日常患者指導の進めかた一総論 (日常診療における患者指導ガイドー増補版84-87、1996.3.28.文光堂より)
良い患者・医師関係の保ちかた
白浜雅司・福井次矢


キーポイント

良い患者・医師関係を確立するために
1)あいさつと自己紹介,名前の確認をする.
2)開かれた質問(open−endedquestion)でインタビューをはじめる.
3)患者の訴えを積極的に傾聴する.
4)患者が話しやすいように工夫する.
5)患者の期待や考えに配慮して対応する.
6)患者がわかるように説明する.
7)時間を上手に使う(重要なことを先に,予約をとる,時間を区切る)

良い患者・医師関係を維持するために
1)時間厳守.
2)病気だけでなく,人間としての患者に興味を持つ.
3)常に「平辞の心」を保つ.
4)謙虚さと誠実さを失わない.
5)どんなときもあきらめない.
6)患者の関係がうまくいかないときにも適切な対処をする(まず自分の
行動を反省する,どうしてもむずかしいときには他の医師に紹介する)



はじめに
 一般に患者と医師の関係は,医師・患者関係と表現されることが多いが,本題の「良い患者・医師関
係」は医師よりも患者に重要性のおかれていることを明示している.すなわち,まず医師ありきではな
く,患者がいてはじめて医師が存在するのである.沖中重堆・東大名誉教授が「医学は終極,医師と患
者の単純な関係にまで還元されねばならない」1)と書かれたのをはじめ,多くの先輩諸氏が患者・医師
関係が医療の根本であることを指摘されている.そして患者と医師の間に信頼関係が生まれたとき,
Balintのいう「世の中で最も強力な薬は医師自身」2〉となり,患者の満足度,治療へのコンプライアンス
が上がり,治療効果も増すといわれている.
 ところが最近この信頼関係が薄れていることが話題となっている.日本世論調査会が平成5年12月に
行った全国世論調査によると3〉,「医師は患者の信頼に応えているか」との問いに「応えている」と答え
た者は28%にとどまり,前回昭和50年調査の64%に比べて激減している.「応えていない」としたもの
は13%と前回並みだったが,「一口にはいえない」が58%と過半数を占め,評価が揺れている様子がう
かがえた.
 この原因として,患者の権利意識の増大,医学知識の普及,医師と患者の間のコミュニケーショソの
欠乏などが指摘されている.多くの患者を診なければ診療報酬があがらない日本の医療システムの中で
は,患者一人当たりの診療時間は限られ,コミュニケーショソをとろうにもとれないことが少なくな
い.そのような制約された状況下であっても‥患者・医師関係をできるだけ良いものにするための工
夫は必要である.本稿では主に外来での良い患者・医師関係の確立と維持について述べるが入院患者に
も利用できるであろう.

     
良い患者・医師関係を確立するために
 患者との良い人間関係を確立するためにはコミュニケーショソがよくとれなくてはならない.そのた
めの具体的な方法として以下の7項目があげられる.

1.あいさつと自己紹介,名前の確認をする
 できればまず医師側から「おはようございます」と声をかける.少なくとも患者からのあいさつには
答える.ついで「00さんですね」と患者の名前を確認し,「00です.よろしく」と自己紹介をする.
このような,初対面での礼儀正しさが良い人間関係に至る第一歩である.
 
2.開かれた質問(open−endedquestion)でインタビューを始める
 初診患者であれば「今日はどうなさいましたか?」,再診患者であれば「何か変わりはありませ
んか?」などの患者が自由に答えられる形式の質問(open−ended question)でインタビューを始める.
忙しいからといって再診の患者に「何も変わりありませんね」と最初から患者の訴えをさえぎるような
質問をしてはならない.
 
3.患者の訴えを積極的に傾聴する
「良い医者とはどういう医者か」という調査をすると,医者は一番に腕の良い医者をあげるのに対
し,一般の人では一番多いのが‥患者の不安や苦痛を聞いてくれる医者で,以下腕の良い医者,いつで
も診てくれる医者が続くといわれる.患者はまず訴えを親身になって聞いてほしいのである.
 自分のエネルギーを集中して,とにかく一度は患者の話を無批判に聞くことである.真に受容的,共
感的に悩みを聞いてもらうことで患者は満足し,自分の問題点を整理し,ときには問題が解決されるこ
とさえある.しかし医師にとって実はこの積極的に聞くということが一番むずかしく,時間もとり,疲
れるものである.患者は医師の表情,視線,態度,声の調子などから本当に自分の話を真剣に聞いてく
れているかどうかを感じとる.手術を前にした外科医のように,外来診察の前日から体調を整えるだけ
の心構えが必要である.

