みつせ村診療所だより(11)
地域での感染症に対応するには

佐賀県三瀬村国民健康保険診療所 白浜雅司



 今年の冬はノロウィルス感染症が、マスコミで大きく取り上げられましたね。このような感染症の対策がマスコミで取り上げられる度に、感染症を油断してはいけないこと、予防への対策をきちんとしておくことの啓蒙に感謝するのですが、一方で、施設の管理不備を槍玉に挙げたり、感染症を特別な恐ろしい病気のように扱われたりすることが、医療現場に混乱を招いていることも事実です。痴呆などの老人の多い、入所施設では、ちょっとした脱水で急に命を落としてしまう方や、嘔吐したもので窒息するといった吐き出す力もない方が入所されていることが多いことは知っておいていただきたいことです。今回は、地域で流行する感染症に対してどのようなスタンスで対応すべきなのか書いてみたいと思います。


ノロウィルスの診断
 ある朝、前日に嘔吐下痢で点滴を受けた子供さんのお母さんから、切羽詰ったような声で、電話がありました。「先生うちの子は、ノロウィルスだったのでしょうか?学校の先生から、嘔吐下痢の症状で早退されたので、他の子どもへの感染の可能性もあり、ぜひ確認して欲しいという連絡がありましたので。」とのこと。
 私は困ったことになったなぞと思いました。マスコミがなぜ早く診断して、適切な対策を取らなかったかということを連日報道していましたので、担任の先生も早期の対策が必要のために確認をしたいと思われたのでしょう。その気持ちは何も悪いことではありません。でもまず大事なことはノロウィルスかどうかの診断ではなくて、その子の症状が回復しているか、他の子どもたちに同様の症状がないかの確認です。
ノロウィルスの診断は、現在外来ですぐ診断できる方法はありません。便の中のウィルスを培養して検査する方法は、数日以上かかるし、その診断料約1万数千円は健康保険も効きませんので、患者の自己負担になります。そこまでして、ノロウィルスの診断をする必要があるのでしょうか。もちろん、施設内で一度に、たくさんの嘔吐や下痢の患者が発生したら、食中毒を疑って最寄りの保健所に連絡して検査をしてもらうことは必要です。また、この寒い時期、嘔吐下痢を起こすウィルスは乳幼児嘔吐下痢症を起こすロタウィルス、インフルエンザのB型など、たくさんあります。その原因を全部検査に出していたら、いくら医療費があっても足りません。そしてほとんどの患者さんは嘔吐下痢で、ウィルスを出してしまうと1,2日で元気になるのです。


嘔吐や下痢も大切な働き
 患者さんや家族は、嘔吐や下痢をすぐ止めてほしいという方が多いのですが、嘔吐や下痢は体が、ウィルスを排除しようとしている大切な働きだから、できるだけとめないほうがいいんだよということを根気強く説明します。もちろん水分を補給できなければ脱水になりますし、特に高齢者、乳幼児では脱水がおきやすいので、飲んだり食べたりできているか、皮膚や口の乾燥状態のチェックは必須です。
 かぜや気管支炎の咳も同じです。皆さんすぐ咳を止めてくれと言われますが、もし痰を伴うような咳であれば、体が細菌やウィルスを出そうとしているのだから、咳止めで止めない方がいいよ。でも咳で眠れないとつらいから、夜だけ咳止めだそうかと話し、37度ちょっとで解熱剤がほしいという方にも、38度であっても本人がつらくないなら、熱があった方が体内のウィルスに抵抗する細胞が活性化されて早く治るんだよ。ただ耐えられる体温は、個人差が大きいので、だるくて、食事も食べたくないというような時は、解熱剤飲んだらと、インフルエンザでも安全といわれているアセトアミノフェンという解熱剤だけ出しています。
 そして本人と家族の方に注意深く状態を見ていて、悪化するような場合は、必ず明日再度受診して下さいと話しておくのです。翌日発疹が出て診断が付くことがあります。あと何を食べさせたらいいですかというのがよく聞かれることですので、食事は、下痢の性状にあわせて、水みたいな下痢だったら、ほとんど水のような、便がどろどろしてきたら少しどろどろした中身のある「おかゆ」などを与えてくださいと言っておくと、一番わかりやすいようです。


二次感染の予防が肝心
 もうひとつ大事なことが2次感染の予防です。嘔吐下痢を起こすウィルスは非常に感染力が強く、私は、患者さんの病歴から、ウィルスに汚染された火を通していない魚介類による食中毒よりも、感染者の便や嘔吐物が触れた、手や食べ物を介して人から人へ感染する二次感染の方が明らかに多いと思っています。
 そのような汚物の処理は、手袋をつけて行い、処理をした後や、外から帰ってきたときやトイレの後、調理の前、食事の前には必ず石けんで手をいましょう。下痢のあるときには、入浴はシャワーだけにするか、入浴する順番を最後にしましょう。また、1度発症すると、症状が治まっても2〜3週間は便の中にウィルスが見つかることがありますし、自覚症状のないまま、ウィルスを保有し、排泄している場合もあります。このようなことから、他の人と同じタオルを使わないというような気遣いは必要です。
 私の診療所では、熱や咳のあるような患者さんとそうでない方は診察室、点滴室を別にするようにしてきました。待合室で熱があって座っておくのもつらそうな人は、すぐ感染症点滴室に移ってもらって、早めに診察して点滴するなどの配慮をします。保育園のおたふくかぜや水痘など流行時は、診療所には親御さんだけに来て頂いて、私が車の中にいるこどもを診察にいくようにします。
日常的に、発熱、咳、嘔吐、下痢など感染症の症状がある場合、しばらく、老人の多い病院、施設への訪問は控えるのが大切なエチケットではないかと思います。最近咳をするときに口元をハンカチで覆ったり、顔を横に向けたりする患者さんが減ったということがある医師のメーリングリストで話題になりました。病気になったら、医者にかかるのは当然ですが、その医者が病気になって倒れたら困るのは、患者さんです。自分を守ると同時に、まわりの人も守るという感染症を広げないための公衆マナーはみんなが身につけたいものです。


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