臨床倫理の考え方 (家庭医療5巻、1号、12〜17頁の自著に変更を加えたもの)

【はじめに】
 近年、総合診療の必要性が叫ばれる大きな理由の一つとして、過度の医療の 専門分化によって生じた医療の非人間性の問題があり、医療倫理はそれらの問 題を解決するため、これからの総合診療を行う医師が知っておくべき大切な分 野であると思われる。ただ大切だとはわかっていてもその範囲は膨大で、日常 の臨床に追われる中で、時間をとって自己学習をするにも限界があるように思 われるのも事実である。私自身、色々な倫理や哲学的背景を十分に学ぶ時間は ないが、何か臨床で出会う症例の倫理的側面について考える方法はないかと探 していて、1994年の夏ワシントン州立大学で行われたJonsen教授の医療倫理 集中セミナーに参加する機会が与えられ、その時初めて、臨床倫理の4分割法 の考え方を体験した。そしてこの方法なら臨床医が患者の情報を集めて診断し て治療に至るという思考過程に近く、実践的で使いやすいと考え、昨年より佐 賀医科大学の4年生の臨床入門の「臨床医療倫理」の講義、6年生の選択コー ス「臨床医療倫理」の討論で用い始めたが、医学生でも十分使いこなせてお り、日本の医療倫理的課題についてもかなり使えるという感触を得ている。こ の総説では私が担当して三瀬村で行った家庭医療学夏期セミナーの中で取り上 げた症例を再録し、家庭医(総合診療をになう医師)が、日常の具体的症例の 中で倫理的側面をどのように考えていくかのについて、一つの考え方を示して みたい。

【新しい医療倫理(バイオエシックス)が必要になった背景】
 1960年代にアメリカで起こった女性解放運動、黒人解放運動などの市民運 動のひとつとしての患者の人権運動が起こり、近年、医学の進歩が必ずしも患 者の幸福や満足に結び付いていないのではないかという反省から、患者の意識 を尊重しなかった従来の医師や医療関係者の態度や行為を批判して改善を要求した。また患者の中にも自分の身体のことは医師任せにせず、自己の意思に よって決定しようという気運が高まった。ヒポクラテスの誓いの「医師は自分 の能力と判断に基づいて医療を患者のために行い、決して害になるものを与え ない」というだけでは、たとえそれが患者によかれと思ってなされたとしても、患者の意思を無視したものになり、「医師は患者に良く説明して、患者が 理解し納得した上で進んで受けたいと思う医療を行う」ことが必要になってき た。また1962年にワシントン州立大学腎臓内科のスクリプナー教授を中心に 実用化された腎臓透析器について、誰に優先的に使うかという新たな問題がお こり、写真週刊誌「Life」が覆面の倫理委員会の写真をつけた「They decide Who lives, Who dies?」という衝撃的な特集を組んだ。このようなテクノロ ジーの進歩も新たな医療倫理的な問題を産むことになった。
 この様な働きに呼応するかのように、1969年にニューヨークにヘースティ ングセンター、1971年にジョージタウン大学にケネディ倫理研究所という2 つの有名な医療倫理の専門研究機関が設立され、特に後者の研究者を中心に 1978年Encyclopedia of Bioethicsが編纂され、どのような医療倫理的課題 があるのか、その意味についての検討がなされるようになった。ただし、この 時中心になった研究者は、倫理や哲学を背景とした理論的ないわゆる Professional Ethicistと呼ばれる人たちで、彼らは自律、恩恵、無害、正義 などを基本原則に、カレン裁判などいくつかの有名な裁判事例などの検討も加 えながらバイオエシックスの体系を作り上げてきたが、それは、必ずしも臨床 医が日常遭遇する倫理的課題をどう解決したらいいかというような問題にすぐ 役立つものではなかった。
 これに対し第一線の医療スタッフなどの中に、実際の臨床で役立つ臨床倫理 を目指そうという流れが出てきた。今回来日されたBrody先生もそのお一人で ある。ワシントン州立大学の哲学教授Albert Jonsen、シカゴ大学の内科教授 Mark Siegler、テキサス大学法学教授William Winsladeの3人が協力して Clinical Ethics--A practical Approach to Ethical Decisions in Medicineという本を1982年に出版した。その日本語版は赤林朗先生他監訳 により1997年に"臨床倫理学 臨床医学における倫理的決定のためのアプローチ" として出版された。その中で今回取り上げる臨床倫理の4分割法が 提唱された。さらに1990年より、臨床倫理の専門雑誌The Journal of Clinical Ethicsも出版されるようになり、この分野の教育、研究は着実に進 められている。Mark Sieglerらはこの雑誌の創刊号でClinical Ethicsの目標 を「日常臨床において生じる倫理的課題を認識し、分析し、解決しようと試み ることによって患者のケアの質を向上させること」と述べている。また Jonsen教授は前述の医療倫理集中セミナーの中で、Professional Ethicist たちの原理中心の医療倫理を空高く遠くに見える“Balloon type ethics:気球 型の倫理”と呼び、自分たちのの臨床倫理のやり方をもっと地に足のついた “Bicycle type ethics:自転車型の倫理”と呼んでいたが実にうまい表現だと感心した。

