アソボウズ臨床版

野球なんていう球転がしゲームに,スコアラーがいて,実際にゲームで収集した情報をそのゲームにも将来のゲームにも生かす仕事をしている.もっと極端な例では,”アソボウズ”なんて趣味でやっていたのが,プロの球団から引き合いが来る堂々たるビジネスになっちゃいましたよね.

ならば,もっと情報が大切な命のやりとりの現場に,なぜスコアラーがいないのか?我々,もちろんプレーしながら考えているわけですが,ネット裏から全体を見渡して把握した情報をリアルタイムで流し,同時に毎試合のデータを蓄積して解析していく仕事をする人も絶対に必要だと思いませんか?

ではアソボウズ臨床版はどうやって仕事をするのか?先日,私が突き当たった症例を例にとって考えてみましょう.クリーニング屋一筋40年の女性が,抑鬱的な精神症状+痴呆(?)で入院してきました.検査成績で汎血球減少もある.クリーニング屋一筋40年て,ハンパな職業歴じゃない.有機溶剤への慢性暴露もハンパじゃないだろう.脳味噌,骨髄はいずれも有機溶剤でやられやすい臓器だ.当然,現在の症状と有機溶剤への慢性暴露の関係を考えなきゃならない.

でもクリーニング屋の使っている有機溶剤の成分て一体なんだ?それが脳にどんな影響を与えて,どんな症状を出すんだ?骨髄への影響は?こちとら,学生の時公衆衛生でベンゼンと白血病って知識しかないんだぜ.肝臓への影響はどうなんだい?その有機溶剤で肝障害が起こって肝硬変から脾機能亢進症になって汎血球減少を起こしていたっていいじゃないか?

有機溶剤の種類がわかったとしても,慢性中毒かどうかをどうやって調べればいいんだい?試料は尿?血液?それとも,水銀みたいに髪の毛?肝生検??

一方,職場の環境はどうやって調べるの?関連法規は何?その法規でクリーニング屋の設備はどのように帰省されているの?管轄の役所は?保健所?クリーニング屋の従業員は定期健康診断を強制されるの?もしそうだとしたら,そのデータはどこで手にはいるの?

これだけの疑問の回答を得るためには膨大な労力と時間が必要なわけです.ネットの上をさんざん探しまくって,あちこちにメールやファクス,電話で問い合わせ.本気でやったら本来の診療なんかそっちのけになっちゃう.

どんなにコンビニが発達しても,糖尿病食や高血圧食といった治療食までは手に入らないのと同じことです.多くの場合,(入院でなく)在宅の人は治療食を自分で作るのですが,作れない人や,普通は作れるが忙しくて作れない時もあるわけです.そういう時に治療食を宅配してくれる会社がある.だったら,特殊な臨床情報を調べて提供してくれる会社があってもいいんじゃないかと思うのです.

臨床の現場で上記のような疑問を持った時,この会社に連絡します.会社の方では,MEDLINEで文献検索と抄録の和訳,診断に必要な検査項目の割り出し,ドライクリーニングの溶剤の成分調査,慢性有機溶剤中毒の臨床に詳しい公衆衛生学関連の学者の連絡先,関連行政法規のチェック,管轄保健所の住所と電話番号などを調べあげ,翌日までに私にメールで返事をくれる.そんな会社があればとても助かるのです.

情報源の9割以上はオンライン,ウエブ上の検索と電話での問い合わせで済むはずですから,場所や資本は要りません.SOHOでいい.料金設定が難しいかもしれませんが,コンピューターやLANシステムの保守管理なんて技術とノウハウだけを売り物にする商売が成り立っているのですから,それほど難しく考えることはないでしょう.料金なんて落ち着くところに落ち着きます.

こういうサービスがあれば我々の仕事の能率はすばらしく向上するはずなんですね.我々は現場での肉体労働,患者さん自身の診療に集中できますから,事故も少なくなる.日本の臨床のレベルアップに大きく貢献し,多くの患者さんを救う素晴らしい仕事です.誰か,そんなベンチャー会社を作ってくれませんか.

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