三瀬村国民健康保険診療所実習report

      
実習日:2001年 5月7日〜5月18日
氏名:S96033 草刈 千雅



【三瀬診療所実習を選んだ理由】
6年次の実習内容を選択するにあたって、まず、第一に考えたことは自分が本当に興味を持てるもの、体験してみたいもの、勉強したいものをきちんと選ぼうということだった。5年次で臨床を一通り勉強した後に、自分で6年次のカリキュラムを組むことが出来るのは佐賀医大の良いシステムだと思う。つまり、自己責任のもとに自分の学習を深めることが出来る。三瀬村診療所実習では、大学病院では体験できなかった地域医療の現場が体験できる。また、デイサービスやホームヘルプサービスなどに参加し、地域福祉の現場を体験することも貴重な体験となる。私はこの選択期間を『自己開発』としてとらえ、地域医療の現場を自分がどのように感じるのか、福祉の現場とはいかなるものかを楽しみに三瀬診療所実習を選択することとした。他に、私が選択した期間には他大学の学生が参加することを事前に知り交流を深めたかったこと、インターネットを利用した情報の収集法に興味があったことなども大きな理由であった。


【三瀬診療所の印象】
初めて見た三瀬診療所は、役場、保育園、小学校、郵便局、銀行などが隣接し村の中心に位置していた。村の人にとっては一箇所で用事が事足りる便利な場所であろう。診療所の外観はやや古ぼけており、失礼だがイメージ通りであった。しかし、外は真っ青な青空と澄んだ空気が満ち溢れ、太陽のぴかぴかとした光の中でこれからの2週間が楽しいものになると確診できた。


【実習内容(日割)】
〈5月7日 月曜日〉
山口大学医学科4年の木原千景さんと共に実習を行なった。午前・午後ともに診療所外来であった。ゴールデンウィーク明けということもあり、ひっきりなしに患者さんが来られる。やはり年配の方が多い。私もひっきりなしに血圧を測定した。患者は自分の意見や要望を気軽に白浜先生に言い、長い間かけて築いてきた信頼関係が伺える。これが当たり前であるべきだ。確かに、大学での医師−患者関係とは少し違う。しかし、大学での医師−患者関係において大学で働く医者の対応だけが悪いというわけではないと思う。大学病院という権威に患者が圧倒され、医者の顔はベールに包まれ、お互いの関係は希薄なまま、病名だけの付き合いになってしまうのだろう。患者の立場に立つと、言いたい事が言えないのはよく解かる。では、どうすれば良いか?
私は、患者と信頼関係を築いている診療所や医院の医者と大病院との間に、もっと強い結びつきが必要なのではないか思う。患者の人柄を知る町医者が治療方針を決定するCRに参加するのも良い。そのような時間が無くても、医者同士の間に人間関係が出来ているとお互い相談もしやすいし、かかりつけ医を通して患者の姿が見えてくる。これからはかかりつけ医が大病院へ足を踏み入れる積極性と、大学病院がそれを受け入れる体勢が求められるのではないか。


〈5月8日 火曜日〉
特別養護老人ホームであるシルバーケア三瀬での実習。今日から佐賀医科大学6年の田中崇さんも共に実習することとなった。シルバーケア三瀬は平成5年4月オープンの総合的老人福祉施設である。私達はデイサービスセンターでデイケアを体験することとなった。
(迎えサービス)
相変らずの素晴らしい天気の中、利用者の迎えサービスから一日がスタートした。この日の利用者は23人であり4台の車で送迎を行なった。基本的に玄関先まで迎えの車を乗り入れる。驚くほど祭い道まで上手く車を乗り入れる職員の技術に感激した。足が悪い方は家の中まで迎えに行った。車椅子をそのままロフトで車内に上げて、車椅子に乗ったまま送迎を行なうものもあった。
(午前)
シルバーケア三瀬に到着した後は血圧、体温、脈拍を測り全員のおよその体調を把握した。週に2〜3回程度顔をあわせていると表情や様子から、調子を把握できる様でもあった。その後、お茶サービス、髭剃り、爪切りなど、ちょっとしたところではあるが日常生活で非常に大切と思われるものを手伝った。マッサージやホッとパックなども行なった。職員は明るく、利用者同士は友達同士といった感じで爽やかな雰囲気である。
メインイベントはレクリエーション(動レク)である。この日は名づけて「ホールイン☆ワン」であった。利用者が2チームに分かれ、交互にボールを蹴って職員手作りのダンボールで作った穴にボールを入れる。一人3回までチャンスがあり一回入ると10点となる。穴の手前は緩やかな坂があり、弱過ぎると届かない。また強すぎると穴から飛び出してしまうのでなかなか入らない。ゲームは予想以上に大盛り上がりであった。また、利用者の足も上がる上がる。一歩一歩をそろそろと歩いている普段の様子からは思いがけなかった。こういうレクリエーションの意義は、大きく分けて@楽しみAリハビリの2つがあると思うが、今回は大成功であった。
(昼食)
きじ丼、野菜和え、清汁、デザートでありなかなかのボリュームである。利用者一人一人に合わせて、刻み食なども用意してあった。献立表を見てみると嫌いなものなどもcheckしてあり良心的である。
(午後)
午後もレクリエーション(静レク)が用意されていた。風鈴の下につける短冊に絵を書いた。皆さん上手い!!病院では見えない個人個人の性格や笑顔が溢れている。自分は違うと思いながら、結局は私も病院側の人間として患者さんの人間としての部分を見落としていたのではないかと思った。他にも箱根八里の半次郎(唄:氷川きよし)を熱唱したり、オセロをやったりして過ごした。氷川きよしはかなりの人気があった。3:00から再びお茶の時間である。今回はcoffeeや紅茶、昆布茶を好みに合わせて出している(サービス券あり:一杯50円)。次から次にイベントを用意してあり、飽きさせない工夫が凝らしてある。また、サービスという面が強いことにもびっくりした。せかしたりすることも無く、自主性を大切にしているように伺える。
(送りサービス)
振り付けで演歌調の「シルバーケア三瀬・帰りの歌」を歌った後、送りサービスに同行した。遠い方で4kmほど離れているという。高齢者夫婦の二人暮しもあり、誰かが訪れることの大切さを感じた。
〔一言〕
盛りだくさんの一日であったが楽しかった。前日診療所に来ていた方が利用していた。診療所では、腰の痛みを訴え、すごく元気が無いようにみえた。しかし、デイサービス内では良く笑い、動レクでもボールを力強く蹴っていた。私は蹴れないのではないかと心配するほどだったのですごくビックリした。確かに病院でニコニコする人はいないだろう。また、病院は元気のない部分を見せる場である。普段着の患者を知らない私達はその部分だけを受け取り、つい病人として見てしまう。しかし、患者には普通の日常生活があり、そして感情がある。大切なことを改めて考え直す良い機会となった。


