除去なのに,屋上屋を重ねるようなBSEスクリーニングが,さも本質的な対策の如く喧伝されている様子は,悪名高き日本の癌検診そっくりである.すなわち,癌を死亡を減少させるという本来の目的が達せられないのに,現在でも幾多の癌検診が,莫大な税金を使って白昼堂々と行われている.医療費削減というのは,一体どこの国の話か?

2.それでも癌検診の愚行は,国内だけに留まっているから,まだいい.勝手に自分が世界の笑いものになっていればいい.ところが,農水は全頭検査を世界標準として輸出しようとしている.全頭検査なんぞ,本来恥ずかしい物,自分の家の中に秘蔵しておくべき物なのに,それを外国にも強要するのは,アダルトビデオの押し売りと同じだ.

3.とんだ傍迷惑なものを錦の御旗に突撃する割には,農水も一貫性がなく,米国に対して弱腰である.だって,米国産牛肉の在庫をそのまま放置しているじゃないか.日本でBSEが発生した時は,全頭検査開始以前の在庫を全部税金で燃やしちまったのにだよ.どうして米国産の場合には燃やさないんだ.おかしいじゃねえか.ましてや,米国産牛のチェック体制は,BSE国内発生前の日本よりもっとずぼらなんだ.そんな弱腰じゃあ,伝家の宝刀 全頭検査が竹光だってこと,すぐに見抜かれちまうよ.

4.この愚行に対し,日本で全頭検査を即刻止めろと叫んでいるのは私だけだ.(実は反対している人も多いのだが,私みたいに馬鹿でないだけ).それはちょうど,日本でBSE発生の前に,その可能性を叫びつづけたのも私だけ,そして日本でBSE発生後は,ゼロリスク探求を徹底的に糾弾した時と全く同じ状況だ.非国民はいつまでたっても非国民である.

5.日本でのBSEパニック発生時に,あれだけ苦しんだ人々が,ゼロリスク探求症候群の象徴以外の何物でもない全頭検査に対して,沈黙を守っている.米国への全頭検査の押し付けに対して沈黙を保っている日本の牛畜産業者も,いかがわしいビデオの押し売り一味に成り下がってしまったというわけだ.世界には,全頭検査どころか,36ヶ月齢以上の検査をするコストさえ捻出できない国もたくさんある.そういう国でも,地道に牛肉で商売している人間はたくさんいる.全頭検査を押し売りすれば,貧しいながらも真っ当商売をしている人が生きていけなくなることは,BSEパニックで苦しんだ人間が一番よく知っているはずだ.本来ならば,BSEパニックで苦しんだ人々すべてが,農水省前に押しかけて,全頭検査をやめろとシュプレヒコールをかけるべきはずなのに,騒いでいるのは吉野家だけ.これしきの反対運動の度胸もない腰抜けに,ファッショの再来を防ぐことなど,できるわけがない.国を憂うどころか,自分の子供や孫が戦地へ赴かされることさえ防げないだろう.全頭検査問題の本質は,正に,ここにある.

6.米国の消費者は賢明で,パニックを起こしていないように見える(下記*).ゼロリスク探求症候群に苦しんだ人々は米国がうらやましいと思わないのだろうか.世界中が拒否しているのに,自分の国の消費者は動揺せずに食べてくれる.それに比べて,日本の消費者はどうだったか?あんなに苦しかった日々.牛畜産業者も焼肉屋も,もう忘れてしまったのだろうか?米国の消費者がどんなに落ち着いていても,日本がこのまま全頭検査の押し売りを続ければ,自分が味わった苦しみと同じ苦しみが,太平洋の向こう側の同業者にも訪れる.そういう時に沈黙を続けている日本の同業者は,BSEパニックから何も学べなかったことになる.

*:ただし,国外向けにそのような世論調査結果を出しているだけで,米国内での牛肉消費は,従来からある健康志向も相まって,今回のBSE発生をきっかけに,一段と低下したのかもしれない.そういう都合の悪い数字を国外に見せずに,米国国民が動揺していないことを盛んに示すのが,度重なる世論調査の目的であり,米国流の実務的な危機管理なのかもしれない.このあたりの判断は慎重を要する.ゼロリスク探求症候群から逃れるのは,どんな国民であれ,それほど容易なことではない.

7.生後2年未満の牛にBSEが発見されたことをもって,全頭検査の必要性を主張する向きがあるが,そのような主張をする人は検査の意義がわかっていないか,あるいはわかっていても知らないふりをして間違った主張をしているかのどちらかだ.(下記*)冒頭にも述べたように,本質的なリスク対策は特定危険臓器の除去である.生後2年未満のBSE牛の肉をもし食べたとしても,その人が変異型CJDを発症する確率を論じること自体,単なる数字の遊びに過ぎない.

全頭検査の成果は?:全頭検査により,肉骨粉使用禁止以後に生まれた生後2年未満の牛にBSEが発見されたことには,どんな意味があるのだろうか?残念ながら,大した意味はありそうもない.一見すると,牛固有にプリオン病が自然発症することを示しているように見える.私は一時期そう思ったことがあるが,実は,単に,検査の感度が向上したためのみかけの現象らしい.

つまり,生後2年未満の牛にBSEがないと思い込んでいたのは,そういう若い牛のBSEを診断するほど検査法の感度が高くなかっただけで,実は,もっと感度が高くなれば,生後2年未満の牛にもBSEが発見できるというわけだ.

考えてみれば,生後2年未満の牛にしかBSEがないというのはおかしなことだ,だって,生後間もなく汚染された飼料を食べることで感染するのだから,飼料を食べた時点で感染は成立しているのだから,十分感度が高い検査法ならが,生後2年未満だろうが,それより若かろうが,病気は診断できるはずではないか.


申年の農水事始
何でも,下記,猿対猿未満でも言及したが,農林水産省の芸は,ことしも変わり映えしない猿回し以下のDNA鑑定に終始するようだ.

