報告
臨床倫理を実践するためのコミュニケーション
三瀬村国民健康保険診療所 白浜雅司(協力 岐阜大学 藤崎和彦)


<Summary>
Communication to practice clinical ethics
Masashi Shirahama, Mituse National Health Insurance Clinic

 In the workshop 18th annual session of Japanese Health Behavioral Science, we discussed the communication to practice clinical ethics with the cooperation of the simulated patient. To analyze the ethical problem, we need to know the patient preferences and to know the emotion of the patient. These things could not be understood without good communication with the patient and good team approach of the health care workers.

キーワード:臨床倫理、コミュニケーション、患者の意向を聞き出すこと、感情への配慮、チーム医療



<はじめに>
 今回の保健医療行動科学会で、「臨床倫理のコミュニケーション」というワークショップを担当させていただいた。臨床倫理という言葉を聞くのは初めてという方も多いかもしれないが、私は「日常診療の中で、医療者、患者・家族の立場や価値観の違いから生じる問題に気付き分析して、関係者が納得できる最善の対応を模索すること」と考えている。
 これまで、倫理的問題を含む事例の分析方法としてJonsenらの開発した「医学的適応」、「患者の意向」、「QOL」、「周囲の状況」の4つの視点から検討する臨床倫理の4分割法1)2)を用いて問題点を分析したり、その分析をもとにその事例への対応を考えたりしているが、事例を検討すればするほど、日本の臨床現場における倫理の問題の多くが、コミュニケーションの問題でもあることに気付くことが多かった。もう少し医療者と患者・家族の、また医療者間のコミュニケーションがうまくいっていればそんなにこじれなくて、またお互い傷付かなくて良かったのにというような事例が多いのである。
そういうわけで、藤崎和彦氏から「臨床倫理のコミュニケーション」というテーマでWSを計画してほしいという依頼を受けた時、WSを通して何か解決の鍵が見えてくるかも知れないと喜んで引き受けさせていただいた。倫理と聞くと非常に抽象的でとっつきにくい感じが強いが、今回模擬患者さんの協力を得て、倫理の問題をできるだけ具体的に体験して検討できたことに感謝している。
 事後報告の機会があることまで予定しておらず、十分な報告はできないが、今回の皆さんにいただいたアンケートなどをもとにWSの概要と、その中で提示されたコミュニケーションの課題をあげて、今回のWSの報告にしたい。


<臨床倫理を実践するためのコミュニケーション能力>
 まず、今回のWS案内では、臨床倫理を実践するため以下の3つのコミュニケーション能力が必要になるという仮説をたてた。
1) 情報収集のためのコミュニケーション能力
 必ずしも患者の意向の枠だけでなく、医療の目標の決定や、何を大切にして生きているのかをもとにしたQOLの評価、家族や経済的な問題等の周囲の状況など、4つの枠すべてに患者や家族からの情報収集が必要になる。
2) 情報伝達のためのコミュニケーション能力
 臨床倫理でも重要なインフォームドコンセントは、患者が理解して、さらには患者が質問して納得できてはじめて成立するものである。わかりやすく伝える技術、わからないことを聞き出せる技術が医療者に求められる。
3) チームとして患者の意思決定を支えるコミュニケーション能力
 倫理的問題の対応については、関係者が、それぞれの価値観を尊重しながら、その中で最善の方法をチームで話し合って決めていくことになる。最終的に患者の自己決定を尊重することは当然だが、日本の患者はふだんの生活から、自分一人で決めることに慣れているわけではない。そのような患者の自己決定能力をサポートするようなコミュニケーション能力が医療者には求められる。


<WSの目標>
 実際にどのようなコミュニケーション能力が臨床倫理の実践のために必要なのかを、手術の必要な子宮がんの設定の患者への対応を模擬患者さんの協力を得て、参加される皆さんと一緒に考えてみることを今回のWSの目標にした。


