九州地区内科専門医による教育セミナー記録


「非がん患者の終末期ケア(エンドオブライフケア)について」

2007年1月13日(土):九州大学百年講堂


1、セミナーの目的 (司会)佐賀市立国民健康保険三瀬診療所 白浜雅司

2006年3月の射水市民病院での延命治療中止事件をきっかけに、終末期ケアの問題に関心が集まり、厚労省も終末期医療のガイドライン策定をはじめました。ただし、がん患者については、日本でも終末期の緩和ケアという考え方が受容されつつあるのに対し、心不全、呼吸不全、腎不全など非がん患者では、回復困難な時期になっても、最期まで積極的治療がされていることが多いのが現状です。今後もこのままでいいのか。非がん患者さんにどのように対応することが、患者さんに最善の終末期ケアを提供することになるのか、本日はご一緒に考えてみたいと思います。

私は、日本の終末期ケアには、以下のようなことが大切だと考えています。

1、終末期の治療について(特に癌以外の)のエビデンスを蓄積すること。

2、治療を始めたら中止できないということではなく、一定期間治療してみて回復しないときには治療を打切ることを確認した上で治療をはじめる体制を確立する。

3、終末期患者が最終的にどのような生き方をしたいかを話すことを避けないこと。

4、医師だけで決断するのではなく、患者・家族、他の医療スタッフを含めたチームで話し合って患者にとって最善の終末期の治療方針を決めていくこと。

5、患者・家族の手の届かない高度医療の枠組みの中で終末期医療が決められるのではなく、患者の人生観と医療の双方がわかる、かかりつけ医が治療の決断に関与すること。

 このようなことをより具体的に考えるために、本日は、緩和ケアが専門である丹波先生に基調講演をしていただいた後、専門各科から終末期医療の現状報告をいただき、最後にフロアーの方も交えた意見交換をしたいと思います。


2、基調講演「緩和ケアと終末期ケア」 自治医科大学附属病院緩和ケア部 丹波嘉一郎

1)癌と非癌で緩和ケアに違いがあるのか?

全く違いがないというのは言いすぎだし、逆に区別すべきというのは、本質的なところを外しているように思われる。そもそもWHOの緩和ケアの定義をみても、どこにも癌とも悪性腫瘍とも末期とも書かれてはいない1)。また、表1をみていただければ、癌も非癌も症候的には、大きな違いがないことをお分かりいただけるだろう2)

それでは何が緩和ケアの障壁になっているのだろうか?昨冬、筆者がカナダのエドモントンで3ヶ月の緩和ケア研修医体験を通して学んだ緩和ケアに必要なものを中心に述べていきたい。

表1.疾患群別の症状出現頻度(%)

 

AIDS

心疾患

COPD

腎疾患

疼痛

35-96

63-80

41-77

34-77

47-50

易疲労

32-90

54-85

69-82

68-80

73-87

混迷

6-93

30-65

18-32

18-33

?

食思不振

30-92

51

21-41

35-67

25-64

うつ

3-77

10-82

9-36

37-71

5-60

不安

13-79

8-34

49

51-75

39-70

呼吸苦

10-70

11-62

60-88

90-95

11-62

不眠

9-69

74

36-48

55-65

31-71

悪心

6-68

43-49

17-48

?

30-43

便秘

23-65

34-35

38-42

27-44

29-70

 

      Solano, Bomes, Higginson. JPSM 2006, 31:58-69

 

2)緩和ケアは特殊なケアではない

緩和ケアすなわち緩和ケア病棟で行われているケアという考えが未だに根強いように思う。ケアマインドは、医療人として誰しもが持っているものだろう。ただ、技術・知識面ではアドバイスが必要な場合も少なくない。一次緩和ケア(だれしもが行える緩和ケア)は技術であり、認定内科医であれば習得すべきであろう。さらに緩和ケア医によるコンサルトが利用できれば、一般病棟、外来、在宅ケア、介護施設どこででも緩和ケアを行いやすくなる。

