日常の外来は穏やかに過ぎていくが、時々緊急を訴える連絡が飛び込んでくる。
1例目は80代女性、自宅でぐったりして反応がないと家族から診療所が閉まる直前に連絡がはいった。急いで自宅に駆けつけると全身蒼白で呼びかけに反応しない。呼吸・脈はしっかりしているものの血圧は60〜70台とショック状態であるため診療所では対応できないと判断し救急車を要請した。その間点滴ラインを確保したがその痛みのためか初めて意識が回復し呼びかけにも応えるようになった。そのまま病院に搬送となったが、この方は認知症がありまた部屋はクーラーもつけず非常に蒸し暑い状態(8月!)であり、おそらく熱中症を起こしたと考えられた。幸い後日無事に退院されたと連絡があった。このようにほとんど設備も人手もないとき、何ができるか・どこまでできるかを考えさせられた。
2例目は50代男性、以前からアルコールを飲酒していたが、自宅で割れたコップで上腕を切った。様子をみていたが血が止まらずまた本人は受診拒否をしていると、朝早く家族より連絡があった。このときもとりあえず往診かばんを持って(輸液セットも準備)自宅を訪問した。本人寝転がっていたが酩酊状態、会話は可能であったが創の状態については痛みも感じなかったためか自覚がなく、診療所・病院受診は断固拒否された。床や布団に血痕が付着していたが出血は滲んでくる程度であった。環境も決してよくないため再三診療所または病院受診するよう説明するも受け入れなかったため、その場(自宅)で創の処置をすることとなった(これに関して抵抗はなかった)。創は約5cm、筋まで達する切創だったが幸い筋の損傷はなく、洗浄と一部を縫合して終了した。その後は酒をやめるよう説明するもすぐには禁酒できなかった。3日後一旦飲酒を中止するも再飲酒。このときこの方は酒をやめられないだろうと半ばあきらめの気持ちで私は考えていた。しかし、その後すっかり酒をやめることができ、創の経過も非常に良好である。
この症例で考えたことは飲酒の上、受診を拒否している患者に対しどこまで診療所は介入するべきか、ということだった。この点に関して今回白浜先生の医療倫理講義で聴講した4分割法で問題点を下表のように考えてみた。
| 医学的適応:Medical Indication
・上腕部切創(脂肪組織まで切れており止血も不十分) ・創の処置も清潔操作・洗浄等の処置が必要 ・アルコール多飲しており低栄養、肝機能障害、易感染性が考えられる ・この状態で感染した場合、上肢切断や敗血症などで致命的となる可能性もある ・以上から入院の適応があると考える |
患者の意向(選考):Patient Preferences
・病院・診療所受診拒否 ・救急車要請も拒否 ・「かまわないでくれ」と自宅での治療にも決して協力的ではない ・しかし、治療に抵抗しない ・「悪い血だから流れたほうが良い」など判断能力の低下も考えられる ・上肢切断・死亡について説明するも理解できない様子 |
| QOL:Quality of Life
・上肢の機能障害は認められない(受傷時) ・入院により禁酒・禁煙が必要となる ・酒を飲んでいないときは仕事をしている ・上肢に障害が残ると仕事を行うことが困難 ・経済的には困窮している |
周囲の状況:Contexual Features
・母親・弟は受診・入院させたいが本人が断固として拒否しており説得できない ・母親が状態を理解できているかは不明 ・経済的に医療費を支払うことができない ・保護等の処置は役場ではできない |