〈5月9日 水曜日〉
午前中は診療所で外来。午後は往診。家々で家庭事情も違うし介護の方法も違う。しかし、どのような場合でも介護する側の負担には計り知れないものがある。もちろん、本人はいっそう様々な思いを抱いているだろうが・・・。長期の無償の介護は介護者の体力だけでなく心もすり減らしていく。また、介護される側と介護する側の関係だけでは済まされない様々な思惑(世間体、プライド、金銭面etc.)も重くのしかかっているに違いない。個人的にはこれらへのこだわりが強い人ほど自分を締め付けているように思えた。いずれにしても、どちらも人間である。すごく難しい問題だと感じた。


〈5月10日 木曜日〉
今日は富士共立病院での実習である。
(午前)
訪問看護に同行した。一軒目はstoma造設をした患者宅であった。stoma造設後1年以上経過しているが、stomaの袋のパッチ部分の処理があるために訪問看護の際に週1回の風呂に入るとのことだ。5年次の実習でstoma造設の手術や造設直後の患者に接する機会はあったが、退院後に日常生活に戻った後での患者に接するのは初めてだった。パッチ部分に便が漏れ出ることもあるらしく、週1回の訪問看護では不便だろうと感じた。左腹壁に飛び出しているstomaは赤々としていて、立位ではややうっ血して大きくなるのが解かった。どんどん大きくなっている様で、そのうち飛び出すのではないか心配だとの訴えがあった。時間経過を経たものはもはや傷ではなく通常の肛門と同じようなものだと考えられており、石鹸を付けて普通に洗ったりするのにはビックリした。日常生活はごく普通で、糞尿が袋に溜まってくると重たいことを除いて特別不便なことは無いということだった。ゲートボールに情熱を燃やしている様だ。痛みも無いそうだ。5年次の実習では見ることの出来なかった、いわゆる「その後」を垣間見ることが出来たのはラッキーであった。このように、順調に生活している様子をみると手術の意味があったのだと感じずにはいられない。
二軒目は老人夫婦宅だ。妻が夫を介護している。夫はアルツハイマーで意思の疎通は不可能であり寝たきりであった。ここでは便出しやオムツの処理、吸引や吸入などを行なった。便出しは腹部に圧をかけながら、指で便を掻き出していた。初めて見たので純粋にすごいなぁ、と感じた。ここのお宅では介護保険や医療保険の関係から他にもヘルパーや入浴車等のサービスを多く受けていた。共立病院の入浴車はなんと温泉だということで驚いた。話を聞くと妻の生きがいは夫と共にいることで、離れられない様である。多くの人間模様までも勉強させられる実習である。
(午後)
富士共立病院でのデイサービス利用者の機能訓練に立ち会った。理学療法士が中心となってメニューを組み、実践していた。明るい雰囲気で笑い声が絶えない。この明るさがどれだけの元気を利用者に与えているのか? 素晴らしいチームワークとコミュニケーションを体験できた。また、その中に入って沢山の話を聞いたり、リハビリを手伝うのは楽しかった。最後はデイサービス利用者の送りサービスに同行した。