<患者シナリオ>
当日のWSは、最初に以下の模擬患者シナリオを配布して、どのような話をするのかグループに分かれて検討していただいた。


<患者設定> 河本 幸子さん  34歳 女性 未婚、出産歴無し(会社員)  
 現病歴:特に自覚症状はなかったが、1ヶ月前の会社の検診で子宮癌検診もすすめられ受診。結果は。bと子宮癌を疑う所見で、二次検診依頼用紙をもって1週間前この病院の産婦人科外来受診。担当医が内診を行い、肉眼的にも子宮頚部にがんを強く疑う所見があったため、早速コルポスコピーによる組織検査を行い、本日外来でその結果の報告と今後の治療方針を患者に説明する予定。先週の外来で診察後患者に「子宮の入り口が汚く、子宮癌の可能性もあるので組織検査で確認して、来週その結果を説明するけれど、もし癌であっても手術すれば、完全に取りきれると思う」と話したところ、患者は不安そうな顔をされていた。
 病理組織検査の結果は、子宮頚部の数カ所の組織から癌が確認されたが、内診で子宮の可動性などの問題はなく、子宮頚部に限局した癌で、進行度分類では3b期(悪くても2期)で、そのような場合の標準的な治療法としては、子宮全部と広汎子宮全摘という手術をすることになっている(子宮癌取り扱いより、手術で取る部分の図を提示した。以前は全例卵巣まで取っていたが、最近は閉経前の患者では卵巣は残しておくことが多くなった)。
この手術の有効性は一番信頼のおける大規模なくじびき試験の結果で証明されていて、術後の5年生存率は80から90%程度。副作用としては、膀胱付近のリンパ節をとるための排尿障害や、下肢の浮腫が多い(軽いものを含めれば、ほぼ全例におきる)。高齢患者など全身のリスクが高ければ、手術のかわりに放射線治療だけをすることもあるが、手術に比べてがんの10%ほど再発率が高いこと、放射線照射による慢性の下痢等種々の副作用もあることから、今回のような34歳の患者ではまず手術を勧め、術後に必要なら放射線治療を追加する。
 なお、この産婦人科の外来では、医師が癌などの悪い知らせを伝える場合には、必ず看護師が同席して、サポートすることになっている。また、この外来は予約制で患者一人当たりの診察時間は10分に限られている。


(ロールプレイの具体的内容指示)
 産婦人科外来再診の設定で、グループから選ばれた医師役1人と看護師役1人の2人の方で、患者さんに対応していただきます。予約外来で、1人の患者の診察時間は10分ですから、その中で何を優先するか、何を話して何を患者から聞き出すのか、医師と看護師の役割分担などを検討シートに記入して対応してください。8分たったところで、あと2分という合図をします。

 実際どのようなロールプレイをするにあたって、参加者が考えたものを10名程のグループに分かれて討論してもらった。
2つのグループ代表に医師と患者の代表者を決めて、ロールプレイをしていただきますが、その時に
1) 何を患者から聞き出すのか話すか
2) 何を患者に伝えるのか
3) 医師と看護師の役割分担
の3点だけはグループで相談して決めておくということにした。

 ただ、この3つについて討論をしていただこうとした時に、医師、看護師同席による病状説明するという設定が、現実的でないという意見がある看護師の方から出た。確かに日本の現状ではそういうチームによるインフォームドコンセントの設定は少ないのかもしれないが、私はこのような問題を医師だけが対応することの限界を考えていて、看護師がどのようなことができるか、理想でもいいから考えてほしいとお願いした。



事前のグループ討論で出てきた意見は以下のようなものであったようである。
(実際全体には代表のロールプレイの後に種明かしされたことだが)

1)何を患者に伝えるかについては
・ 検査の結果(子宮頚部に限局した癌であること)
・ 治療方針(広汎子宮全摘という子宮をとる治療法が勧められること)について、感情を交えずに医学的な事実をきちんと伝える。
・ 手術の利益と不利益(子宮をとったら妊娠できないことなど)を話す。
・ 患者の理解を確認した後、看護師にバトンタッチする。
・ 心配でしょうねと先に声かけする。
というような意見が出た。
2)何を患者から聞きだすのか
・ 重要な話になるので、今日聞くか、別の機会にするか。
・ 一人で話を聞きたいか、他の人も同席してもらって一緒に聞きたいか。
・ 同席するとしたら誰に同席して欲しいか。
・ 誰か相談したい人、治療のサポートしてくれる人はいるか。
・ セカンドオピニオンが必要か。
・ 検査の結果をどう思っているか。
・ 伝えたことを理解しているか。
・ 前回の説明を聞いた後の感情。
・ 結婚、出産の予定。
・ 質問がありますか。
・ 何を聞きたいか(術後の生活、性生活)
・ 他人に与える影響、家族の中での立場
・ 手術をどこでしますか。いつ入院できますか。
などを聞きたいという意見が出ていた。

