<実習レポート>
九州大学医学部5年 村田亜紀子
実習期間:2003年9月8日(月)〜9月12日(金)
―目次―
1、 目的
2、 スケジュール
3、 具体的実習内容と感想
4、 全体を通しての感想
5、 最後に
1、目的
三瀬村の診療所は地域医療の中核を担いプライマリケアを実践している一つの代表的なモデルとして有名です。私が目指しているのは、内科・外科などの専門の枠に必要以上には囚われない、「病気」のみでなく「病人」をも診ることのできる医師です。それにはプライマリケアは特に欠かせないものなので、地域と密着した医療の行われている現場を実際に訪れ実習することで、目標をより明確化し、自分が目標へ向かうためのモチベーションを高めたいと考えました。
2、スケジュール
8日:診療所での見学
9日:午前−佐賀医大総合診療部にて外来見学
午後−白浜先生のロールプレイの授業に参加、急患の診察の見学
10日:診療所の送迎バスに乗車、診療所での見学、小学生の予防接種の見学、
往診の見学、ケアカンファレンスの見学
11日:診療所での見学、中学生の健康診断の見学、佐賀県医師会主催の講演を聴く
12日:診療所での見学
3、具体的実習内容と感想
診療所での見学
診療所での診察には、先生が患者さんと話をしている間に学生が血圧を測るという形で参加しました。先生は慢性疾患の患者さんに対しては「変わりはない?」ときさくな感じで、「昨日の雷はすごかったけど眠れた?」「今年稲は不作だけどどう?稲刈りはもうした?」など生活についてもさりげなく気配りされていて、病気を持っている患者さんとしての側面だけでなく生活者としての側面にもアプローチしているところが垣間見えました。患者さんの方も、安心して「夜眠れなかった」「不作だけどもう刈らないとしょうがないからねえ」など話していたのが印象的でした。大学病院で会う患者さんが、先生に生活のことを自分からは話しにくいと言っていたのと対照的でした。
家族単位で診療所にかかっている方も多いようで、夫婦2人揃って来られる方もいらっしゃいましたし、1人で来られた方にも先生は「旦那さんは元気にしてる?」などご家族のことも聞かれていました。また、患者さんの中には薬だけもらいに来た人などもいましたが、先生は必ず一度は声をかけて変わりがないことを確認していました。患者さんにとっては忙しい合間を縫って来やすい上先生と話して安心できるので、かかりつけの診療所としてとてもいいのではないかと思いました。また、とりまく環境も含めて経時的に細かなフォローができるという点が地域に密着していることの強みだと思いました。
他には健康診断で異常を指摘された方も多く見られましたし、急性疾患の方も来られました。近くに診療所があるということで来やすいのも大きなメリットですし、少しでも不安な事があれば、必要に応じて検査のできる大きい病院を紹介してくれ、必要がないときはきちんと納得するまで説明してくれるのでとても心強いのではないかと思いました。
普段、実習の学生がいない時は看護師さんが1人診察室におられるそうです。2人しかいない上、この他に受付や検査、注射、点滴や電気治療器での通電を行っているため、学生が来るとだいぶ楽になると聞いてはっとしました。小さい診療所だから人が少なくても間に合うと考えがちですが、簡単な検査なども含めてできるだけ短時間で適切な診療を行うためにはそれに見合ったマンパワーも必要だと気づきました。そしてそれこそが実際に患者が求めているものではないかと思いました。
佐賀医大総合診療部での外来見学
佐賀医大総合診療部では小泉先生の診察を主に見学させていただきました。佐賀医大の総合診療部はプライマリケアの言葉通り、さまざまな症状の初診の方の診断・治療や慢性疾患のフォローを行う、いわゆる“かかりつけ”の役割を担うところでした。小泉先生の診ていらっしゃる患者さんたちの中でも印象に残ったのは、車椅子に乗りご家族に連れられて来た患者さんでした。慢性疾患のフォローを始めて何年も過ぎたそうですが、介護なさっているご家族が1月に1回診察に連れて来ることで生活のリズムを作っているから状態が変わらないように見えても診察は大事だ、との先生の言葉が心に響きました。
白浜先生の授業
総合診療部を回っていた佐賀医大の6年生の方々と一緒にロールプレイに参加しました。このロールプレイは、患者役の学生が考えてきた症例について行い、2つの角度からビデオ撮影をしておいて検討するものです。白浜先生、学生に加えて模擬患者さんと心理を専攻している大学院生にその場で評価していただきました。医師役を1回やったのですが、ビデオを撮って評価するというのはOSCE以来だったのでとても緊張してうまく面接することができませんでした。OSCEの際使用したシナリオはパターンが決まっていてすぐにマンネリ化してしまうのに比べて、どのような症例がくるのかわからない上、多様な症例を経験することができるので、より臨床的な医療面接のトレーニングになっていいと思いました。患者さんに直接会ってお話を伺うのももちろん大切ですが、このようなトレーニングの積み重ねによって客観的に自分の振り返りを行うことはやはり必要ではないかと思いました。
