実習レポート
山口大学医学部医学科3年 重山真莉子
実習期間;2004年10月18日(月)〜24日(日)

■目次
1;目的
2;実習記録
3;実習内容詳細及び感想
4;実習を通して学んだこと
5;終わりに

■1;目的
私の祖母は、在宅医療を7年間行い、自宅で亡くなりました。毎日の様に町の開業医の医師に往診に来て頂き、医療が地域の方々と密接に関わることの重要性を痛感いたしました。また、医療を身近に感じられることは、介護をする家族にとっても大きな心の支えとなりました。三瀬村において、地域の方々と密接に結びついた医療を実際に経験させていただく中で、高齢化社会が進むにつれて地域医療はどうあるべきかを、学んでいきたいと考えました。

■2;実習記録
10月18日:診療所での見学
10月19日:デイサービスセンター三瀬での介護実習
10月20日:診療所での見学
10月21日:診療所での見学、送迎バスに乗車、スマイルセンター内の老人クラブ活動参加
10月22日:診療所での見学、三瀬村内の会社の健康診断の見学
10月23日:診療所での見学
10月24日:ざっといかんばい三瀬林道マラソンに参加

■3;実習内容詳細及び感想
・診療所における見学
三瀬村診療所では、患者さんと白浜先生の医療面接や治療の様子など、診療所内で行われることを見学させて頂きました。また、血圧測定にも参加させて頂きました。今まで、血圧はもちろんのこと、聴診器にも触れたことがなかったため、患者さんには苦痛を伴う血圧測定だったと思います。しかし、どの患者さんも快く再測定も承諾してくださったおかげで、実習最終日にはスムーズに行えるようになりました。
先生の日々の医療面接の様子を見学させて頂いた事から多くのことを学びました。台風が直撃した翌日以降、患者さんに「台風はどうでしたか?お家はご無事でしたか?」など台風見舞いの会話から面接が始まるごくごく自然な会話の中に、地域と結びついた医療現場を垣間見ることもありました。日頃よりも血圧が高めになっていらした患者さんに、数日の生活の様子などを伺うと、最初思い当たる節は無いということで、私の測り間違えかと思いました。しかし、白浜先生が「台風の後片付けなど無理していらっしゃいませんか」と、おっしゃると、患者さんのセロリのハウスが台風で大きな被害を受け、気が参っている、というお答えが返ってきました。驚きと共に、台風が血圧上昇の要因であると考えるのは三瀬ならではであり、患者さん自身、患者さんの生活そして自然と医療が別々な物として断片的に捉えられていない所に、地域医療を感じました。
また、診療所に来られる方の多くは高齢者の方ですが、ご夫婦やご家族で来られる方も多いことが印象的でした。ご夫婦で診察室に入られ、ご自身の最近の体調の様子のほか、配偶者の方の様子もお互いが先生にお話されることで、診察室内だけではわからない御家庭での様子も伺えました。お互いの健康の状態を一緒に医療面接を受けることで把握しあえることも、医師が立ち会えない場でのプライマリ・ケアに繋がる大きな要因であると感じました。
また、血液検査などで異常は見当たらなかったものの、不安そうな患者さんがいらっしゃいました。データからも、日々の医療面接の様子からも大丈夫であることを説明しても尚も不安そうな患者さんに、検査の出来る大きい病院を紹介すると、それだけでも少し表情が和らいだような気がしました。実際に、精査の結果、何事も無かった事を報告にその患者さんが診療所に来られたとき、晴れ晴れとした様子でした。患者さんによっては、説明をして何事も無いことを理解していただくよりも、本人の希望をくみ取って大きな病院で検査をして何も無いことが明らかになるほうが大きな安心感を得られ、不安解消になる方もいるのだと思いました。何事もないから大丈夫であると、ただ説明するだけでなく、そのとき患者さんが希望されている事を尊重して行う。当たり前のことではあるけれど、実際に患者さんと長年接してその方の性格なども理解していないと、行えない精神的ケアの様に感じました。大きな病院と患者さんの橋渡し的な存在になることも、地域医療を行う医師には重要であると思いました。

・デイサービスセンター三瀬での介護実習
1日限りの実習でしたが、利用者の方のお迎えから送りまで体験させて頂きました。
以前にも、山口県の方でデイサービスの体験実習を行ったことがありましたが、その時とは大きく違った印象を受けました。おそらく利用者さんのほとんどが三瀬村の方であり、利用者さん同士が昔からの知り合いであることから、まとまった家族のような温かさを感じるためだと思いました。スタッフの方も若い男性も多く、皆さんの力強く明るい雰囲気が、初めて伺った私の緊張を解れさせてくれました。また、このスタッフの方の雰囲気が利用者さんにも伝わるのだと思いました。
しかしながら、この実習では言葉の壁を痛感せざるを得ませんでした。私は、生まれも育ちも山口県であるため、佐賀県の方言に触れたことがありませんでした。送迎のバスの中の挨拶や短い会話にも多くの方言があり、全く理解できないものもありました。高齢の方の中には、言葉を上手く発せられない方もいらっしゃり、更に方言も加わると、折角話しかけて下さったのに、会話が成立しないことも多かったのです。敬語を使っていても、方言での敬語を知ってお話するほうが、利用者の方ともっと近くで接することが出来たのではないかと思いました。
方言はその地域の方にとって何よりも大事な言葉ですから、地域に根ざした医療を行う際にも方言は必要不可欠な要素であると思います。同じ方言交じりのコミュニケーションはお互いが親近感を持ち易くするのではないかと考えました。