身体を主体とした症状のコントロールについては、本来なら全国統一の緩和ケアマニュアルが、すべての医師に、できれば無償で配布されるべきではなかろうか。ちなみに、www.palliative.orgから、エドモントンで用いられている緩和ケアマニュアルのPDFファイルがダウンロードできる3)。 

3)的確に心身の評価する

緩和ケア医はお看取り役と思っている方が多いと思うが、エドモントンの認定緩和ケア医たちは、現地の内科医より身体診察能力が優れていた。加えて、患者さんの社会的背景、心理面の評価も的確に行っていた。

4)オピオイドの適正な使い方を知る

即効薬をタイトレーションやレスキューに使っているか?増量は決められた割合を守っているか?緩下剤や制吐薬を併用しているか?ローテーションは必要に応じて行っているか?など、原則に従わなければ疼痛コントロールは前進しない。

5)予後予測を患者さん中心に行う

「この病気でこの状態ならあと何ヶ月でしょう」というのは、平均値を語っているにすぎない。そうではなく、ADLを縦軸、時間を横軸にとったtrajectory line(病の軌跡)で、その患者さんが今どこの位置にいるかを考えるべきである(図1)。

6)せん妄を正しく理解する

「数時間から数日で生じる意識の障害と認知の変化であって、身体疾患の直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある」というのが、DSM-IVのせん妄の診断基準の要約である。つまり、精神科医でなければ対処できない病態とはいえず、むしろ、感染症、電解質異常、代謝障害などの原因を的確に評価できるのは、内科医に他ならない。

7)説明と同意の5W1H

 以下のような場と時をわきまえた対応を心がける。

When診断前,診断時,転院時,入院時,症状出現時などに

What: たんなる病名だけでなく病状を

Where: 落ち着いて話せる場所で ,大部屋不可

Who: (同意している)患者さんと家族と

Why: 皆が同じ方向性を保てるよう

How: 過不足なく,斟酌しつつ ,ゆっくりと,小出しに   

8)医療の代理権を含めた方針決定は大切である

緩和ケアで重要なのは、本人の自主性と尊厳を重んじることである。また、家族を尊重することもそれと同じくらい大切である。「お任せします」ではなく、それらを大事にするためには、本人の意思が明示できない場合の代理権をどうするのを明確にすべきである。そのためには医療者の保護の上でも法的な対応が早急に望まれる。

9)多職種参加のチームは有用である

当院の緩和ケアチームは、エドモントンの三次緩和ケア病棟と国保旭中央病院の歯科衛生士の活動を参考にしたので、診療報酬の請求できる構成とは大きく異なっている。専任の筆者以外は兼務で専従はいない。電子カルテを武器に何とか対応している。最も有用性を感じている職種は栄養士と歯科衛生士であるというのが、当院の欠点か利点かはわからない。非癌の患者の相談もあり、「自分は末期癌なのか」という有害無益な疑念を抱かせないためにも、チームの作業療法士と精神科医が直接対応をし、オピオイドの主治医への助言を筆者と麻酔科医が行っている。

10)非癌と癌の違い

症候的には大きな違いがないが、臨床上の問題点はいくつかある。

Trajectory lineの違い:癌は(図1)で示したように、およそ死の2ヶ月前くらいから急激にADLが低下し介助が欠かせなくなり、疼痛、呼吸苦、倦怠感などの諸症状が顕著になる。腎死の視点では末期腎不全も似た軌跡である。慢性の心不全や呼吸不全は増悪緩解を繰り返す。難治性の神経疾患はまた別の軌跡をたどる。したがって、癌と腎不全以外は、予後の推測は難しい。そして、患者も主治医も死を意識しえないということが珍しくない。「この患者さんがあと一年以内に亡くなられても不思議ではないかどうか」を考えていただくことが大切である。

