高齢者肺炎のインフォームドコンセントの注意点

三瀬村国民健康保険診療所所長/佐賀大学医学部臨床教授 白浜雅司

斎藤厚編「肺炎」2005年2月15日 日本医事新報社刊143−145ページ

 

Point

l         肺炎と診断した根拠と、どういう治療をするのかをわかりやすく説明する。

l         原因菌の確定前に治療をはじめて効果をみながら変更していくことを説明する。

l         外来で治療するか、入院して治療するかの検討。

l         理解判断能力の低下した高齢患者への配慮。

l         終末期においては肺炎の積極的な治療をしないという選択肢もありうる。

 

1、はじめに

 インフォームドコセントというと、癌などの重篤な病気や、リスクを伴う検査や治療手技を行う場合に限定したものと理解される先生方もおられるかもしれないが、肺炎のような日常的な病気において、きちんとしたインフォームドコンセントがなされることが、患者家族との信頼関係構築になり、それがリスクの高い治療でのインフォームドコンセントにもつながる。

1、インフォームドコンセントの要素

 一般にインフォームドコセントの要素としては、1)適切な情報の開示 (具体的には a.現在の患者の医学的状態(無治療の場合に予測される経過)、b.予後を改善するかもしれない介入(その利益とリスク)、 c.患者が選べる他の選択肢(その利益とリスク)d.医師の最善の臨床的判断にもとづく勧告を示すこと)、2)情報の患者による理解、3)患者の自己決定能力の有無を判断し、ない場合には、適切な代理決定を依頼する。4)患者が決定を行う際の自由意志・自発性の尊重、5)患者の同意または拒否という一連の診療内容があげられている1)

2、具体的な肺炎のインフォームドコンセント

 では実際の肺炎診療の場面で、上記の5つの要素をどう取り扱うかについて、具体的な会話を提示してみたい。医師からの一方的な説明でなく、現在わかっていることと対策をその都度説明して、患者の疑問や不安に応えることが基本になる。

◎「〇〇の症状から、肺炎が疑われるので、胸部レントゲン写真と血液の検査をしてみようと思うのですがいいでしょうか」

発熱が続く、痰が続く、最近急に食欲がなくなって寝てばかりいます。いろいろな訴えを聞きながら、医師は肺炎の可能性を疑うことになるだろう。採血などリスクはないと思われるかもしれないが、痛みはある。何よりも患者は何で検査をするのかという説明がほしいし、医師が肺炎を疑ったということを先に話しておくことは、検査が終わった後に肺炎だったかどうかを必ず説明することにつながる。

◎(X線写真や血液検査の結果を見せながら)、「この分部に肺炎と思われる影があります。痰の検査をして肺炎の原因をさらに詳しく調べて、適切な治療をしたいのですが、うまく痰が出せるでしょうか」

 X線写真を見せることで、病気を実感してもらうことは重要である。前の健康な時のレントゲンと比較できればより理解を助ける。臨床症状だけで、ある程度の菌の予測はできるかもしれないが、痰の検査をすることで、原因菌がより明確に同定される。いい痰が取れるような指導も必要になる。

◎(軽症の肺炎で、患者背景のリスクが少なく、外来で治療する場合の説明)

〇〇の菌による肺炎が疑われるので、それに効果のある△△という抗生物質を飲んでいただきたいと思います。ところで、これまでに抗生物質などの薬を飲んで蕁麻疹がでたことはありませんか?」「治療効果を確認するため、3日ほどこの薬をのんで再度受診してほしいのですが」

あるいは

◎(重症肺炎になるリスクが高く、入院治療が必要な場合の治療法の説明)

「肺炎が疑われるのですが、80歳と高齢なこと、もともと糖尿病があって、肺炎が重症化するおそれがあるので、入院治療をしていただきたいのですが」

というような診断に基づいた治療方針を伝えることになる。しかし、この入院治療の可否はガイドラインによる重症度分類2)だけでは難しいことも多い。というのは、高齢者は新しい環境に適応できず、入院しただけで、譫妄状態になったり、食事がとれなくなったりというような不適応を起こし、肺炎は治ったが痴呆が進むことも多いからである。最近は外来点滴で十分効果のある薬もあり、中等症程で、家族の観察も可能な場合で、本人が入院を拒否するような場合には、外来で、2,3日経過をみるのも現実的な対応になろう。