【臨床倫理の4分割表による考え方】
 簡単に言えば、ある症例の倫理的課題を検討するための道具として別表のよ うな4分割表を用い、Medical Indication(医学的適応)、 Patient Preferences ( 患者の意向)、QOL (生きることの質)、Contextual Features(周囲の状況)の4つの枠の中に問題点を入れて考えようとするもの である。この時2つのBoxに入るような問題があれば、両方に入れてもよい。 また4つのどれにも入らないような問題は一応最後の周囲の状況の中に入れて おく。そしてとにかくどの枠にも何らかの問題点を入れて検討するようにす る。とかく倫理的な問題はある一つの面だけが強調される傾向があるが、実際 の症例では多くの課題が入り組んでいることが多いのである。特に医師が最初 の医学的適応だけに目を奪われがちになったり、看護婦やソーシャルワーカー がQOLだけを強調したり、法律家が患者の意向だけを強調するような傾向があるのはある程度仕方のないことだが、このような道具を使って色々な職種の人が、(患者自身や家族も含めて)広い視野から討論するための枠組みと考えて もらうとわかりやすいだろう。私自身大学の講義では、倫理、社会学、法学の 先生などにも討論に加わっていろいろな気付きを与えられるし、ワシントン州 立大学ではこの様な講義は夕方6時頃から、医学部だけでなく、看護学部、法学部、ソーシャルワーク学部の学生、教官、地元の開業医などが加わった討議 形式でなされており、その講義自体が正に倫理委員会のようで意義深く感じ た。
ではそれぞれのBoxの内容を簡単に説明する。

1)Medical Indication(医学的適応)
 “Beneficience, Non-malficience”恩恵・無害性の原則

(チェックポイント)
1.診断と予後:実際にはしっかりとした予後判定は難しいことも多いが、臨床疫学などを使ってできるだけそのケースにあった客観的データーが必要になる。

2.治療目標の確認(目標として以下の7項目を挙げられている)
  a.健康を増進し、病気を予防すること
  b.症状、痛み、苦しみを緩和すること
  c.病気を治療すること
  d.予期しない死亡を防ぐこと
  e.機能を改善する、あるいは安定している状態を維持すること
  f.病状や予後について患者を教育し、相談にのること
  g.ケアを受けている患者に害を与えないこと

3.Medical Efficacy and Risks( 医学の効用とリスク):どのあたりで折り合いをつけるのか。この分野でも臨床疫学的データが重要になる。

4.Futility(無益性):アメリカでは脳死の判定が下されれば、それ以上の 治療は当然無益ということになるが、日本ではまだ脳死が法律的に認められて おらず、どのような状態の場合の治療を無益な治療と呼ぶのかについては今後 の検討が必要である。

2) Patient Preferences ( 患者の意向)
 “Autonomy”自律性尊重の原則を背景にしているが、日本ではまだ患者の 意見が全面に出てくることは少ない。これは、医師側に今だに「知らしむべか らず、依らしむべし」という感覚が残っていること、患者に自分の意見をはっきり言わず「おまかせ」の医療を望んでいる両方の問題があるだろうが、今後 は患者と医師が協力して患者中心の医療を進めていくことが大切で、この概念 は臨床倫理の中でも特に重要である。

