診療所実習で学んだこと
佐賀医大6年 高木恵美
1 実習に臨む前に
白浜先生の実習を選択したのは、とにかく大学病院しか知らないままではいけない、と思ったことからだった。4年生のときの講義で大学の社会学の先生が、モ君たちは5年の実習で自分の将来を決めようと思っているみたいだが、それは間違っている。大学病院と市中病院はまったく違う。モとおっしゃっていたのが頭にずっとひっかかっていて、実際実習を終えたところで、自分のやりたい医療の形が全く頭の中にできあがってこなかった。三瀬診療所で実習させていただくことで、地域に根付いた医療とは大学の最先端の医療と何が違うのか、プライマリ・ケア医とは具体的にどんな医療を行っているのか、実際体験し、白浜先生を穴のあくほど観察してこようという意気込みで臨んだ。
2 白浜先生と患者さん
白浜先生の外来では、先生と患者さんの関係を勉強することができた。カルテがどんどん溜まってきて、先生が患者さんに変わったことはないか尋ね、薬を処方するところは大学病院と同じ。決定的に違ったのは患者さんだった。とても先生に親しげで心を開いている。先生に会うだけで安心するのか、あんまり暗い顔の方はいない。そして先生に今日は注射お願いします、とか、その薬はまだあるからそっちの薬だけください、とか、希望もきっちり言われる。先生も話をちゃんと聞いて、希望も聞き入れて、患者さんは満足そうに帰っていく。話をさえぎることもなくきっちり聞いているのに、そんなにだらだら長引くことはないなあ、と思ったが、毎回ちゃんと聞いてあげていれば積もる話もないのかもしれない。
大学での外来はスピード感に溢れていて、突っ立っている私は睡魔と闘っていたが、三瀬での外来は私に言わせるとなんだかほんわかムードで、先生が席をはずした間は、私も患者さんに、足腫れてませんかー?うん、よかごたですねえ、なんて話したりして、大学じゃこんなことできなかったけどなあ、としみじみ思った。患者さんのそういう心理的な状態を変えるのは、やはり医療者側の配慮であろうから、こういう医療とは関係なさそうなところが実は大事だったりするんだろうなあと感じた。三瀬診療所は当然予約制ではない。大学の予約外来にすっかり慣れていた私は、しばらくしてからこのことに気づいた。予約制だと、あー、あと何人、何時間くらいかな、なんてつい事務的になるような気がする。先生まだいる〜?なんて駆け込んでくる患者さんを見て、ああここは“病院”だ、なんて実感したりした。
3 医療と地域環境
今まで行政関係は苦手であんまり考えたことはなかったが、三瀬村では役場と病院、介護サービスの施設などが提携して村民の把握、対応に勤めており、医療とこうした働きのつながりについて勉強する機会をいただけた。小さな村だからできることなのかもしれないが、役場は村のお年よりの状況を把握しており、その人に合わせたサービスを積極的に勧めている。介護保険の導入で、自立・要支援のお年寄り枠ができてしまったが、そういう方も役場の補助で格安でサービスが受けられるようになっている。
白浜先生の往診にも同行させていただいて、在宅医療についても考えさせられたが、やはり在宅医療とはいえ一番必要なのは、ヘルパーさんや訪問看護婦さんの助けだと思う。患者さんには医者が必要だろうが、ご家族には周りの助けが必要である。
ヘルパーさんや支援センターの方とも同行させていただき、その熱心な働きとしっかりした仕事振りを目の当たりにすることができた。介護保険の開始で介護機関も増え、その働きについて耳にする機会も増えたが、実際に体験するのは初めてだった。ヘルパーさんがお年よりの家でどんな働きをしているのか、お年寄りにとってどんな存在なのか身を持って知ることができた。医者になってから、こういう体験をしているということはきっと役に立つと思う。またシルバーケアの支援センターでは、村のお年寄りでサービスを受けていないような方を定期的に訪れて、様子を把握するという働きをされており、小さい村ならではの、アットホームな介護を実感し、そのよさも感じた。
