地域医療実習(三瀬診療所実習・馬渡島診療所実習)レポート
佐賀医科大学 96006 岩永 学
実習期間 2001年5月21日〜6月1日
【はじめに】
今回、5月21日から6月1日まで三瀬診療所と馬渡(まだら)島診療所で地域
医療の実習をさせていただきました。地域医療は以前から興味があったのですが、
これまでは本やテレビでの情報のみで、漠然としたイメージでしか地域医療の現状
とその問題点を考えられなかった私にとって、今回の実習はいきいきとした像とし
て地域医療がどんなものか、描けるようになってきました。この場をお借りして、
三瀬診療所所長 白浜先生と職員・看護婦の方々、シルバーケア三瀬の職員の方々、
ホームヘルパーの方々、馬渡島診療所所長 大塚先生と看護婦の方々のお世話に
なったすべての方にお礼を申し上げます。ありがとうございました。また、1週間でし
たが、一緒に実習した筑波大の伊藤君にも、おかげでより楽しい実習になりました。
【三瀬村での実習】
初日(5月21日)に参加させていただいた三瀬村役場での高齢者サービス調整
チーム運営事業打ち合わせ会が、実習中ずっと印象に残っていました。白浜先生、
保健婦さん、村役場の役員さん、デイサービスの方々、ホームヘルパーの方、在宅
介護支援センターの方々で情報をやり取りしあい、いろいろな方向から高齢者の健
康を包み込むようにサポートしていることを、この後のデイサービスや診療所へのバス
の送迎、往診、ホームヘルプ、在宅介護支援を実際に一緒に行き見学お手伝いして
みて、会議の持つ意味を実感してきました。この村では医療・福祉に関係する人が
みな同じ様に高齢者の健康を気遣い、守るために働いており、そのために必要な情
報はなんの隔たりもなくやり取りされるべきだ、という一貫した意識があるように感じ
ました。そのことを、老健施設のかたに言うと、白浜先生が自分たちの高さまで降り
てきてくださるからできたんだよ、とのことでした。私が今回最も学んだことはこのこと
だと思います。デイサービスでもホームヘルプでも在宅介護支援でも、医師の知らな
いところでの健康を守るために行われている努力とまったくかみ合わない医療は行
われるべきでないし、この三瀬村のように一体となって行われると、無駄のない、な
により高齢者本人たちにとって、いつもどこかしらの人が気遣っててくれる、安心して
暮らせる地域となるのではないかと思いました。
【馬渡島での実習】
佐賀医大の学生として、馬渡島の診療所に実習にいったのは、私が始めてではな
いでしょうか。白浜先生と佐賀リハビリテーション病院の吉原先生と馬渡島診療所
所長大塚先生のご厚意により、離島での医療の体験をさせてもらいました。
馬渡島は佐賀県呼子と長崎県壱岐とのちょうど間にある島で、定期船で約30分の
距離で、人口は約600名、高校生までの児童が百数十名、高齢者が二百数十名と
聞きました。島へは毎日4往復する定期船(片道800円)が主な島民の足で、物
資を運ぶ不定期の貨物船やチャーター船、海上タクシーなるものがありますが、海
上タクシーは一往復5000円ぐらい、チャーター船は一万以上だそうです。それでも
緊急の疾患・事故で唐津などの大きな病院での治療が必要と思われるときは、利用
されるとのことです。また、ヘリポートがあるとのことでしたが、詳しくは聞きま
せんでした。馬渡島で一番高い番所跡からの景色は絶景で、360°海が見渡せ、ま
た自然がいっぱい残っていて野生の山羊や雉がおり、とてもよい所でした。
診療所ではその日は島民検診が行われており、胸写、心電図、腹部エコー、胃透
視が行われていました。血液データは、三瀬診療所には簡易な機械があり、30分も
すればCBCや生化学のデータは出てきたのですが、馬渡島では唐津のセンターに送
らないと出てこないとのことでした。それぞれの地域で備え付けられている機械に応
じて診療しなくてはいけない、ということは大学病院の実習ですぐに検査データを見る
