実習者:筑波大学医学専門学群6年 引地里美
実習病院:三瀬村国民健康保険診療所
指導医:白浜雅司
実習期間:2001.4.16〜4.21(第1週)
[はじめに]
三瀬村国民健康保険診療所で実習させていただくことになった経緯:
筑波大学では6年時にElectivesと呼ばれる2週間の自由自習期間が設けられており、この期間は相手先が
受け入れてくれれば、当人の希望する医療機関・科で実習することが出来る。私は、どの科に進むにしろ、
病気そのものだけでなく精神・社会的側面を含めて患者さんの手助けを出来るような医師になりたいと考え
ており、それを実行していると思われる総合診療科における実習を希望し、筑波大学卒後臨床研修部に所属
しておられる前野先生に紹介していただき、三瀬村国民健康保険診療所と木戸医院で1週間ずつ実習させて
いただくこととなった。
※筑波大学の臨床実習制度について
筑波大学における臨床実習は主に5年次から始まり、6年の1学期まで続く。
5年生は1ヶ月(内科・外科各2週間ずつ)の外病院実習、約2週間の救急実習、1週間の筑波メディカルセンタ
ー病院における小児科実習以外は、大学病院の各科を2週間ごとにローテートする。すべての科を回ること
は出来ず、実際に回れるのは3分の2ほどの科だけになる。回る科は完全に自由ではなく、必修として麻酔・
救急・産婦人科・小児科・精神科・病理・内科1科があり、それ以外は各人の希望を考慮した上で学務が振り分
ける。
6年生は、海外実習者や研究室にはいる者数名以外は、外病院(筑波大学の関連病院)を回るグループと
大学病院を回るグループに分かれる。外病院を回るグループは、産婦人科・小児科・内科・外科・精神科をどの
病院で実習するか、幾つかの関連病院の中から選ぶことが出来る。外病院・大学病院、どちらのグループで
もElectivesと呼ばれる2週間の自由実習期間が設けられており、関連病院でなくても、相手先の医療機関
が受け入れてくれれば、好きな医療機関・科で実習することが出来る。その後2週間弱の公衆衛生実習で臨
床実習は終了となる。
[実習内容]
三瀬村診療所で白浜先生の診療を見学するのが主な実習内容であるが、その他村内の特別養護老人ホームで
デイケアに参加したり、ツベルクリン・BCG接種にも同行し、白浜先生が佐賀医大で仕事がある日は総合診
療科をまわっている佐賀医大の学生に混ざって実習させてもらった。
スケジュール
月:8:50〜12:30診療所にて外来見学,血圧測定
12:30〜13:30昼休み
13:30〜17:30診療所にて外来見学,血圧測定
火:佐賀医大での実習
7:00〜8:00総合診療部モーニングセミナー『医療の質改善』を聴講
8:00〜9:00総合診療部カンファレンス
9:00〜13:30外来見学
13:30〜14:00外来実習カンファレンス
14:00〜14:30昼食
14:30〜17:00コミュニケーショントレーニング
水:8:30〜12:10シルバーケア三瀬にてデイサービス
12:20〜13:30昼休み
13:30〜14:25村の中学校でツベルクリン
14:30〜16:00往診
木:8:50〜12:30診療所にて外来見学,血圧測定
途中送迎バスによる送迎を見学(2便,各35分・25分)
途中40分弱のビデオ視聴(『課外授業/ようこそ先輩−紙屋克子先生』)
12:30〜15:00昼休み
15:00〜17:30診療所にて外来見学,血圧測定
金:8:50〜11:30診療所にて外来見学,血圧測定
11:30〜12:40 小学校にてツベルクリン判定&BCG摂取
12:40〜13:30昼休み
13:30〜14:20中学校にてツベルクリン判定&BCG摂取
14:20〜17:30 診療所にて外来見学,血圧測定
土:14:00〜17:30佐賀臨床研修研究会総会
◎外来見学
白浜先生が診療を見学し、血圧測定が必要な人の時は血圧測定をさせていただいた。来る患者さんは、1
日に来院者数は30から50人ほどであった。高血圧・腰痛症などでfollow中の患者さんがほとんどであ
り、若年者で来る者は数人で感冒か外傷であった。これは65歳以上の高齢化率が20%を超えた過疎の村
であることが大きな要因であると思う。そのため、ほとんどの患者さんは血圧測定が必要で、とてもたくさ
ん血圧測定をすることが出来た。恥ずかしながら最初はまともに血圧を測れなかった。マンシェットを緩く
巻いていたり、コロトコフ音が聞こえなくなるまで段階的に血圧を上げていっていたり(140で聞こえな
ければ160、まだ聞こえなければ180というふうに)したため、本来のその人の血圧より高く測定して
