内科専門医会メーリングリスト(ML2)からの話題―もう一つの“You are not alone”―

 ワシントンマニュアルのキャッチコピーの一つに“You are not alone”という文句がある.このキャッチコピーからもわかるように,しばしば医者は孤独な商売である.ましてやあなたが誇り高き内科専門医となればなおさらである,回りの医者は,“おまえがわからなければ自分にわかるわけがない.内科専門医とやらのお手並み拝見”,という顔をしている.今まではその孤独に耐えて,日々地味な研鑽を積まなくてはならなかった.

しかし,今や違う.昔風に言えば鉄人28号の金田正太郎君のように,今風に言えばポケモンマスターのように,ここ一番で使える道具がある.それが内科専門医メーリングリストML2である.内科専門医取得の意義は何かとの質問が繰り返された.これからも繰り返されるだろう.しかし,それに対する答えの一つを我々は用意できた.それがML2である.
誇大宣伝ではない.これまで私もネット上のいくつかの医者の集まりに参加したが,どれも満足のいくものではなかった.はっきり言ってレベルが低くて,得る物が何もなかった.ところがML2は違う.日常の臨床で突き当たった難問に,誰かが必ず迅速に答えてくれる.

個々の症例の相談相手が見つかるばかりではない.何よりも議論が面白い.内科専門医の多くは,臨床をやっている.ただ,生活の糧として嫌々やっているのではない.どうせやるのなら,楽しみながらいい仕事をしたい.そういう人間の集まりだから,話題は非常に多彩である.各サブスペシャリティの症例相談はもちろん,医療倫理,医療経済,病院管理と,社会的にも重要な話題を巡っての議論は,医療ビッグバンの名著を瞬く間に仕上げてしまった内科専門医会ならではだろう.一方ネット上での共同研究の提案や遂行も,ML2での議論をきっかけに着々と行われている.最近の話題で活発な議論があったものを拾ってみると,

●心筋梗塞のジャパニーズパラドックス:最近,近藤 誠氏がメバロチンの使用に噛みついていることを発端として,白人で言われているコレステロール値と虚血性心疾患のリスクが日本人にあてはまるかどうかという問題に関して.
●今年の内科学会で内科専門医会主催で行われたCPCの議論が,学会終了後もML2上で活発に行われた.学会場で議論できなかった問題点を議論できるという利点はメーリングリストならではだろう.
●小淵前首相の脳梗塞の治療とメディアへの病状発表について:急性期脳梗塞の血栓溶解療法の適応と医師団のメディア対応,要人の病状の情報公開と守秘義務について.

 実は2000年1月まではML2のやりとりはひどく低調で,書き込みも1週間に一度あればいい方だった.インターネット委員の間でやりとりを活発にするためにはどうしたらいいかと真剣に議論したものだった.しかし,その直後から,どういうわけかトラフィックが急激に増加し,インターネット委員の心配など雲散霧消してしまった.やはり,仲間と一緒に問題を考えていくことの楽しさ,議論をすることの面白さが一旦わかったら,爆発的に広がるものなのだろう.
一人で悩むのは楽しくないし能率も悪い.自分の悩みや問題意識を仲間に理解してもらって議論ができるのは,仕事を進める上での必須の条件だ.しかし,この必須条件が満たされない状況が我々の日常では何と多いことか.もしあなたがそう感じていたらML2へどうぞ.(内科専門医会誌2000;12(3):428)

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