(チェックポイント)
1.患者の判断能力があるか:重度の痴呆老人の場合には判断ができないし、うつ状態の場合は悲観的な判断をしやすいなどを考慮することが必要である。 患者の判断力に問題がある場合は、以下の事前の意思表示や、代理決定を尊重 することになる。ただ、日本では老人や子供には最初からわからないから、かわいそうだからと癌の告知などを避ける傾向にあるが、彼らは外から推測する以上に理解力や判断能力はあることが多い。

2.インフォームドコンセント:これまでいくつかの症例を検討してみて、日 本では癌の告知などこの問題が一番大きいように思われる。ただこの根本は医 療者とのコミュニケーションと信頼関係の問題で、最近ターミナルケアで有名 な柏木哲夫先生が提唱されているICC(Informed communication consent: 患者の理解力に応じたコミュニケーションをとり、十分患者がわかるように説 明して、患者がわからない部分を聞いた上で納得する)、あるいはISC (Informed sharing consennt:情報を一方的に伝えるのではなく感情を含めて共有する)などが大切になってくるように思われる。

3.治療拒否(Treatment Refusal):当然患者は医師から伝えられた治療方 針に対して、拒否することもある。その患者に判断能力のあると思われる場合 には、その意思を尊重して、別の方法や治療しなかった場合の対応について伝 える必要がある。他の医療機関を紹介してフォローしてもらうことが必要な場 合もあろう。

4.事前の意思表示(Living Will):まだまだ日本では尊厳死協会の会員のような自分が不治の病になったら、延命治療はしないでください等という文書を残しておく人は少ないが、患者が常々家族や周りの人、主治医にどのような 最期を望むと話していたかなどを聞くことは大切である。また日常の診療の中でも長期にフォローアップする患者には、最後はどのような治療を受けたいかを聞いておくことも必要であろう。

5.代理決定:誰が患者に代って患者の希望を代弁するかは難しい。これも日本では書式で残されていることは少なく、たまたま遠くに住んでいる子供が来て強行に延命を望むような事態が起きている。患者が誰を一番頼りにしているのか(聞き出せないときは、誰を頼りにしていたのかを)を聞き出すことが大切である。

3) QOL (日本語では生きることの質、生命の質、人生の質など色々な意味を 含んでおり、そのままQOLという言葉を使うことが多い) “Well-Being” 幸福追求の原則による

(チェックポイント)
1.QOLの定義と評価:色々な評価法が提唱されているが、身体、心理、社会的側面からの評価が必要になり、その評価には幸福 感:Happiness、満足感:Satisfaction、調和:Harmonyの3つの要素が含まれる。

2.誰がどのように決定するのか:患者が評価するのが前提であるが、判断力がない人ではやはり代理決定が必要となる。

3.QOLに影響を及ぼす因子:向上させる因子を取り入れ、低下させる因子を除 くこと。

4) Contextual Features(周囲の状況)
“Justice-Utility”公正と効用の原則による

(チェックポイント)
1.Family(家族や利害関係者):日本では家族の意向が強いが、これからは 患者本人の意思を尊重することが必要であろう。

2.Confidenciality(守秘義務):たとえば産業医の場合、患者の状態につい てどこまで雇い主の方に伝えるのかは微妙な問題である。まだまだ精神疾患や感染症については社会の偏見が強いので、慎重な配慮が必要である。

3.Costs(経済)、Public Interest(公共利益):日本の医療経済もすでに難しい局面を迎えている。アメリカのように医師が「この検査には100ドル かかりますがどうしますか。」と問い、患者が「それではやめます」というような会話を交さなくてすむように、無駄のない医療を目指す必要がある。コストだけでなく稀少資源の活用の問題もある。例えばICUベッドが一杯のとき誰 が一般病棟に移るのかなど。また感染症の隔離の問題など公共の利益を前提とした対応の問題もある。

4.Institution(施設の方針、診療形態、研究教育):施設やスタッフの数、研究や教育機関など診療の内容によってできる診療の内容は違ってくる。また治療スタッフ間の意見の対立なども問題になる。

