1998年度、ケース4)糖尿病(セルフコントロールと退院の判断)
毎週火曜日の午後4時から学生と討論しますので、毎週月曜の夜(最終的には11/10)までに何かコメントをいただけると感謝です。


 
<症例4>
美容師の見習いをしていた18歳女性。急に体重減少と全身倦怠感を訴
え近医を受診し血糖値が400以上もありIDDM(インシュリンの注射が
必要な糖尿病)と診断され、A病院に紹介され、食事とインスリン注射
による治療が開始された。父親も糖尿病のため糖尿病やインシュリン自
己注射についての予備知識はあったが、注射に対して不安が見られた。
入院後、血糖値も100台とよくなり、本人もインスリンの自己注射に慣れ
てきたため退院が考えられた。しかし、現在父親が肝細胞癌で入院中で、
母親はそれにかかりきりになっていて退院すると家にいるのは本人と妹
だけになるので食事療法やインスリン療法が正しく行われるのかが問題
になった(実際に試験外泊の際に低血糖発作が起きたり、高血糖になっ
たり血糖のコントロールが乱れていた。)が、結局本人や家族の希望で
退院になった。
本人の性格は短気で負けず嫌いである。
一日10本の喫煙の習慣があり、以前はシンナーを常用していたことも
あった。

<この症例で討議したいこと>
1)退院すると糖尿病のコントロールが乱れる可能性が高い患者に退院
させてよかったのか。
2)このような患者に医療者はどのような対応をすべきか。


4分割表による分析

<医学的適応>
インスリン依存性糖尿病:血糖のコントロールがうまくつけば普通に近い生活
が可能だがそうでない場合、合併症(網膜症、腎症、神経症)が生じたり低血
糖高血糖の発作をおこし命に関わることもある。
患者の初診時の血糖値は400mg/dlで入院後100台にコントロール可能に
なったが、食事をきちんととらなかったため、低血糖などもあり外泊の際は乱
れていた。合併症は検査では認められなかったが手足のしびれはみられた。
治療目的はインスリン、食事療法で血糖をコントロールすること。
治療の有効性はある。

<患者の意向>
18歳であり判断能力は一応あると思われる。父親が糖尿病で注射もしていた
ので糖尿病がどのような疾患であるのか予備知識はあったが、なぜ自分がこん
な病気にかかってしまったのかという思いが強く、仕事や結婚、出産などが可
能なのか不安を抱いている。インスリンに注射が痛いのではないか、催奇形性
や副作用があるのではないかとの不安が見られたが治療の過程で多少は解消さ
れた。早く退院したがっていた。

<QOL>
一生治療を続けていく必要があり、好きなものを好きなだけ食べられない、飲
酒もできない、激しい労働もできない、常にインスリンや飴玉を持っていない
といけないなど若年者でもありQOLは低いといえる。仕事や結婚、出産に差し
支える。QOLについて決定するのは本人であり、周りが18歳だからうまくや
っていけると思っていても本当にそうなのかは解らない。

<周囲の状況>
本人にシンナーの常用歴や前腕に根性焼(たばこを押し付けた痕)があり非行
歴があることは明らかでそう言った友達もいるようである。
父親は入院中だがもともとアルコール依存があった。家は居酒屋を経営してい
る。経済的には母親が父親の面倒を見つつ働いているので安定しているとは思
われない。
退院すると本人と妹だけになるが食事を規則的に取る習慣はなかったようであ
る。
家は病院から遠く通院するのは困難である。



Thomas R. McCormick(ワシントン州立大学、医療倫理、カウンセラー)
(206)616-1820-ethics & 616-3023-counseling
Box 357120 UW School of Medicine
Seattle, WA 98195-7120

Thanks for the case of the 18 y.o. diabetic woman.
1. At the age of 18, people often are very different in terms of the
levels of responsibility they are able or willing to assume.  This woman
seems to be somewhat immature, either unable or unwilling to assume
responsibility for the careful management of her diet and insulin regimen.
We know of 16 and 17 year olds who have been very responsible in managing
their diabetes.  On the other hand, during adolescence, some teen agers
are in a process of rebelling against authority---and the medical
authority, often combined with their parents authority, may appear very
powerful, and paradoxically, she may be in rebellion against authority.
OR, she may also be "regressing" into a "helpless" "dependent"posture as
though she is a young child and needs her parents to manage her diabetes
for her.  I think both possibilities need to be explored psychologically.