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農林水産省は2004年1月9日、偽装表示を取り締まるためにコメとウナギで実施しているDNA鑑定について、04年度から黒豚、クジラ、マグロなども対象に加える方針を固めた。幅広い食品で検査を実施することで、偽装行為の抑止効果を狙い、「食の安全・安心」に対する消費者意識の高まりにも対応する。
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ゼロリスク探求どころか,リスクのリの字もないところで,消費者の皆様にはサル未満の脳味噌しかないと決め付けて展開する結構な公共事業である.道路予算が減った分,このDNA鑑定鑑定のとどめない垂れ流しに一体何億円の金が浪費されるのだろう.いや正確に言うと完全な浪費ではない,農水の役人が天下りした検査請負機関が大喜びするからである.


家畜米英:2004/1/1
とんだクリスマスプレゼントとなった米国でのBSE発生の本質は,科学でも,医学でも,食品安全でもない.牛肉という商品を巡る貿易戦争,政治的駆け引きである.要するにウルグアイ第二ラウンドの始まりだ.尤も,傀儡と親玉の間に”駆け引き”なる対等な関係があればの話だが.

我が国では何を動かすにせよ,ガイアツが一番手っ取り早いから,米国産牛肉で命脈を保っている人々は米国の圧力に期待して,短期決戦で早期の輸入再開を何よりも望んでいる.一方日本の生産者と農水は,ここで仇を討たねば末代までの恥とばかり,全頭検査を錦の御旗に,しゃにむに押しまくる.

これに対して米国は,米国産牛肉拒否は,核アレルギーよりもナンセンス.当てずっぽうミサイルシステムなんて物騒なイカサマ商品(*注)だって買うのに,うちの美味い牛肉を買わねえってのはどういう了見だと凄んでくる.全頭検査なんぞは,「訪れる患者を全員検査するヤブ医者みたいなもんだ」(米農務省USDA主任獣医師官ロン・ダヘイブンDr. Ron DeHaven)と一蹴する余裕もある.(日本人にも,このくらいの台詞を言う度胸のある奴はいねえのか.ダヘイブンさんのおっしゃる通りでございます.耳が痛い奴はたくさんいるだろう.)

BSE発生後,こいつらがとった安全対策ってえのが奮ってる.

1.よたよた歩きの病気の牛(へたり牛,ダウナーカウ)を食っちゃならない.
2.生後30カ月超の牛の脳や小腸を食っちゃならない.(30カ月未満はいいというこっちゃ)
3.「先進的食肉回収(AMR)」と呼ばれる脊髄と肉のミンチを(なるべく)やめる.

どれも,日本では自国内BSE発生以前から,疾うに行われていた,あるいはそれ以下の対策だ.裏を返せば,そんな最低限の対策さえ今までやっていなかってことなんだが,完全にしらばっくれて,さも仰々しく報道発表する演技はアカデミー賞に値する.

自国内BSE発生を確認した後も,たとえBSE牛でも,特定危険部位を除けば,その肉は安心して食えると,日本の閣僚が言ったら辞任どころか無期懲役を喰らいかねない台詞も,ヴェネマン農務長官はいともあっさり言ってのけた(2003年12月24日).BSE牛の肉を喰らうなんて,あたしがグラスゴーにいた時は日常茶飯事だったから,こちとらちっとも驚かねえが,日本の農水トップは激怒する以前に,腰を抜かすと同時に米農務省に対して嫉妬の炎を燃やしたことだろう.自分達の場合には,不眠不休で懸命に働いた結果がマスコミからの十字砲火だったのに,あいつらときたら,どんなにグータラでヘマをやっても,無知蒙昧な国民の寛容さと畜産ロビーが守ってくれるのだから.

さらにたまげたのは,2003年1年間だけでも,米国から子牛の脳味噌40キロが輸入されて,少なくともそのうち23キロが日本人の口に入っているという厚労省の調査結果だ.こりゃあ確信犯だよ.

敵さんは,劣化ウラン弾より60年も前に,原爆で何万人もの日本人を殺した飛行機を,ぴかぴかに磨いて博物館にこれ見よがしに展示するお国柄だからな,異常プリオンてんこ盛りの肉を売り捌くぐらい朝飯前,お嬢さん揃いの日本なんか,てんで勝負にならねえんだよ.

日本人は,何百人もいっぺんに殺せる武器を何十億,何百億もかけてわが国から買いながら,なぜ牛肉を拒絶するのか,日本人の頭の中身は支離滅裂だと,今ごろ太平洋の向こう側では,散々言われているに違いない.

米国は世界の牛肉の21.7%を生産し,2位ブラジルの8.6%を引き離して断然トップ(96年).また米国の牛肉輸出は世界の牛肉輸出の25%を占める(02年).日本はその最大の輸出先で総額は900億円を越える(02年).それに比べて欧州は,成長ホルモンをふんだんに投与している米国産牛をもともと拒否しているから,欧州が拒否しても関係ない.だから,欧州が今更拒否しても米国は痛くも痒くもないんだが,日本の輸入差し止めには絶対に黙っちゃいない.

錦の御旗とする全頭検査の脆さを,日本の農水は理解しているのだろうか.OS,トロンの事例を思い出してもらいたい.今でこそマイクロソフトと手をつないだが,それだけ優れた技術であっても,米国からの通商圧力によりMS-DOSに敗れた苦い思い出.ましてや,全頭検査は,科学的根拠を無視して政治的な意図だけで始まったいわくつきのシステムである.日本国内で独自に始まって2年以上,今や立派な公共事業とはなったが,日本以上にBSEが多い欧州各国でさえ未だに36ヶ月未満の牛は検査対象外としている.つまり世界標準にはなりえないことがすでにわかっている.その全頭検査を,世界各国に輸出しようとまで妄想を膨らましていた日本の農水が,米国に対してどこまで突っ張れるか,見物ではあるが,彼我の畜産ロビー力の差は歴然としている上に,所詮はブッシュの傀儡政権の下だから,最終的な勝負は見えている.全頭検査なんて,障子紙で作った風船爆弾みたいなもんさ.武器にならない夢物語だ.そんなものを頼りにしていちゃあ,喧嘩には絶対勝てないぜ.福田康夫は2003年12月25日の時点ですでにこのことを見越して,記者会見で,”全頭検査をしなくても,客観的に見て納得いく状況があれば日本への輸入を認めなければいけない状況もあるかもしれない”と,早くも布石を打っている.

