実習レポート
 

山口大学医学部4年  木原 千景
 
 

施設       三瀬村国民保険診療所
         白浜 雅司 所長  
     
学校内世話人   総合診療部  福本教授

実習期間     5月7日(月)〜5月12日(土)

実習テーマ    地域医療の見学と実習



私は、現在山口大学医学部の4年生で、4月から8月までの5ヶ月間、先端医療や地域医療などのさまざまな医療を考えるという目的で自己開発を行っています。今回は「地域医療の見学と実習」をテーマに、三瀬村国民保健診療所で1週間お世話になりました。


1. 目的

今回は、実習のテーマを地域医療の見学として、三瀬村での医療のあり方を見学させていただきました。
私はまだ4年生で、臨床的な知識をほとんど持っておらず診療の内容についてはわからない点が多かったため、私の関心は村の人と診療所のかかわりあい方に傾いていました。そこで、今回の実習の目的を、
1)実際の医療現場を見学すること
2)患者さんにとって診療所とはどのようなところか、また、患者さんと医師の関わりあいかたについて考えること
3)実習を見学して、将来の自分の理想とする医師像をみつけること
の3つに決めて実習に臨みました。


2. 主な活動


5月7日(月)  診療所での診察の見学
5月8日(火)  シルバーケア三瀬でのデイサービスに参加
5月9日(水)  診療所の送迎バスに乗車
         往診の見学
5月10日(木) 診療所の待合室での患者さんを見学
         小学校1年生の心電図の測定
5月11日(金) 診療所の待合室での患者さんを見学
         小学校の健康診断を見学


診療所での診察の見学


初日は、ゴールデンウイーク明けの月曜日でした。8時50分からのミーティングの後、9時から診察が始まりました。診療所は患者さんでいっぱいで、次から次へと患者さんが来られました。待合室は満員というほど大勢患者さんが来られていたけど、診察は次々と驚くほどに早く進んでいきました。
先生は患者さんをよく知っておられるため、患者さんは1から10まで全部を説明する必要はないといった感じで、先生が「調子はどう?」と尋ねられるのに対して「調子はよかよ」とか「腰が痛くて」と、一言二言答えれば通じるといった様子でした。時には患者さんが調子の悪さを訴える前から「今日はえらい元気がないね。体がきついかね?」と尋ねられる場面もありました。こういった診察は患者さんの普段の様子を知っているからこそできる診療なのだと思いました。
特に元気な様子でいつもと変わりがないとおっしゃる患者さんは、「変わりないよ」と言われている様子があまりに元気な感じなので、診療所には薬をもらいつつ、元気な様子を先生に見せに来られているといった印象を受けました。患者さんのこういった、元気な様子と具合の悪い様子のどちらも見られているからこそ、こういった診療が可能なのだろうなぁと感じました。
患者さんとの会話はスムーズで、一人の患者さんに対する時間は驚くほどに短かったけれど、その短い時間の中でも、患者さんの状態を聞いたり、「・・・の薬はまだある?どうするね?」といった具合に患者さんを主体とする医療が行われているのを感じました。


シルバーケアセンターでデイサービス


8時25分からのミーティング、8時30からの朝礼のあと、デイサービスの一日が始まりました。ミーティングでは、デイサービスにこられる方それぞれの、日常生活に関する注意などが話されました。
朝礼のあとは、バスでお迎えに行きます。その時に、バスを運転されているスタッフの方が、道を歩いているお年寄りに声をかけておられました。「どこへ行くの?」「眼医者に行くとよ。」と、会話されている村の様子がいい雰囲気だなぁと感じました。そして、「バス停までのっていきんしゃい」と声をかけておられた。いろんな人が知り合いで、助け合う様子は、小さな村ならではのいいところだなぁと感じました。
バスは、山の中の道をどんどんと進んで、家の前まで行くためにとても細い路地に入っていきました。
バスが施設に到着すると、すぐにバイタルチェックが行われました。血圧、脈拍、体温の測定が行われていました。施設には、テーブルと椅子、そして畳の座敷が用意されていました。車椅子の方や、畳に座りにくい方は椅子に座られていました。女性のかたは、畳に座られて、お話を楽しんでおられる様子でした。みなさん、思い思いにのんびりされていました。
施設の建物は、白く清潔で、大きな窓からは日差しがいっぱいにはいってとても気持ちがよく感じました。テーブルにはたくさんの花も飾られていて、こういったちいさな心遣いのおかげで、気持ちのいい空間ができているのだなぁと感じました。
他の方がバイタルチェックを受けている間、くつろいだりお茶を飲まれてゆっくりとされていました。
午前中はこのあと、動レクとしてボールゲームが行われました。これは紅白のチームに分かれてボールを蹴ってゴールを決める得点を競うゲームでした。片足でボールを蹴るのですが、車椅子に乗られている方も参加されて、すごい盛り上がりでした。女性も男性もさっきまで座ってのんびりとされていたのがうそのようにみなさん張り切って、ポーンとボールを蹴られている姿が印象的でした。この盛り上がりにはスタッフの方の心遣いが大きく影響しているように感じました。どの方もハキハキとしていて、こちらもつられて元気になってしまうくらい生き生きとした様子で、一緒にいてとても居心地のよい空間でした。
デイサービスに参加されている方もはつらつとした様子でした。この日は、前日に診療所に腰痛で来られた女性がデイサービスに参加されていました。そのかたの様子は、前日のつらそうだった様子とは違って、元気にレクリエーションに参加されていて、私はとても驚きました。「腰の具合は良くなられました?」と尋ねると、「まだ痛いけどね」と言われつつも、私と同じようにデイサービスの雰囲気につられてなのか、元気な様子でした。
診療所ではあまり見れない患者さんの姿を見て、その時々で見る姿は患者さん全体のほんの一部なのだと思いました。そして、同じ人にも、いろんな違った場所であって話をしてみたいと思いました。