2. Goal of medical treatment:
a. First, to get her glucose levels under control
b. Second, to TEACH her the responsibility of self care
c. To observe and inquire if there are behavioral steps related to
the insulin injections that are problematic, and finding a way to solve
these, developing a strategy, perhaps with psychological consult.
Good luck in this case.

Reply to McCormick by the student
Thank you very much for your advice.
I think that patient's effort, his family's support and medical staff's
back up are important. I agree with your advice.
But, in my country, social worker or psychologist are very few.
In your country, how do yo do mental care for these kind of patients?
Please teach me concretely.



瀬田 剛史さん(京都大学医学部附属病院総合診療部医師)のコメント

家に返すべきか返さぬべきか。
 家の事情もあり迷いがあったことと思います。結論からすれば、父親の件について、
先が見えないからとはいえ、それだけで入院を延長する理由にならないと思います。
自分が主治医ならば、ひとりの社会人として、また、契約医療の側面からも、今回は
退院で良いのではないかと思います。ただ、例えば京都大学では栄養指導を栄養指導
管理室(DM専門に扱うdepartmentの病態栄養部直属)で行っていますが、教育を受け
た結果どれだけ理解ができて皆さんが社会復帰できているか、分かりません。糖尿コ
ントロールは大変難しく、毎日の事なので、ルーズに知らず知らずのうちになって行っ
ているのが現実ではないでしょうか。また、若い人ですし、外食の機会が多いのも事
実だと思います。ですから、1度きりに結論を出さず、教育をかねた短期入院を挟み
ながら、これからすすめて行くのも一つの手と思います。簡単ですが、返事にさせて
下さい。さらなるメールで意見がかわるかも知れませんが。

<瀬田先生のコメントへの学生の返事>

コメントありがとうございます。18歳なので自立して生活できる年齢だしいつまでも入
院させているわけにも行かないと思いますが、非行歴があったり病院から遠い所に住んで
いたりして外来での指導にも限界があるとも思います。私(23歳、女)がもし糖尿病に
かかってしまったとしたら、仕事をしつつ食事療法をするのはかなり難しいかもしれない
と不安になりました。

<瀬田 剛史(京都大学総合診療部医師)さんより(11/7)>

case4のプレゼンテーションをして下さった学生さんへ
 コメントを見させていただきました。ちょうど1年前に自分も同じコースで倫理を
学び、いろんな先生方とお話する機会を得ました。白浜先生の御努力で、uminのホー
ムページで容易に議論できるようになり、また、自分が出したコメントに対する返事
をのせて下さり、佐賀を離れて京都からコメントを見ることができるようになり、本
当にいいなと思いました。
 「私(23歳、女)がもし糖尿病にかかってしまったとしたら、仕事をしつつ食事
療法をするのはかなり難しいかもしれないと不安になりました。」とコメントをいた
だきましたが、医師になって半年ですので、重みの有るコメントは一切で来ませんが、
これが最も大切なことではないかと思いました。少しでも患者さんの気持ちになって
物事を考えれば、そう大きなミスはせずに、良好な医師患者関係を築けるのではない
かと信じています。これは6年間佐賀医大にいて得られた結果です。いろんな先生方
から学び取った結論です。自分にはこれぐらいの結果しか6年間にはだせませんでし
たが、いろいろなことを医師になってから考え、自問自答して、学んで行っていただ
きたいと思います。
 あと6ヶ月もしないうちに国家試験が来ますね。その前に卒業試験でしょうが、ど
ちらにしても身体が資本ですので、健康だけには気をつけてもらいたいです。試験日
に風邪さえひかなければ、大丈夫と思います。
 それでは。 