しまったり、着込んでいる患者さんにいちいち上着を脱いでもらったりと、手馴れぬひどい測定であった
が、5日目には何とか自信を持って血圧測定できるようになった。
診療を見学していて印象的だったのは、患者さんがとてもリラックスして診療を受けていることであった。
大学病院では、大学病院であるということだけで萎縮したり緊張している患者さんも多かったし、一般病院
でもそれなりに患者さんたちは緊張しているように思えたが、三瀬村の診療所では知っている人ばかりの通
いなれたところであるためか、患者さんたちは皆リラックスしているように感じられた。患者さんたちの事
情や家庭背景なども先生、看護婦さん、事務員さんたちはご存知で、アットホームな雰囲気であった。ただ
その分よけいに、見知らぬ存在である私が何者なのか気になるようで、割とじろじろ見られたり、ちらちら
目線が痛かった。尋ねられた場合や時間があるときは「筑波大学から来ている医学生で今週1週間実習させ
ていただいてるんです。」と説明できたが、説明できなかった人も多く申し訳なかった。それはともかく、
患者さんたちがリラックスして診療を受けることが出来るのはすばらしいと思う。患者さんの医師に対する
信頼と安心感は、患者さんたちから不要な不安を取り除き、受診しない時でも心の健康に一役買っているの
ではないだろうか。
また、受診する患者さんの何人かは、ご家族の病状について質問したり相談したりしていた。家族ぐるみ
でケアしているため、例えば旦那さんの介護についての相談やぐちも聞くことができ、アドバイスも出来
る。患者さんも話すことで心が軽くなるだろうと思う。
◎往診
三瀬村はとてもきれいな村で、往診先までのバス移動でも風景を楽しめた。ただ、後で送迎バスで村の全
体を1時間弱かけて回った時に思ったのだが、風景を楽しめるくらい自然のままだということは、必然的に
移動が大変ということである。受診患者さんのほとんどは老人であり、送迎バスの存在や往診はとても必要
なものなのだろう。
◎佐賀医大での実習
内科/総合診療部モーニングセミナー:その日のスピーカーは総合診療部の小泉教授で、内容は医療の質
を改善するにはどうすればよいか、というものであった。Medical errorを生かし、次の失敗・事故を防止す
るために活用する。失敗を責めることは失敗を隠すことにつながる。失敗を責めるのではなく共有すること
によってMedical errorをMedical tressureにすることができる、という主旨でさらに具体的なお話もして
いた。筑波大学でも医療事故が連続して報道され、その後様々な変化があった。医療事故はそれがどうして
おきてしまったのか大いに考え、反省する必要のあるものだが、そのおかげでダブルチェックの徹底や患者
さんのネーム入りリストバンド、医療事故防止のための講演会、インシデントレポートの普及など望ましい
変化が起きてきている。様々な病院でおきた医療事故や医療過誤が次々と報道されているが、それが今後の
医療においてよい方向につながればよいと思う。
外来見学・外来カンファ:外来見学後の30分間のカンファレンスが驚きであった。総合診療部を回って
いる学生(10人弱)に対してレジデントと講師のDrが指導するのだが、そのやり方が変わっていて、その
日初診の問診を取った学生のプレゼンに対して他の学生が質問し、それに対してDrが評価や指導を入れてい
くというものであった。「診断がつかないときはまずそれが急を要するものでないか確認する」「循環、呼
吸、消化器、神経、筋骨格系など系統別に考えていく」など基本的な考え方を指導していた。30分間に3
例とスピーディであったが、充実していた。実際の症例からDrの指導を受けつつ診断を学べるとても効果的
な学習だと思う。学生の教育に力を入れているのだと感じた。白浜先生にそう申し上げたら「それが総合診
療部の役割の1つだから」とおっしゃっていたのが印象的であった。
コミュニケーション・トレーニング:外部の模擬患者さんまたは学生が患者役となり、Dr役の学生がそれ
を問診するという形のトレーニングは筑波大学では4年生で1回行われるだけだが、佐賀医大では4年生で
1回と、6年生で総合診療部実習中に2回の計3回行われるそうである。臨床実習前の4年生と1年間の臨
床実習後の6年生では、感じ方や視点も変わると思う。筑波大学のコミュニケーショントレーニングとの違
いは、まず患者役の学生が何の疾患の患者なのか、どういう症状・病歴を持つのかを自分で考えてきて演じ