5.Law(法律)、Convention(しきたり):例えば日本ではまだ脳死が法 的には認められていない。また慣習としてされていた患者からのお礼や、製薬会社のMRとの関係など。

6.Religion (宗教):エホバの証人の輸血拒否、公的なホスピスへの宗教団体のサポートの是非など。日本では目立たないが重要な問題である。

7.その他:これまでの分類には入らないが検討すべき倫理的問題。

【臨床倫理的考えの進め方】
1)(問題の認知と分析)倫理的問題がありそうな症例を取り上げ、問題点を 4分割表に記入する。
2)(調査検討)それぞれ挙げられた問題についてわからない部分を調査す る。
3)(具体的対応)4分割表全体を見回して、できることから対策を立てる。

【事例】では実際日本のケースを用いてどのように臨床倫理の4分割表を用い るかを示す。

ケース(治療を拒否し、安楽死の薬を希望する脳出血後片マヒの男性)
 55歳男性。食堂経営。高血圧を指摘されていたが放置。広範な左視床出血に よる右片マヒで国立A病院へ入院した。入院中より顔面のしびれ感や視床痛, 味覚障害があり,死んだ方がましだと言うこともあり、見舞いに来る妻への態 度も非常に攻撃的であった。約半年の入院治療で右片マヒは残るものの、自力 で車椅子移動まで出来るようになったため退院、以後家でリハビリを続けるこ とになった。しかし退院後だんだんとリハビリの意欲をなくし、家で寝たきり の生活を続けるようになり、ホームヘルパーの介護も拒否していた。最近足に 褥瘡ができたのではないかという妻からの依頼で近くの診療所の医師が往診し た。患者はいかにも迷惑そうな顔で、医師が「何がおこまりですか。」と質問 しても、「安楽死の薬を出せばいいんだ。こんな体で生きていてもちっとも面 白くない。」と答え、妻に「おまえが呼んだのか。」と怒鳴り、足の褥瘡を診 ようとすると「あー痛い、もっと上手にできないのか。」と怒っていた。足の 皮疹は褥瘡ではなく、不潔にしていることによる(風呂にもこの1カ月入ろうと しないとのこと)慢性湿疹と思われた。妻の話では患者はもともと頑固な性格 がさらにひどくなっているとのことであった。

[ステップ1(認知分析)]倫理的課題を4分割表で分析してできるだけあげ てみる。
医学的適応
 診断は視床出血による片マヒと視床痛で視床痛に対する治療はかなり難し い。
 皮疹は不潔にしていることによる湿疹で入浴して清潔にすることが必要。< BR>  再発予防として血圧のコントロールが必要。
 現在患者は意識もあり自分で食事もでき、無益な治療とはいえない。
患者の選択
 患者の判断能力は十分にあると思われる。
 鬱病が合併して悲観的な判断をしている可能性がある。
QOL
 こんな体で生きていてもちっともおもしろくない。
周囲の状況
 患者はこれまで家長としてまた食堂経営の中心として働いていたが急にその 役割を演じることができなくなった。

[ステップ2(調査検討)]分析された倫理的課題をもとに疑問点を調査検討 する。

医学的適応
 最終的治療目標は何か?
(皮膚は湿疹の治療、片マヒはあっても本人が新たな生きがいをもって生きて 行けるような目標が見い出せること)
 患者は鬱病を合併しているのか?精神科医の助言が必要か?
患者の意向
 患者が判断能力があるかについて精神科医のコンサルテーションが必要か?
 (必要だが患者は精神科医と会うことには気が進まないようであった)
 患者は本当に安楽死を望んでいるのか?
 (積極的に死にたいというよりは自分の状況を受け入れられな苛立ちのよう である)
 なぜリハビリテーションへの意欲をなくしたのか?
 (マンネリ化してしまった、根気がない、本人の興味がもてるようなリハビ リができなかった、リ ハビリの先生と良い関係ができなかった)
QOL
 どうすることが患者のQOLをあげることになるのか?
 病気になる前は何が楽しみだったのか?
 (ソフトボールとパチンコ、マージャンが趣味だった)
周囲の状況
 だれが中心に介護を行っているのか?
 (介護は奥さんが食堂の仕事をしながらがんばっている)
 家庭の経済的なには状況は?
 (身障者手帳が出て障害者年金がおりている)
 同居している家族は?
 (奥さんと、最近結婚した息子夫婦、近く患者にとって初孫が産まれる予 定)
 家族の介護への考えは?
 (リハビリに取り組んでほしいが、あまり言うとけんかになるので黙ってし まう)
 だれか一緒に話をするような仲間はいないのか?
 家族以外の社会的な資源は?
 (診療所の医師と在宅介護センターから週に一回の訪問は可能)
 (隣の町の病院からの週一回の在宅リハビリテーションは可能)
 (精神保健センターの医師や保健婦への相談や往診も可能)