<10/27の討論のまとめ>

18歳という難しい年齢で非行歴があり家庭にも問題があると思われる患者で
疾患に対しての受け入れがあまり良くない面(病気になった事に対して落ち込
んでいる。病院では問題ないが外泊すると血糖のコントロールが乱れる。コン
トロールが悪くても外泊したがることがあったなど)があり、退院した場合疾
患についての指導だけでなく生活指導や心理面でのサポートが必要であると思
われる。しかし、日本にはそういったシステムは十分ではなく外来で指導する
としても患者の家は病院から遠く困難である。どう言った対策を取ればいいの
かが今後の課題である。



横井徹(倉敷中央病院 内科、医師)さんのコメント(11/9

><この症例で討議したいこと>
>1)退院すると糖尿病のコントロールが乱れる可能性が高い患者に退院
>させてよかったのか。
>2)このような患者に医療者はどのような対応をすべきか。
この状況から考えると、血糖コントロールが悪いことが入院を延長
する理由にはならないと思います。まず、本人の糖尿病(インスリン)治療
に対する環境は、父親が実際やってきたのを見ているはずで、少なくとも
知識としてはまったく初めての人より有利でしょうから十分外来で指導可能
ではないでしょうか。ただし、父親が糖尿病患者としてどのように病気と取り
組んできたかによっては、変な先入観があるのかもしれませんので注意が
必要ではないかと思いますが。
次に現在の家庭の状況を考えると、両親が自分たちの問題(父親の肝癌)
で手一杯で、家族の成員各々が余裕のない状態であると想像されますし、さらに
この患者さんとしては”こんなときに自分が糖尿病なんかになって・・・なぜ?”
という思いは必ずあるのではないでしょうか。この点から考えても、入院をのば
してしまっては本人の精神状態がさらに落ち着かなくなってしまうのではない
でしょうか。血糖コントロールどころではなくなる気がします。
喫煙やシンナー歴はあまり大きな比重を占める問題ではないと思います。
最初からまったくばらばらな家族なら別かもしれませんが・・・。
さらには将来に対する漠然とした不安も必ずあると思います。
こういったいろいろな要素が結果的に血糖管理の乱れとして現れている
のでしょう。とすればただ入院を続けても、血糖値のみを医者が満足する値に
もってゆくことしかできないのではないか、と想像します。

とすれば、退院の上、本人の負けず嫌いであるという性格を生かしながらの指導
を行い、医療スタッフは血糖値だけをみずになぜこうなるのかをその都度論理
立てて説明し、本人が糖尿病は自己管理の必要な病気であることを理解して
ゆけるように助けることのほうが、高血糖およびそれによる合併症の管理より
少なくとも現時点では大事なことのように思います(ただしケトアシドーシスを
合併するようなら、入院もやむをえないでしょう)。
そのためには糖尿病医師、看護婦、栄養士だけでなく、精神科医、ケースワーカー、
カウンセラーなどがチームになる必要があるでしょうが、今の日本では難しいですね。
少なくとも、医療スタッフ側が「私たちはあなたの血糖だけを見ているのではない。
病気そのもの以外の、あなたが置かれているいろいろな状況も見ながらできるだけ
あなたが楽になれるように心がけているんですよ」という姿勢(だけでも)を見せる
必要はあると感じます。

<まとめ>
○退院自体は非難されるものでなはい。
○ただし、その後のフォローを怠ると非難されても仕方がない。
○退院後は常に緊密に連絡をとってこまめに治療する。
○何かあったらいつでも遠慮なく医療スタッフに頼れることを理解してもらう。
○実際の緊急事態に直ちに対応できるよう充分準備しておく。
○必ず自己管理ができるようになる、ことを患者自身さらに医療スタッフも信じる?。
○最初から完璧な血糖コントロールを要求しない。血糖値が異常でもそれのみを
責めない。その理由を考え(患者自身が気がつくようにもって行く)る。
○実際に低血糖が頻発するなら、インスリン量を減らし、できるようになるまで
血糖をやや高めに維持するようにする。インスリンをある程度投与していれば
少なくともケトアシドーシスにはなりにくいと思うのですがいかがでしょうか。
それより低血糖のほうが怖いですから。低血糖が遷延すると脳浮腫(脳内の
グルコースの欠乏によるATP減少のため、脳細胞障害がくる、だったでしょうか)
により不可逆性の障害をきたしますので。
以上でしょうか。
これなら何とか外来ででもできそうではないでしょうか?