 そして今回のWSの大きなポイントである
3)医師と看護師の役割分担については
(グループ1)実際に看護師が医師と一緒にインフォームドコンセントに関わるというイメージができないとのことで。医師の説明の場に入らず、医師の説明の後、看護師が入って、医師の説明のうち理解できたことを確認し、その後、患者の不安と理解度を聞く、妊娠についてのサポートをするというやり方。
(グループ2)医師が主に話をして、看護師は医師と、看護師のどちらの顔も見ることのできるところに座って、患者の表情、しぐさの変化に気をつける。医師が病状の説明、治療内容とそのメリットデメリット、予後似ついて話し、看護師はメンタルな面のサポート、医師には言いづらいことを(女性として)聞き出すことに努めるとうやり方。
という医師と看護師のリレー型と、医師と看護師の連携型という2つのタイプの医療面接が計画された。



<実際の模擬患者とのやりとり>
 実際の模擬患者とのやりとりとその後の参加者の意見交換を含めてまとめると以下のようになる。
(グループ1)医師の説明は、最初かなり一方的な情報伝達で、事務的であったが、意外に患者は冷静に自分なりの質問もされていた。その後看護師がサポートする予定だったが、前に医師の説明がどうだったかの質問が中心で、本来目指した心理感情的なサポートまでは十分にできないまま時間切れになってしまった。
(グループ2)医師と患者が見える位置に看護師がすわり、患者、医師双方の表情を見たり、大丈夫ですかなどという声掛けをしたりしていたのは良かったが、今一つ共同でサポートするということが難しそうであった。医師は患者の心情にかなり配慮しており、今ひとつ状態が悪いことが伝わってないように見受けられた(このことは模擬患者からのフィードバックでも指摘されていた)

 両グループとも、患者の意向を聞こうと準備していたのだが、病気の説明、治療の説明に時間が取られて、なかなか本人が結婚を控えていること、妊娠を希望していることなど患者が一番いいたい不安なことを言い出す状況をつくるのは難しかった。
また患者の不安な表情を見ると、何か声をかけようと思っても、なかなか次の言葉が出せないものである。
もちろん10分と言う短時間で、何も予備知識もなく、模擬患者と対応すると言う無理な設定の中でのインフォームドコンセントであり、本来のコミュニケーション力を発揮するのは難しいようであった。ただ、実際の日本の臨床では、限られた時間でこのような悪い知らせを伝えなければいけないという設定も多い。何とかまたこの人に聞いてみよう、相談してみようと患者が思ってくれるような、次につなげられるような関係をつくれるかが大事なことのように思われた。



<4分割法によるこの事例の問題点の整理>
確認の意味で、この事例の臨床倫理の視点から検討すべき問題点を4分割法で検討したものを提示したい。表にあげた4分割法の各項目の詳細についてはこの論文で詳述できないので、テキスト1)や筆者のホームページ2)を見ていただきたいが、この表にあげた4つの視点を考慮しながら、この患者の対応の問題を考えていくことになる。ただ、この事例を改めて検討しながら、医学的な適応の検査や診察による医学的診断以外は、いかに患者とコミュニケーションをとってして、患者の思いを聞き出せなければ、本当の対応できないことに気付かされた。


1)医学的適応 
  Medical Indication 
 “Benefit、Non-malficience” 
    恩恵、無害の原則 
 (チェックポイント) 
   1.診断と予後 
   2.治療目標の確認 
   3.医学の効用とリスク 
   4.無益性(Futility)
2)患者の選好 
  Patient Preferences 
“Autonomy” 
 自己決定の原則 
(チェックポイント) 
   1.患者の判断能力 
   2.インフォームドコンセント 
 (コミュニケーションと信頼関係) 
   3.治療の拒否 
   4.事前の意思表示(Living Will) 
   5.代理決定
3)QOL 
   QOL(生きることの質) 
   “Well-Being” 
   幸福追求の原則 
 
