三瀬診療所での研修をおえて 2006年1月31日 山元 芙美
三箇日が明けた一月四日から一ヶ月、佐賀市に統合された三瀬村の診療所で地域医療に携わった。前任の研修医からある程度の情報は伝え聞いていたが、同じ九州とは思えないほどの積雪があり、北国に来たのではないかと錯覚するほどであった。しかし最初の週こそ降雪のため、スタッドレスタイヤもチェーンもない無防備なマイカーで命の危機を感じたものの、以降は気温も上昇し、比較的通勤しやすい状況ではあった。また診療所は床暖房が設備されているため診察室はもちろん待合室もすごしやすい室温に保たれ、聴診や心電図の際も衣類の着脱をお願いしやすい環境だった。とはいえ、高齢者中心の来院者は防寒として4枚5枚6枚と厚着をされており、外の寒気を感じさせられた。床暖房が備わっていると聞いた当初は、「そんな贅沢な!」と思ったが、この1ヶ月で、身にしみてその必要性を実感することができた。
毎週火曜日の午後は白浜先生が大学へ講義に行かれるため、研修医が代医を務めることとなっている。救急部や総合診療部をローテートしていない私は外来診療の経験がなく、ドキドキとやや頻脈気味のココロを隠しつつのデビュー戦であった。看護士の糸山さんを遠慮なく頼り、なんとか診療を終えることができた。入院と違い、診療が終われば家に帰っての療養となる外来診療では、短時間で情報を収集し危険信号を見落とさないようにしなければならない。普段は感染症など、慢性疾患で定期的にかかってある方以外は私がまず予診をとり、治療方針まで考え、白浜先生にプレゼンテーションを行うという方針をとっていた。プレゼンの途中で質問を受け、「もう一度きいてきます。」といって診察室に逆戻りすることも最初は多々であったが、徐々にその回数を減らしていくことができた。診療所に常備している薬剤も種類は限られてはいるが、血液検査・レントゲン検査・腹部エコー検査は行うことができるため、その範囲内で適宜検査を行い、治療を行った。より高度な医療や検査が必要な場合は、各施設に紹介状を作成、依頼することで、連携した医療体制を維持していた。
毎週火曜日の午前中は近くの介護老人福祉施設でのデイケアを見学したり、訪問看護に付き添ったりした。また水曜日の午後は1〜2件の往診を行い、これらから在宅医療に携わることもできた。三瀬村ではほとんどの高齢者は家族と同居しているが、独居の高齢者の場合は、デイケアや訪問ヘルパーなどをうまく組み合わせることで、必ず1日1回は医療者もしくは介護者が目を配ることのできるようになっていた。家族が介護を行っている寝たきりの方の場合では、家族も診療所にかかっていることが多く、自分の診察にきたついでに被介護者の相談もしていくといった具合で、普段から診療所が生活に密着してかかわっていた。月に一回行われる高齢者サービス調整会議では行政、介護者、診療所が一体となって高齢者の支援を考えており、小さな村ならではの垣根をこえた介護が非常に印象的であった。
前述したように、感染症はまずわたしが予診をとり治療方針をたてさせてもらっていたが、季節柄やはり風邪やインフルエンザが多かった。小児科を研修していたときは、小児もやはり感染症が多いため季節を感じさせるものがあったが、全般的に大学病院の研修では風邪やインフルエンザを見ることはなかった。しかし子供から高齢者まで発熱や嘔吐で来院し、インフルエンザ検査を行い、また自らインフルエンザに罹患し肌で季節の感染症を感じた。高齢者では風邪による発熱でも全身倦怠感が強く、またせん妄状態となりやすい。高熱を有する場合は積極的にインフルエンザを疑って検査を行い、水分摂取が困難となっている場合には通院にて輸液を行うようにした。1週間もすればインフルエンザはすっきりよくなるため、次の定期受診の際には元気な姿で現れる方が多く、ほっとしたものであった。
高齢者が多いが、ほとんどみんな自力歩行で通院されているため、90歳台の方も数人出会ったが、びっくりするほどかくしゃくとしてあった。おそらく若い頃から畑仕事で鍛えられたからだが基本にあるからだろう。診療所と併設されているスマイルセンターの多目的ホールで時々老人クラブの集会が開催されているが、ちょうど診療所で時間が空いたときにお邪魔する機会があった。休憩時間であったので、私もクラブのみなさんと一緒にお饅頭と干し柿をいただき、後半の部に参加させてもらった。「森光子」と言われると、彼女が1日70回行っているというスクワットを、「北島康介」といわれると自由形の水かきを、という風にさまざまな健康体操を行った。途中では白浜先生からインフルエンザや風邪がはやってきているため日ごろからのうがいのすすめなどのミニレクチャーもあった。終わった後もおしゃべりに花が咲き、元気な高齢者は元気な高齢者によって作られるのではないか、と思った。
この一ヶ月を通して、医師として医療面接の重要性、また会話の必要性を再認識した。おしゃべりは上手に越したことはないが、より求められるのは聞き上手であろう。話すだけで不定愁訴が軽くなって帰られる方もいるし、会話の途中で自覚していない症状を話してくれる方もいる。ポイントをしぼった問診がまだつかめていない私には、そのような会話の中でのヒントをいかに逃さず捕まえることができるかが、大事であった。そして次々と来院される患者さんをみんな診察するために、おしゃべりを途中でうまく切り上げるという勇気も必要であった。医療とは、医療者と病気ではなく、医療者と患者つまりヒトとヒトとの関係であることを忘れずに、今後も医道に邁進していきたい。
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