糖尿病専門医ではありませんが、透析にかかわる医師として同じような
心理状態と思われる患者さんは結構いるような気がしますので、少し考えて
みました。前半は理想論と思うのですが、まとめの部分で少し現実的に
まとめてみましたので、ご了承ください。

私の勤める透析センターでは2ヶ月に1回の割合で医師、看護婦、臨牀工学技士、
栄養士、検査技師、ケースワークなど、透析患者に少しでもかかわるすべての
職種が一同に会して”透析患者検討会”を開いています。各々の立場からの問題点
改善点等を出してもらって、その患者さんに関する情報を共有しようという趣旨です。
今までに14回開きましたが、各々の立場からはなかなか見えてこないいろんな
問題があるのだな、ということを毎回のように実感させられてきました。
ただ、実際にどうすればいいかについては、すっきりした答えが出たためしはあり
ませんでした。
何れも長期透析患者や透析にやっとの思いで?通ってくる人を対象にしているため
必ずしも答えが出なくてもいいものかも知れませんが、その点4分割法による考え
方は何かすっきりしていて、応用できそうな気がしました。もし可能ならこの方法を
使って整理してみようと思います。
看護婦さんは以前からSOAPで問題点を整理するのになれていますので、僕のような
医者よりすすんでいるのかも知れません・・・。わからないことがあれば相談するか
も知れませんがよろしくお願いいたします。

横井徹(倉敷中央病院 内科)さんより(11/10)

何気なく夕方先生のHPを見たのですが、僕のコメントがもうUP
されていてビックリしました。
僕のあとに掲載されているコメントも読ませていただきました。
おそらくこのCaseは、仮に医療スタッフ間で検討会を行ったとしても
長時間に及ぶ議論になってしまい、なかなか結論を出すのが
難しいのではないかと感じました。

まして学生の立場で検討するとなると、これは非常に難問であろう
と想像します。僕自身の学生時代の状態を考えると、仮にこういった
機会があったとしても僕には議論できる下地さえもなかっただろうな、
と思います。このコースを選択する学生は将来皆良い臨床医になる
な、とうらやましく思います。

ちょっと付け足しますがこの症例の場合、父親の入院先が本人の
自宅や仕事場に近くて、近所にIDDMを合併症もトータルに診てくれる
かかりつけ医(内科専門医がのぞましい?!)がいて、入院した病院
と密な連携ができれば理想に近いか、と思います。実際にかかりつけ
医もいない、入院した病院にも通院できないとすれば、僕のコメント
は(退院後も継続的な指導ができることを前提にしていますので)
現実的ではなくなってしまうなと思います(参考にならない?)。
実際にはそんなことがないことを期待します。
僕は透析にかかわっているため、糖尿病による合併症は大変で
あることを実感しています。この症例が発症間もないIDDMとす
るならひとまず合併症を気にせず数ヶ月から1年ぐらいかけて
ゆっくり血糖コントロールと教育ができると思いますが、症例提示に
あった”しびれを自覚する”というのが気になりました。Neuropathy
でなければいいですね。また、考えたくありませんが父親にもしもの
ことがあったらさらに大変になるでしょうね。