送迎バスへの乗車

3日目には朝から診療所の送迎バスに乗せていただきました。バスは1便と2便があって、この2回で村の全体を周るそうです。この日は、最初のお迎えで5人の患者さんがバスに乗られました。
村の人にとって診療所までの足としてこのバスがとても重要だということが、バスで村を周ってよくわかりました。村の中とはいっても、徒歩や自転車では移動できないほどに広いのです。広大な土地も山道も、バスに乗って眺めると自然で、広くて、いい景色だなぁと感じますが、いざ歩け、といわれたら、私は途方にくれてしまうだろうなぁなどとぼんやりと思いました。それくらい、自然が豊かで広い土地でした。
バスに乗られた患者さんに挨拶をして自己紹介をし、患者さんの会話に加わらせていただきました。最初のうちは、私に気を使ってくださって、「いい天気だねぇ」とか、「いつまでおるの?」といった具合に話しかけてくださったりしました。しばらくして会話が白熱してくると、昔馴染みの人との会話が盛り上がって、ところどころは方言で早口なため聞き取れないくらいにテンポ良く会話をされていて、楽しそうな様子でした。診療所に到着するまでのこの時間も患者さんにとってはレクリエーションのようなひと時になっているのかなと思い、改めて送迎バスの大切さを認識しました。


診療所の待合室での患者さんとの会話


シルバーケア三瀬でのデイサービスに参加してから、患者さんはお会いする場所によっては違う顔をしておられるのではないかと思って、診療所の待合室で診察を待たれている患者さんとお話をする時間をいただきました。
診療所に来られた患者さんに「おはようございます」と挨拶をすると、どのかたもおはようといって笑顔でこたえてくれました。
私は、診療所に来られる患者さんは、診療所にどういうイメージをもっておられるのか興味がありました。最初、私は自分が白衣を着ていると患者さん側が身構えて、普段の様子がわかりにくいのではないかと心配でした。しかし、患者さんは学生の実習は慣れたものといった感じで、「医大生でしょ。佐賀医大からきたと?」といって話しかけてくださって、会話も思ったよりもスムーズに進みました。診療を待たれている方に自己紹介をして、いろいろな話をきかせていただきました。主には、村での生活の様子、例えば、あさはだいたい6時前にはおきて朝ご飯の前には散歩をしている、とか、昼は庭木の手入れをしたり畑を作ったりする、とか、時間があったらゲートボールをしている、などといった暮らし振りの話を聞かせてもらいました。あと、食事はあっさりとした野菜が好きで、家の畑で作った野菜を調理して食べることが多い、といったような食事の話や、3度のご飯よりも碁を打つのが楽しみ、といった趣味の話も聞かせてもらいました。
私がお話を伺った方は高齢者の方がほとんどでしたが、どの方も、畑仕事をしたり、趣味を楽しんだりして自分の生活(生きがい?)を大切にして生活していらっしゃるようでした。
診療所に対するイメージはというと、佐賀医大に入院したときと比べて、「先生がきやすかー」とおっしゃっているのが印象的でした。初日の診察の見学で私が感じたとおりに、患者さんはやはり先生を話しやすい存在をして感じているのだなぁと思いました。


3. 実習を通しての気づき


(1)病気とともに人を診る
診察の現場を見せていただいて感じたことですが、診察のときに大切なのが病気の状態とともに患者さんその人の状態をしっかりと見ることが大切なのだと感じました。私はまだ医学的な知識がほとんどないため、診察のポイントとか、良くわからないのですが、白浜先生の診察では、血液や尿などの検査を行ってそのデータを見られていたのはもちろんですが、患者さんの状態をくわしく見られて、その言葉に耳を傾けられているのが印象的でした。
医師の仕事を病気を治すことととらえてしまえば、医師は検査の結果だけをたよりに治療を行うことも可能です。しかし、医師が患者さんに身体的だけではなく、精神的、社会的に健康な状態で活躍してもらうためのサポートを行うのであれば、やはり、患者さんその人の様子をしっかりと診て、身体だけでなく、精神的な面からもアプローチが必要になってくるのだなぁと感じました。
実際に患者さんの状態を把握しながら行うことは、患者数の多い大きな医療機関では難しいことなのだろうと思いますが、なじみの患者さんの多いこの診療所で、病気だけでなく人も診るといった医療のあり方をみたような気がしました。