本来ならば,張子の虎である全頭検査を表ではちらつかせつつ,水面下で,全頭検査を強要しないことと交換条件に,もっと実利が取れる交渉をすべきなのだが,国内産業の突き上げを押さえきる力が農水にあるかといえば,非常に疑問.

ということで,本来ならば,本年8月15日の靖国神社は,ムシロ旗を持った牛畜産農家と消費者団体(昨日の敵は今日の友とはよく言ったものだ)が一緒になった,”非国民には参拝の資格などない!!””売国奴に英霊の天誅を!!”というシュプレヒコールと機動隊のせめぎ合いになるべきなのだが,やれ年金がどうの,消費税がどうの,医療費がどうのと,銭勘定のことしか議論しなくなっちまった国民の皆様におかれましては,そんな見世物には御興味がないようで.それだから,そんな国民に見世物を与えても無駄と考えた奴さん,早々と初詣でお茶を濁しちゃったじゃないの

*注:ミサイル防衛システムがいかに無意味かは,次のサイトをお読み頂ければすぐわかります.→いま、なぜミサイル防衛か:課題の本質を問う


献血制限対象国の際限なき拡大:2003/11/17
2003年6月27日から,英国をはじめとする10カ国に加え,その他の欧州の26カ国に,1980年以降,5年以上滞在経験者の献血も断ることになった.その中には日本よりもBSE発生頭数の少ない国も多く含まれている.つまり,この予防原則を当てはめれば,欧州滞在経験のない日本人も献血ができないことになる.今回の規制強化は,欧州の地理的状況を踏まえという意味不明の理由による.地理的状況とは何だろうか?陸続きだということだとしたら,行政当局の頭の中身はまだ19世紀ということになる.SARSの広がり方を見れば,陸続きかどうかなんて全く意味がない.
合衆国でBSEが発生したら:2003/11/17
下記のように,合衆国でのBSE発生の可能性は十分ある.すでに1997年の時点でその懸念が明らかにされていたというのだ.あれだけ手ひどい目にあった日本の生産者,流通,小売り,行政,消費者,メディアいずれの人たちの間でも,もし合衆国で発生したら,日本はどう対応するかという議論は,まったくなされていない.

カナダでBSEが発生した時も,カナダ産の牛肉を拒絶したばかりでなく,米国経由でも入ってこないように,日本は米国に圧力をかけた.日本国内でBSEが発生した時には,BSE対策が行われているから,国産牛肉は安全であると必死で国内外で訴えたのをもう忘れてしまったのだろうか.カナダがかつての日本の立場に置かれていることが誰の目にも明らかなのに,その立場に目をそむけてひたすらカナダ産の牛由来製品を拒絶するの態度には吐き気がする.

合衆国大統領の尻の穴を舐めるのが大好きな首相をいただく国民達は,合衆国でBSEが発生したら,どう行動するのか,見物である.

Mad Cow USA
http://www.prwatch.org/books/mcusa.pdf

PR Watch, an activist group that does investigative reporting on the public relations industry, has posted the full text (pdf) of founder John Stauber's book, Mad Cow USA: Could the Nightmare Happen Here? Published in 1997, the book predicted that BSE and similar diseases were likely to emerge in North America, since the USA (and Canada following its lead) refused to ban feeding of slaughterhouse waste to livestock. The book seems especially prescient in light of the recent BSE outbreak in Canada.


金子清俊先生の本(2003/6)
こういう品のないページで紹介するのは申し訳ないのだが,金子清俊先生が,”プリオン病の謎に挑む”と題した本を出した.私のような大道芸人と違って,きちんと定席を持っている真打の書いた本だから,わざわざ私が言わなくても品質は保証されている.一冊1100円.出版元ですか?もちろん岩波ですよ.

どうした100人会(2003/5)
例の敵役,安心して牛肉を食べたい100人の会の息の根が2003年2月1日(最後のアップデート)に止まってから,4ヶ月近くたとうとしている.年度替りで,無駄遣いする税金も,やる気もなくなったのだろう.2002年7月6日にこの100人会ができた時,さんざん警告を発したのだが,それでも彼らは延々と愚行を続けた.それが2003年の3月22日の朝日新聞への広告でぱったりと活動が止まった.予算を消化してはいおしまいというわけだ.いかにも税金無駄遣いを目的とする天下り団体の単なる思いつきらしい活動の仕方である.理念も情熱も継続性もない.
当初は度重なる警告にも関わらず強硬路線を走っているように見えたので,こちらも大いに闘志が湧いたのだが,所詮は役人仕事だったのかと,失望している次第である.北米でもBSEが発生し,日本はパニックにはならないにしても,100人会もその存在意義を主張できる環境になったというのに,敵役不在は寂しい限りである.

→追記:2004年に,このサイトはようやく見えなくなった.しかし,私は,そのコンテンツを残してある.将来,公開してやろうと思っている.著作権を主張する奴らが出てきたらしめたものだが,それほど馬鹿はいないだろうから,公開には何らの障害もない.