 (チェックポイント) 
  1.QOLの定義と評価 
(身体、心理、社会、スピリチュアル) 
  2.誰がどのように決定するのか 
 ・偏見の危険 
 ・何が患者にとって最善か 
  3.QOLに影響を及ぼす因子
4)周囲の状況 
  Contextual Features 
  “Justice-Utility” 
   公正と効用の原則 
 
 (チェックポイント) 
   1.家族や利害関係者 
   2.守秘義務 
   3.経済的側面、公共の利益 
   4.施設方針、診療形態、研究教育 
   5.法律、慣習 
   6.宗教 
   7.医療情報開示 
   8.医療訴訟 
   9.その他


 この臨床倫理の4分割法を用いて、ケースで4分割を考えてみると以下のような点があがった。(もちろんこれだけが正解というのではなく、我々が気付かなかった問題点もあると思われる)
(医学的適応) 
・ 病気の説明:子宮頚癌の初期であり、適切な治療で治癒の可能性も高いこと。 
・ 治療法:子宮を全部摘出する手術療法が、確実に癌を取り除けることから生命予後もよく一番勧められること(5年生存率が80から90%)、その他、放射線、抗癌剤の治療があること(そのメリットとデメリット)。ただし、この方にとっての治療のゴールは、やはり本人の希望がわからないと決められない。特にこの方は、妊娠可能な女性であり、どのように決めるのかを知ることが重要になる。
(患者の意向) 
・ 患者としては結婚をひかえ、子どももほしく、手術によって子宮を取りたくないことがわかった。(ただこの患者の思いを短時間で聞き出すことは難しい) 
・ 放射線、抗癌剤が別の選択としてあるが、これらも出産を考えると催奇形性があり難しい。 
・ 患者が非常に不安で感情的になっている場合に、どのようにおちついて理解して決定していくのを支えられるか。
(QOL) 
・ 自分の愛する人の子どもを産むという願いと、自分の命を大事にするという両方の価値の中で揺れ動いている。
(周囲の状況) 
・ 両親、将来の夫の意見も本人の意向と同様に知りたい。 
・ 日本で、医師と看護師がどのように患者のインフォームドコンセントに関わるかはまだ試行中。 
・ 10分と言う診療時間しか取れない日本の医療制度。 
などが挙げられた。4つの枠に分けることが目的でなく、4つの枠で眺めることで、色々な視点から患者が理解してわかること、自分の価値観を大事にして少しずつ決定ができるように支えることを模索していくことが重要と思われた。


 最後に、実際の対応に対して模擬患者の方からの意見をいただいた。もちろんすべての患者さんがこのように思うのかどうかとは言えないが、一つの視点として貴重な意見であり、再録しておきたい。

看護師に対して
・看護師というのは採血や注射をする人というイメージくらいしかないので外来の患者さんにはインフォームドコンセントにおける看護師の役割はとてもわかりにくいと思います。だから、何をしてくれる人か自分からアピールしてもらわない限り、ICの場に同席してほしくないと思いました。診察室に呼び込む時に「治療をうける上で困ったことやわからないことは相談にのりますよ。」などと声をかけてもらうと安心すると思いました。
・やさしい言葉をいろいろかけてくださるセッションの看護師役の方がいらっしゃいましたが、自分の立場(模擬患者の立場)を理解してもらってないのに声かけされても、ケアとなる言葉かけにはなってないと感じました。気を使ってくれているのはよくわかりますが「私のこと何も知らないのに」という思いは残りました。
・外来で診察につくのは難しいかもしれませんが、医師と連携して「子宮癌の告知をしたから」と言ってもらえると看護師も患者さんに声をかけやすいし、患者も診察中には気が動転しているので一呼吸おいてからの方が話しやすいと思いました。セッションのとき診察室をでる際「なんでも聞いてください」とか言葉は憶えていませんが、そのような次につながる言葉をいってもらい嬉しかったです。「医療者とつながっている感覚」は「ちいさな信頼関係」というか「信頼関係の芽」というもののように思います。