4.患者が話しやすいように工夫する
 話しやすい工夫として,「なるほど」とうなずく,身を乗り出す,暖かいまなざしで患者の目をみるな
ど“態度”で示す方法(前記の積極的に聞くこととも重なる)と,“ことば”で示す以下のような方法
がある.
◎復唱(rephrasing):患者のことばを繰り返す方法で,患者が「00なんです」といったのに対して,
「◯◯なんですね」と答えると会話が進む.
◎「それで」とか「それから」と相づちを打つ.
◎要約(summarization):患者がある程度話したところで「なるほど,あなたがおっしゃりたいのは
◯◯ということなんでしょうか」と聞くと,患者が自分の考えをまとめる助けになる一方,医師の
誤った理解を患者に訂正してもらうことができる.
 
5.患者の期待や考えに配慮して対応する
 患者と医師の間には,専門的な医学知識を持っているかいないかという違いだけでなく,心理的,社
会的,経済的などさまざまな面から,病状の理解,受けとめ方,期待にしばしば大きなギャップが存在
する.このギャップに気づかないでいると,医師は一生懸命やったつもりでも,患者の期待に応えるも
のとはならない.このギャップを埋める有効な方法として,医療人類学の知見からKleinmanらが提唱
した患者の解釈モデル(表1に示す)を明らかにするとよい.
 
6.患者がわかるように説明する
 診断・治療については5の患者の期待や考えに配慮したうえで医師としての見解を述べる.むずかし
い医学専門用語は用いず,必要なときはやさしくいい換える.図やグラフを用いて説明するのも患者の
理解を助ける.心配で気が動転している患者も多いので,表情をみながら,納得できているかを確認す
る.癌などの悪い知らせ(bad news)は小出しにして少しずつ話すとよい.必要であれば後日改めて時
間をとって説明したり,家族に同席してもらう.家族が同席することにより,患者が安心する,家族の
期待や考えがわかる,医師の言葉を患者がわかるようにいいかえてくれるなど有用なことが多い.
 最近よくいわれるインフォームド・コンセントは医師の説明が患者に十分理解されたうえで同意する
かどうかを患者が決めるもので,医師が説明さえすれば患者に理解されようとされまいと関係ないとい
うものではない.よく「いくら説明しても患者は理解できないから説明しても仕方がない」という医師
もいるが,実際は医師側の説明力と熱意の不足によることが多い.
 
7.時間を上手に使う(重要なことを先に,予約を とる,時間を区切る)
 限られた時間内では,患者の問題を一時にすべてを解決することはむずかしい.初診の患者にとって
医師と打ち解けた関係になるには何回か診察の機会を積み重ねる必要があり,家族問題などプライベー
トなことはそのような打ち解けた信頼関係ができて初めて聞き出す方が自然である.
 その日の診察で患者が一番心配していること,また医師が早急に解決しなければならないと判断した
事柄にまず対処し,あとの問題は次回考える旨の方針を説明して,カルテに記録し,次回の診察の予約
をとる.次の診察の際には,カルテの記録を読んで残った問題を切り出すと,患者は自分の問題が覚え
られていることに安堵し信頼感を増すはずである.
 また訴えの多い患者には,診察の最初に「今日は10分間あなたの問題を聞きますから」と時間を区
切って患者の訴えを聞くようにすると,同じ時間でも患者はよく聞いてもらったと満足するようであ
る.

次に,いったん確立された患者との良い人間関係を維持する方法について述べる.



良い患者・医師関係を維持するために

1.時間巌守
 外来の予約時間など約束を守ることは最低限のマナーである.先約の患者の診察で遅れる場合などに
は,前もって看護婦からその旨を患者に伝えておいてもらうとよい.
 
2.病気だけでなく,人間としての患者に興味を持つ
 特に慢性疾患の患者では病気のことだけに興味を示していると,病気自体はなかなか治らず話題が暗
くなりがちである.仕事や趣味に話題を向けると患者はいきいきと話し,場が明るくなることも多い.
ずっとつき合わなければならないのであれば,患者も医師も楽しく病気とつき合いたいものである.ま
た,このようにして得た情報が患者の生活指導を行
う場面で実際に役立つことも多い.
 医学面では医師の方が優位に立つとしても,人生においては先輩の患者に教えられることが多い.そ
のようなお互い尊敬できるような関係ができるとSzazs&Hollanderのあげた相互参加型の理想的な
患者・医師関係が成立するものと思われる(表2).
 
3.常に「平静の心」を保つ
 日野原重明先生が紹介されたOslerの講演集6)のタイトルであるが,医師は忙しくストレスの多い仕
事の中で,つい不横嫌になることがある.しかし,その気持ちを患者に向けては真のプロとはいえな
い.確かに医師をいらだたせるようなわがままな患者もいるが,そのような場合でも,今にも感情的に
なろうとする自分の心の動きに気づき,ひと呼吸おいて「平静の心」で患者に接したいものである.
 
