インフォームドコンセント(臨床医の立場から)
三瀬村国民健康保険診療所所長/佐賀医科大学臨床教授 白浜雅司


Summary
患者の自律を支えるインフォームドコセントを行うにために必要な、「インフォームドコンセントの具体的内容と手順」、「何を、いつ、誰に、どのように話すのか」、「医療者と患者の橋渡し役の大切さ」などについて、臨床医の立場から解説した。
法律への対応というよりも、上記のような日本の医療現場に即したイオンフォームドコンセントを行うことが、結局は医療訴訟や医療過誤の防止につながると考えている。


1.はじめに
  近年、色々な背景から医療訴訟が増えていて、インフォームドコンセントの手続きを十分に踏むことが、訴訟回避の重要なポイントであることが言われている。確かにインフォームドコンセントが、主に米国で法的な側面をもとに発達してきたのは事実であるが、筆者は地域の診療所で働く臨床医、臨床倫理の教育者という2つの立場から、患者の自律を支えるインフォームドコンセントを追求することが、結局、患者や家族の信頼を手に入れ、医療事故や、医療訴訟を減らすことにつながると考えている。臨床医が法的に訴えられないことだけを目標に、形式的な同意文書の説明に終始して、リスクのある治療を控えるような保身医療に傾くことは、患者にとって望ましいことではない。
  この項では、インフォームドコンセントの問題を含む具体的な事例を提示して、患者の自律を支えるインフォームドコセントを行うにために留意すべきことを提言したい。


2.インフォームドコンセントの具体的内容と手順1)
1. 適切な情報の開示(少なくとも以下の4点には言及すること)
  a.現在の医学的状態(無治療の場合に予測される経過)
  b.予後を改善するかもしれない介入(そのリスクと利益)
  c.患者が選べる他の選択肢についての医師としての意見(そのリスクと利益)
  d.医師の最善の臨床的判断にもとづく勧告(インフォームドチョイスとしてこのステップをせずに、患者に治療法を選択させるということがなされることがあるが、筆者は、医師が自分なりに最善の方法とその根拠を示すことが医師の義務であると考えている)
 もちろんこれらの情報を示すためには、医師が十分な医学的経験と知識を持ち合わせていること、あるいは紹介する専門病院やインターネットを使って最新の情報を手に入れるような不断の努力が必要になる。
2.情報の患者による理解
 これが最も難しい。本当に理解しているかどうかは、患者にどう理解したか話してもらうことでわかる。
3.患者の自己決定能力の有無を判断し、判断能力がない場合には、適切な代理同意(Proxy Consent)を依頼する。
 今後判断能力の低下が起こりそうな方には、できるだけ事前の意思表示(Advance Directives)をしておくように促す。
4.患者が決定を行う際の自由意志・自発性の尊重
5.患者の同意(書面で同意をとることが、目標ではないが、理解したことを書面で書いて同意してもらうことは、正確に理解してもらったという判断の助けになる。)


3.何を話すのか
  上記のインフォームドコンセントの具体的な内容、すなわちa.現在の医学的状態、b.予後を改善するかもしれない介入、c.患者が選べる他の選択肢についての医師としての意見、d.医師の最善の臨床的判断にもとづく勧告を最低説明する。
しかし救急など実際の医療現場では、ケース1のように診断が確定できていない、ケース2のように適切な治療を進めるために詳しく話す時間的な余裕がない場合も多い。医学は決して完全でなく、予測しない事態も起きることがあり、すべての事態を予想して説明することは難しい。ただケース1では、最初の受診時には、医師は、正確な診断ができていないので翌日再診してほしいという指示をしていた。結果的には同じことだったかもしれないが、もし何の病状説明もなく「大したことはない心配ない」とだけ言って帰宅させ、翌日突然症状が悪化していた場合、家族はどんな気持ちがしただろうか。またケース2のように一般的な統計だけでなく、その施設での経験があればそのデータについても隠さず提示すべきである。もちろん最近は成功率がよくなったという提示の仕方をしても構わないが、悪いデータを隠して、何か問題が起きて、「そんなに難しい手術だということは聞かなかった」と訴えられた場合、当然医師側の過失が問われるだろう。


4.いつ話すのか
  よく検査がそろってから詳しく説明しますという言い方をすることがあるが、検査のごとに説明が必要なのである。検査や治療のひとつひとつの過程で、なぜそれをする必要があるのかをを話していくことで、徐々に話しやすい関係が生まれる。また、検査の前に説明しておくことで、必ずその結果の報告もきちんとするようになる。最初に今どこまで患者が理解しているのか聞いてみる工夫も必要。そして最後に何か質問はないか聞き、質問があったら、メモしておいてほしいと伝えておく。医療者が忙しくて十分な説明ができないという意見を聞くが、一度にたくさんの時間が取れなくても、ひとつずつきちんと対応していく姿勢が信頼につながる。