言葉を弄ぶ
ある程度は人口に膾炙した”ゼロリスク探求症候群”だが,御多分に漏れず,いろいろなところで一人歩きしたり,間違った使われ方をしている.その誤用とは,日本たばこの広報が,”禁煙運動はファッショだ”とほざく際の,”ファッショ”という言葉の使われ方と同様である.先日なんぞは,原発推進の広報誌から取材を依頼された.もしかしたらと思い,取材前にその広報誌を送っていただいたら,案の定,環境にやさしい原子力発電云々のキャッチコピーばかりで,浜岡原発の事故原因分析とか,臨界事故の訓練をなぜ東海村だけでやって柏崎市ではやらないこかといった私の素朴な疑問に全く答えてくれそうにもないかったので,取材は丁重にお断りした.
ゼロリスク探求症候群という言葉は,ある特定の集団を非難,攻撃するために用いるべきではない.不条理なことが起こった時,”誰が”ではなく,”なぜか?”を理解し,解決策を考えるためのヒントに過ぎない.

科学と政治の折り合い:Politically correctということ
英語系のジャーナリズムでは,politically correct:政治的な意味では正しい(つまり他の意味では間違っている)という言葉をよく使う.政治的に正しいということは,まれな偶然という事例をを除くと,科学的には間違っている.このように,政治と科学は決して相容れないものだから,現実の問題に対処する時,政治と科学はどこかで折り合いをつけねばならない.BSEのように社会的に影響の大きい問題では,とくにそうだ.科学者,研究者は政治や社会からそっぽを向いたままでいることは許されない.しかし,この点で,96年3月の英国は,大きな誤りを犯した.

96年3月20日,英国政府は,それまで安全としていた英国産の牛肉関連食品を介して,わずかながらとはいえ,人間にプリオン病がうつる可能性を認めた.いままで安全と言われていたものの感染性を認めるという,どんでん返し,寝耳に水の政府発表だった.だから,大パニックが起きることは十分予測できた(1).にもかかわらず,政府公式見解逆転の科学的根拠が,”非定型的クロイツフェルトヤコブ病の10例”という,たった一言だったことが,パニックの火に油を注ぐことになった.正確な情報の欠如はデマの絶好の温床である.

英国政府の衝撃的な発表を友人からの緊急メールで発表直後に知ってから,私はネット上を含めて情報を探し回ったが,なぜ,英国政府の発表がひっくり返った理由については,どこを探しても見当たらなかった.

政府発表の根拠の詳細がわかったのは,2週間以上もたってから,ランセットにWillらの論文 (2) が発表された時である.それまでの間,英国国民はつんぼ桟敷(この言葉も差別語か?)に置かれた.多くのジャーナリストが科学者・研究者にコメントを求めたが,あるものは姿を消し,あるものは徹底しただんまりを決め込んだ (1).プリオン病について,確定的なことが言えない部分が多い.また,英国のBSE研究者の多くが,畜産業と大なり小なり関わりがあることを考えれば,客観的な立場に立てない研究者が沈黙を守るのは,適切なことではあったが,彼らに代わって独立した第三者がBSEのリスクについて責任あるコメントを迅速に発表することはできたはずだ.事実はこれ,判断はこちら,ここまではわかっている,それから先はわからないと,ジャーナリストに明確に示すことによって,憶測やデマの芽を摘み,パニックや謂れのない非難を避けた好例を,日本の火山噴火予知や米国の宇宙船墜落事故の際の報道発表に見出すことができる.

このように,政府発表の冒頭で,パニックの大きさの判断と,科学的な情報公開のタイミングを誤ったために,パニックのコントロールが不能となり,欧州全体を巻き込んだ政治問題にまで発展してしまった (3, 4, 5).同様なパニックの過小評価は,日本のBSEパニックの発端となった報道発表にも見られた.最悪のシナリオを想定して行動するという,危機管理のイロハのイをも無視した結果である.

しかし,科学者・研究者はこのような政治家の失敗を嘲笑うだけではいけない.科学者の沈黙はパニックの主因の一つである.どこの国でも科学者は政治家を忌み嫌うが,BSEのように広く一般市民を巻き込んだ社会的パニックに際しては,政治嫌いを理由にして研究室に閉じこもることは許されない.自分の知識や技術を駆使して貢献できることは何かを,科学者は真剣に考えるべきである.しかも,その材料は,今,あなたの目の前にある.たとえば,全頭検査をどうするのか?いつまで続けるのか?このままだらだらと人と金を投入しつづけていいのか?会計検査院が結論を出してくれるわけではない.研究者が行政・政治家に向かって堂々と発言すべき問題である.世の中がパニックに陥っていない時に発言できなければ,パニックになった時に発言できるわけがない.

1.Lessons from BSE for public confidence.Nature. 1996 Mar 28;380(6572):271
2.Will RG and others. A new variant of Creutzfeldt-Jakob disease in the UK. Lancet. 1996 Apr 6;347(9006):921-5.
3.'Mad cow' politics tries to corral science. Nature. 1996 Sep 19;383(6597):209.
4.Britain caught out by 'unscientific' reactions to Europe's beef crisis.Nature. 1996 May 30;381(6581):353.
5.'Mad cow' scare threatens political link between food and agriculture.Nature. 1996 Mar 28;380(6572):273-4.


水戸黄門サイクル
1969年から今日まで三十余年続いているTBSのドラマ,”水戸黄門”は,これまで,同話を何百回となく繰り返しても飽きられない.なぜだろうか?今回はその秘密を解説する.

誰が悪い,誰に責任がある,誰が辞めろといった不毛な後ろ向きの非難合戦は事故防止に何の役にも立たない.なぜ事故が起こったのかを科学的に解明する責任を果たす前に,責任者が頭を下げてさっさと辞めてしまう.このような説明無責任がなぜ横行しているのか?それは愚かな消費者が,ただ怒り,辞任を要求することによって,説明責任すべき人間から,その責任を免除してしまっているからだ.

このような説明無責任を許している愚かさに,消費者自身が気付かないから,同じ事が何度でも繰り返される.というのは,説明責任とは,なぜ事故が起こったかを究明し,その分析結果をもとに有効な事故防止対策を立てることだからだ.辞めるのはそれからで構わない.しかし肝心の説明責任者が辞めてしまっては,誰もそんな面倒なことはしない.後任は,喉もと過ぎれば熱さを忘れる程度の記憶力しかない消費者に向かって,”万全の注意を払う,マニュアルを徹底する”という決り文句を言うだけでいいんだもの.そしてまた同じ間違いが起こり,愚かな消費者はただ怒鳴りまくるだけで,またまた説明無責任を許すという,愚者のサイクルが繰り返されるばかりである.