[ステップ3(具体的対応)]倫理的課題へ今後どのような対応ができるかを 考える。

医学的適応
 清潔と外用軟膏による湿疹の治療。
 精神科とも相談して必要であれば鬱病の治療やカウンセリングを行う。
 視床痛の治療についてペインクリニックに相談して対応を検討する。
患者の意向
 患者に怒鳴られながらも定期的な往診を続け、患者との信頼関係を築く。
 患者には皮膚病については不潔にしていることによる湿疹だと伝え、入浴を勧める。
QOL
一度無理やりにでも風呂に入ってもらって気持ちの良さを味わってもらう。
 初孫が産まれたら本人の生きがいになるのではないか。 
周囲の状況
 だれが具体的にかかわれるか検討する。
 奥さん以外の息子さん夫婦の協力を依頼する。

【臨床倫理の目標】
現在私は臨床倫理の目標を以下のようなことにおいてい る。

1、日常の臨床の症例の中でおきている医療倫理的ジレンマに気づくこと。
2、ジレンマについて臨床医療倫理の方法を用いて問題を分析して、具体的な 問題点を上げること。
3、個々の問題点について何がわかって何がわかっていないのかを明らかにし、わからないものについてはカルテの検討、文献検索なども行って調べるこ と。
4、問題の解決法については、一つの倫理的原則を押し付けるのではなく、 患者を中心に色々な人の意見を参考に(私たちの「臨床倫理」のコースでは症例を、医学だけでなく、法学、社会学、心理学などの教官が加わって討議したり、国内外でこのようなことに関心のある医療従事者や市民、の意見をインターネットを用いて伺っている)しながら、最終的には、自分が主治医として次に何をするのか悩みながら決定して ゆくこと。
5、日本の医療の医療倫理的問題は、実際には現場の医師・患者間のコミュニ ケーション不足によるものが多く、患者の意見を聞ける力、患者にわかるように話ができる力を養うこと。
6、今後このような教育を受けた人が核になって、日常のカンファランスで倫理的課題が普通に討議されるようになること。
7、病院内あるいは地域内に臨床倫理コンサルテーションチームを常設し、毎 日色々なところで発生する倫理的課題の相談を受けるようにする。このことは 患者ケアの向上だけでなく、倫理的課題を気にしながら、日々の診療に追われ ている医療スタッフの精神衛生の上からも有用であると思われる。

【今後の課題】
1、このような臨床倫理がどれくらい日本の倫理的課題を検討するのに使える のかについての検討。
2、更にこのような検討が、具体的に医療スタッフの倫 理的判断力、患者のケア、患者の満足度の向上につながるのかどうかの検討が 必要であると思われる。

【さらに臨床倫理を学びたい人への参考文献】
以下にそれぞれの分野で役立つ参考図書を挙げる。

(辞典)Reich W,ed:Encyclopedia of Bioethics,2nd ed. Macmillan Pub Co.
 医療倫理を考える人のバイブルともいわれるバイオエシックスの集大成され たもの。1978年に第1版全4巻が出版され、1995年に第2版全5巻が出版さ れた。高価な本ではあるが、大学や大きな病院には一揃い備えられることをお 勧めする。価格$375.