5.誰に話すのか
  判断能力のある場合は、原則として本人に伝える。まだ幼くて判断能力がない、高齢で判断能力が低下している、痴呆などの疾患で判断能力が低下している場合には、家族など適切な代理人に代行判断をお願いする。
  ただ、本人だけに話してその人が適切な判断ができるのかという問題がある。まだ日本では自己決定のあとに来る自己責任の重さを本当に理解している人は少ない。ケース2は、社会的な地位もあり、一見個の確立ができているように見えた患者のケースである。もちろんこの両親が訴えても、担当医は故意に患者に精神的なダメージを与えようとしたわけでなく、患者の願いに応じて告知したわけのであり、医師の過失を問われることはないであろう。しかし裁判で負けなければそれでいいのであろうか。日本では、家族が大きくインフォームドコンセントへ関わっている。だから家族の強い反対を押し切ってという対応をするとケース2のように後々問題を生じることがある。悪い知らせに家族も敏感に反応する。病気は患者だけでなくその家族も巻き込む。優先順位としては患者が先でも、家族もケアされなければならない対象であり、患者の死後もそのケアが残けられる必要がある。
一方、独居老人、老々介護のようにサポートする家族がいない患者も増えてきた。また家族のことは関係ないという生き方をする人もいる。日本の医師はこのような様々な家族の状況を把握して、患者家族双方に配慮したインフォームドコンセントを続けなければならないだろう。


6.どのように話すのか
 一度に全部話すのではなく、段階的な告知、ほのめかすなどという日本的な対応も大切にしたい。「医療者も患者もお互いに悪性の病気であることは知っている。でも癌という言葉はかわさない。」というよう以心伝心の関係は、高齢者医療などの現場で結構うまく用いられているように思う。
  また、こちらから話すのと同じくらい、患者が自分の不安を話せるように配慮すること。日本の患者はなかなか遠慮深く、自分の不安をストレートに言ってくれないことが多い。患者の話したさそうな表情に気をつけたり、医師よりも患者の立場に近く、患者と関わる時間が長い看護婦からの情報なども大切にする。


7.医療者と患者の橋渡し役を大切に5)
  先ほどあげた、看護婦やソーシャルワーカー、あるいは長期のかかりつけのプライマリケア医など、患者の思いを医師に伝え、医師の思いを患者にわかりやすく届けられる人の働きは重要である。ケース1やケース2での診療所医師と専門医の関係のような、診断・治療だけでなくインフォームドコンセントにおける病診連携もこれからますます重要になってこよう。


参考文献
1) 白浜雅司:「インフォームド・コンセント」、認定内科専門医会編、「医療ビッグバンの基礎知識」、医療の大変革を理解するために、日本内科学会、52‐57頁、1999年.
2) 竜崇正、寺本龍生編著:「がん告知」患者の尊厳と医師の義務、医学書院、2001年.
3) 古川俊治:「メディカル クオリティ・アシュアランス」判例にみる医療水準、医学書院、2000.
4) Peter A. Singer ed: "Informed Consent", "Bioethics at the bedside" -A Clinician's Guide. Canadian Medical Association, 1999.
5) 白浜雅司:「プライマリケア医に必要なインフォームドコンセントの心構え」治療、83巻、422-426頁、2001年.
* なお上記の1)、5)の文献については、「臨床倫理の討論」のホームページ(http://square.umin.ac.jp/masashi/discussion.html)
で読むことができます。



インフォームドコンセントの問題を含む事例(実例をもとにプライバシーに配慮して内容を変更)