ことができた環境にあった私がもつ能力では、このような環境ではまともな医療が行え
るだろうか?との疑問が浮かんできて離れませんでした。
【卒後研修セミナーに参加して】
地域医療の現場で必要な能力とは?どのように卒後研修を行えばよいのか?もし
かすると、ある特定の臓器の専門家になることよりも大変なのではないか、と思い始め
ました。仮に私が専門医だとして大きい病院や近くに他の科の病院がある病院に勤務
しているならば、患者さんが他の科の領域の疾患を持ちそのことについて心配だ、と言
われたり、もしくはなにかおかしいと判断したとしても、コンサルトや他の病院の先生宛
に紹介状を書いて持っていってもらえば、よしとします。しかし、ちょっとやそっとで他の
病院までいけない地域の方や高齢者の、命や健康を守ることは、その地域医療を行っ
ている医師の知識と技量次第で、当然自分の力外の疾患・怪我であったとしたら、その
治療に一番適しかつ時間の猶予のある病院へと転送する判断に長けてないといけない
と思うのです。
そのような疑問を解決できるかもしれない機会として、卒後研修セミナーなるものがちょ
うどありましたので、参加してきました。
セミナーでは初めに琉球大の武田先生が臨床研修サバイバルガイドという題で公演さ
れ、研修医生活で自分の実力になることは大切だが、忙し過ぎて自分のQOLを損なって
いると、能率も悪くなるし、患者さんが不利益を被ることになることもある、といかに効果的
に研修医生活を送るかアドバイスしてくださいました。ある程度忙しくとも実力がつけば自
分のQOLなんて多少犠牲にしてもいいと思っていたのですが、やはりそのような研修の多
忙さを知らない時の気持ちだけではモチベーションを保てないのが現状のようです。研修
病院の指導医の方々もQOLを改善していくことが研修医の実力の養成・業務の能率をよく
するならば、そちらがよいとのことでした。
次に参加学生と研修医で数斑つくり、ディスカッションを行いました。議題は、研修病院
に何を望むか、でした。積極的な意見が出され給金のことから、休日の保証や当直室の
整備、など研修医のQOLを守り、リフレッシュが常にできるように、という意見が多かった
です。次に来たのは、スーパーローテーションのカリキュラムで無駄のない研修をさせて
もらいたいというもので、どんな専門にゆくとしてもこれだけは知っておかなければいけな
い思われる基本的技術が身につけられるか、というものが出ました。
いい機会でしたので、Generalist(地域医療などで働ける能力を持つ医師)とProfessional
(専門領域に長けてる医師)という将来自分がどういう医師になりたいのかというビジョンが
あるものが、その求められる実力が異なるものをどう区別して研修を行ったらよいのかという
ことを提案しました。研修医の先生は実際のところ内視鏡などはスーパーローテーションの
短い期間では当たらせてもらえない(飯塚病院)とのことでした。しかしこれからはGeneralist
の養成に力が入ってくるだろうから研修病院がいかに柔軟に研修システムを作ってくれるか
によるとのことでした。
【最後に】
この2週間は自分のやっていこうとする将来の医療像が描けてきた二週間でした。自分は
何を専門としようかと、人に聞かれるたび悩んでいたのですが、それは人を診るのに、分化
された一部の臓器のみに関心がどうしてもいかなかったからでした。
今回、地域医療実習をさせていただき、Generalistが他の専門に負けず劣らずの専門家
であることに気づきました。しかし逆にいえば、Generalistになることが生半可ではないこと
にも気づかされたことにもなりました。
日本ではまだGeneralistを養成する教育システムが確立していません。自分が考えてこれ
からを決めていかなければ、容易にたどり着けないでしょうが、頑張ってゆこうと思います。
本当に2週間ありがとうございました。