4.謙虚さと誠実さを失わない
 20〜30年前の感染症中心の医療では社会的背景もあり,ノ患者は一方的に医師の指導に従う関係(表2
の指導と協力の粥係)であった.しかし,現在の医療は高血圧,糖尿病などの成人病が対象となること
が多く,患者自身が治療の主人公で,医師はそのコーチ役(表2の相互参加の関係)とならざるをえ
ない.この場合医師は威張らず,かといって患者に迎合するのでもなく,ときには毅然とした態度で患
者の病気のコントロールのための適切な指示を続ける必要がある.
 
5.どんなときもあきらめない
 慢性疾患の大部分は現代の医学では治癒しない。そのような状況であっても患者は何かしらの希望を
持っている.「もうダメです」といって患者を見捨てるのではなく,「できる限りやってみましょう」
と励まし,患者の苦痛を少しでもとる方法をみつけるよう努力したい.
 
4.患者との関係がうまくいかないときにも適切な対処をする(まず自分の言動を反省する,ど
うしてもむずかしいときには他の医師に紹介する)
 
 外来診療はある意味で密室の医療であり,患者・ 医師関係を他者が客観的に評価することはむずかし
い.患者に対し嫌な感情が起きるときは,患者の医師に対する特別な感情(転移)や,医師の患者に向
ける陰性感情(逆転移)が働いていることを疑い,まず自分の言動を反省してみるとよい.このような
とき,同僚の医師や,介助してくれる看菱婦に意見を求めることで,問題点が明確になることもある.
 生身の人間同士であり,どうしても患者と医師の相性が合わないことはある.そのようなときは,患
者と相談して,よりふさわしいと思われる他の医師 に以後の診療を依頼することが,それまでのデータ
を生かし,かつより良い治療につなげるために大切である.



おわりに
 良い患者・医師関係の確立と維持は,医師自身の人間性に富んだ人格形成への不断の努力に上記のよ
うな留意点への配慮が加わってはじめて可鰹となるものである.
 このような分野を対象とした体系的な研究と教育が,今後ますます重要となることは疑いない.


文 献
1)沖中重雄:医師と患者,東大出版会,1965
2)Balint,M:TheDoctor,His Patient and the illness, New International Universities Press,1964
3)日本世論調査会:全国世論調査,佐賀新聞記事,1994 年1月9日付
4)Kleinman,A.,Eisenberg,L,Good,B:Culture,illness,and care:Clinical lesson from anthropologic
and cross−Cultural research.Ann Intern Med 88: 251−258,1978
5)Szasz,T S‥Hollander,M.H:AContributionto the philosophy of medicine:The basic models of the
doctor−Patientrelationship.Arch Int Med 97 585−592,1956
6)日野原垂明,二木久恵訳:平静の心(オスラー博士講演集),医学書院,1983
7)Leigh,H.,Reiser,M.:The patient's Biological psychological, and social dimensions of medical practice,
Plenum Medical Book Company,1980
8)Stoeckle、J D::Encounters between patient and  doctors.An Anthology,MIT Press,USA1987
9)Calnan,J:Talking with patient,William Heinemann MedicalBooks,1983
(織田敏次監訳:患者との対話,へるす出版)
10)福井次矢編:臨床入門「隠床実習のてびき」,医学書院,1991
11)石川雄一編:医療の人間学3「医療はコミュニケーショソ」,講談社,1993
12)特集「医師と患者」日本医師会雑誌103(7),1990
13)橋本信也編:医療における心とことば,中央法規,1994
14)牛場大歳監修:若い臨床医のための院内ルール読本,ミクス,1990


表1 解釈モデルを聞き出すための質問4〉

1.何があなたの病気の原因だと思いますか
2.なぜそのとき病気が始まったと思いますか
3.この病気はあなたにとってどのような意味を持つと思いますか
4.どのくらい重い病気だと考えていますか
5.どのような治療を受けるべきだと思いますか
6.この治療を受けることによって期待する最も重要な結果は何ですか
7.この病気があなたにもたらした一番の問題は何ですか
8.この病気についてあなたが最も恐れることは何ですか



表2 医師・患者関係のモデル5)
 
類型 医師の役割 患者の役割 臨床例 治療の意味 治療効果判定 疾病の概念 健康の概念
能動と受動 一方的処置を行う 受身のrecipient 急性外傷、麻酔、昏睡など 医師が行うことすべて 医師だけが行う 実際、身体機能の低下や、器質的病変がある 左記の機能低下、病変がない状態
指導と協力 指示を与える 指示に従う 
cooperator
急性感染症など 医師が行うことすべて 医師が判定するが治療方針に従わなければ患者に責任がある 医師の概念上、症状(主観的、客観的)がある 医師の概念上、症状がない状態
相互参加 患者の行う治療行為を援助する partnershipへの参加者 慢性疾患、精神分析など 医師患者双方の参加があってのみ成立 医師と患者の双方が判定する 疾患と健康の概念の境界が不鮮明 疾患と健康の概念の境界が不鮮明



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