◎治療効果が出ないときの説明

 原因菌の決定をもとにして、適切な抗生物質療法をやっても、治療効果がでない場合がある。高齢患者では、患者自身の免疫力が落ちて治療効果が出ない場合、誤嚥性肺炎を繰り返す場合、肺がんなどによる閉塞性の肺炎の場合など、ある意味終末期の患者で、どこまで積極的な治療を続けるかについては、難しい倫理的な問題を含んでいる。臨床経過で、低酸素や高炭酸ガス血症がおきて、意識も遠くなっていく。「人工呼吸器をつければ、呼吸は楽になるかもしれませんが、意識を低下させるような薬を使うことになり、色々話すことは難しくなるかもしれませんが、どうしましょうか。」と最期の時期にどのような治療を患者が望むのかという確認は必要である。古い西洋の諺に「肺炎は老人の友」という言葉があり、静かで苦しみも感じない大往生の形で、最期の時を迎える高齢患者も少なくない。積極的な肺炎の治療をしないことは患者・家族を見放すことではない。肺炎のターミナルケアというものもあると思う。「肺炎の治癒は難しいかもしれないが、苦痛を取ることは最大限行っていきますから」というような、患者家族を支える言葉も大事なのではなかろうか。

 

3、意思決定能力の確認と、事前指定、代理決定

 前記のように高齢の肺炎患者では、痴呆などの疾患だけでなく、低酸素血症、高炭酸ガス血症により理解力や判断力が低下してくることがある。微妙な意思決定能力の評価は精神科医に依頼することになるが、一般には、(1)検査法や治療法がわかる理解能力、(2)自分なりの根拠によって選択ができる評価能力、(3)その選択を伝える伝達能力があれば、意思決定能力があると判断してよいだろう1)。時期をおいて再確認ができれば決定の信頼性は高まる。

 病状が悪化して、意思決定能力が低下する場合に備えて、自分なりの治療についての意思表示をする事前指示書や、代理決定する人をしておく事前指定書などを作る人も出てきた3)。患者の意識が無くなる前に、患者がどのような最期の日々を迎えたいかというようなことを話しておくことは、担当医の大事な仕事である。

 またそのような事前指定、事前指示を残さずに意識低下状態に陥った場合には、患者の関係者による代理決定がなされるわけであるが、患者本人の意思を推察できる方による代行判断、それも無ければ患者の関係者によって、自分たちが患者の状況だったら望むだろうかという患者の最善の利益を考えて、治療方針を決定していくことになる。

 

<参考文献>

1)白浜雅司「インフォームドコンセント」医療ビッグバンの基礎知識−医療の大変革を理解するために− 日本内科学会(認定内科専門医会編)52-57頁、1999

2)日本呼吸器学会市中肺炎診療ガイドライン作成委員会「成人市中肺炎診療の基本的考え方」日本呼吸器学会、2000

3)俵哲「リビング・ウィルと尊厳死」医療ビッグバンの基礎知識−医療の大変革を理解するために− 日本内科学会(認定内科専門医会編)65-68頁、1999

(なお、上記の1)、3)の文献については、認定内科専門医会のホームページhttp://www.naika.or.jp/bigbang/content/content.htmlから読むことができる。)

 

<こんなときはどうするか?>

代理決定を求める場合、家族間で意見が分かれたら、医師はどのようにして治療方針を決定すればよいか;

患者本人の意識が低下したときに、家族などが代わりに意思決定をする、代理決定では、まず本人の意識があったときの本人の言動をよく知っていて、患者の思いを代弁できる人による代行判断が優先される。どうしても代行判断が難しい場合には、自分がその立場だったらどうしてほしいかという最善利益の視点から関係者が協議することになるが、このような場合、医療者側から「患者さんがこの状態で意識があったとしたらどうされたいと思われるでしょうね」ということをたずね、これまでその患者さんがどのような人生を送ってこられたかを聴くようにすると、どのような決定をするのかが何となく見えてきて、代理決定する人の負担の軽減になることも多い。

医師がこの方法が良いということを強く勧めることは控えたいし、何より声の大きい人(よくキーパーソンといわれるが)の考えだけで決定されることは避けたい。十分に家族の思いを聴くことに時間をかけたい。状況が悪化する場合(呼吸不全で人工呼吸をつける場合など)、医師としては早めの結論がほしくなるが、ある程度の家族内のコンセンサスが出る前に治療を決定すると、後々まで家族内のしこりを残すことになるので注意したい。