佐賀市立国民健康保険三瀬診療所研修の感想
宮城県公立黒川病院内科 卒後4年目 上田 亜紀
これまで私は、病院ベースでの研修を受けてきた。初期研修は250床規模の病院で行い、3年目から現在勤務する100床規模の地域病院に移った。少ない経験年数の中で、人並み以上に問題はあったが、今、恵まれた環境で、日々仕事できることに感謝している。
今回三瀬村へ伺おうと思い立ったのは、自分が志した地域医療に対するモチベーションが、日々低下してゆくのを感じ始めたからだ。診療上の緊張はもちろんだが、病院自体が民営化されて日が浅く、過渡期にあることによるストレスも多かった。自分のプライベートに関する心配もあった。毎日は忙しく瞬く間に過ぎてゆくが、自分は、医師として患者さんの要望に応えられているのかわからない。時に患者の訴えや状態が、後から後から私を追いかけて来るような気持ちになる。もっと勉強しなければ、と募る焦りが、次第に地域医療という分野で自分はやっていけるだろうか、という大きな不安に変わっていった。しかし、自分がプライマリのセッティングが好きだということはどこかでわかっていて、終いには、すっぱり諦めることもできずグジグジした心境に陥っていた。
以下、研修の感想として、特に印象的だった出来事を二つ挙げたいと思う。
一つ目は、発熱を主訴に受診した20代男性の診療中に起こった出来事。蜂窩織炎による発熱であろうことは、足の腫れから予測がついた。彼は、診療にあたっていた佐賀大の研修医と私に向かって、「ストレスのせいでこうなるんですか?」と聞いた。その時腫脹部位を観察していた私は、(いやいや、ストレスで蜂窩織炎にはならないし)と心の中で突っ込みながら、軽い感じで「あ〜ストレスがあるんですか〜」と返した。彼は、真剣な面持ちで「はい」と言った。医者である私には、病原が細菌感染であることはわかっている。でも彼は、ストレスがこの熱と足の腫れを引き起こしたのではないかと心から心配しているのだ。そこを白浜先生は見逃さなかった。私は、すぐに自分が示した反応の誤りに気付いたが、後の祭り。些細なことだが、こんな過ちを、日々の外来で一体何度冒してしまっているのだろうと思うと、ぞっとする。三瀬村で、この気付きがあったことは、自分にとって大きな収穫だった。
二つ目は、臨床倫理の考え方に触れる機会を初めて持てたこと。実地医家の会主催の臨床倫理検討会ビデオを見て、その後佐賀大学で医学生対象の臨床倫理検討会に参加させて頂いた。その中で、自分がまだ経験したことのないような大きな倫理的問題を孕んだケースの提示を受け、深く考えさせられた。人工呼吸器をつけなければ死ぬとわかっているALS患者(20代女性)が呼吸器装着を拒否する意志を表明し、在宅で最期を迎えた症例。口から食べることを強く望んだ強皮症患者(50代女性)が、遂に嚥下困難な状態に陥り、経口摂取を続けるのか否か、選択すべき時を迎えた症例。医療現場は常に矛盾を内包し、それゆえ医療者の中に葛藤が生まれる。何が一番いい、という正解はないが、倫理的問題解決のための方策を知ると知らないのとでは、だいぶ対応が違ってくると思う。この方策の手がかりになる四分割表を知り得たことが、今後の私の糧になってくれるだろう。実地医家の会のような臨床倫理検討会には、これから機会をみてぜひ参加したいと思った。
三瀬村での研修を終え、黒川病院での日常に戻った。3年目の頃から診せてもらっている患者さんとのおつき合いが、ちょうど1年を迎えた。患者さんの方は何とも思っていないけれど、私にとっては感慨深い夏の終わり。心の内で、地域医療への志にまた灯がともる。
研修中、私のグダグダ話を聞いて下さった白浜先生に心から感謝申し上げます。
そして診療所の皆様、白浜先生の御家族の皆様、お世話になりました。
本当にありがとうございました。