ケース1
  3年前に脳梗塞の既往のある80才男性。ある夜、突然の冷汗を伴う心窩部痛があり、診療所に受診、担当医は、診察と採血、腹部単純写真などを行い、すべてに何ら明らかな異常所見がなく、特別な治療もしないのに痛みもおさまってきたので、「はっきりとした診断はできませんが、急性の胃炎か胃潰瘍ではないかと思います。胃潰瘍の薬を出しておきますので飲んで様子をみてください。ただ痛みの原因がよくわからないので、明朝もう一度受診して下さい。また痛み出したら、夜中でもいいから受診させて下さい。」と患者と家族に説明して帰宅させた。
  翌朝再診、痛みは弱くあるだけだったが、腹部聴診で腸ぜん動の低下を認める、再度腹部単純写真をとり、多数の二-ボーを認めた。この時に初めて担当医は、腸間膜動脈血栓症を起こしていたのではないかという疑いを強くもち、患者と家族に「おなかの血管がつまって痛みがでたことが考えられます。ただ血管の検査や治療は総合病院でしかできません。すぐ連絡をとりますので受診して下さい。」と説明して救急車で転送した。
   総合病院でも、症状が乏しいため、半信半疑で造影CTを行ったところ、腸間膜動脈の閉塞所見を認めた。発症から既に12時間たっていたため、手術適応はないと判断され、血栓溶解療法がなされたが、多臓器不全から翌日死亡。
  診療所の医師は、最初の晩に診断がついて転送されたら助かったのではないかと家族が不満に思っているのではないかと心配していたが、葬式後、妻が受診し、「夜中に起こしてすみませんでした。先生だけでなく、総合病院でも何回も病状について説明してもらいました。あまり急に亡くなったのは残念でしたが、精一杯やってもらいました。やはり年には勝てなかったようです。ありがとうございました。」と話された。


ケース2
76歳男性。約10年前に心筋梗塞の既往があるが現在は状態がおちついていた。ある朝、突然左足の痛みを訴え、しばらくしたらよくなるかと3時間ほど様子を見ていたが、改善なく、かかりつけの診療所の医師が往診。左足の膝下動脈の拍動が触れず、ASOの発症を疑い、「足の血管がつまっていることが考えられます。早急に手術をする必要があるので、救急車ですぐ胸部外科のある総合病院に受診してください」と話した。総合病院で行った血管造影でやはり左大腿動脈の完全閉塞所見があり、担当医からは短時間に、「やはり左足へいく血管が詰まっているので、そこに血管を流すためのバイパス手術をします。ただ、これまで、この施設で、あなたのような高齢の方に同じような手術を6例しましたが、6例とも後で色々な合併症がおきて、本当に社会復帰ができた人はいません。心筋梗塞の既往もあり、手術中に心臓が耐えられるかどうかも心配です。ただこの放っておくと、血管のつまりが広がって全身状態の悪化が懸念されます。なんとか緊急のバイパス手術にかけたいのですが。」という説明があり、患者も家族も手術にをすることに同意した。そして発症6時間後手術が開始された。幸い手術は成功、1ヶ月後患者は歩いて退院した。


ケース3
  35才男性独身。やり手のベンチャー企業社長。6ヶ月前から、腰痛があり、食欲も落ちていたが、仕事が忙しく、睡眠時間も削っていたためと思っていた。正月実家に帰った折、両親が心配して、近くの総合病院に受診させたところ、腰椎の骨破壊像があり、転移性の骨腫瘍を疑われた。その後の胃内視鏡でスキルス型の胃癌が見つかり、担当医は、胃癌とその腰椎転移で、外科的胃切除など積極的な医学的な治療の適応はないと判断した。
  担当医が、この状況をどのように患者に告げ、今後どのような治療をしようと考えていた時に、両親から「この子はこれまで仕事だけが生き甲斐でがんばってきた。あの痩せ方は尋常でなく、悪性の病気ではないかと思う。もし癌で治療法がないなら、『難治性の腰痛症と胃潰瘍でしばらく入院が必要』ということで通して欲しい。」と言われた。担当医は「今きちんと話しておかないと後悔しますよ。」と話したが、両親は「病名告知だけはしないで下さい。お願いします。」と強く主張し、また後日相談しましょうということで別れた。
  入院2週間後、患者が担当医と話したいことがあるということで訪室。「2週間入院治療しているが、腰痛は良くならないし、食欲も落ちている。先生は何か隠している。私は社長として責任がある、悪い病気であってもきちんと教えてほしい。」と話された。担当医は、これほどしっかりした患者の希望はない、今話すべきだと判断し、「実はあなたは進行性の胃癌で、骨転移もある状態なのです。御両親の希望でこれまで胃潰瘍と難治性の腰椎症ということにしていました。」と伝えた。
  ところが、その会話をきっかけに患者は落ち込んでしまって、食事をしなくなり、1ヶ月後に亡くなった。担当医は精神科の診察を依頼したり、できるだけ訪室して、患者のサポートに勤めたが、最後まで、患者は心を開かなかった。退院時、両親から、「こんなに悲惨な最期を迎えたのはあなたの軽率な発言があったからです。しかるべき法的な措置をとらせていただきます。」と言われた。担当医は、インフォームドコンセントは時代の流れで、患者の意思を尊重したことは正しかったはずなのに、どうしてこんなことで訴えられるのかと呆然としてしまった。


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