急患の診察
白浜先生のお宅で夕食の最中に急患の方が見えました。小児の腹痛で、幸いすぐに治まったのでよかったのですが、連絡が診療所の開いていない時間帯では自宅に直接来る様子を目の当たりにして、地域に医者が1人しか常在していないことの重みを少しですが知る事ができたように思います。これがもっと重大な病気であったらと思うとぞっとします。この重圧がプライマリケアにおいて多かれ少なかれ医者の担うべき責任の重さだろうと思いました。
診療所の送迎バスへの乗車
診療所の送迎バスは2便あり、診療所を中心として西側と東側を回っています。そのうちの1便に乗車しました。三瀬村は自然が豊かで水田や畑も多く、とても広大なところでした。都市で頭では分かっていましたが、三瀬村に来、色づき垂れる稲穂を見て初めて実りの季節であることを実感しました。昼食の際など一人で歩いた時も思っていましたが、一軒一軒の家の間隔が広く、どこへ行くにも徒歩では時間がかかってしまうので、生活していくには車が不可欠だと思いました。また、診療所付近は平地なのでいいですが、急な坂もあり、特に足腰が弱っている方にはそこで暮らすことさえ大変ではないかと思いました。
この日は敬老の日が近く、やまびこの湯で敬老会という催しがあったそうで、多くの方が乗ってこられました。小さい村ということもあり、みなさん「ここで誰々が乗ってくるはず」と乗る人までわかっていて、運転手さんも含めてのんびりと世間話をされていたのが印象的でした。実際に診療所に来られたのは2名でしたが、診療所への“足”としてだけでなく、村内を移動するための“足”として、そしてコミュニケーションの場としても役に立っているように感じました。
あとで事務長さんにお聞きしたところ、三瀬村は標高の差が他の村と比べて小さい上、道が診療所を中心にだいたい一周できるように伸びているため“僻地”としてはとても恵まれているそうです。ある近くの村では送迎を行うにも行き止まりの道があるため時間がかかってしまい大変だと聞いて、40分弱で半周できるのが恵まれている部類に入ることにあらためて気づかされました。
小学生の予防接種
一学年全員の小学生が診療所へ来てスマイルセンターでの予防接種となりました。予防接種と言えば「小学校の保健室でやるもの」という印象があったので新鮮でした。予防接種後しばらくその場で体調の変化がないかチェックしたのですが、必要なことですが実践となるとおろそかにされがちな部分であるので、こういう小さなところの積み重ねが地域医療では特に大事なのではないかと思いました。
往診
往診では在宅の患者さんとシルバーケア三瀬に入所している患者さんの診察を見学しました。特に印象的だったのは在宅の患者さんでした。その方は寝たきりで意識もはっきりとはしていないようでしたが、本人もご家族の方も先生に会って安心された様子でした。その方は肺炎を併発しかかっていて、夜先生が電話で様子を聞いたり、介護している家族が入院の相談に診療所にみえるなど、在宅介護を続けることの難しさ、そしてきめ細かなバックアップの必要性を感じました。
ケアカンファレンス
本人、家族、先生に加えて保健婦、福祉相談員、行政、福祉器具会社の方など10人以上の方が集まって1時間ほどの話し合いがありました。初めてケアカンファレンスを見学したのですが、1つの家族のためにこれほどの人数の方が集まることに驚きました。本人の様子が家にいるときとデイケアのときとでは異なることをそれぞれ直接見ている人から聞いて検討したり、家のある場所がちょうど坂の途中だということで福祉器具会社の方に器具の場所に応じた使い分け方を具体的に説明してもらったり、と全員が具体的な状況を把握して一番いい形でサポートができるように協力する姿勢が随所に見られました。実際の介護のサポートももちろん大事ですが、介護するご家族の方にとっては、支えてくれる人達の思いが形として見えることが何よりの支えになるのではないかと思いました。
中学生の健康診断
近日中にマラソン大会があるそうで、そのための健康診断でした。先生が1人1人に「何の種目に出るの?」「部活はなんだったかな?」など話しかけて向き合っていたのが印象的でした。自分が子どもの頃かかったお医者さんにそんなことを聞いてくれた先生はいただろうかと思い、時間がない中でも1人の人として接する姿勢に何か嬉しいものを感じました。
講演