私はこれをスキャンダルの水戸黄門サイクルと呼んでいる.行政・企業スキャンダルと水戸黄門のドラマの共通点は,ただ単に飽きずに何度でも繰り返されるという点だけではない.繰り返される理由までよく似ているのだ.それは次のようなサイクルである.

水戸黄門気取りで悪代官を懲らしめていい気持ちになる→いい気持ちになっただけで満足する→満足して自分の頭で考えのるをやめてしまう→なぜ悪代官が出てきたのか,その原因も対策も考えなくなる→原因が残っているのでまた悪代官が出てくる→また悪代官を懲らしめてまたいい気持ちになる

かくして,政界,官僚,企業のスキャンダルは水戸黄門のドラマ以上に何百回となく繰り返されても決してなくならないのだ.その根っこには,スキャンダルが繰り返されることを歓迎している国民がいる.


成熟した消費者の好例
BSEパニックやそれに続く一連の食品をネタにしたワイドショーの際には,自分の頭で考えず,ただ質の悪いメディアの報道の尻馬に乗って騒ぐばかりの軽薄な消費者の姿が目立ったが,世の中はそうそう愚か者ばかりではないという実例をここに示そう.それが,NPO法人ささえあい医療人権センターCOML:Consumer Organization for Medicine & Law (医療と法の消費者組織)である.COMLの山口育子さんの下記のコメントが,COMLが成熟した医療サービス消費者の集まりであることをはっきりと示している.

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私達は,日本医療機能評価機構(JCQHC)が設立される少し前,その病院評価の項目に”患者の視点が入っていないらしい”と聞き,それで果たして評価ができるのだろうか,と素朴な疑問を感じた.しかし他を批判しても何も始まらない.まずは自分達でできることからはじめよう,とJCQHCの設立に先立つ1994年,現在の”病院探検隊”の前身にあたる,”プレ探検”を初めて実施した.
(中略)
一般週刊誌に,”いい病院ランキング”といった見出しが躍る昨今だが,ハードが良ければ,また高度先進医療に対応していれば,”良い病院”かと言えば,一概にそうとは言えない.要は,”私はこういう医療を受けたい”という個々の患者の要望が満たされるかどうかであり,”良い病院”はひとりひとりの患者が決めるものである.
(中略)
COMLは,医療を消費者の目で捉えようと,1990年9月に活動を開始した.”いのちの主人公”であり”からだの責任者”である私達市民中心のグループである.また,”賢い患者になりましょう”を合言葉に,患者の主体的な医療への参加を呼びかけている”
(中略)
立ち上げから現在まで続いてきた理由の第一は,たくさんの人の支援である.第二は医療者との対立構造ではなく,”あそこの意見なら聞いてみようかな”と思える関係性を大事にしてきたことである
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明治製菓の広報誌 アクセス 第17巻6号 p11-14に掲載された,患者の視点から病院機能評価を語った記事からの抜粋).

医療サービスの質を見極めるにあたって,医療者側をいたずらに敵対視せず,なおかつ冷静に,自分の頭で考え,自分で行動してサービスの品質を見極める態度に深く感銘する.そこには,報道を鵜呑みにしてただただ行政と医療従事者を非難するだけで,自分で真実を知ろうとして勉強もしないし行動もしない愚かな人々の姿はない.

食品のサービスよりも,命を脅かすことが多い医療サービスの質の判断にあたってさえ,これだけ冷静になれるのだから,食にまつわるサービスに対して,COMLの人々のように冷静になれる消費者・メディア関係者は必ずいるはずだ.食品の生産・流通・小売,そして行政の人々は,ただただ怯えるのではなく,そういう人々の声を拾い上げ,育てる仕事をしてこそ,努力が報われるというものである.


英国在住者からの拙著へのコメント
BSEパニックの先輩国である英国はサウサンプトンにお住まいの生命科学研究者から,拙著へのコメントをいただいた.

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一時帰国した際に本屋に行き、池田さんの本を買ってきました。軽快な文章で待ち時間でほぼ半分を一気に読み進んでしまいました。BSE
の教科書として現地の日本人にも読ませたいと思います。

今回のBSEから始まったとも言える一連の現象は、最初はリスク感覚の欠如かと思っていたのですが、どうも日本人の差別体質というかある意味いじめ好きな気質が現れているように思えてきました。あたかも自分の神聖な食文化を冒涜したかのように大げさに振る舞いますが、その実、本当はリスクなど関係ないのでは無いでしょうか。抗菌グッズの氾濫も、自分は清潔で他は不潔とするような排他的な考えの現れと思えます。あるいはもっとたちが悪く、何というのでしょうか、自分が騒ぐことにより存在を示すというか、そのこと自体に意義を見出しているような感さえします。遺伝子組換え食品の時もいましたね、そういう人たち。

いずれにしても"粋"さが無くなりましたね、いろんな意味で。罪を憎んで人を憎まずと言うか、関係者は刑事罰でも、まじめに働いていた従業員はおとがめ無しとかそういう義理人情が無くなった感があります。世知辛いですね。
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私からの返事:
拙著ご購読,誠にありがとうございます.ご指摘のように,食べ物にまつわる一連の騒ぎは,当初はリスク感覚の欠如だったのかもしれませんが,もはや,ワイドショーのネタ探しに過ぎなくなっています.

私は,”日本人の国民性”というキーワードを安易に使うことは好みませんが,食い物騒動には,それが露骨に感じられます.具体的には,”流行に乗って評論家を気取りたい”(自分独自の考えに自信がない,誇りがないことの裏返し)と”勧善懲悪好き”(水戸黄門,プロレスの力道山:古いですが)だと思います.