〈5月11日 金曜日〉
午前中は診療所外来。午後は三瀬村小学校の内科健診に立ち会った。総勢100人前後であろう。1〜6年の可愛らしい笑顔に、自分の心が暖かくなるのが解かった。素晴らしい自然の中でのびのびと育っているのが目に見えるようだった。


〈5月16日 水曜日〉
午前中は診療所外来の送迎バスに乗車した。12時よりポリオ予防接種。午後は往診に参加した。ポリオ予防接種者は思いのほか多く(摂取者17名+体調不良で未接種1名)、正直言って三瀬村といっても若妻&乳幼児は多いのだとビックリした。将来、皆が三瀬村に残るとすると保育園から中学校までの間は、ず〜っと同級生になるのだと微笑ましかった。
〔一言〕
先週から、外来や往診に参加してみて、ふと、「三瀬診療所は村民にどのように映っているのか?」ということを考えた。1800人の三瀬村の中で1000人程は診療所にカルテがあるが、800人程はやはり診療所に来ないという話を聞いた。確かに医療を知らない人が、中で働く医者の能力を評価するのは不可能である。どうしても、建物や設備、権威などに目が行き、それだけで医療の質を評価してしまう所があるだろう。高度な医療を行なえない診療所に信頼感を持てない人も確かにいるだろう。  では、中で働く医師はどうか?
プライマリケアの医師のあり方として、村民との関係は近い関係で何でも気軽に相談出来る、ということが大切である。しかし、近すぎる為に、例えば「絶対的な信頼を与える一声」を発することは難しいと思う。これは、ある意味、信頼関係の構築に成功した為とも言えるのかもしれないが・・・。確実な診察と鑑別診断のもとに「大丈夫」と患者に告げた場合、不安に駆られる患者は納得するのか?勿論、プライマリケアの医師と信頼関係を築いた上でではあるが、second opinionの意見を求める場合が多いのではないか?例えば、若輩者の医者の言葉でも「大学病院にいる先生の言葉」として納得する。このようなことは実際にしばしばあることだろう。私は、自分が仕事に意欲を燃やし、充実させる為には1)使命感、2)周囲の評価、は欠かせないものだと思う。私は、もしプライマリケアの医師として自分がこのような立場に立った時、どう感じるかと思った。白浜先生に尋ねたところ、「自分が一番自分自身を評価できる。」という答えが返ってきた。なるほど!!


〈5月17日 木曜日〉
シルバーケア三瀬で在宅介護の実習に参加した。午前中は家事型支援、午後は介護型支援であった。家事型では掃除、洗濯、食事の支度、トイレの掃除など一般的に家事に含まれるものを、介護型では入浴介助を主に行なった。家庭に入って日常生活を手伝うと、今まで見えなかった家族内での様々な問題が見えてくる。家庭には家庭内のどうしてもやむを得ない状況も多く、単に老人問題という言葉でひとくくりに出来るものではないことが良く解かった。
〔一言〕
先週から訪問看護、デイサービス、訪問介護などお年寄りを取り巻くサービス提供の実際に参加して、三瀬村の福祉への取り組みの充実ぶりには驚くものがあった。一日にいったい何人の人間が一人の老人宅を訪ねているのか?本当にこのような環境は見たことがなかった。三瀬村の老人はみんな介護保険や医療保険をfull活用している。また、そのサービスを提供することができる施設が揃っている。そして、そのサービスをより良い物にしようと熱心に取り組むスタッフがいて、それを後から支えるDr.がいる。1800人程度の人口だから出来るのだろうが、素晴らしいチィームワークがそこにあった。都会では、サービスを受けようと思っても、施設やスタッフが不足していたり(これは非常に大きな現実問題だと思う)、スタッフの教育が不十分だったりするだろう。介護保険などの利用方法が解からない人も多いだろう。福祉への取り組みが不十分だった地域では、介護を必要とする高齢者の開拓からのスタートとなる。長い道のりだ。現在の日本では世界に比べて、あらゆる年代の人間と福祉とが共存していくには難しい問題が多く残されている。これまで、福祉に目を向けてこなかったからである。しかし、皆が福祉に関心を持つこと、日本でも三瀬村のような地域が先駆的に存在すること、その必要性を理解する事で変わってくるのではないかと思う。個人的には体験して感じることが1番だと思う。
今回の実習で自分なりに色々と考えたこと、福祉の充実したチィーム医療を体験できたことは考えを深めるチャンスとなり診療所実習を選択したかいがあった。


〈卒業後の進路〉
佐賀医大に残ろうと思う。気になる存在としてスーパー・ローテーションがある。自分が将来、プライマリ・ケアに従事した医療につくことを考えるとすごく意味のある期間を過ごすことができ、ぜひ選択するべきものだと思う。しかし、大学などで専門医を目指す場合、スーパー・ローテーションはいかなるものか。最後は自分自身の考えによって進路は決定するが、スーパー・ローテーションについては賛否両論あり「謎」。総合診療実習など始まっていないため、まだ良く解からない。