アルツハイマー病総説要約

Cummings JL.  Alzheimer's disease.N Engl J Med. 2004 ;351:56-67

疫学:有病率は60歳で1%、それから5歳年齢が上昇する毎に2倍となるから70歳で4%、80歳で16%となる。200年で、全米で450万人。2050年には1320万人と予想。

米国における診断:痴呆そのものの診断はDSMーIVが一般的。アルツハイマー病の診断は、(NINCDS-ADRDA:National Institute of Neurologic and Communicative Disorders and Stroke?Alzheimer's Disease and Related Disorders Association の診断基準を使っている。Probable ADの感度は0.65、特異度は0.75(池田注:これは、最も条件のよい場合の数字であろうから、実際の診療では、感度,特異度ともにこれより低下することは必至)。鑑別診断でいつも問題になるのは、血管性痴呆とレビー小体痴呆。またうつ病も除外の必要がある。画像検査は他疾患を除外するために重要であり、ADを積極的にrule inするために使う検査法ではない。また、頻度は少ないながらも全身疾患による二次性の痴呆を丹念に除外する必要もある。具体的には甲状腺機能低下症、VB12欠乏、梅毒といった疾患である。

治療
1。抗アミロイド療法:アミロイドワクチン療法は、6%に脳炎が出現して中止になった。ワクチン療法に替わるものとして、現在受動免疫療法が考えられている。また、βアミロイドを切り出してくるβあるいはγsecretaseの阻害薬も盛んに研究されている.

βアミロイドの生成過程にはコレステロール代謝が深く関わっていて,スタチンがβアミロイドの蓄積を抑制するので,スタチンも痴呆の治療薬となりうる可能性が示唆されている.

神経保護:酸化ストレス,過酸化脂質,炎症,タウ蛋白リン酸化,興奮毒性といった様々な侵襲が神経細胞死に関与しているとされてきたが,いずれもヒトの脳で,神経細胞死に関与しているという直接の証拠はない.ただし,抗酸化ストレス療法として,ビタミンE,セレギリン,あるいはその併用がアルツハイマー病の進行を遅らせるという報告が97年のNEJMに出てから,米国では,高用量のビタミンEがアルツハイマー病に対して処方されるようになった(池田注しかし,一方で,ビタミンEは心臓血管死を減らすどころかむしろ増やす可能性がある Lancet 361;2003:2017-2023 )

メマンチン:FDAによって中等度から高度のアルツハイマー病にたいして承認されたNMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬.効果を発揮する機序としては,海馬神経細胞の興奮毒性抑制か,あるいはシナプス伝達の改善が想定されている.臨床試験では,日常生活動作(Activities of Daily Living Inventory)とSevere Impairment Battery(重症の痴呆用スケール)では有効性が示されたが,Global Deterioration Scaleでは対照薬と差がなかった.メマンチンの効果はドネペジルの上乗せでも示されている.

アルツハイマー病脳では神経病理学的に炎症性変化も見られることから,プレドニン,非ステロイド系消炎剤,COX-2阻害剤が臨床試験で試されたが,いずれも有効性を示すことができなかった.

疫学研究で,ホルモン補充療法を受けた群ではアルツハイマー病の頻度が低かったという結果を受けて,介入試験が行われたが,有効性は示せなかった.それどころか,Women's Health Initiative研究では,estrogen+medroxyprogesterone acetate治療群では痴呆のリスクが増加するとの結果が出た.

コリンエステラーゼ阻害薬:現在使われているのは,donepezil, rivastigmine, galantamineの3種類である.認知機能の指標であるADAS-Cogと全般的機能を見るCIBIC-Plusの二つを有効性指標にすると,この3種類はどれも似たようなものである.副作用は,悪心嘔吐,下痢,体重減少といった消化器症状,徐脈,失神といった循環器症状の他,全身倦怠感,筋痙攣,悪夢,不眠といった症状がある.副作用は服薬開始当初に頻度が高く,経過を経るに従って頻度は低くなる.副作用による服薬中止率は低い.漸増法により,食事と一緒に服用することによって副作用の頻度は減らせる.薬物相互作用は通常大きな問題にはならない.
コリンエステラーゼ阻害薬をいつまで続ければいいのかはわかっていない.ほとんどの臨床試験の観察期間は半年だが,一部,1年から2-3年継続した試験でも,コリンエステラーゼ阻害薬の有効性が示されている.3種類のコリンエステラーゼ阻害薬のうち,どれが優れているかはわかっていない.あるコリンエステラーゼ阻害薬から別のものへの変更の理由は副作用,家族の好み,効果の減弱など様々であり,合理的な変更戦略があるわけではない.コリンエステラーゼ阻害薬の併用療法の検討はなく,勧められない.一方,ビタミンEとメマンチンの併用はよく行われる.