今回の本のような観点を持てたのは,何とか理由をつけて反撃しないとなめられっぱなしになってしまうUKでの生活のおかげです.声ばかり大きくて頭の中が空っぽの連中に喧嘩を売ることに楽しみを見つけたというわけです.



塀の外にも懲りない面々:参考→100人会の正体

例の”安心して牛肉を食べたい100人の会”である.このキャンペーンは,地道にBSEパニック抑制活動を続けてきた我々の努力を踏みにじり,顔に泥を塗る嫌がらせに他ならない

この愚劣きわまるキャンペーンが,農水省の天下り官僚による三流宣伝会社への予算丸投げであるとしたら?これは突拍子もない発想ではない.そもそもホームページそのものが如何にも三流宣伝会社くさい.Flashi Playerがなければ見せてやらないと,いきなり入り口で高飛車な態度に出る.初めから嫌がらせである.要するに中身が愚劣だから,恥ずかしくて見せられないのである.明らかに素人筋の作である.作品の内容に自信のあるプロは,こんな重くて意地の悪いぺーじなんぞ絶対に作らない.

それにしても,なぜ農水省の天下り団体が,牛肉に対する不安を煽るようなキャンペーンをするのかだって?それはむしろ当然だろう.だって不安を煽るどころか,日本の牛畜産業を自ら潰してしまうような真似をしたぐらいなのだから.自分が守るべき産業を自らの失敗で破壊してしまい,自らも延々と攻撃対象になってしまった人々.彼らに学習効果を期待する方が無理だったのだろうか?

朝日新聞広告局によれば,全面広告の掲載料は一回で4500万円とか.これを毎週毎週,バカが100人になるまでやるのか?BSE対策費で分捕ってきた予算の使い道に大分困って,不景気にあえぐ三流宣伝会社に貢ぐことになったようだ.

農水省の天下り団体が,何十億円もの税金を使って牛肉に対する不安を煽るような広告を朝日新聞に載せる.こりゃ,巡査部長が窃盗するどころの騒ぎじゃないやね.週刊文春が取り上げなくても,大変な行政スキャンダルになりまっせ.

と,こうやって親切心から警告しても,彼らが耳を貸さないとしたら,この道はいつか来た道,そう,2001年9月10日以前まで歩んでいた道である.2001年9月10日以前,彼らにとって,私はキャンキャン吠える野良犬だった.牛肉消費はもう戻ったのだから,お前ももう,野良犬に戻ったらどうかということなのだろう.



BSE関連の倒産の動向
帝国データバンクのレポートが,2002年7月に出た.その要点は次の通りである.

1.BSEの直接の影響による倒産に限っても,2001年10月から2002年6月の間に64件,負債総額400億円にのぼっている.この報告が出た直後に倒産した日本食品(負債総額218億円)はこの数字の中に含まれていない.

2.さらに,この数字の中には,雪印食品(240億円の損失を残して会社は解散)のような,倒産の直接の原因がBSEでないものは含まれていない.

3.倒産主因別では、『販売不振』による倒産が半数以上にのぼっている。また、倒産態様別では、『破産』がほぼ半数を占め、また『任意整理』も営業を継続しないケースが目立つなど清算型の倒産が約9 割を占めている.つまり,更生,再生の形をとらずに,事業そのものの継続を断念したということだ.以上より,BSE 騒動による消費者の牛肉離れが本業不振に苦しむ業者を直撃し、事業停止にまで追い込まれたことがわかる.

4.負債規模別では,10億円未満の中小企業の倒産が全体の8割強を占めた.すなわち,BSEパニックは中小企業に,より深刻な打撃を与えた.この数字は,ゼロリスク探求が弱いものいじめにしかなっていないことを如実に現わしている.



官庁の広報活動の必要性
池田です.お手紙ありがとうございました.今回の日本ハム騒動を見ても,世間とは別の観点から農林水産行政の行く末が案じられます.相も変わらず,正義対悪の白黒ワイドショー,現実がすべて水戸黄門の世界から成り立っているという妄想を多くの人が楽しんでいるからです.誰が悪者で誰が正義の味方か,はっきり白黒で色分けできないことは,自分の周囲の現実を見ればすぐわかるのに,

日本ハムの面子を潰して大臣が桃太郎気取りという今回の顛末を見ると,役所も,業界も,そして消費者も,あらゆる関係者の学習効果が全然あがっていないように思えます.あそこは,本省の担当部署がそれこそきちんと監督した上で,適切な処分を発表すべきだったと思います.それでもメディアは処分が甘いと言ったかも知れませんが,そこは,刑事告発もした,あとは消費者に対してどのように責任をとるか日本ハム自身が決める問題だと,大臣が突き放したコメントをすればそれでよかった.

なのに,日本ハムが単独で貧しい判断に基づく発表してしまったものだから,世間様を挑発して”甘い,そんなことでいいのか”ということになってしまって,大臣が桃太郎気取りになってしまった.今回は鬼退治めでたしめでたしでいいかもしれません.しかし,鬼,すなわちこの種のスキャンダルはこれからもどんどん出てきます.その時に,鬼退治はしたはずなのに,また鬼が出てきたのは,桃太郎軍団の責任だと,今度は攻撃の刃がまた農林水産省に向かってきます.

それは,ちょうど,”安全宣言”により生じた”BSEはもう出ない”という大いなる誤解が農林水産省攻撃の火の手となって燃え上がった事例にそっくりです.そういう意味で,”関係者の学習効果が全然あがっていない”と,また生意気を申し上げたわけです.

”監督官庁”として企業に大きな影響力を振るえば,それがかえって仇となって,企業がヘマをやらかした時には監督官庁も世間様から攻撃されることは,もう皆さん十分にわかっていらっしゃるはずです.ならば,企業は消費者に対して責任を負うという,本来の企業・消費者関係を成熟させ,役所はそれを見守るという大人の態度を示すことが,役所を無用な批判から守り,職員を過度のストレスから守り,ひいては職員を本来の業務に専念させることになります.それが本来の意味で,”組織を守る”ことになると存じます.

