悪い知らせを伝えること(佐賀医大内科総合モーニングカンファレンス2000.7.6.資料)  
三瀬村国民健康保険診療所 白浜雅司


悪い知らせを伝えること(告知)のメリット
(ガン末期医療に関するケアマニュアル(日本医師会1989))
1) 患者が自らの状況を認識し、精神的に安定することが期待できる
2) その後の治療方針について患者自らの意思を表明し、医療者に伝えることが可能になる
3)告知により、医師と患者、家族と患者の意志疎通が図られ、信頼関係を保ちやすく、意思統一もしやすい。
4) 患者が自ら必要と判断することに残された時間をあてることができる
5) 告知しないために生じる財産処分等の法的なトラブルを未然に避けることができる


告知のデメリット
1)生きる希望を失う
2)強いショックを受けて精神的に不安定になる
3)治療を拒否するようになる


末期状態を告げる際に考慮すべきこと(ガン末期医療に関するケアマニュアル(日本医師会1989))
1) 告知の目的がはっきりしていること
2) 患者・家族に受容能力があること
3) 医師及びその他の医療従事者と患者・家族との関係が良いこと(かかりつけ医の利用)
4) 告知後の患者の精神的ケア、支援ができること


家族の反対などの時に考えておくべきこと(JIM 9(1) p23武田文和論文などより)
1) 告げて大丈夫かと同時に、告げなくても大丈夫かと考えるべき
2) がん情報が溢れ、教育水準も高い国に住む人々を欺き続けられると思うのは医者のおごり
3) 「知りたい」と「知りたくない」との間を揺れ動く患者の心に留意し、本人に「悪いものであってもあなたに直接説明してよいですか。それとも誰かあなたが信頼する方に伝えた方がいいでしょうか。」と尋ねること。知りたくない人(20%はいる?)の権利も尊重する。
4) 一番避けたい患者だけが何も知らずに、家族や医療者との間にコミュニケーションの壁ができてしまい、一番大切な精神的サポートができないまま、患者が孤独感におちいること


精神的アプローチ(淀川キリスト病院ターミナルケアマニュアル、柏木哲夫1991)
1)  ベッドサイドに座りこむ
2)  傾聴し、感情に焦点をあてる
会話には内容と感情の2面性があり、感情に焦点を当てることが患者との信頼関係を増すことが知られている。「つらいですね。」「苦しいですね。」というような言葉を情を込めてかけられるかが一つの鍵になる
3) 安易な励ましをさける
安易な励ましや、非現実的なことを保証することは、コミュニケーションを断絶することになりかねない。
また、悪くなった時に一層患者を孤独にする。患者はもっと弱音を聞いてほしいと思っていることが多い。
4) 理解的態度で接する
患者の言葉を医療者側がこのような理解で正しいだろうかと問い返すことで、コミュニケーションが続く。
5) 共に闘うことを知らせる
「どうもこれは長期戦のようですね」「手強い相手」
すぐ勝負がつくものではない。また良くなることもあるという希望。こちらも一緒に闘うという意思表示。
6) 病状の変化に対する布石をする
突然症状が出て不安になるより、予想される症状に対する布石をしておくことが患者の不安をやわらげる。
7) 質問の機会を与える
「いま何か質問や注文はありませんか」「他に何か言っておくことはありませんか」などと聞き出す。
8) 希望を与える
患者の希望を奪う権利は誰にもない、またすべてを医師が予測できるわけでもない。でも安易な励ましは2)で述べたように避けたい。「治るといいですね」という言葉が情を込めて言えると効果的かも知れない。
9) 非言語的コミュニケーションをはかる
毎日最初と最後に顔を出すこと。明るく笑顔で接すること。何かをすることでなく、そこに存在することも大切。(not doing、but being)


悪い知らせを伝える(breaking bad news)ための6つのステップ
Buckman著「How to break bad news」(邦訳「真実を伝える」診断と治療社)
1) まず環境を整える
・ プライバシーが保てるような部屋で、できるだけ座って
・ 「調子はいかがですか」「今、お話をするのは差しつかえありませんか」
などで患者の体調にも気を配り、できるだけ体調のいい時を選ぶ
2) 患者がどこまで知っているのかを理解する
・ 病気や病状、予後について患者がどの程度知っており、また考えているかを知る
(1) 患者の医学的知識の確認、患者の理解と現実の差(まだ受け入れられない段階の否認によるもありうる)
(2) 患者の話し方に注意をはらう(まず聴くこと)
(3) 感情内容(非言語的な表現にも注意を)
・ 「ご病気をどのように思っておられますか」
・ 「....(自覚症状)をどのようにお考えですか」
・ 「前の医師はご病気をどのように言っていましたか」
・ 「もしかしたら病気は悪いものではないかと考えたことはおありですか」
3) 患者がどこまで知りたいかを理解する
・ 「仮に病状が思わしくなかった場合、あなたはどのようなことが、起こっているのかを、正確に知りたい方ですか」
・ 「診断について詳しくお話した方がいいですか、それとも今後の方針についてお話した方がよいですか」
・ 「病状が思わしくない場合、直接あなたに話した方がよいですか、それとも誰か別の方に話した方がよいですか」
4) 情報を共有する(診断、治療方針、予後、援助について)Informed Sharing Consent
(1) 情報を小さくまとめて提供する。小出しにする。サンドイッチする。うず巻き状に。
(2) 相手が理解しているかどうかを確かめる
(3) 自分のコミュニケーションレベルを意識(一方的に話していないか)
(4) 患者の心配事に耳を傾ける(医師だけで解決できないことは他の方に)
(5) 患者と自分の話を調和させる。
5) 患者の感情に応答する
・ 患者はその人独自の方法で反応する(怒り、おどし、否認、泣くこと、希望etc)
・ 患者の反応の評価:(1)社会的な許容性(social acceptability)、(2)適応性(adaptability)(3)解決性(fixability)
・ もし患者が泣き出したらティッシュかハンカチを差し出しなさい。
・ 対立した時の対応:(1)一歩下がる。(2)感情で反応せず、言葉で述べる。(3)対立する領域を明確にする。(4)真実から離れ過ぎないようにする。
6) 話し合いを要約し、今後の予定について話し合う
付) 他の人の反応(家族や友人、医療従事者それぞれが感情を持つ、それらが患者を支える方向で協力できるように努める)


真実を伝えた後の対応
(淀川キリスト病院ターミナルケアマニュアル、柏木哲夫1991)より
1) どのように伝わったかを確認する
2) 直後の落ち込みを受け止める
3) 最善を尽くすことを伝える
4) 希望を与える
5) 安易な励ましをさける
6) コミュニケーションを持続させる
7) チームによって支える


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