三瀬診療所の感想 佐賀大学医学部付属病院 研修医 池原絵里


 今までいろんな科を回ってきましたが、この一ヶ月間短い期間であったものの三瀬診療所で研修させていただいて、二年間の総まとめを受けた感がありました。広範囲にわたる地域医療での疾患を勉強しなおしたのももちろんですが、患者さんに接する態度、医療に対する考え方などを学びなおした気がします。
地域医療では、内科疾患(神経疾患、血液疾患、循環器疾患、呼吸器疾患、腎臓疾患、消化器疾患、代謝・内分泌疾患)、外科疾患(整形外科疾患、外科手術後)、小児科疾患等と疾患の範囲・年齢ともに幅広い知識が必要で、さらに介護保険などの保健や福祉の現状も把握して実践せねばならず、また、予防接種など公衆衛生の分野も手がけており、扱う分野が多大だなと感じ、実際にされている先生方はすごいなとつくづく感じました。
 この一ヶ月間、一番感じたのは、大学病院や市中病院など大きな病院での医療と地域での医療のギャップです。ここに来るまでは、大学病院、国立佐賀病院、国立嬉野医療センターと大きな病院で研修してきましたが、診断するのが当たり前、治療するのが当たり前、入院するのが当たり前という雰囲気の中、生活の中心が治療に当てられている患者さんであり、説明と同意はあるものの治療方針は医療側から提供するもの、というものでしたし、知らぬ間に私もそれに慣れていました。扱う疾患は大きく異なりますが、三瀬診療所に来て、医師のみで治療方針を決めるのではなく、患者さんが何を現在一番困っているかを聞いて、患者さん自身と一緒に考え、意向に沿うような案を一緒に決めていっているのを目の当たりにして、治療が生活の中心ではなく、生活の一部なのだということ、医療は生活をよくするための補助的介入であることを感じました。
 また、患者さんの家族も大学病院と地域医療ではこちらに対する見方・態度は異なると感じました。大学病院においては患者さんとはよく話しましたが、患者さんの家族とは病状説明、術前・術後説明で説明すること以外は特にお話好きな方以外はあまりたくさん話すことがなかったように思えました。やはり、忙しさにかまけて動き回っていたのを理由に患者さんの家族とはあまり接点が無く、距離があったように感じます。三瀬診療所で研修させていただき始めた頃、ターミナルの方(80代)がいらっしゃって、どういう方針で看取るか・・・となったとき、ご家族は「何もしないでいたほうがいい」ときっぱりとおっしゃいましたが、どうしたいか、どうしたほうがいいと思うか、どうしてほしいか、医療側に対して話しやすい雰囲気であったのは、やはりそれまでその方を長期間診療してきて信頼されている白濱先生であるからこそだったと思います。大学病院でもターミナルの方はいらっしゃいましたが、50代と若いのもあるのか延命はしないでいいがやれることはやりたいとのご家族のご意向でした。そのときの私はいっぱいいっぱいであり、ご家族の言いたいことをちゃんと聞けていたかは自信なく、やはり壁というか距離があったのではないかと感じます。亡くなった後も、ご家族がどうか、気になりはしますが、特別連絡もとれずじまいでわからないままでした。それに対し、地域医療では、家族全員をみていることも多く、その方が亡くなった後ご家族が受診されてご家族の状態も目に見えるということは地域医療の特別な点であり、良い点であるなと感じました。
 三瀬診療所で研修させていただくまでは、この二年間、精神科で予診をとった以外は外来での診療はなく、入院でゆっくり時間があるのとは対照的に、限られた時間の中で問診にて必要なことを聞き出し、鑑別を上げ、診断し検査を行うなら行い、治療方針まで立てるといった外来診療に対して苦手意識を拭えなかったのですが、ここで、ある程度の数の患者さんを診察させていただいて、苦手意識を克服できた感があります。1ヶ月と短い期間の中でも何度かお会いする患者さんもいて、「その後どうですか?」とちょっとの時間、患者さんと知り合いになれた気がして、お話しするのも楽しかったです。この一ヶ月間で、患者さんの身体診察・胸部Xpや血液データ等の検査所見を見るだけではなく、患者さんの顔色をみて、患者さんの訴えを聞いて判断しなければならないことを再確認しました。患者さんの職業・家族背景・近況を把握しているからこそ、今の状況がどうなのかわかって診療できる地域医療の良い点を見て、患者さんと医療者側の距離が近いと感じました。
 今までは、介護にあまり関わる機会がなく、介護保険も学生のときに勉強したことしかなく、無知に近いものでした。介護保険の講演会(主治医意見書の説明会)に参加する機会があり介護保険を少し学びなおせましたし、シルバーケアで週一回体験させていただいてデイケア・ヘルパーサービスの現状をみれたこと、高齢者サービス調整会議にも参加させていただいて現在の三瀬村の現状・患者さんそれぞれの現状を把握しあうことが出来ているのをみて、保健・福祉・医療の連携の重要さを学びました。
 たくさんの大学病院と地域医療とのギャップは感じましたが、それぞれに利点・欠点があり、それぞれの役割があるのだとわかりました。
 私は麻酔科に進路を決めているのですが、専門を決めていても、この研修は本当に役立つ・身につく・自分のためになるものであったと思います。日常生活のなかの疾患、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、感染症などのCommon diseaseをどうやって治していくか学ぶことが出来ましたし、地域医療の中で外来診察や往診をされている白濱先生の姿を見て、私が最初に目指し始めたいわゆる”お医者さん”という医師像を思い出し、初心にかえったと思います。
 二年間の研修の最後にここで学ばせていただいてよかったなあと感じます。白浜先生をはじめ、看護師さん方、野口先生、シルバーケア三瀬の方々に大変お世話になりました。ありがとうございました。