世界一優秀な日本の役所に欠けているのが広報活動,メディア対策担当部署です.”組織を守る”ために一番必要なのが広報活動です.特に,「食品安全委員会(仮称)」のような,常にスキャンダルを相手しなければならない組織には,絶対に必要です.優秀な人材が必要ですが,それは民間にいます.民間企業は消費者,総会屋,メディアと叩かれる相手がたくさんいますから,鍛えられているのです.たとえば,松下電器で長年広報をやってきた杉田芳夫さんの話などは,官庁の広報活動を行う上でも非常に参考になります.

不毛な行政批判や泥仕合を回避し,食品安全委員会と国民との間のよりよいコミュニケーションを確立するためにも,食品安全委員会への有能な広報スタッフの登用を是非ともご考慮いただきたく存じます.



ニッポンハム報道とは何か
それはスケープゴートの蒸し焼きショーに他ならない.地球上では8億人が飢えと栄養失調で苦しんでいる事実をも忘れた愚者達の趣味の悪さをよく著している.その愚者達に嬉々として迎合しなくてはならない農水省は哀れでさえある.苦心して迎合した挙句にまたヘマをやって叩かれるのは分かりきっているのに. 猿対猿未満からの引用を下記に.

不正とはなんだろうか.不正とは我々自身の排泄物である.誰もが排便排尿放屁をするように,我々は生きている限り,不正や,不正とはいかないまでも様々な過ちを垂れ流しつづける.多くの人は,排便排尿放屁する場所を心得ているが,不幸にもそれができない人もいる.幼児,痴呆老人での不始末は言わずもがな,中高年の女性では,力んだりくしゃみをした際に思わず尿失禁してしまうことに人知れず悩んでいる人も多い.同様に,不本意ながらも不正に追い込まれる人々もいる.

自分の排便排尿放屁を棚に上げ,誰がどこで失禁したかを追求するために,官民こぞってひたすら監視カメラを設置する.これが,飽食した猿と猿未満が跳梁跋扈する国で行なわれている,”不正”摘発ワイドショーの正体である.こんな馬鹿げたワイドショーを作るために,毎日費やされる金,時間,人材,才能,電波,新聞紙,それを視聴する人々の費やす時間・・・これらの壮大な浪費に思いを馳せることができるのなら,何百億も投資しながら,朽ち果てるのを待つばかりのサッカー場を,無駄な投資とは笑えまい.


本来の意味でのグローバリゼーション

Editorial: Food safety is back on the menu. Lancet 2002;359:91

2002年1月28-30日に,モロッコで,国連食料農業機関とWHOの共催で,第一回の食料安全基準世界フォーラムが開催された.この会議は何かを決定しようという会議ではなく,何が問題なのか,その問題から何を学ぶべきなのか,体験を共有しようという会議だった.食料についても,南北問題,先進国による開発途上国の搾取,グローバリゼーションといった深刻な問題がある.

この会議では,地球上では8億人が飢えと栄養失調で苦しんでいるのに,合衆国やEU諸国は,食料のゼロリスクを追求しており,食べ物がたっぷり食べられる人々によって,食料の安全が議論されていると,強い批判が行なわれた.こういう議論が本当の意味でのグローバリゼーションだろう.


バカは4人だけ

”牛肉を安心して食べたい100人の会”と聞いて,バカが100人もいるのかと思ってびっくりしてホームページを見たら,4人だけだったので安心した.ひどい誇大表示の裏にいる名義貸し四バカ大将とは,なかにし礼,萬田久子,黒鉄ヒロシ,小田島雄志である.それぞれの名前は聞いたことがあるが,何を商売にしているのかは,正確には知らない.私にとって確かなのはバカだということだけで,それだけで十分だ.なぜバカなのか?答えは簡単だ.

なかにし:”変な話ではありませんか.牛肉を食べるのに,勇気が要るだなんて”
小田島:”それまでは声を大にして言うしかない.「牛肉は本当に安全なんですね?」と”

変なのは牛肉じゃなくておめえの頭の中身なんだよ,なかにし.牛肉食べるのに誰も勇気なんか出しちゃいねえっての.北野 武でなくても,あなたはこう言いたくなるに違いない.

発起人のなかにしと小田島の,このような言葉に,典型的なゼロリスク探求症状が現れている.

メディアの言うことを鵜呑みにせず,自分で勉強材料を吟味し,自分の頭で考え,行動する人間は,このいかがわしい会が呼びかける対象に含まれていない.この会の標的は,メディアにだまされる一部のお任せ主義の消費者という,ステレオタイプの愚民である.100人の会は,BSEパニックの本質を捉えられる人間の存在など全く認めていない.一般市民を,自分達と同じ愚民だと決めてかかっている.こういう,一般市民をバカにしきった会の意見広告を喜んで載せる新聞といえば,朝日と相場が決まっている.BSEパニックの夢よもう一度,再び紙屑を売りつけようという魂胆が見え透いている.バブルの再来を期待する土地転がしも顔負けだ.

私のホームページはこんなにためになる内容で一杯なのに,全部タダだ.なのにあいつらときたら,相手がバカだと思うと紙屑を売りつけるんだから,ひでえもんだ.

小田島:”僕は真実を知りたい”

何をいまさら寝ぼけたこと言ってやがる.去年の9月から続いたバカ騒ぎの中で,自分の頭でちっとでも物を考えられる人間だったら,とっくに真実に突き当たっているはずじゃねえか.なのにまだ,”僕は真実を知りたい”なんて,寝言を言っているようじゃ,頭の中身は棒に当たる犬以下ってえことだろう.