・オピオイドの使い方の違い:著しい疼痛や呼吸苦の症状緩和にオピオイドが有用なのは癌に限らない。急性心筋梗塞での疼痛コントロールには塩酸モルヒネが用いられる。ところが、オピオイドの非癌性疼痛への適応は厳しく制限されている。オキシコドンやフェンタニルが使えないと腎障害患者には著しく不利である。また、モルヒネ自体も、塩酸モルヒネ末か即効錠、注射に限られ、徐放薬は使用できない。野放しでは困るが、非癌患者の症状コントロールにオピオイドをもう少し使いやすくしてほしい。

10)まとめと展望

 緩和ケアにようやく日が当たり始めた観があるものの、非癌患者への浸透はまだまだ先のことのように思われてならない。促進するには、緩和ケア医の養成と、一次緩和ケアの啓蒙普及、そして、一般医が相談できる緩和ケアの地域ぐるみの体制が確立される必要がある。内科学会と緩和医療学会が合同で検討する場が必要なのではないだろうか。


3、各疾患の終末期ケアの事例報告と提言

1)循環器疾患の終末期医療と緩和ケア 佐賀大学医学部循環器内科 吉田和代

 症例は71歳男性。急性心筋梗塞とそれに伴う心室頻拍により当科に緊急入院。回旋枝の完全閉塞を伴う三枝病変であり、緊急PCI施行し、IABPCHDF・人工呼吸管理を行い、急性期の救命には成功したが、著明な低心機能のため、心不全の増悪、循環不全による臓器不全を繰り返し、そのたびに薬物および機械的な循環・呼吸補助を必要とした。3回目の増悪に対し、カテコラミンの持続点滴静注に加え、心臓再同期療法目的での両室ペーシングも開始したが、心不全は次第に増悪し、右心不全による腹痛やせん妄が出現。 ACC-AHAのガイドラインにおけるRefractory End Stage Heart Failureの状態と判断し、家族と相談の上、気管挿管やIABPCHDFなどの処置は行わず、患者の疼痛や苦痛に対する緩和ケアを主体とした治療に切り換えることとした。緩和ケアチームにコンサルトを行い、塩酸モルヒネとハロペリドールの持続皮下注を開始。その2日後に死亡したが、その間、疼痛軽減時には死を受容するような言葉や家族に対する感謝・別れの言葉などがみられ、家族も終末期であることを受容することができた。循環器疾患は悪性腫瘍などと異なり、急性増悪と軽快を繰り返す疾患であるため、どの時点で終末期と判断するかが非常に難しい。しかし、拡張型心筋症や虚血性心筋症などによる重症心不全の病態は長期的にみれば進行性の全身臓器機能低下を来たし、治療抵抗性となる症例も多い。ACC-AHA2005年改定の慢性心不全に対する診断と管理のガイドラインでは、このような状態をRefractorEnd Stage Heart Failure (stage D)とし、同時にEnd-Of-Lifeの状態にあると判断される心不全に対する指針についても言及している(表2)。このガイドラインでは患者および家族に対し、生命および機能的予後に対する教育を行うことの重要性やホスピス、苦痛緩和のための麻薬使用などの使用を選択肢として挙げるとともに、より良い終末期ケアへのアプローチの必要性を述べている。本邦においては緩和ケア自体の歴史がまだ浅いが、非悪性疾患に対するホスピスやEnd-of-Lifeに対する患者・家族・社会への情報提供や教育も含めて、今後、治療抵抗性の循環器疾患に対する終末期医療・緩和ケアに対する症例、データの蓄積と分析、検討が重要と考える。


表2.ACC-AHAガイドラインにおける終末期の心不全に対する指針5)

