これだけは敵わない
ーユーモアセンスの日英比較ー

下記の記事の著者の谷本 真由美(たにもと・まゆみ)さんはもちろん日本人で、それも医師ではないが、そこここに英国人特有のユーモアが見られる。私が英国人特有のユーモアに惹かれるようになったのは高校時代である。英語の教科書に、独空軍によるロンドン空襲で破壊された本屋の瓦礫の中に佇んで立ち読 みしている紳士の絵があり、そのcaptionには「明るくなって本が読みやすくなった」とあった。

下記の記事を読んでそのことを思い出し、もしかし たら・・と思って「london air raid german bookstore」で検索したら・・・あった・・・・
Library After Air Raid Poster, London 1940
London Bookstore and Library Bombed in the Blitz

大抵のことは日本人と英国人の間で、それほどの差はないと思っている。しかし、彼の国に住まう人々のユーモアのセンスだけには絶対に敵わない。あと100年、200年経っても無理かも知れない とここまで書いていたら、BBCならではの記事が。
Prof Robert Kelly and family - the full interview
大爆笑の子供乱入インタビュー アジア人女性は「家政婦」?
人種差別、偏見といった問題に対するケリー教授夫人の対応も見事。
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AIが医師の代わりになるイギリス AI to replace doctors in UK Wirelesswire 2017.02.22

 AIの導入により効率化を勧めた、リストラした、という取り組みは、今のところ民間セクターの事例が目立ちますが、予算不足に悩む公共セクターの中にも、AIを活用する所がではじめています。
 イギリスではここ最近話題になっているのが、チャットボット(日本だと一般的にはボットと呼ぶほうが伝わりやすいでしょうか?)が治療を希望する患者の問い合わせに答える取り組みです。
 この試みは、まずはロンドン周辺で始まるのですが、患者が「111番」に電話かけると「アプリにアクセスしてくれ」と指示されます。症状をスマートフォンのテキストで打ち込むと、Babylonが運営するチャットボットが症状を判断して、「家庭医に予約を入れろ」「今すぐA&E(救命救急窓口)にいけ」と指示を返答します。
 「111番」は国立病院機構(NHS)の「非緊急以外の医療情報に関する問い合わせ先」で、救急車を呼ぶほどではないが、時間外窓口に行くか、家庭医にいくか、わからない場合に電話する先です。
 100万人以上の市民がこのアプリにアクセスを提供されますが、スマホを持ってない人はどうするのかとか、電話じゃないと詳しい状況がわからないだろう、死にそうな人間はどうしたらいいんだ等々の苦情は当然あるわけですが、今の状況よりはマシだろうということで実施が決まってしまいました。
 ちなみになんでこんな適当な施策が通ってしまうかというと、「111番」の運用状況が日本だと考えられないレベルだからです。週末の場合は半分以上の電話は「ガン無視」です。60秒以内に対応される電話は3%です。
 イギリスの保険システムというのは、国民が収入に応じて支払った国保と税金を原資に運営される国立病院機構(NHS)という組織が運営しています。
 一部自費診療の私立病院もありますが、病院の大半は公営で、医師もスタッフも一応公務員です。医師もスタッフも働けば働くほど給料が増えるわけではなく、患者数を減らしたり、追い返すとボーナスが出るというところもあります。
 国営で最初から予算が決まっているので、人が来なければこないほどよいのです。資本主義の権化のような国ですが、医療システムだけは共産主義です。
 イギリスはここ20年ほどの間に移民してきた人が出産適齢期の人が多い上、特にイスラム教の移民は出生率が高いので、戦後最大の規模で人口が増えているのですが、その一方で、高齢者も増えていて、人口も急激に増えているので、病院の負担が重くなっています。
 2009年から2014年の間に、初診外来患者は5%増加、継続受診の外来患者は10%増加し、緊急患者は3%増加していますが、これは同時期の人口増加率の3%を上回っています。予算は増えてはいるのですが、物価上昇を考慮すると、実質の伸びは年に0.9%ほどなので、患者増加に追いついていません。
 イギリス政府は医療分野へのAI導入に熱心ですが、それには、緊縮財政の中 、何とかサービスを維持したいという切実な要望があります。
 予算も人も足りないので、救命救急窓口を閉鎖したり、ベッド数を減らして患者を早期退院させ、自宅で療養させるケースが増えています。政府は「ケアをコミュニティに戻す」といっていますが、単にベッドも人も足りないだけです。出産の場合は一日で退院ですが、40年以上前は一週間ほど入院するのが当たり前でした。ここの妊婦達が体力があるというわけではなく、単なる予算不足です。
 救命救急では待ち時間4時間という人や、ひどい場合は精神病で錯乱状態の患者が廊下で数時間寝かされていた、という状況もでてきています。人手が足りないので死体が放置されていたこともあります。こんなNHSはすでに崩壊しているという意見の人も少なくありません。
 しかし、対応は患者の症状によるので、全員の扱いがひどいというわけではありません。私が以前インフルエンザで救急に行った際には3時間待ちましたが、息子の目の横のデルモイド嚢腫が悪化して入院した際には、5分も待たずに緊急の小児科に回され即治療、即入院になりました。乳幼児は熱心に治療してくれるのです。死体は放置していても誰も困るわけではないのでそのまま廊下に置いてあったのでしょう。
 予算な豊富な病院や、利用者が少ない地域の病院なら充実した治療が受けられます。ですから、居住地により平均余命に大きな差があります。昨年のEU離脱投票でも、NHSが議論の課題になりました。人口が急増しても、病院の予算や医師の数が急に増えるわけではないので、それだけ治療の質が下がります。ここ最近のイギリスの人口増の主な原因は移民なので、移民は増やしたくない、という意見の人がでてきたわけです。
 息子のデルモイド嚢腫の症状をチャットボットが判断できるかどうかと行ったったら答えはノーです。私は最初虫刺されだと思っていたので、素人判断の症状をそのまま打ち込んでいたら、家庭医の予約をとれといわれた可能性が高いでしょう。家庭医も大変な混雑なので、予約がとれるのは2、3週間後です。チャットボットが返答していたら失明していたか死んでいたでしょう。しかし、緊急電話をきられるよりは、ボットの返信があったほうがマシです。
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