そもそもホームページで,”小田島雄志さんのご意見”はねえだろ.だって,小田島ってえのは,発起人なんだぜ.だったら,”小田島の意見”だろうが.小学生でもわきまえている日本語作法さえ知らねえんだから,シェークスピアもたまったもんじゃねえや.翻訳家が聞いて呆れらあね.肝心の本業でさえ,この体たらくだから,痴呆の寝言も無理はないやね.


猿対猿未満

大嘘百貨店・大嘘新聞をご存知だろうか.ご存知ない方は,一度,訪れることをお勧めする.要するに寄席である.初代ウルトラマン世代である私の大好きな出し物は,アンギラスやカネゴンの登場するビアガーデン砧である(文末参照).しかし,下記は大嘘新聞ではなく読売新聞からの転載記事である.

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(読売新聞)2002/7/17

かば焼きDNA鑑定、原産国不正表示は許さん

夏を乗り切るスタミナ源として愛されているウナギ――。その消費量が急増する「土用の丑(うし)」の日の20日を前に、農林水産省は、店頭に並ぶウナギの原産国が正しく表示されているかどうかを見極めるDNA検査を、月内にも始めることを決めた。見かけではわからないウナギの種類を科学の目で明かし、相次ぐ食品の不正表示で揺らぐ消費者の信頼を取り戻す狙いだ。

食卓にのぼるウナギには、主に日本系のジャポニカ種と、ヨーロッパ系のアンギラ種の2種類ある。養殖の仕方にもよるが、アンギラ種のほうが皮が厚く、脂分が多いなどの違いがある。加工前なら見かけで区別できるが、かば焼きとなると、専門家でも見分けるのは難しい。最近では、海外で養殖されたウナギを、消費者受けのする国産と表示する例もあるとされる。

そこで注目されたのが、ウナギの種により異なるDNAの配列を、特殊な酵素を使って明らかにし、種を特定するDNA検査だ。

国内で養殖される国産ウナギ(年間生産量2万3000トン)は、ほとんどがジャポニカ種。一方、海外でのウナギの養殖は中国、台湾などが中心で、輸入量は国内生産量の約6倍(約13万トン)にもなる。中国などではこの両種が養殖されている。

ジャポニカ種が輸入された場合はDNA検査でも見抜けないが、国産と表示されたウナギがアンギラ種ならば不正表示の疑いが強くなる。検査は、「国産と表示されているのに値段が輸入物並み」など、疑わしいかば焼きを購入して行う。

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”国産と表示されているのに値段が輸入物並みの,疑わしいかば焼き”だと?? DNA鑑定しなければ分からないような貴重な偽物を,わざわざ安くするわけねえだろ.ちょっとでも頭が回る奴だったら,アンギラだかアンギラスだか知らねえが,疑われないように高くしこそすれ,安い値段で売るなんて間抜けな真似は絶対しねえよ.そこまで頭が回らないのは,疑わしいものをわざわざ疑われやすいように店頭に並べる人間がいると信じている,おめでたい農水省だけさ.

ところがどっこい,実は農水省にもそんなことは分かりきっている.わかっていて,バカな新聞記者どもに上記の報道発表をして,農水省も仕事をしていますよと宣伝したいだけなのだ.しかして,その仕事の実態とは・・・・要するに公共事業なのである.その具体的な内容は下記の如くである

1.税金による,うなぎの買い上げ

2.農水省職員へのうな重の支給:DNA鑑定に使う蒲焼の量はほんの一つまみでいい.私はうなぎのDNA抽出の経験はないが,おそらく,小指の頭ほどの量も要るまい.かくして農林水産省職員は連日税金でうな重が食える結構なご身分となる.

3.DNA鑑定を民間検査会社へ丸投げして,検査代金は税金で払う.

こういう仕掛けで税金が使われるということを,バカな新聞記者や,その新聞を読んでいる国民とやらは絶対に見抜けまい.文句どころか,国民がさんざん叩いたおかげで,農水省はようやく重い腰を上げたじゃなないか,というお褒めの言葉を,マスコミや厳しいご指摘をくださる消費者の方々からいただけるだろう,そんなたわけた期待に満ちた報道発表に過ぎない.朝三暮四以下の猿知恵報道発表がまかり通るのは,新聞記者とその新聞を読んでいる国民とやらが,朝三暮四で喜んだ猿未満の知能しかないと,猿なりに考えているからだ.

地球上では8億人が飢えと栄養失調で苦しんでいるというのに,満腹になった猿や猿未満が,食べるだけでは飽き足らず,食べ物をおもちゃにして,”不正”追求ゲームに税金を投入している.食べ物のゼロリスク追求だけでは飽き足らずに,今度は”不正”追求ゲームである.このゲームバブルは,体裁を変えて生き延びる公共事業として,日本人が再び食うや食わずの状態に陥らない限り膨らみつづけるだろう.

不正とはなんだろうか.不正とは我々自身の排泄物である.誰もが排便排尿放屁をするように,我々は生きている限り,不正や,不正とはいかないまでも様々な過ちを垂れ流しつづける.多くの人は,排便排尿放屁する場所を心得ているが,不幸にもそれができない人もいる.幼児,痴呆老人での不始末は言わずもがな,中高年の女性では,力んだりくしゃみをした際に思わず尿失禁してしまうことに人知れず悩んでいる人も多い.同様に,不本意ながらも不正に追い込まれる人々もいる.

全ての人は罪を犯した(ローマ人への手紙3:23) 義人はいない.一人もいない.(同 3:10)

自分の排便排尿放屁を棚に上げ,誰がどこで失禁したかを追求するために,官民こぞってひたすら監視カメラを設置する.これが,飽食した猿と猿未満が跳梁跋扈する国で行なわれている,”不正”摘発ワイドショーの正体である.こんな馬鹿げたワイドショーを作るために,毎日費やされる金,時間,人材,才能,電波,新聞紙,それを視聴する人々の費やす時間・・・これらの壮大な浪費に思いを馳せることができるのなら,何百億も投資しながら,朽ち果てるのを待つばかりのサッカー場を,無駄な投資とは笑えまい.
 

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