・ざっといかんばい三瀬林道マラソン
 実習最終日はちょうどマラソン大会の日でした。私が三瀬村に着いてからの1週間は特にこのマラソン大会の準備に村中の人が追われている様子でした。三瀬村診療所も例外ではなく、村を挙げての行事に医療チームとして大きな責任のある立場でした。当日は、ランナーの血圧測定などお手伝いさせて頂きました。また、診療所でお会いした患者さんが、村のスタッフとして生き生きとお仕事をされている姿を拝見することができたり、三瀬村の方とお話をする機会もあり、大変楽しく三瀬の方と一日を過ごすことが出来ました。また、この大会に白浜先生が大きく携わる姿を見て、地域に密着する、ということを学びました。三瀬村に住んでいる医師、というだけでなく、三瀬に生き、生活することが診療所の医師には求められていると思いました。村の行事には医師という立場だけでなく、村民として参加していくことが、診療所が地域に根ざす為に必要なことの様に思えました。患者−医師関係だけでなく、地域医療、特に小さな村などでは診療所を離れた場所でも村民−村民の関係も十分に成立していることが信頼される地域医療に繋がっているのではないかと思いました。

・その他
実習中、勉強室で多くの本やビデオから勉強する機会を与えて頂き、大変勉強になりました。その中でも、『先生、すまんけどなあ・・・』は読み終える頃には涙が止まりませんでした。人が自分の家で死ぬこと、これは多くの人が望む一方でなかなか現実はそうではありません。この本には、実際に家で息を引き取られた患者さんと、そのご家族、在宅医療をサポートした医師・看護師の関わりがとても深く、皆が家で死を迎えることに気持ちを一つにして患者さんを最後まで尊重していた様子が伝わってきました。私が、医師を志したきっかけに祖母を家で看取ったということがあるため、この本に出てくる患者さんのご家族の気持ちに感情移入してしまいました。この本をはじめ、多くの文献を読み、高齢者医療、プライマリ・ケア、在宅医療などのことを学べた時間は貴重であったと思います。

■4;実習を通して学んだこと
 私は、3年でまだ医学的知識、特に臨床の知識はほとんど無いまま先生の診療の様子を見学させて頂きました。しかしながら、1週間の間、診療所から学んだことは多くあります。一つは、チーム医療です。診療所で働く医師、看護師の方が信頼しあって、モチベーションを高く持って医療を行っていることに感動しました。今まで、大学の講義の中でもチーム医療については色々学びましたが、先生方を見て、医師と看護師、スタッフの関係が充実していると肌で感じました。お互いが信頼しあえる職場の中で、患者さんを迎え入れることが、患者さんにとっても良い医療環境となると思いました。
 また、診療所というところの医師のあり方も考えさせられました。私の偏ったイメージでは、僻地などでは医療水準が低いというものがありましたが、実際にはそうではなく、医師自身の向学心や積極性、また今では十分に発達した情報網・交通網を駆使すれば十分に高水準の医療が行える事を実感しました。三瀬村での、高齢者の方がインフルエンザの予防接種に関しての意識が高い事にも驚きました。プライマリ・ケアが実践されている様子を拝見できました。医師自身が、高いモチベーションを持ち、医療の現場に臨むことが医療において僻地を僻地でなくすことに繋がると思いました。また、診療所の医師の様な総合医には多くの知識が必要であり、物事を断片的にではなく、患者さんの生活スタイルまでも視野に入れた総合的に判断する力が必要だと感じました。

■5;終わりに
 1週間という短い期間でしたが、大変充実した実習となりました。スマイルセンターでの老人クラブにも参加させて頂き、皆さんが溌剌と山登りをしていらっしゃるパワーに圧倒させられました。診療所+スマイルセンターが三瀬村の方の生活の場の一つとして位置づけられていることを肌で感じました。老人クラブの方はデイサービスにも参加され、診療所の患者さんにもなられます。各々の施設が独立しているのではなく、三瀬村という地域の中で「生きる」ということで全てが繋がっているのだと考えさせられました。自然も人も全てがプライマリ・ケアの要素になっているのだと感じました。
 まだまだ臨床知識もなく実習に参加させて頂いたのですが、これから臨床の勉強が始まるにあたって、勉強に対する意識が高まりました。断片的な知識だけでなく、総合的に考える視野を持ってこれから努力をしていこうと思います。先生の診療の様子を毎日拝見させて頂いたことが何よりも貴重な経験、勉強になりました。
 白浜先生をはじめ、診療所スタッフの方々、また先生のご家族の皆様には温かく迎えていただき感謝しております。三瀬村での1週間は本当に楽しく心に強く刻まれる時間となりました。臨床の知識を身につけた後、もう一度診療所で実習させて頂けたら、と思います。本当にありがとうございました。