Recommendations for EndofLife Considerations
(ACC/AHA 2005 Guideline Update for the Diagnosis and
                              Management of Chronic Heart Failure in the Adult)
Class
1. Ongoing patients and family education regarding prognosis for  functional capacity and
      survival is recommended for patients with HF at the end of life.
2. Patient and family education about options for formulating and implementing advance
    directives and the role of palliative and hospice care services with re-evaluation for clinical
    status is recommended for  patients with HF at the end of life.
3. Discussion is recommended regarding the option of  inactivating an  implanted cardioverter-
    defibrillator for patients HF at the end of life.
4. It is important to ensure continuity of medical care between inpatient and outpatient
    settings for patients with HF at the end of life.
5. Components of hospice care that are appropriate to the relief of suffering, including opiates,
    are recommended and do not preclude the options for use of inotropes and intravenous
    diuretics for symptom palliation for patients with HF at the end of life.
6. All professionals working with HF patients should examine current end-of-life processes and
    work toward improvement in approaches to palliation and end-of-life care.
Class
Aggressive procedures performed within the final days of life (including intubation and
  implantation of a cardioverter-defibrillator in patients with New York Association functional
  class symptoms who are not anticipated to experience clinical improvement from available
  treatments) are not appropriate.

2)呼吸器疾患の終末期ケア 佐賀県立病院好生館呼吸器内科 永田正喜

呼吸器疾患は肺癌を含め死に直面する機会が多いものの、特に非癌患者の終末期ケアについては何の示唆もないのが現状である。私見ではあるが、おそらくは良い終末期を迎えられたであろう症例と、残念ながらそうではなかったであろう症例を呈示させて頂きたいと思います。

症例1は74才の男性、両下肢の脱力と呼吸困難感で入院となった。SpO288%(O2 10L下)と低酸素血症を認め、

呼吸音は左肺で減弱、両下肢麻痺を認めた。胸部レントゲン、CTでは肺気腫と左下葉の肺炎、無気肺、左上葉に直径6cmの腫瘤を認め左第5肋骨、胸椎、脊髄に直接浸潤していた。入院後の喀痰細胞診から腺癌を認めた。酸素投与、抗生剤にて治療開始するも肺気腫、肺癌の脊髄浸潤や横隔膜麻痺のため喀痰の喀出が困難で気道を閉塞するため、度々SpO2の低下を認め、一日二回の気管支鏡による喀痰除去を施行した。それまでなだめながら気管支鏡を施行していたが第五病日から気管支鏡を全く拒否される様になり、家に帰りたいと度々訴えられる。御家族に気管支鏡の必要性や気管切開について説明をしたが御本人の意志を尊重したいとの意向が強く、以後の気管支鏡を断念、御本人・御家族の意向に添うように在宅酸素5L×2を導入し退院となる。近医に往診をお願いし快く了解頂いたこと、知り合いに介護士がいたことでスムーズに在宅医療に移行でき、御本人、御家族ともに笑顔での退院となった。退院後6日で永眠された。

症例2は84才の男性、肺結核後遺症、肺気腫、慢性呼吸不全に対して76才時在宅酸素1.5Lを導入、その後毎年肺炎を合併し80才時には在宅酸素3Lとなっている。自宅では在宅介護を受けていたが認知症もあり協力的ではなかった。84才時、発熱、呼吸困難で救急車にて搬入、胸部レントゲンでは陳旧性の肺結核と今回新たに右下肺野に浸潤影を認めた。呼吸数39/分、SpO2 89 %(O2 10L下)と低酸素血症を認め全肺野で喘鳴を聴取、起坐呼吸の状態であった。入院後はO2 投与、抗生剤、気管支拡張薬、ステロイドにて治療を開始、一時改善傾向を認めたものの呼吸筋疲弊のため第4病日よりCO2貯留、意識障害が出現した。肺結核後遺症、肺気腫の末期と判断し御家族に病状を説明した。また現時点で呼吸状態を改善するためには人工呼吸管理しかないが機械から離脱出来る可能性は低く、身体的・精神的負担も大きい。自宅での介護が必要となる場合もあり御家族も大きな負担を追うことになる、と説明し、5回の病状説明後に御家族は人工呼吸管理を希望され同日人工呼吸管理となる。その後気管切開を施行し、リハビリテーションを開始したが呼吸器からの離脱は困難で近医へ転院となる。

以上、患者やその家族により終末期の様相はさまざまであり、良い終末期医療を提供するために自問自答しながら治療しているのが現状で、私だけでなくおそらくは皆さんが難渋しておられる点は次の様な事ではないでしょうか。