今回のことでいろいろ良い勉強になりました。ありがとうございます。

学生から横井先生への返事
コメントありがとうございました。患者さんへの退院後の具体的な対応
の仕方や医療スタッフの姿勢など大変勉強になりました。
患者さんは結局半年ほどは血糖のコントロールもよくきちんと通院して
いましたが、その後家を出て独立して生活をはじめ血糖値は400台になり
病院へも来なくなったということでした。
病院が遠かったことや医師以外の医療スタッフがかかわっていく習慣が
あまりないというのも原因の一つと考えられます。東京などでは様々な
医療スタッフが関わるIDDMの患者さんの会などもあると聞き、佐賀でも
そのようなものがあればもっと違った結果になったのではないかと思い
ました。


三浦靖彦(航空医学研究センター、医師)さんのコメント(11/9

糖尿病症例の回答
 糖尿病の治療目標は何かを、まず考えなくてはなりません。
糖尿病は、生活習慣病ともいわれる疾患であり、日常生活の中で、管理して行かなく
てはならないことを念頭に置くべきです。完治ということはなく、コントロールする
という言葉が用いられるのもここから来ています。
では、インスリンを使用し、コントロール良好となった患者を如何にして実社会へ送
り出すかを考えてみましょう。
まず、
  疾患に対する理解
  治療法の理解・手技の獲得
  自己血糖測定手技の獲得
  食事療法の理解・実践
  合併症に対する理解
等が必要です。
退院するとコントロールが悪くなることがわかっているというのは、上記のうちの自
己管理に関わる部分ができあがっていないことを指すと思われるため、理想的には、
退院を許可できる状態ではないということです。もっと、栄養士との食事指導を頻回
に行い、試験外出・外泊を繰り返し、コントロールの悪化を見ないことを確認してか
らの退院が理想です。
もちろんすべての患者さんが、上記すべてを理解の上で退院しているわけではありま
せん。
したがって、退院後も継続的な指導が必要とされます。また、その指導に当たって、
主治医個人ですべてを行おうとするには、完全に無理があります。考え得る社会資源
・医療資源を投入しなければ、主治医がパンクしてしまいます。
私が今春まで努めていた国立佐倉病院では、糖尿病教室・腎臓病教室を各々開催して
おり、週1回1時間で、4週を1サイクルとして、継続的な患者指導(集団指導)を行っ
ていました。プログラムとしては、医師からの話、薬剤師・栄養士・看護婦からのそ
れぞれの必要分野についての話をしており、1サイクル出席すると、その疾患に関し
て、最低限必要な知識は得られるように工夫していました。
特に、本症例は、若年発症のDMですので、今後合併症の進展が危惧されますので、白
内障・眼底出血による失明、腎不全での透析、壊阻によるamputationなどについても
理解させ、厳密な自己管理ができるよう指導すべきです。

以上、思いつくままに、書き殴りましたので、ご容赦下さい。

<三浦先生のコメントに対する学生のお礼>
コメントありがとうございました。患者さん自身無理矢理退院したところもあったよ
うで血糖のコントロールも半年は良かったのですがその後悪くなって病院にも来なく
なったということでした。若い人なので入院中に母親の手を借りなくても自分でコン
トロールできるように指導できれば良かったのかもしれないと思いました。



  <学生による討論全体のまとめ>

18歳という微妙な年齢で家庭や本人自身にも問題があるというIDDMの症例であったが、
患者は退院後半年間は母親の勧めもあって定期的に通院し、血糖コントロールも良くで
きていたが、その後家を出て独立して(以前からつきあっていた彼氏と)生活をはじめ、
血糖コントロールは崩れそのうち病院にも来なくなったということだった。
IDDMの患者は経過が長いため合併症の予防のためにも血糖のコントロールが非常に重要
になる。血糖のコントロールがうまくいったとしても合併症が完全に防げるわけではなく、
3大合併症以外にも月経不順、妊娠の際に奇形や妊娠中毒症が起こりやすくなるといっ
た若年者特有の問題もある。また就職の際に糖尿病というだけで採用を断わられることも
多く、そのことを隠している患者も多い。結婚も健常者のようにはいかない。小学生の場
合いじめにつながることもある。
このように多くの問題があるので医師だけでなく他のスタッフや他の患者とも協力して
血糖コントロールについて本人ができるような指導を気長に続けていくことや患者の背景
や悩みについてもフォローしていくことが理想だとは思う。
現状ではなかなか難しいが、都会では実際に行われている所もあるようなので、横井先
生が示されたように、検査値だけでなく、患者の生活全体を支えていくという努力だけは
続けていくべきだと思った。