「医師の生涯教育」については聞いたことはありましたし、大学での臨床実習の際アーベントに参加したことはありましたが、先生方がどのようにしているのかに興味があったので白浜先生とご一緒させていただきました。この講演は日医生涯教育制度認定講座で単位として認められているもので、専門医でい続けるためにある程度受講することが必要だそうです。今回は「CTからみた胸部X線写真の正常解剖」という日常臨床に密接に関連する話題に加え、特別講演として九大呼吸器科中西教授の『血管新生と肺癌の治療』という先端医療についての講演でした。私はちょうど授業で聞いていたため「聞いたな」という感じでしたが、白浜先生は先端医療とは離れている場に身を置いていることもありご存じなかったそうで、しきりと感心されていたのが印象的でした。大学病院のように高度先端医療を行っている施設を除いて、日常臨床において医師として患者さんに携わるようになると、他にも重要なことが多く手が回らないのではないかと思います。だからこそ、その分野の専門医にはならなくても学生の時期に先端医療を学ぶことも重要だと思いました。
その他
診療所に置かれていた本やビデオなどを診療の合間に見せていただきました。医療面接、コミュニケーションや家庭医など興味深い本も多くありましたが、特に襟裳岬の診療所で働く女性医師の姿を追ったドキュメントのビデオに感銘を受けました。
また、先生の健康教室の感想文も読みました。子供たちは今まで結論だけ言われてよくわからないままやっていたことについてその理由を知ってモチベーションが上がったようでした。やはり盲目的に大切だからという結論だけではなく「なぜカルシウムを取ることは大切なのか」などその根本的な理論を子供だからこそ医師が責任を持って伝えていくことが予防医学を進める上で重要なのではないかと思いました。
4、全体を通しての感想
全体として三瀬村の診療所は小さいからかもしれないのですがとても温かく、居心地がよいように感じました。はじめ、ここへ伺う前は村の診療所でスタッフも皆村の人ということでプライバシーの面で問題があるのではないかと思っていました。しかし、三瀬村へ伺ってみると、都会とは違って村は1つのコミュニティとしてまとまっていて、待合室で自分の病気について話すなど、みなさんお互いにお互いを気遣いながら支え合って生活している様子が伝わってきました。また、スタッフも村の人だからこそ安心して気軽に話ができ、具体的に‘患者’さんの生活も含めて診ることができるという利点も大きいように感じました。プライバシーも当然気にするべきことではあるけれども、その地域地域で生活している人々の人間関係によってその方法も柔軟に変えていいのではないかと思うようになりました。
また、この村の温かい雰囲気に触れて、普段実習を行っている大学病院が、いかに生活から患者としての立場だけが切り離された場所であるかを痛感しました。大きい病院にも当然長所はあるわけですが、この短所を踏まえ、できるだけ患者さんの生活に即した医療を行うように医師も1人1人が心を砕く事が大事ではないかと思いました。
その他に、このようなきめ細かな医療を行っていくためには、やはりマンパワーが不足していることにも気づかされました。いかに小さな村だとはいえ、診療所1ヶ所に医師1人・看護師2人では十分とはとてもいえないと思います。お金の問題で人は増やせないそうですが、負担が1人1人にかかりすぎると体調を崩す元にもなりますしどうにかならないものかと少し不安を覚えました。これは大きな病院でも言えることだと思います。この温かい雰囲気がこのまま続いていってほしいものだと思いました。
5、最後に
この実習は言葉で言い尽くせないような内容の濃いものでした。診療所での実習も実りの多く、多くのことについて考えを深める事ができましたが、白浜先生の医師としてプライマリケアに携わる真摯な姿勢に加えて教授としての立場、家庭での父親としての立場も見る事ができ、とてもよかったです。特に朝・夕の食事のときなどに先生のお宅にお邪魔して先生、奥様、かおりちゃん、めぐみちゃんといろいろ話したことで、三瀬村の雰囲気もだいぶ知る事が出来ましたし、それ以上に自分の育ってきた家庭を振り返り、具体的に自分が医師となって家庭を持つことを考える契機となりました。自分の目指す医師像もだいぶ絞られてきた様に思います。実習を受け入れてくださった白浜先生、ご家族の皆様、本当にありがとうございました。
また、温かく迎えてくださった患者の方々、診療所のスタッフのみなさまにこの場をお借りしてあらためてお礼を言いたいと思います。5日間、本当にどうもありがとうございました。
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