医師に対して
・あのセッションの場合、悪性と言われるかもしれないと予測して医師の告知を受けるので、はっきり言ってもらった方がいいです。
問題はそこからで、専門家としてどの治療方法がいいか伝え、何か困っていることはないか、一番心配なことは何かなどと聞いてもらい、その他の選択肢を話してもらった方がわかりやすいと思いました。
一方的に説明するのではなく、患者の精神的な状態を確認して話を次にすすめてもらうと単なる告知ではなくインフォームドコンセントになると思いました。「こどもをどうにかして産むにはどうしたらいいのだろう」と私はセッションのとき気になっていたのでほかのことが頭に入りませんでした。
・今思い返すと、あのセッションは話題になった向井亜紀さんと高田夫婦の場合と同じですね。卵巣を上にあげておいて放射線をあて、手術をし、代理母で出産するという。結婚直前の独身女性の場合、子宮癌のため結婚もできなくなるかもしれず、結婚している女性より問題は深刻かもしれません。女性にとって子供を産むということは夫婦の愛情の証だったり、夫に対する愛情表現であったりすると思います。実際、私も結婚し子供がほしいです。夫のこどもを産んであげたい、育てたいという気持ちです。
・生殖器の疾患は夫婦の問題でもあるので一人で治療を選択することは難しいです。夫に申し訳ないという気持ちが強くなります。前に藤崎和彦先生とこのシナリオの模擬患者の練習したとき「僕が彼に話してあげようか」と言われたときすごくほっとした気持ちになりました。
・診察に看護師がついている病院や診療所もあるので設定に無理があるとは思いません。実際、つぎ呼び入れる患者がどういう人で今日告知されるというところまで把握しにくいと思いましたが、そうであっても医師がバッドニュースを話された場合、「どうですか、お困りのことは?」などと途中で患者の状態を確認し一方通行にならないように配慮することはできると思います。
・この中で指摘されている看護師の立場については、確かにまだ看護師が病状説明で重要な役割を占めると言う状況が実際の診療現場に少なく、自分の立場を説明すること(医師からの説明に同席して、患者さんが理解して今後の対応を考えるためのサポートをしたいのですがと聞いて、同意されたら同席すること)も大事なことだと思います。他にも看護師がこのようなインフォームドコンセントに安易に介入することに対する患者から違和感があることが指摘されていました。臨床倫理の実践に熱心な看護師の方は医師以上に多いので、ぜひ看護師の立場でできる臨床倫理の実践を模索してほしいです。しかしその中心は患者の思いを知ることが重要で、患者の思いを聞き出すコミュニケーション能力がないままに、自分達こそ、患者の自己決定のサポート者だと言う思い込みは、ひょっとしたら、新たな医療者のパターナリズムになっているかもしれません3)。



<最後に>
 今回のコミュニケーションと倫理を結び付けるWSの形を提案して下さった藤崎和彦さん、そしてそのWSの実現のために御自身結婚を控え、お忙しい中、夜行列車でかけつけていただき、迫真の演技をしていただいたの石賀(旧姓頼田)奈津子さん、そして実際の医師役、看護師役として、ロールプレイをしていただいた方々の御協力に感謝します。ひとつの具体的な模擬患者との対応を実践していただき、その対応について多くの方々と意見交換することを通して、多くの気付きがありました。この報告では、それを深く検討して、文献的な考察を含めてまとめることまで発展できませんでしたが、今後の検討課題を記録として残す機会が与えられたことを感謝します。今後このような臨床倫理を実践するためのコミュニケーションの研究、教育が進んでいくことを願います。
 WSの最後に、長年このような模擬患者が参加する形の教育を続けられている先生から、実際に医師看護師として活躍されている方が、模擬患者が参加した教育をされると、ここまでリアルに深く学べるものかと感動したというおほめの意見を頂きました。全く私も同感でした。


参考文献
1)Jonsen AR, Siegler M, Winslade WJ: Clinical Ethics--A practical Approach to Ethical Decisions in Clinical Medicine (3rd ed.). McGraw-Hill, New York, 1992. (臨床倫理の4分割法について書かれたテキスト、日本語訳版が赤林朗、大井玄監訳「臨床倫理学:臨床医学における倫理的決定のための実践的なアプローチ」新興医学出版社、1997として出版されている)
2)「臨床倫理の討論」(臨床倫理の考え方について、これまで筆者書いた論文や、国内外の方々と検討した事例を載せたホームページ)
http://square.umin.ac.jp/masashi/discussion.html
3)白浜雅司:「倫理的な問題を医師と話し合えますか」看護管理13(10)、833、2003.