参考文献
ヤング糖尿病について:東京女子医科大学糖尿病センター小児、ヤンググループ編
           医歯薬出版株式会社 1993



松尾智子さん(現在ドイツの大学で法律の立場から生命倫理を勉強中、元看護婦)

Patient education
According to the principal information, the patient hasn't accepted
or won't accept her healthy situation. But is she too mature to it?
I think not, but she needs more educational commitment. There are
some IDDM patients-groups, and the doctor could ask some successful
patients with the similar situation with her and who could keep in
company with her, to go to her and talk with her. Not only from
medical stuff, but also under the interaction among patients
themselves and reciprocal supports can be counted.
For this kind of patients a long term educational caring and support
is necessary.
On the other hand, a public health nurse can be involved. In Japan
there is little communication between hospitals and public health
care centers, it is regrettable. After patient leaves hospital, we
could do nothing when the person doesn't come to hospital again.
Especially when the point comes to chronic and long term
educational care needed disease, it would be better if someone out of
family who live near him or her gives advice and has contact with her.

Personally I think she needs some reliable medical stuffs with
whom she can talk about her anxiety and problems. To keep medical
treatments rightly it is more effective and easier when the relation
between patient and medical stuff is smooth and near. The patients
are inclined to obey the instruction of the medical stuff because
they trust it during they have don't have enough actual feeling about
their health problem. Here we can say patient autonomy is based on
the trust between them in a sense.
 



白浜雅司(三瀬村国民健康保険診療所医師)のコメント

このような症例を学生が倫理的な症例として取り上げてくれたことは
良かったと思う。
倫理的と言うよりは患者マネージメントの問題といってもよい症例だ
が、学生は小児や思春期に発症した糖尿病治療の医学以外の面での難
しさを参考文献などから学んでくれていた。
患者会などがサポートになると言う発想もなかなか病棟実習だけでは得
られない。そのような情報を学生が自分で見い出してた。
上記の松尾さんのPublic Health Nurse(保健婦)の協力や、近くのかかり
つけの医師が責任をもって治療を継続する態度が必要になるだろう。
田坂佳千先生(広島県開業医)からも同じような意見をいただいた。外
来コントロールができる糖尿病 であれば、家庭医が検査値だけでなく生
活を含めてみた方が良い結果をうむのではないだろうか。もちろん入院
した病院の専門の先生との連携は大切だが、近くて 相談しやすい関係が
できていれば、注射や食事の指導もやりやすい。新しく生活を始めた彼
氏も含めた治療ができれば更に効果的だろう。外来に来なくなったなと
思ったら電話するのもいいだろう。
私も診療所に来てから、「最近誰々さんが来てないね。看護婦さんカル
テを出して」とカルテ棚からカルテをすぐとってもらい、「あ。もう薬
がなくなって一週間以上たってるね。電話で連絡してみてくれない」と
言うことが、簡単にできるようになった。このような第一線の地域の医
者の仕事の大切さを学 生が知ってくれたのも良かった。
それから私も図書館で資料を見ていてアメリカ糖尿病学会編集の「糖尿
病診療のための臨床心理ガイド」メディカルビュー社という本が出てい
るのを知った。
その本の中の「思春期糖尿病患者と一緒に進めていく」という項には、
親がやる治療から、患者自身が自分の責任で治療ができるようにサポー
トしていく過程が心理的な側面からこまかく書かれていた。すぐに日本
で心理の専門家がサポートするのは難しいとしても、今後このような資
料を参考にして、心理・社会的な側面にも配慮して効果的な治療を医療
スタッフは提供していかなければならないだろう。


この症例の英文の症例提示とコメント

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