また三瀬村では月一回サービス調整会議が開かれており、行政と介護の法人機関と医療機関が村民の情報を報告し合い、今後の対応をみんなで決めていくという、非常に理想的な介護体制がひかれていた。全員が介護サービスを受けている村民についての情報に精通しており、会議もスムーズに進んでいた。理想的ではあるが、やはり大きな都市では難しいことだとは思う。都市ではもっと管理区域を細分化して行き届いた介護を行うのもいいのではないかと思う。
佐賀市内でも往診の勉強をさせていただいたが、中には家族があまり熱心に介護をしていない家庭もあり、周りの支援が乏しい地域では、環境によってはいくら希望があっても在宅医療を勧められない場合もありうると感じた。逆に家族が様々なサービスを利用して患者さんのために尽力している家庭もあったが、莫大なお金がかかっているという。医者は医療のことだけ考えていればいい、と多分今まではそういう意識があったが、医者も地域の体制やサービスの状況など色々知っておかなければならないと実感した。
4 たつじいさん
先生からお借りした桜井先生のプライマリケア医の実際をつづった本は読みやすく、先生と患者さんのほんわかした関係がよく分かった。お医者さんとはすごく優しくないといけないと思っていたのだが、桜井先生は無理して患者さんに合わせて優しくしているわけでなくすごく自然体なのに、患者さんに言いたいことを言わせてしまうという技術?に感心した。患者さんのわがままを最後までかなえてあげることは、医者の理想論ではあるけれど、実際は親族の問題などが絡んできて、医者も相当の精神力が必要だと思った。あらためてプライマリケア医の多能さを実感した。
5、実習で勉強したこと
今まで大学病院以外でも割と大きな病院しか経験していなかった私には、ほんとに目の覚めるような実習だった。いかに大学病院漬けされていたか実感した。病気をみる、ではなく患者さんをみる、ということを学んだように思う。今までは病気を治すということは、患者さんが症状を訴えなくなって、他覚的にも異常が認められなくなって、検査的にも正常範囲内に戻る、ということなんだといつの間にか思い込んでいたが、実際は少し違ったように思う。病気を治すということは患者さんを本人の満足のいく状態にしてあげようと努力することで、医者の納得がいくまで徹底的に病気をたたくことではないと思った。ただもちろん病気について正しい知識を患者さんに提供し、自分の状況をちゃんと知ってもらうことは大切だと思う。プライマリ・ケア医とは単にcommon diseaseに強い総合的医療能力を持った医者というだけでなく、患者さんとよい信頼関係を築くことができ、また患者さんの家族ともよい関係を保ちながら、地域とも提携して医療を行っていく必要があることを感じた。
今現在は具体的にプライマリ・ケア医をやりたい、という希望があるわけではないが、私がなりたかった医者像はそれに近いと思う。実際に患者に一番近い医者となるためには今までしてきた勉強以外に様々な勉強が必要だが、何が必要なのか分かったことだけでも今回の実習は有益であったと思う。実習の期間は短くて、プライマリ・ケア医としての技術を学ぶというようなことは到底できなかったが、今まで持っていなかった視点で医者の姿、患者との関係、医療のあり方を見れるようになったと思う。だんだん自分の将来やりたい医療の形が見えてきたことが私にとって何よりも有益であったと思う。
感謝
今回の実習では白浜先生をはじめ、たくさんのかたにお世話になりました。三瀬診療所の看護婦のお二人、患者さんのお迎えのバスに同乗させてくださった役場の職員の方、三瀬シルバーケアの職員の方々、福田内科の福田先生と看護婦さん、馬渡島診療所の大塚先生と看護婦の方々、そしてご協力していただいた患者さんたち、三瀬村の方々、本当にありがとうございました。快く迎え入れてくださって、ほんとうに楽しく、充実した実習ができました。感謝します。
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