る点である。考え演じることで患者さんの立場を考えるようになるのではないかと思った。さらに、外部の
評価者・協力者は模擬患者さんだけでなく心理学者も参加している点も異なる。また、患者さんへの接し方
だけでなく診断へのアプローチに対する指導もDrによって行われている点も異なっている。それらの点はト
レーニングとして有益に働いているだろうが、時間も手間もかかり、診療だけで忙しい科では実行が難しい
だろう。学生教育における総合診療部の役割は大きいのだろうと思った。
◎シルバーケア三瀬におけるデイケア実習
8:30朝会。8:45ごろからデイケア参加の人たちが集まりだす(計18人)。血圧・脈拍・体温測定し
た後お茶を配り、お話した。10:00ごろから瓶起こしゲームをし、11:30ごろゲーム終了、再びお茶
を配りお話をした。11:50ごろから昼食の配膳をし、12:10過ぎに私の実習は終了となった。デイケ
アに参加したお年寄りたちは楽しそうであったが、各人で楽しみ方は異なっているようであった。仲良しの
人と楽しくおしゃべりしている人もいれば、デイケア担当の職員とコミュニケートしている人もおり、ゲー
ムの時間以外は一人で新聞を読んでいる人もいた。デイケア担当の人たちは各人のやり方を尊重しているよ
うだったが、基本的に場が楽しい雰囲気になるように、仲間はずれの人が出ないように配慮していて、すご
いと思った。ゲームの間、生き生きしたお年寄りたちの笑顔が印象的だった。
◎ツベルクリン反応・BCG接種
ある中学生が「何の為にこの注射をするのか?」といったことに白浜先生がショックを受けていたのが、
印象的だった。自分が中学生の時、何の為にツベルクリン反応を調べBCGを接種するのかきちんと知ってい
なかったし、説明された記憶もなかったからだ。結核という病気を知っていて、そのためのものと知ってい
る子でも、ツベルクリン反応が何でBCGが何かまで知っているという方が珍しいのではないかと思う。しか
し、自分が受ける医療行為が何のためなのか知っておくべきというのはもっともだし、たとえ子供でもそれ
が理解できる年齢なら説明が必要というのは、確かにその通りだろう。義務接種ではなく任意接種であるな
らなおさらである。説明のプリントを配っても子供は読み飛ばしたり読まなかったりするし、親だってそう
いう人の方が多いだろう。きちんと理解してもらうためには直接説明するのが有効だが、人口の多い大都市
ではそれは難しい。しかし三瀬村の人口ならなんとかなりそうというお話であった。白浜先生と保健婦さん
は学校側と交渉して説明会を開く予定だそうだ。
◎佐賀臨床研修研究会総会
特別公演として赤津春子先生による「アメリカの卒後臨床研修」についての公演があった。アメリカの研
修医はとても合理的な研修制度で研修しているのだと感じた。各種カンファレンスが有効に活用されている
こと、当直の日は夜が完全にフリーになることが特にうらやましいと思う。ただ当直の日は36時間連続勤務
で新たな入院患者についてその日の内にすべてレポートにするなど、過酷な所もあるとおっしゃっていた。
その後、6人のシンポジスとによる「卒後臨床研修の実際―――研修医の立場から」というテーマのシンポジ
ウムが行われた。それぞれ佐賀県立病院好生館、佐賀医科大学、九州大学医学部、聖マリア病院、飯塚病
院、福岡徳州会病院で1年目の研修を終えた先生方で、自分たちが1年間どんな研修を受けることが出来た
か、その良かった点と悪かった点について説明していた。質疑応答で、どのようにしてストレスを解消して
いたかという話があったが、寝る食べるが主で、他に何の用事がなくても可能な限り町に出て気分転換す
る、たまに出来るスポーツで気分転換するというものがあった。まさに研修中の方の話である分リアルであ
った。
[最後に]
大学病院というのはある意味特殊な環境であると思う。患者さんも普段の生活から切り離されて存在し、
患者さんのバックグラウンドよりも疾患そのものだけに目が行きがちである。疾患も一般的に頻度の高いも
のよりもむしろめったに見ない稀なものによく出会う。大学病院で学ばせてもらうこともたくさんあるが、
それだけで一般の臨床の場に出るのは不自然だろうと思う。大学病院にいるだけでは学べない、貴重な経験
をElectivesの2週間でさせていただいた。実習先を紹介してくださった前野先生、快くボランテイアを引
き受けてくださった白浜先生、木戸先生に改めて感謝したい。ありがとうございました。
レポートは以上です。
本当にお世話になりましたと、奥様・かおりちゃん・恵ちゃん、診療所の皆様にもお伝えください。