(2)デイサービス・介護保険について
老人介護の大きな問題点は、私は患者さんのクオリティーオブライフだと感じました。
前回の老人保健施設での実習でも感じたことですが、患者さんの尊厳、生きざまというものをどのようにして尊重していけばいいのだろうと感じていました。
体が思うように動かなくなったとき、介護が必要になるし、昼間家の方がいない間だけでもデイサービス、デイケアを利用することになります。
だからこそ、介護のサービスは、少しでも多くの時間をくつろいで過ごしていただくために快適なものでなければならないのだと感じます。
多くの施設では、介護される人の人数に比べて、介護者の人数は不足しがちだと聞きました。だから、どうしても次から次へと時間に追われて動いてしまうことになっているのが現状ではないかと思います。それに、ひとりひとりの方をつきっきりで見ていることは無理だという理由から、どうしても全員に同じことをしていただくことになってしまいます。
しかし、十人十色という言葉があるように、くつろいだ時間の過ごし方は、ひとそれぞれに違って当然ですし、みんながみんな歌を歌ってゲームをするのが好きとは限りません。静かに座って新聞や本を読んだりすることが好きな方もいれば、横になって休むのが好きな方もいるのだと思います。そういったひとりひとりの生き方を大切にするサービスが実現できないかと考えていたところ、ここの施設の介護は、私の理想とする介護に近いものだとわかって驚きました。
もちろん、レクリエーションや食事は全員でそろってされていましたが、食事のあとの自由な時間は、それぞれにオセロをして遊んだり、お昼寝をされたりして、思い思いの時間を過ごしておられました。
入所のかたの病室でもこのことをかんじました。
第一に、部屋が広く、ゆとりがあり大きな窓がついていることから、閉鎖的な雰囲気はまったくなく,開放感をかんじました。
そのほか、ベッドサイドには思い思いに千羽鶴や、ご家族の写真を飾られたりしていました。
なによりも一番驚いたことは、病室に畳の座敷のスペースがあったことです。大きなたんすも用意されていました。
私のイメージでは、病室というものは、なんとなく狭くて、ベッドの横にはものがたくさんおいてあるという気がしていました。一般の病院の病室では、入院は一時的なものだし、しばらくすれば退院できるから、それまでのがまん・・・、と思いますが、老人のための施設では、ちょっと意味が違ってくるのだなぁと思いました。特に入所されている方にとっては、のこりの人生の大部分をすごすかもしれない大切な生活の場所であるから、少しでも快適な状況にしていくことが必要なのだと感じました。


(3)QOL・医師としての役割
医療を行う一人として、病気が治って回復している患者さんをみるのはとてもうれしいことだと感じます。できることならすべての患者さんが、具合がよくなって健康な生活が送れるように治ってくれたらうれしいのですが、高齢者に関してはそうもいかない現状があります。高齢者で身体の機能が低下している患者さんに関しては、驚くほどの回復というのはめったにありません。低下していく機能を少しでも動かすことによって現状を維持していくという状態で精一杯だと思います。
では、こういった患者さんに、医療はどれだけの貢献ができるのだろうかと考えます。病気を治す治療と違って、患者さんの持つマイナスの部分を取り除くことはできないからです。医療にできる残されたことは、残っている機能でプラスの部分を最大限に引き出して生き生きとしたその人らしい生活を送れるようにサポートしていくことだと思います。何かができなくなることは確かに不便なことですが、それができないからといって不幸な人生しかのこっていないとは限りません。できることをして、生き生きと生きていくことはできると思うのです。この、残されたプラスの部分を見つけるのが患者さん本人、そしてそれをサポートすることが医療の役割だと思うのです。
今、三瀬村では新しい診療所の建設が進んでいると聞きました。そしてそこは保健施設が併設して建っているため、プールやトレーニングルームも利用することができるといううわさもききました。村の人も完成を心待ちにしている様子でした。
この新しい施設は、村の人たちが、「自分らしく、生き生きと、より良く生きる」ために、とてもいい施設になると感じました。特に高齢化の進んでいる三瀬村だからこそ、ひとりひとりのQOLを見据えた、保健・医療・福祉の連携が必要となってくるだろうと感じました。


(4)将来の医師像
実習を通して将来の理想とする医師像をさがしてみたいと思っていましたが、結局、いまだによくわからないままです。どういう医師になりたいのかはまだよくわかりませんが、ひとつだけわかったことがあります。
私は、病気を治すこととともに、その患者さんがまた元気に生き生きと生活していけるようにサポートしていきたいと思いました。