死因の「お国柄」
-----------------------------------------------------------------------------
英国イングランドとウェールズで認知症が死亡の主因となった Biotoday 2016-11-16
英国イングランドとウェールズのアルツハイマー病やその他の認知症による死亡率は2010年以降上昇しており、2015年の認知症による死亡は全死亡数53万人の11.6%(61,686人)を占め、認知症が最も多い死因となりました。認知症とは対照的に、認知症に次いで多い他の4つの死因・虚血性心疾患、脳血管疾患、慢性下気道疾患、肺癌による死亡率は過去15年間にすべて低下しています。
New figures show dementia is leading cause of death in England and Wales / Alzheimer's Research UK
Deaths registered in England and Wales (Series DR): 2015. Office of National Statistics. 14 November 2016
-----------------------------------------------------------------------------
死亡診断書に「老衰」って,やっぱり書きにくいんじゃないだろうか?「お上」から(^^;),「これからは”認知症”って書きましょう」って「お達し」が出ると,一斉にそうなっちゃうだろうな.

日本では老衰(ICD-10ではR54.以下同様)が死因の第5位に入っているが(2015年厚労省統計),これがイングランド・ウェールズでは認知症に分類されているのだろうと推測されるが,それにしても心疾患を抜いて一位とは.なお,米国ではアルツハイマー病が6位になっている(2015年のCDCの死因統計).

イングランド・ウェールズでは日本や米国のように悪性新生物でひとまとめにせずに,部位別に出している(肺癌が6位に入っている)
アルツハイマー病はICD-10ではF00(アルツハイマー病の症状としての認知症?)とG30(疾患としての認知症?)の両方に出てくることを今回調べて初めて知った.

イングランド・ウェールズでも,日本でも脳血管障害による死亡は女性の方が多い.これも知らなかった.藤島による内科学会宿題報告(1996年)によれば,少なくとも90年代半ばまでは男性の方が多かった.(すでにこの時点では男性に多かった脳出血は激減している.病類別にみた心疾患−脳血管疾患死亡の年次推移)ではいつから,なぜ女性の方が多くなったのか??

そのヒントが,粗死亡率の年齢調整死亡率に対する比率である.脳血管障害における粗死亡率の年齢調整死亡率に対する比率は,1960年には男性0.5:女性0.62であったのに対し,2010年には男性1.67:女性2.97となっている.

脳血管障害も加齢によってリスクが増大する→女性の方が高齢者比率が高い→脳血管障害での死亡者数も男性に比べて多くなりやすい.このような人口全体に対する加齢の影響は,男性の方が脳血管障害のリスクが高いという個体に対する影響を上回る.(*)

*人口全体の高齢化の影響は,脳血管障害のリスクの影響をはるかに上回る.人口全体の高齢化は個人や組織,地域の介入・行動変容の影響を受けずにどんどん進む.一方,喫煙のような脳血管障害のリスクは,個人・組織・地域の介入・行動変容の影響をもろに受けて,少なくとも日本では次第に減少の方向に進む.

下記は余談
『米国人の死因、第3位は「医療ミス」か』の元論文をチェック
(2016/11/19)

→ これも診断バイアス (2017/5/30 追記)

二条河原へ戻る