佐賀医大4年 吉広優子さんのレポート
7/29−8/2までの5日間三瀬診療所で実習をさせていだいた。4年の夏休みで無理にお願いして実習をさせていただいたのは、白浜先生の講義で感銘を受けたから、地域医療に興味があったから、そして最近テストが続き教科書ばかりに目がいってmotivationがなくなりかけていて医療の現場を体験する必要性を自分が感じていたことなどがある。たった5日間ではあったが地域医療というものを凝縮した5日間であった。
実際お世話になる前に診療所は慢性疾患が多いだろうとは予想していたが、予想を上回る多くの慢性疾患の患者さんが毎日毎日先生のもとへやってきた。そうした中で印象的だったのは先生の“何か変わったことはありませんか”で始まる診察だった。今まで自分が実際診察を受けたり病院で診察を見学したときの始まりの言葉は“今日はどうされました?”だった。しかし三瀬診療所では定期的に薬をもらいにきて血圧を測り心音を聞く。こうした医療スタイルだからこそ“何か変わったことはありませんか”で始めることができるのだ。症状が出る前に未然に予防する、こうしたことを患者さんの意識に植え付けることは簡単なことではない。根気強い患者さんとの意見交換によってこうした予防医学が実践されるのだなあと思いながら先生の始まりの言葉を聞いていた。今からは過疎地のみならず全国で高齢化が進む。そうした状況でもちろん本人のためにもそして医療費をあげないためにも予防医学の重要性は言うまでもない。そのことを念頭に置いた診療所がもっと増えれば時間的、精神的にゆとりを持って患者と向き合える診察・予防医学を実践できることだろう。
実習3日目、後少しでお昼の休憩と気が緩んでいたときのことだった。先生から連絡が入り患者さんが来るとのこと。聴診器を手に診察室に行くと患者さんが腹部の痛みで脂汗を浮かべていた。そして血圧は低下しみるみるうちに状態が悪化していった。患者さんは苦痛で先生の問い掛けにもあまり答えない、そんな中先生はおっしゃった。“苦しいのはわかるけど言ってもらわないとわかりませんよ!わかるのはあなただけなんだから”正直なところその時は、患者さんは苦しいんだからしょうがないのでは、と思った。しかし後で先生が“冷たいように見えたかもしれないが患者さんを助けるためだから”とおっしゃって、まったく自分に医療者としての心構えがないことに気づかされた。患者さんに同情するだけじゃいけない、患者さんのために時には厳しく接することが必要なのだ。そしてパニックになりそうな中で冷静に自分ができることを見分け、そしてどこから専門医に任せるのかを瞬時に判断する能力もまた不可欠である。ほのぼのとした診療所に緊張が張り詰めた1時間であった。
そして一番心に残っていることといえば在宅死を選択された末期ガンの患者さんである。往診で初めてお会いして、こんなに苦しそうで孤独なんて入院したほうがいいと思わざるを得なかった。しかしそのかたは家のほうが落ち着くからと弱々しい声ではあったが頑として譲ることはなかった。先生や看護師さんはそのかたの意志を突き通すお手伝いをされて、決して何かを無理強いすることはなかった。自分の価値判断を患者さんに押し付けることがいかに患者さんの権利を侵害することかを理解すること、その一方で医療者として最大限の情報をお伝えすること、この二つの両立こそが患者主体の医療を実現させていくのであろう。しかしながら初めて在宅死の現場を目にした私には、家で刻一刻と死を迎える姿は“自然”にはみえなかった。今まで私が見てきた死はいつも病院の中での“特別”な“日常から離れた”出来事だったからだ。だが住みなれた家でいつもの布団の上で横になっている患者さんを見て思った。病院でたくさんのチューブにつながれ身動きをとることもできずなんの思い出もない病室を眺めながら旅立つことと、こうして苦しいかもしれないが痛い思いをすることもなく思い出の詰まった家で昔を回顧しながら最期を迎えることはどれだけquality
of death が違うだろうかと。いつか読んだ本に書いてあった。“その人の価値は最期で決まる。いかに偉業を成し遂げても最期が悪ければそれはなかったことになる。”
医師はさまざまな役を演じなければならない。患者さんを気遣う“家族”、世間話をする“友達”、患者さんの深刻な悩みに対して相談に乗る“カウンセラー”、そして患者さんの健康の管理をする“医療のエキスパート”。今その人は医師に何を求めているのかを察知して、適当な対応をする。そして実習中に強く感じたことは、こうした患者と医師の関係には看護師の存在が欠かせないということだ。毎度毎度看護師のすばやい対応、細やかな心遣いに驚きを隠せなかった。看護師は医師と患者の間をつなぐ橋のような存在だと思った。彼らがいなければ患者さんと真の意味で分かり合えないかもしれない。もっと看護師が医師と対等の立場で意見を言えるチーム医療を実践できたら日本の医療はよりよい方向転換をすることができるだろう。
最後にお忙しい中熱心に指導をしてくださった白浜先生をはじめ、看護師のかたがた、三瀬診療所の皆さん、ほんとうにありがとうございました。
学生実習の感想に戻る