・何がどの程度であれば呼吸不全の末期なのか。末期と診断された時点で治療の内容は大きく変わってしまう。こんな大事なことを一人の医者が自分の経験を元に判断して良いものなのか。

・呼吸不全の末期に人工呼吸管理という選択肢を提示すべきか。COPDなどは呼吸筋の疲弊など呼吸機能不全の状態であり人工呼吸管理をすれば一時的にでも改善することが多い。しかし、ほとんどの患者が離脱できない。

・痰の喀出のために気管支鏡をすることは是か非か。原因にもよるが自力で喀出出来ない、あるいは誤嚥を繰り返す事は末期ではないのか。一旦良くなってもすぐ同じ事を繰り返してしまう。

現時点では何の解決策も示すことは出来ませんが、今回のシンポジウムが呼吸器疾患、非癌患者の終末期医療をみんなで考えるきっかけになれば幸いです。


3)腎疾患の終末期ケア 佐賀大学医学部腎臓内科 池田裕次

腎疾患の特殊性は透析医療にあり、ここでは透析患者の終末期ケアということでお話したいと思います。以下透析患者独特と思われるような問題を含んだ4症例を提示します。

最初の症例は、13年間小児科で腹膜透析(CAPD)をされてきた症例です。18歳になりCAPDも長期化して限界に近いとの判断で、血液透析への移行を目的とした紹介でした。しかし116cmという低身長で、著明な石灰化により四肢の脈はどこも触れません。超音波でも確認しましたが、ブラッドアクセス(いわゆる内シャント)の作成はどの部位にもイメージできませんでした。両親へどう説明するか思案に沈んでいた時、母親の口からでた言葉が、「血液透析をしなきゃいけませんか?」でした。「しなきゃいけないのではなく、したくてもできないのです。」と私は強い口調で無情な言葉を浴びせてしまいました。腹膜透析が限界に来ているといいながら、腹膜透析でがんばりましょうという、まさに18にして透析の終末の宣告でした。

第2の症例は、心筋梗塞を繰り返し末期の心不全状態にいたった透析患者さんです。懸命な治療が約1ヶ月に渡り集中治療室(ICU)でなされましたが、それも限界との判断から、ICU退室の説明をした時でした。当然透析も困難との説明のつもりで、家人は殆ど全てのことを受容する中で、唯一「今24時間してもらっている透析(持続血液ろ過透析つまりCHDFのことですが)はどうなるのですか」と言われました。我々はその突然の予想外の言葉に、「透析はできる限り何らかの形でやります」と答えるのがやっとでした。そして、とても通常の透析のできるような循環動態ではなかったので、病室でCHDF4時間、週3回するという形を透析と呼んで、了解してもらいました。透析を行っている人々やその周囲の人々にとって、それを中止するということは、即、死を意味するのです。透析中止という決定の難しさを痛切に感じた一例でした。

3の症例は喉頭癌の手術後、多臓器不全となり、後遺症を残しながらも奇跡的に回復して10年後、徐々に悪化してきた腎機能が末期になり、その時肺癌も見つかった症例です。肺癌は手術の適応がある状態でしたが、妻がそれまでの経過からもう手術はこりごりと訴え、手術はもとより本人への告知も断固拒否しました。しかし透析は望まれたのでした。結局1年も経たないうちに閉塞性肺炎とシャント閉塞で入院されてきましたが、ショック状態で手術はできず、本来非常に温厚な方でしたが、われわれへの不信をあらわにされ、恨みながら死んでいかれたのでした。もうひとつの致死的病気をコントロールしないで、透析だけ行った場合の悲惨な結末の例でした。