(雑誌)
1.Journal of clinical ethics:University Publishing Group,12 South Market Street, Suite 301,Frederick, MD 21701, U.S.A. 1998年に創刊さ れた若い雑誌であるが、臨床医療倫の専門誌で、この分野で活躍している方々 の臨床と研究両面に役立つ論文が多い。季刊。年間119$。

2.Hasting Center Report
伝統のあるHasting Centerから出されているレポート。複月刊。

(教科書)
1.Jonsen AR, Siegler M, Winslade WJ:Clinical Ethics--A practical Approach to Ethical Decisions in Clinical Medicine (3rd ed.). McGraw-Hill, New York, 1992.
(日本語翻訳版が赤林朗、大井玄監訳「臨床倫理学:臨床医学における倫理的決定のための実践的なアプローチ」新興医学出版社、1997。私もこの翻訳に加わり、用語の定義などで苦労したが、「臨床倫理学」を臨床現場や教育の現場で用いる方々へという項を翻訳時に加えて、日本の方々にも使いやすくした。)ある意味でこの論文自体がこの本の日本の医療現場を考慮したダイジェストになっている。

2.Bernard.Lo:Resolving Ethical Dilemmas: A Guide for Clinicians. Williams and Willkins, Baltimore, 1995.

3.今井道夫、香川知晶編「バイオエシックス入門」(第2版)東信堂1992(第3版が出ている)

4.加藤尚武、加茂直樹編「生命倫理学を学ぶ人のために」世界思想社、1998

5.医療倫理Q&A刊行委員会編「医療倫理Q&A」太陽出版、1998

(新書)
星野一正「医療の倫理」、季羽倭文子「がん告知以後」(岩波新書)

水野肇「インフォームドコンセント」(以上中公新書)

中川米造「素顔の医者」、保坂正康「安楽死と尊厳死」(以上講談社新書)

森岡恭彦「インフォームドコンセント」(NHKブックス)

星野一正「インフォームド・コンセント」(丸善ライブラリー)

(臨床倫理関連のホームページ)
・佐賀医大総合診療部内の臨床倫理のページ
 http://www.saga-med.ac.jp/hsp/genmed/
臨床倫理の考え方や、それをもとにした実際のケース討論を載せている。国内外の方々のコメントもあり、興味のある方はホームページの中の連絡先にメールに皆さんのアドレスとご意見をいただければ新しいケース討論の症例をお送りし、討論に加わっていただくことも可能です。

・Cross-Cultural Issues in Medical Ethics:A Japanese/American Dialogue
(ミシガン州立大学の倫理討論のページ、英文)
http://iphh.cal.msu.edu/japan/#top
Howard Brody教授らが中心になってミシガン州立大学倫理センターで運営されている倫理症例検討のページ。日本からの症例に対しBrody先生を中心としたコメントをいただいている。これまで佐賀医大の学生とやってきた討論のケースも載っている。自分の意見を載せる場合は簡単な登録が必要だが、読むだけならDiscussion Forumをクリックし、guestのクリックで可能である。

・Eubios Journal of Asian and International Bioethics (EJAIB)
(筑波大学のDarryl Macer教授のところで作られている生命倫理の雑誌でインターネットでも読める、英文)
http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~macer/EJAIB.html
この何回か私と京都大学の浅井篤先生の症例検討と外国の方のコメントが載せられている。

【謝辞】
本稿は上廣倫理財団平成8年度研究助成による研究成果の一部で、これまでの 教育研究に対する助成に感謝致します。

(付表)臨床倫理の4分割法
 
医学的適応(恩恵・無害性) 

1.診断と予後  
2.治療目標の確認 
3.医学の効用とリスク 
4.無益性(futility) 

患者の意向 (自律性尊重) 

1.患者さんの判断能力 
2.インフォームドコンセント 
(コミュニケーションと信頼関係) 
3.治療の拒否 
4.事前の意思表示(リビング・ウィル) 
5.代理決定 
 

QOL(幸福追求) 

1.QOLの定義と評価 
(身体、心理、社会的側面から) 
2.誰がどのような基準で決めるか      
・偏見の危険 
・何が患者にとって最善か         
3.QOLに影響を及ぼす因子         

周囲の状況(効用と公正) 

1.家族など他者の利益 
2.守秘義務 
3.経済的側面、公共の利益 
4.施設の方針、診療形態、研究教育 
5.法律、慣習 
6.宗教 
7.その他 
                  

                     
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