最後は硬膜下血腫から植物状態となり、それ以上の改善は困難と判断され、家族と合意の下、透析中止を決定した60歳の症例です。5日目にはK8.8まで上昇したため、「今日明日が山です」と説明しました。ところがその翌々日から下痢が始まり、みるみるKは低下しました。透析中止後1号液500mL でキープしていましたが、途中から3号液に代えるという事態となりました。そしてついに、全くの無尿にもかかわらず1ヶ月以上も生存されました。何もしないということが、高度医療よりはるかに延命につながったと思われた印象深い症例でした。

こうした経験を踏まえて透析と終末期ケアについて考える場合留意すべきだと思われるポイントを3つ最後に提示させていただきます。

1:透析療法の真の目的は延命ではなく、患者さんのQOLの向上にあると認識すべき。
2:透析患者さんにとって透析の中止は死を意味する。
そしてこれは今回あまり触れなかったことですが、第3:透析患者さんには家族同様に、長年付き合ってきた透析施設のスタッフとの関わりも極めて重要。


 4、全体討論

主な質問と、シンポジストからのコメントを簡単にまとめます。

1)患者さんの終末期ケアについての希望はいつどのように聞くのか、また代理人指名や、終末期の積極的治療の中止はどのようにして決めるのか。

「急変で入院された時は、混乱して判断能力も落ちているので、経過を見て少し落ち着かれたときにとっている」。「回復不能の判断は、疾患、病状によっても違い、できるだけ多くのスタッフが検討して決めるようにしている。」「代理指名についてとることはまだまだ少ない。アメリカのように文書で残すことにこだわらず、日本人は日本人のやり方でやっていいのではないか。」「相手が希望し、これから一年のうちに急変して死亡することもありうると思われる場合には、どのような最後を迎えたいかについて話をするように心がけている。」「透析を怖がってしない方もいる現状では、あまり最初から、終末期の話をして、治療を最初からさしひかえる方向の話はすべきではないと思う。」「長年治療を受けている患者さんでは、関わるスタッフの意見も大事だが、スタッフ自体がいなくなることもあり、難しい。」「誰を代理人に指定するかは、現在の日本のように法律がない状態では難しい。やはりまず本人が意識のある時に決めておいてほしい。」

2)日本で終末期ケアを進めるために今必要なものは何でしょう。

「緩和ケアのトレーニングを受けた医師が各地にいてみんなが相談できるといい。特に話を聞いてあげられる人がいればいい。」「末期ケアこそ個別性が高く、色々な症例のデータベースが残っていくと役立つと思う。」「非がん患者が入れるホスピスがあるといい。」

3)一般の人に対する「死の教育」の必要があるのではないか。

 「同感。医療者だけで終末期ケアの改善は難しい。」「医師が、学校や地域で、死は特別なことではなく、人間は必ずいつか死ぬもので、そのためにどのようにより良い生を支えていくかということを語る必要があると思う。また誰かが病院で亡くなる時も遺された家族に死について考えてもらう貴重な機会だと思う。」


まとめとTake Home Message

非がん患者にも、終末期ケアが必要であることを忘れず、最善の終末期ケアのための経験を蓄積し共有していきましょう。

今回は佐賀地区の内科専門医が担当してセミナーを企画しました。テーマが大きすぎて、2時間で何らかの結論を導くまでには至りませんでしたが、100名ほどの方が、全体討論まで熱心に参加されました。ご協力いただいた皆様、本当にありがとうございました。今後もこのような問題を皆さんと一緒に考えていきたいと思います。


参考文献:

1)http://www.who.int/cancer/palliative/definition/en/index.html

2)Solano PJ, Gomes B.  A Comparison of Symptom Prevalence in Far Advanced Cancer, AIDS, Heart Disease, Chronic Obstructive Pulmonary Disease and Renal Disease.  J Pain Symptom Manage 2006;31:58-68.

3)Pereira J et al.  Alberta Hospice Palliative Care Resource Manual 2nd ed. 2001.

4)梶井英治(編).自治医科大学附属病院緩和ケアマニュアル 2004


5) ACC/AHA 2005 Guideline Update for the Diagnosis and Management of Chronic Heart Failure in the Adult.  Circulation. 2005;112:e154-e235.)